プロとしての初試合
龍王戦6組 第四回戦
いよいよ公式にこれがプロとしてのデビュー戦。
なんかややこしくなり過ぎだけど、女性初のプロ棋士なんだから仕方がないじゃない。
対局前から物凄い報道陣の数だ。
(まるでタイトル戦、いや、王太君フィーバーの時みたい)
これだけ注目されているのに随分落ち着いてるな、私。
逆に対局相手の方が強張ってる気がする。
相手は20代若手の四段の人。
勝率も高く、強い人だけど、これまで大きな舞台では戦った事は無い。
これほど注目されるのは初めてなのかもしれない。
ごめんなさいね。こんなアウェーの中で闘わせる事になって。
世間の注目は私、勝つ事を期待されているのも私だろう。
ネットの中継も2社入ってる。
49生とアババTV。
それぞれに解説と聞き手が付き、今日は私の一挙手一投足に注目されるだろう。
服装はふんわりとしたミニスカートを選んじゃった。
生意気だと思われるかな。
まあ露骨だけどファンを増やしたいので今日はそうした。
~アババTV~
「君島新四段は随分と短いスカートで来ましたね」
「先生、鼻の下が伸びてます。脚が長いのでことさら短く見えますね」
「君島四段はすっかり泣き顔のイメージが付いてしまいましたが、今日は堂々としてるように見えます」
「自信が無ければあのスカートは履けないですよ」
「おっと、それは皮肉ですか?」
「違います。自信が無いとあそこまで足を出すのは勇気がいるんですよ。君島さんはその自信を持っているのだと思います」
「なるほど(そうなのか、勉強になるな)」
「そうです(うらやましい・・・)」
対局が始まり、1時間。
連盟職員が昼食の注文を取りに来た。
対局相手はきつねうどんか。
お昼、鰻重頼んじゃおっかな。
通常、若手の棋士は遠慮して先輩棋士より安い物を頼むものだけど。
でも、その遠慮って本当に必要な物なの?
空気読めないくらいで丁度良いのはすでに達した結論だ。
今日は絶対に勝ちたい。生意気と思われようが、勝つ為の勝負飯を選びたい。
~49生~
「おお、君島四段は札をたくさん出してますね」
「鰻重かお寿司ですか?・・・鰻重だそうです」
「凄いですね。プロ初戦の対局で鰻重ですか。鬼藤先生みたいですね」
「先生は鰻重を頼んだ事は?」
「無いですよ。私はまだその域に達していません」
「と言う事は、君島さんはその域に達していると言う事ですか?」
「そ、そうかも知れませんね(勇気あるなぁ)」
「流石女性初の棋士ですね(叩かれるかもしれないのに、馬鹿な子)」
羽月さんや王太君は質素な食事を選ぶよね。
でも、折角注目されてるのに、きつねうどんとそれより安い食事じゃねぇ。
視聴者だって刺激が欲しいでしょ?
記者だって記事にしやすいはず。
サービス精神も入った選択なんだからね。
昼食を食べて、午後の対局に挑む。
ふう、美味しかった。
ウナギって程よくお腹も膨れ、栄養たっぷりなのが良いよね。
今日は夕食もあるはずだけど、終盤は味解んない局面かも知れないからね。
美味しい物は昼食べるに限る。
対局相手の長考。
・・・そろそろ駒がぶつかりそう。
どう出て来るかな?ちょっとワクワクする。
プロ初戦なのに、落ち着いてるな、私。
これは多分、三段リーグの最終戦で一度諦めた経験が生きているのだと思う。
私はあの時一度吹っ切った。次を頑張ろうと思う事が出来た。
以前なら引きずるであろうあの場面で、私は取り乱さなかった。
姿勢よく、相手の出方を待つ。
まだかな、足が痛いけど今は立てない。
どんな手を指して来るか見届けたい。
攻めて来た。いくつか考えていた候補手の一つだ。
私は少しだけ考え、最善と思える手を指していく。
変化も視野に入れた手だが、相手もそれを少しずつ外し、徐々に形勢が悪くなって来たかも。
私がどう受けるかまで、長考の間に読んでいたのだろう。
今度は私が長考。
次にあそこに指されたら困るなぁ。
それを潰しつつ、尚且つ相手にダメージを与える手は・・・
そんなの簡単には見つからないよね。
でもなぜだか楽しい。私は追い込まれているはずなのに。
・・・あそこに指してみようかな。
形勢がどう動くか解らないけど、間違いなく相手を悩ませる手だ。
あ、夕食を聞きに来た。折角だし夕食の後に思いついた手を指そうかな。
と言う訳で、あと2時間くらい局面が動かないけど、解説の皆さん時間稼ぎお願いします。
夕食休憩が終わり、即座に考えていた手を指す。
思っていた通り、相手が長考を始める。
長時間私が次にどこへ指すか考えていたはず。
でも、全く予想していなかった場所に指せたと、表情を見れば解る。
私が長考してる間の相手の時間を無駄に出来た。
さて、私もここからどうするか考えないと。
うーん、受けとしては悪くないんだけど、スルー出来ない事も無い手だ。
ただ、スルーした場合、敵陣に食い込む恐れもある手。
相手にはどう見えているのだろうか。
無視できないよね。思いつかなかった手は無視できない。
自陣に食い込んで来る想像が強いはず。
何か受けの手を指して来るだろうか。
ではこちらはその場合の先の展開を読むとしますか。
指して来た。
一手前の私の手を全力で受ける手だ。
じゃあ私はその手を捨てます。
薄くなった場所からそちらの玉を攻めますね。
肩透かしを食らった相手も今度は即座に返して来た。
これは予想の範囲内だったかな?
