有名税
「君島さん」
「はい?」
連盟に用事があって、帰る途中に女の子に話しかけられた。
お、可愛い子だ。
えーっと、どちらさまでしたっけ?
「ご存じないと思いますが、4月1日に女流棋士になりました、水上 咲子です。高校1年生です」
「はあ、4月1日と言うと私がプロになった日と一緒・・・」
「そうなんです!ただでさえ女流は注目を浴びないのに、今回は君島さんの注目度が高すぎて、私全っ然目立たないんですよッ!」
「ええ?な、なんかごめんなさい」
「そんな訳で、恨んでいる事をお伝えに」
こ、こわっ!
ええ?いきなりそんな事ハッキリ言うの?
「冗談ですよ。これから仲良くしてくださいね」
「え、えええ?」
「嫌なんですか?恨みますよ」
「い、嫌と言うか、ちょっとクセが強すぎると言うか」
「これは個性です。ほら将棋界って癖が強い人が多いじゃないですか?」
確かに。
鬼藤先生を筆頭に、リップやらバナナやら親父ギャグやら。
かつらや画伯や妖精が見える不思議ちゃんとかも居るね。
そして総じてそういう人が人気だ。
「きゃ、キャラ作りなの?」
「はっきりそんな事言わないでくださいよ。私だって生き残る為に必死と言うか」
高校1年なのに、今からそんな心配しなくても・・・
いや、たくましいとでも言うべきかな。
でも恨みキャラって人気でるかなぁ?
「本当は泣き虫キャラで行こうと思ってたのに、君島さんに取られてしまったので」
「ええ?私のは別にキャラ作りじゃ・・・」
「でも今や代名詞じゃないですか」
そ、そうなのかな。
まあ新聞一面飾ったし、動画の再生数も凄いけど。
な、なんでそんな目で見てるの?
やっぱり恨んでるの?
「私の身にもなってみてくださいよ。同時期に女性初の、しかもこんなに綺麗な棋士が誕生したんですよ?」
「うーん、でもこればっかりはどうしようも・・・」
「綺麗と言う部分は否定しないんですね」
「なんで?私綺麗だよ?」
「ぐぐ、キャラも強い。こんな人にどう勝てと」
水上さんがしょんぼりしちゃった。
元気出してよ。将棋で目立てばいいじゃないの。
「将棋はハッキリ言って弱いです。女流のトップはすでに諦めています」
「そ、そうなんだ。色々と決断が早すぎるような・・・」
「私は学校の成績もよくないし、女流で食ってくしか無いんですよー」
そんな事言われても・・・
と言うか、女流だって食べて行くの大変でしょ?
「イベント、聞き手、メディア出演、将棋以外なら何でもやります!」
「将棋を頑張りなさいよ」
「弱いんですって。私なんで女流になれたのかな?」
「し、知らないよ」
貴方は十分キャラが立ってるよ。
可愛いし、人気出るんじゃないかな?
「でも、最近の女流は可愛い人多いじゃないですか?」
そだね。一昔前に比べたら、随分増えた気がする。
女流になってから綺麗になる人も多い。
やっぱりそれなりの努力してるのかな。
「整形じゃないかと思うんですよ」
「ちょ!!」
「だから私みたいな天然美人は重宝というか、優遇されて女流になれたんだと思うんですよね」
「人の事言えないくらい良い根性してるわね」
「連盟は、正直女流枠なんて顔の良い女以外いらないと思うんですよ」
「わー、もう話したくない。帰って良い?」
「ちょっと聞いてくださいよ。君島さんは誰が整形だと思いますか?」
逃げた。
この子はヤバイ。
師匠は誰なんだろ?どんな教育してんだ。
容姿の良さは付加価値だ。
でもそれを邪推される事がある。
師匠には禁止されたけど、プロ棋士になった時に気になってネットの掲示板を見てしまった。
私も顔が良いから裏口で棋士になったという書き込みが目に飛び込んだ。
本当に将棋に詳しい人なら私の棋譜とか見れば実力が解ると思うんだけど、最近はにわかの人がたくさん見てるからね。
と言うか、何かにつけて、ケチ付けたがる人はどこにでも居るからしょうがないんだけど。
やっぱり見るんじゃなかったと後悔してしまった。
まあ注目されると誰もが通る道なんだけどね。
羽月さんや王太君も叩かれる事はあったみたいだし。
この雑音を消す方法は、強い将棋を指し続ける事。
弱ければ雑音はもっと大きくなって行くのかも知れない。
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次の日 大学 部室
「木葉ちゃん、水上 咲子って子知ってる?」
「ああ、あの子ですか」
新入生で研修会員の木葉ちゃんに聞いてみた。
女流なら研修会に居たはずだ。
そしてなんだか木葉ちゃんがげんなりするような顔になった。
「変わった子ですよ。あ、そう言えば君島先輩のオフショット撮って送って貰えないかって言われました」
「ええ?!!!何に使うつもりなの?」
「さあ、さすがに週刊誌に売るような悪い子では無いと思いますが・・・あ、勿論盗撮はお断りしたのでご安心を」
ど、どうなってるのよ。
連盟は何でそんな子を女流にしたのよ。
「顔が良いからだと思います」
「うーん、あの団体は本当にそういうとこあるからなー」
玲奈が来た。
「聞こえましたわよ。君島さんのオフショットがどうとか」
「言われてみると、学校でもスマホを向けられてる気がするんだよね。あれって撮られてるのかな?」
「かもしれませんわね」
考えてみれば当たり前か。
私はもはや有名人、週刊誌に売るとかじゃなくても、好奇の対象だ。
危機感が足りなかったかもしれない。
「部室内も撮影禁止にしましょう。皆さんそう言う訳なのでご配慮くださいまし」
「「「はーい」」」
「ごめんね私の為に。はーあ、煩わしいもんだな・・・」
「ところで君島さん、この思い出も消した方がよろしくて?」
玲奈が自分のスマホを見せて来る。
ちょ!!ちょっとそれ、去年の夏合宿の写真じゃないの。
いつの間に隠し撮りしたのよ!
