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駒唄  作者: 無二エル
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53/93

プロとしての初試合

龍王戦6組 第四回戦


 いよいよ公式にこれがプロとしてのデビュー戦。

 なんかややこしくなり過ぎだけど、女性初のプロ棋士なんだから仕方がないじゃない。

 対局前から物凄い報道陣の数だ。


(まるでタイトル戦、いや、王太君フィーバーの時みたい)


 これだけ注目されているのに随分落ち着いてるな、私。

 逆に対局相手の方が強張ってる気がする。


 相手は20代若手の四段の人。

 勝率も高く、強い人だけど、これまで大きな舞台では戦った事は無い。

 これほど注目されるのは初めてなのかもしれない。


 ごめんなさいね。こんなアウェーの中で闘わせる事になって。

 世間の注目は私、勝つ事を期待されているのも私だろう。

 

 ネットの中継も2社入ってる。

 49生とアババTV。

 それぞれに解説と聞き手が付き、今日は私の一挙手一投足に注目されるだろう。


 服装はふんわりとしたミニスカートを選んじゃった。

 生意気だと思われるかな。

 まあ露骨だけどファンを増やしたいので今日はそうした。


~アババTV~


「君島新四段は随分と短いスカートで来ましたね」

「先生、鼻の下が伸びてます。脚が長いのでことさら短く見えますね」

「君島四段はすっかり泣き顔のイメージが付いてしまいましたが、今日は堂々としてるように見えます」

「自信が無ければあのスカートは履けないですよ」

「おっと、それは皮肉ですか?」

「違います。自信が無いとあそこまで足を出すのは勇気がいるんですよ。君島さんはその自信を持っているのだと思います」

「なるほど(そうなのか、勉強になるな)」

「そうです(うらやましい・・・)」


 対局が始まり、1時間。

 連盟職員が昼食の注文を取りに来た。

 対局相手はきつねうどんか。


 お昼、鰻重頼んじゃおっかな。

 通常、若手の棋士は遠慮して先輩棋士より安い物を頼むものだけど。

 でも、その遠慮って本当に必要な物なの?

 空気読めないくらいで丁度良いのはすでに達した結論だ。

 今日は絶対に勝ちたい。生意気と思われようが、勝つ為の勝負飯を選びたい。


~49生~


「おお、君島四段は札をたくさん出してますね」

「鰻重かお寿司ですか?・・・鰻重だそうです」

「凄いですね。プロ初戦の対局で鰻重ですか。鬼藤先生みたいですね」

「先生は鰻重を頼んだ事は?」

「無いですよ。私はまだその域に達していません」

「と言う事は、君島さんはその域に達していると言う事ですか?」

「そ、そうかも知れませんね(勇気あるなぁ)」

「流石女性初の棋士ですね(叩かれるかもしれないのに、馬鹿な子)」


 羽月さんや王太君は質素な食事を選ぶよね。

 でも、折角注目されてるのに、きつねうどんとそれより安い食事じゃねぇ。

 視聴者だって刺激が欲しいでしょ?

 記者だって記事にしやすいはず。

 サービス精神も入った選択なんだからね。



 昼食を食べて、午後の対局に挑む。

 ふう、美味しかった。

 ウナギって程よくお腹も膨れ、栄養たっぷりなのが良いよね。


 今日は夕食もあるはずだけど、終盤は味解んない局面かも知れないからね。

 美味しい物は昼食べるに限る。



 対局相手の長考。

 ・・・そろそろ駒がぶつかりそう。

 どう出て来るかな?ちょっとワクワクする。

 プロ初戦なのに、落ち着いてるな、私。

 

 これは多分、三段リーグの最終戦で一度諦めた経験が生きているのだと思う。

 私はあの時一度吹っ切った。次を頑張ろうと思う事が出来た。

 以前なら引きずるであろうあの場面で、私は取り乱さなかった。


 姿勢よく、相手の出方を待つ。

 まだかな、足が痛いけど今は立てない。

 どんな手を指して来るか見届けたい。



 攻めて来た。いくつか考えていた候補手の一つだ。

 私は少しだけ考え、最善と思える手を指していく。

 変化も視野に入れた手だが、相手もそれを少しずつ外し、徐々に形勢が悪くなって来たかも。

 私がどう受けるかまで、長考の間に読んでいたのだろう。


 今度は私が長考。

 次にあそこに指されたら困るなぁ。

 それを潰しつつ、尚且つ相手にダメージを与える手は・・・

 そんなの簡単には見つからないよね。

 でもなぜだか楽しい。私は追い込まれているはずなのに。


 ・・・あそこに指してみようかな。

 形勢がどう動くか解らないけど、間違いなく相手を悩ませる手だ。

 あ、夕食を聞きに来た。折角だし夕食の後に思いついた手を指そうかな。

 と言う訳で、あと2時間くらい局面が動かないけど、解説の皆さん時間稼ぎお願いします。




 夕食休憩が終わり、即座に考えていた手を指す。

 思っていた通り、相手が長考を始める。

 長時間私が次にどこへ指すか考えていたはず。

 でも、全く予想していなかった場所に指せたと、表情を見れば解る。


 私が長考してる間の相手の時間を無駄に出来た。

 さて、私もここからどうするか考えないと。

 

 うーん、受けとしては悪くないんだけど、スルー出来ない事も無い手だ。

 ただ、スルーした場合、敵陣に食い込む恐れもある手。

 相手にはどう見えているのだろうか。


 無視できないよね。思いつかなかった手は無視できない。

 自陣に食い込んで来る想像が強いはず。

 何か受けの手を指して来るだろうか。

 ではこちらはその場合の先の展開を読むとしますか。



 指して来た。

 一手前の私の手を全力で受ける手だ。

 じゃあ私はその手を捨てます。

 薄くなった場所からそちらの玉を攻めますね。


 肩透かしを食らった相手も今度は即座に返して来た。

 これは予想の範囲内だったかな?