いや、受ける他無いから受けたと言う感じ。
私の手が徐々に相手を翻弄し始めている。
あ、良い手を思いついちゃった。
こうするとどうしますか?
相手の顔色が目に見えて悪くなる。
受けれない事は無いけど、これ以上持ち駒を使いたくないんだろうな。
私ならそう考えるもの。
~アババTV~
「これは・・・先生どう見ますか?」
「君島さんは上手く相手に駒を使わせましたね。これで五分五分・・・いや、君島さん有利になったのではないでしょうか」
~49生~
「評価値が逆転しましたね」
「君島さん有利ですか。まだ解りませんが、難しい将棋を選んでますね」
「先生、次の一手は?」
「うーむむむむ・・・」
候補手が私の頭の中で暴れまわる。
あそこに指されたらあそこに、向こうに指されたらあそこに。
相手に刺さる手がどんどん溢れて来る。
ここで相手の苦しい一手。
私はすでに決めていた手を指す。
予想外でも何でもない、ただの相手の玉に迫る手。
手が進むごとに形勢はどんどん私に寄って行く。
相手は長考も挟むが、私に迷いはない。
すでに勝ち筋が見えていた。
決め手となる一手を指す。
相手に諦めの表情が見える。
項垂れながら、数手進めたところで投了して来た。
記者が雪崩れ込んで来る。
フラッシュの海が瞬く間に出来あがった。
そして、囲み取材が始まる。
「君島さん、プロ初戦を勝利で飾った感想をお願いします」
「そうですね・・・ホッとしたと言うのが正直なところでしょうか?これからプロとしてやっていくうえで、忘れられない一勝になると思います」
「今日の昼食は鰻重でしたが、最初から決めていたんですか?」
「いえ、直前に決めました。自分に気合を入れる意味でも、本日は豪勢な物を選びました」
「今日の服装は、随分対局相手に刺激が強いようにも見えますが・・・」
「(何よ、色気で惑わせたとでも言いたいの?)プロの先生方が一度対局モードに入れば、相手の恰好になど気にも留めないので刺激的だったかどうかは・・・ただ正直なところ、記者の皆さんがたくさん来るのは解っていたので、写真に撮られても恥かしくない服装を選んだつもりです」
記者の皆さんが私の脚を見る。
何よ、そんなに脚出してんのに恥かしくないのかって言いたげな顔で。
気合が入ってる女は冬でもミニスカなのよ。
私だってもう十代じゃないし、いつまで脚出せるか解んないんだから今の内に見ときなさいよ。
「次はランキング戦の準決勝ですが、意気込みをお願いします」
「次を勝てば5組に無条件で昇格なので、頑張りたいと思います」
ランキング戦は決勝まで進めば無条件で昇格。
それ以前に負けても、昇格者決定戦を勝ち進めば2人昇格できる。
上下の組で計4名が毎年入れ替わる。
取材が終わった。
これから感想戦。
これっていつも思うけど、どこまで種明かしをすれば良いのかな。
今日の将棋はハッタリもあったし、本当は詳しく説明したくないんだけど。
でも感想戦は、敗者の為にやる物だしな・・・
実の無い物なら意味が無い。
私達将棋棋士の役割は、美しい棋譜を残す事だと言われている。
それが後世まで残り、後人達の糧となり、より一層のレベルアップに繋がる。
その為には隠し事などせず、手の内を明かした方良いとは思うのだが・・・
でもずる賢い人はやっぱり隠すよね。
だとしたら正直者は馬鹿をみるような気もするし。
矛盾してるんだよね。
でも世の中は大体そう。綺麗事では回らない。
私も小娘ながらに、それに気づいてしまった。
だから程々に、角が立たない程度に種明かしをして、言いたくない部分は濁そう。
これも羽月さんに近づく為、本意ではないけど割り切りも大事だ。
感想戦が終わり帰宅。
ふう、思ったより早く帰れて良かった。
「お前な、色目使ってるって言われかねないから気を付けろって言ったのに」
服装をパパに指摘される。
でも可愛いでしょ?女としての見栄もあるんだから許してよ。
「まあいいや。取りあえず勝てて良かったな」
「うん、プロとしてやってく自信が付いたよ」
パパもネット中継見ていてくれたみたい。
次の対局は5月初旬。
2週間ほどあるけどまた頑張らないと。
ああ、それにしても疲れたなぁ。
長時間の対局に、やっぱり緊張も少しはあったのだろう。
明日は学校もあるし、お風呂に入ってすぐに寝よう。