「わ、わあ、君島先輩大胆・・・」
「この時はみんなこんな水着を着てたのよ?というか玲奈、アンタが隠し撮りするような子だったなんて・・・」
「ひどいですわ。わたくしとしては友人の十代最後の美しい姿を思い出に残したかっただけですのよ?」
「あ、すみませーん。私も撮っちゃいました」「私もー」「君島先輩が余りにも綺麗だったのでつい・・・」
2年生がポツポツと手を上げる。
ええ?こんなに撮られてたの?
「あ、悪用はしてませんよ?」「よく考えたら・・・マズいですよね」「す、すぐに消します!」
「ま、待って。悪用しないなら別に・・・せっかくの思い出だし」
私にも危機感が足りなかったんだ。責められないよ。
当時はまだプロじゃ無かったし・・・
でも絶対に外部に出ないようにしてね。
と言うか、写真撮るなら一言言って欲しかったな。
でも正直に申し出ると言う事は、認識が欠如してただけだと思うし・・・
・・・しらばっくれてる子は居ないよね?
「安心してください君島さん、もし夏合宿の写真が外部に出るようならお父様に言いつけます」
「れ、玲奈のパパは良く解らない権力を持ってるからみんな気を付けてねー」
「「「は、はーい」」」
はあ、取りあえずは安心かな。
いや、水上 咲子の事忘れてた。
「その子もわたくしが何とかしましょうか?」
「い、いや、いいよ玲奈。師匠に相談してみるよ」
どうする気か解らないけどなんか怖い。
師匠に電話してみよう。
『そんな事があったのか』
師匠は親身になって相談に乗ってくれた。
水上 咲子の師匠に抗議してくれるって。
「逆恨みされませんかね?」
『若い子だからちょっと常識が足りないだけかもしれない。その辺も上手く相手の師匠の方に伝えておくよ』
まあ先月まで中学生だった子だからなぁ。
当然の常識がまだ備わってないのかな。
女流は特に若い子が多いからこんな事も良くあるのだろうか。
『うむ、まあ、女流はプロとしてもあやふやな立場だからね。プロ意識を持てと言っても難しいのかも知れない』
そっか、本当の棋士では無い特例処置。
収入的にもプロと呼ぶには不釣り合いな状態。
将棋を頑張るつもりも無さそうな子だったしな・・・
最初から諦めている子に、プロ意識も何も無いか。
だったら女流にならなければいいのにとも思うけど、十代でその選択肢が訪れてしまっては、正確な判断も難しいだろう。
未熟な状態で決めなければならないんだもんな・・・
改めて異質な世界だと感じた。
取りあえずは師匠にお任せしよう。
すみません、お手を煩わせて。
気にするなと言って、師匠は電話を切った。
「ふう、想像もしない問題が出て来るもんだね」
「君島さん、ストーカーとかは大丈夫なんですの?」
ああ、当然出て来るかも知れない問題だね。
現に以前にもあった事だし。
覚悟はしていたつもりだけど、暮らしにくいなぁ。
こうなると車の免許取っといて本当に良かったと思う。
・・・でも車を尾けられたりもするのかな。
「そこまでするのは週刊誌とかでは無いでしょうか?」
「ああ、私ってそういうターゲットにもなるの?」
でもそれは大丈夫、スキャンダルは無いから。
こんなに可愛いのに寂しい人生を送ってますよ。
「まあ何かあったら言ってくださいまし。お父様に何とかして貰いますので」
「う、うん。心強いような怖いような」
はあ、これから気を付けないと。
特に今はデビューしたてで注目が一番集まる時期だし。
逆に、危機感の欠如に気付けて良かったのかも知れない。
有名税か。
怖い怖い。




