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駒唄  作者: 無二エル
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若きタイトルホルダー

「どうなってる?」

「見ます?咲子じゃ解んないです」


 控え室に戻り、すぐに斉上、王太戦のネット配信をスマホで見る。

 ・・・王太君優勢だ。


「まだかかりそうだね。部屋でゆっくり見ようかな」


 今日は現地で泊まり、あす東京へ帰る。

 今回は近いから家の車を自分で運転して来た。


「部屋に行って良いですか?一緒に見ましょうよ」

「ええ?静かに集中して見たいんだけど」

「咲子って五月蠅いイメージなんですか?」


 うん。

 怒んないでよ。賑やかなのは悪い事じゃないよ。

 ただ時と場所を選べってだけで。


「静かにしますからぁ、咲子じゃ何やってるのか解んないんですよぉ」


 今大役を終えたばかりなのに、また解説しろって?

 しょうがないわね。

 と言うか解んなくてよく女流になれたわね。

 まあそれは今更いいか。




「ノートパソコン持って来てたんですか?」

「うん、少しでも大画面で見たいからね」


 HDMI端子でTVに繋ぐ。

 スマホの中継をTVに飛ばせると良いんだけど、49動もアババもその辺まだ未対応だ。

 YO!TUBEは凄いよね。


「映ったけど丁度夕休みたいだね。私達も何か・・・」

「咲子は温泉に入りたいです。内風呂使って良いですか?」


 ホテルなのに部屋に内風呂がある。

 温泉地では珍しい事では無い。

 でも風呂に入るなら部屋に帰りなさいよ。


「いいじゃないですか。一緒に入りましょうよ」

「なにか細かくチェックされそうだから嫌」

「チッ、バレたか」

「でも別に何もコンプレックスは無いからやっぱり入りましょう」バサッ

「えええ??」


 ほら早く脱ぎなさいよ。

 逆にいろいろ見てあげるわ?

 私が堂々としてるせいか、咲子の方が恥じらい始めた。

 めんどくさい子ね。


ざぱー「胸は結構あるわね」

「Dです。胸だけは私の勝ちですよね?」


 胸だけはね。

 でも腰に不安があるから重い胸はいらないの。

 そんな事を言っても負け惜しみとしか思われないんだけどさ。


「お腹、もっと絞りなさいよ」むぎゅ

「うぅ」

「肌はツルツルね。でも今からケア始めた方が良いわよ」

「はぁい」

「ここは・・・脱毛したら?」

「ガーン」


 誘ったのは咲子なのに、泣きそうになってた。

 さて長湯は出来ないわよ。観戦に戻らないと。


「食事はどうします?」

「レストランは一般客も居るから部屋に持って来て貰う?」


 多分大盤解説会に来て泊まってく人も居ると思う。

 サイン攻めになると抜けられないからね。



「もぐもぐ、斉上玉座、考えてますねー」

「もぐもぐって口で言うのがあざといわね」

「あー、また言ったー」


 咲子がプンスカ怒ってる。

 玉座にとっては厳しい局面になったな、もぐもぐ。

 残り時間がどんどん減って行く。


「君島さんならこの場面でどんな手を指しますか?」

「うーん、ここに銀を指すくらいしか・・・でも王太君なら簡単に凌ぐだろうな」

「咲子ならここですね!」


 自信満々で手を示す咲子。

 頓死筋が見えた。


「あ、君島さんの言う通りでしたね」

「でも・・・」


 すかさず王太君の手が飛んでくる。

 当然読んでいた手だったのだろう。


「・・・王太君の初タイトルだね。明日の一面はまた大騒ぎになるかもね」

「え?もう決まったんですか?」


 まだ確実じゃないけどさ・・・

 でも王太君ならここから引っ繰り返される事は無いと思う。

 将棋界を背負う若き新鋭が遂にタイトルか。


「これでまた将棋界が盛り上がると思うよ」

「咲子は斉上さんを応援してたんですけど」

「知らないわよ」


 どうせ顔でしょ?

 だったら私が人気ある理由も納得しなさいよ。

 

「斉上さんは謙虚だけど、君島さんは鼻に付くじゃないですか」

「いよいよ遠慮が無くなって来たわね」

「散々イジめられたおかえしですよーだ」べー


 相変わらずあざとい。

 でも打ち解けた気がした。



「決まったわね」

「うわ、記者が雪崩れ込んできましたよ」


 藤谷 王太初タイトル。

 将棋界もしばらくは私の話題で持ちきりだったけど、また王太君ブームの再燃かな。


「君島さんのブームもここまでですね」やーい

「私だって一般棋戦だけど優勝したんだから、すぐに忘れられる事も無いと思うけど」


 咲子を小突きながら考える。

 人の活躍を羨むのではなく、自分が越えられるよう目指せばいいのよ。

 そして互いに将棋界を盛り上げていければ私は満足だ。


「・・・咲子も、将棋頑張ってみようかな」

「え?どうしたの急に?」

「頑張ってる人を見ると、自分にも出来るのかなって」


 必ず出来るとは限らない。

 だが動き出さなければ、可能性もない。


「水上さんはどうして将棋を始めたの?」

「え?・・・楽しかったからです。父に教えてもらって、勝つと嬉しくて。今思うと勝たせて貰ってたんでしょうけど」

「それなのに、どうして頑張らなくなったの?」

「・・・やっぱり思う様に勝てなくなったからでしょうか?研修会に入って、そこですら強敵揃いなのに、さらに上には奨励会があるんですよ?自分の限界を思い知ったんだと思います」