 いや、受ける他無いから受けたと言う感じ。

 私の手が徐々に相手を翻弄し始めている。


 あ、良い手を思いついちゃった。

 こうするとどうしますか?

 相手の顔色が目に見えて悪くなる。

 受けれない事は無いけど、これ以上持ち駒を使いたくないんだろうな。

 私ならそう考えるもの。


~アババTV~


「これは・・・先生どう見ますか?」

「君島さんは上手く相手に駒を使わせましたね。これで五分五分・・・いや、君島さん有利になったのではないでしょうか」


~49生~


「評価値が逆転しましたね」

「君島さん有利ですか。まだ解りませんが、難しい将棋を選んでますね」

「先生、次の一手は?」

「うーむむむむ・・・」



 候補手が私の頭の中で暴れまわる。

 あそこに指されたらあそこに、向こうに指されたらあそこに。

 相手に刺さる手がどんどん溢れて来る。


 ここで相手の苦しい一手。

 私はすでに決めていた手を指す。

 予想外でも何でもない、ただの相手の玉に迫る手。


 手が進むごとに形勢はどんどん私に寄って行く。

 相手は長考も挟むが、私に迷いはない。

 すでに勝ち筋が見えていた。


 決め手となる一手を指す。

 相手に諦めの表情が見える。

 項垂れながら、数手進めたところで投了して来た。



 記者が雪崩れ込んで来る。

 フラッシュの海が瞬く間に出来あがった。

 そして、囲み取材が始まる。


「君島さん、プロ初戦を勝利で飾った感想をお願いします」

「そうですね・・・ホッとしたと言うのが正直なところでしょうか?これからプロとしてやっていくうえで、忘れられない一勝になると思います」

「今日の昼食は鰻重でしたが、最初から決めていたんですか?」

「いえ、直前に決めました。自分に気合を入れる意味でも、本日は豪勢な物を選びました」

「今日の服装は、随分対局相手に刺激が強いようにも見えますが・・・」

「(何よ、色気で惑わせたとでも言いたいの?)プロの先生方が一度対局モードに入れば、相手の恰好になど気にも留めないので刺激的だったかどうかは・・・ただ正直なところ、記者の皆さんがたくさん来るのは解っていたので、写真に撮られても恥かしくない服装を選んだつもりです」


 記者の皆さんが私の脚を見る。

 何よ、そんなに脚出してんのに恥かしくないのかって言いたげな顔で。

 気合が入ってる女は冬でもミニスカなのよ。

 私だってもう十代じゃないし、いつまで脚出せるか解んないんだから今の内に見ときなさいよ。


「次はランキング戦の準決勝ですが、意気込みをお願いします」

「次を勝てば5組に無条件で昇格なので、頑張りたいと思います」


 ランキング戦は決勝まで進めば無条件で昇格。

 それ以前に負けても、昇格者決定戦を勝ち進めば2人昇格できる。

 上下の組で計4名が毎年入れ替わる。


 取材が終わった。

 これから感想戦。

 これっていつも思うけど、どこまで種明かしをすれば良いのかな。

 今日の将棋はハッタリもあったし、本当は詳しく説明したくないんだけど。

 でも感想戦は、敗者の為にやる物だしな・・・

 実の無い物なら意味が無い。


 私達将棋棋士の役割は、美しい棋譜を残す事だと言われている。

 それが後世まで残り、後人達の糧となり、より一層のレベルアップに繋がる。

 その為には隠し事などせず、手の内を明かした方良いとは思うのだが・・・

 でもずる賢い人はやっぱり隠すよね。

 だとしたら正直者は馬鹿をみるような気もするし。


 矛盾してるんだよね。

 でも世の中は大体そう。綺麗事では回らない。

 私も小娘ながらに、それに気づいてしまった。

 だから程々に、角が立たない程度に種明かしをして、言いたくない部分は濁そう。

 これも羽月さんに近づく為、本意ではないけど割り切りも大事だ。



 感想戦が終わり帰宅。

 ふう、思ったより早く帰れて良かった。


「お前な、色目使ってるって言われかねないから気を付けろって言ったのに」


 服装をパパに指摘される。

 でも可愛いでしょ?女としての見栄もあるんだから許してよ。


「まあいいや。取りあえず勝てて良かったな」

「うん、プロとしてやってく自信が付いたよ」


 パパもネット中継見ていてくれたみたい。

 次の対局は5月初旬。

 2週間ほどあるけどまた頑張らないと。

 ああ、それにしても疲れたなぁ。

 長時間の対局に、やっぱり緊張も少しはあったのだろう。

 明日は学校もあるし、お風呂に入ってすぐに寝よう。

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