 限界を決めちゃったんだね。まだ高1なのに。

 自ら線を引いてしまった。


「高2まで奨励会入りを許されなかった私から見たら、諦めるの早すぎると思うけど」

「・・・当時の事は私もすでに研修会に居たので覚えてますよ。研修会でも君島さんの動向は常に注目されていました」

「そうなの?」

「やっぱり目立ちますからね。話題にならない方がおかしいですよ」

「私が棋士になるのは無理だと思った?」

「・・・私個人の考えでは、正直無理だと思ってました」

「大半の人はそう思ったでしょうね。なにしろ女が棋士になった事は無いし、16からのスタートだったんだから」

「・・・でも君島さんはそれを覆しましたね」

「私はなれると信じてたわよ?少なくとも諦めなかった」

「・・・」

「頑張ってみなさいよ。まだ高校生なんだからいくらでも強くなれるわよ」


 若い貴方にはまだまだたくさんの時間が残されている。

 それを無駄にするのは勿体ないよ。

 このまま賑やかしで終わるつもり?


「に、賑やかし」

「芸人で言うならひな壇よね。その他大勢のうちの一人」

「・・・」

「私はセンターに立ちたいの。羽月さんと二人でね」

「!」


 将棋界不動のダブルセンター。

 それが私の夢。


「私でも、女流のタイトル獲れますかね?」

「そんなの知らない」

「え?えええ?」

「水上さんの気持ちがどこまでの物なのか私には解らないもの。自分で判断しなさいよ」

「・・・」


 人に言って貰えれば励みになるかもしれない。

 でも私に解る事では無いのよ。

 本人がどこまで努力して頑張れるか。

 それをする事で初めてやっと可能性が産まれる。


「可能性ですか。じゃあせめて0では無いと言ってください」

「そんなに私の言葉って重要?」

「気休めくらいにはなるじゃないですか」


 言ったわね。まったく・・・

 はいはい解ったわよ。


「貴方はあざといし良い根性してるから強くなれるわよ。タイトル獲れる可能性も0じゃない」

「可愛いし胸も大きいから行けますよね!」


 はいはい、それでいいわよ。

 皮肉も効かないくらい前向きで羨ましいわよ。


「取りあえず女流タイトル取って、棋士の編入試験受けて、君島さんをボコボコにして・・・」

「お、おお、随分飛躍したわね」

「目指すは名実ともに将棋界の超アイドル!まあ私が将棋界を背負ってあげるんで大船に乗ったつもりでいてくださいよ!」

「は、はあ」


 私の肩をバンバン叩きながら高笑い。

 もう解ったから部屋に帰りなよ。

 一緒に寝よう?嫌よ暑苦しい。

 寝顔とか隠し撮りされそうだから絶対嫌。

 咲子を追い出してゆっくり寝た。




---------------



 翌朝


「君島さん、あざといって言った罪滅ぼしに帰り送ってくださいよう」

「五月蠅いから眠気覚ましに丁度良いけど、来る時はどうしたのよ?」

「うぅ、また酷い事言われた」


 私も遠慮が無くなって来てるわね。

 因みに来る時は電車で来たらしい。

 はいはい、じゃあ帰るわよ。早く乗って。


バタン「帰りも電車にしたら連盟から交通費出るのに」

「さすがに怖くなりました。私達は公の場に出る立場ですからね」


 昨日の視線か。

 私も同じような理由で公共の交通機関の使用に慎重になったな。


「君島さんも儲けてるんだからもっといい車買ってくださいよ」

「なんでよ、いい車じゃないの」

「私、ポルシェが良いです」

「なんでアンタを乗せる前提なのよ」


 家の車を走らせる。

 小回りが利いて燃費も良いハイブリット車。

 私はこれで満足だよ。


「1600万の時計持ってるのに車がこれじゃあ」

「あんなの逆に付けれないよ。それに着飾って自分の価値を底上げするよりも、自分そのものの価値を上げた方が誇れると思うわよ」

「見栄だって大事ですよ。有名人が普通の車に乗ってたら夢が無いじゃないですか」


 確かにそうかも。

 高級品は解りやすい憧れの対象。

 同時に嫉妬の対象にもなるけどね。

 

「みんなメッキを塗るのに必死なんですよ?」


 よく剥がれるやつの事か。

 剥がれた時の印象は最悪なのに、それでも皆塗りたがる。


「確かに私は超美人でメッキを塗る必要ないけどさ」

「内面を皆さんに見せてあげたいです。あ、そうすればメッキが剥がれるのかな」

「今の私はメッキ状態じゃないわよ。自分を偽ってないもの」


 泣く姿も見せるし、調子に乗った事を記者さんの前で言ったこともある。

 さすがに公の場所では節度を守るけど、それはPTOってものよ。

 空気読んでるだけよ。


「それでメッキが剥がれたっていう人は、私を陥れたい人だと思うわ」

ギクゥ「そ、そうかもですね、ははは」

「水上さんは個性があるんだからそれをアピールしたら良いじゃないの。絶対人気出ると思うけど」

「ええ?そ、そうですかね」


 良い根性してるんだから大丈夫だよ。

 顔もそこそこ可愛いし。

 

「その良い根性でも君島さんに負けてますけどね。ふん!」

「ふて寝?眠気覚ましで乗せたのに」

「チクチクイジメないでくださいよー。あ、私の家は港区なので着いたら起こしてくださーい」


 港区?お金持ちなの?

 中流より少し上くらい?ウチと一緒だね。

 お父さんはどんな仕事してるの?

 ・・・・・・

 寝ちゃったか。おやすみなさい。

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