表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駒唄  作者: 無二エル
41/93

三段リーグ開幕

 10月上旬


 ついに今日から三段リーグが開幕する。

 これから半年間、9回の例会で18戦し、成績上位者2名が晴れてプロ入りする。


 今回のリーグは34名で争われる。

 この中でたった2人か。

 合格ラインは15勝3敗から13勝5敗。

 過去には11勝7敗で棋士になった人も居るらしいが、そんな淡い期待はしない方が良いだろう。

 同率の場合は前期の成績で決められた順位が高い方が合格。

 私は三段なり立てなので、33位からのスタート。

 どうやら私の後に1人、新たに三段に昇進した者が居るようだ。


 将棋には関東所属の棋士と、関西所属の棋士が居るが、三段リーグは東西の区別がない1つのリーグ。

 対局はそれぞれ東京将棋会館と関西将棋会館で行われるが、初日と最終日だけは合同で対局が行われる。


 で、今日は初日だから東京将棋会館に関西の三段がいっぱい来ている訳だけど・・・

 当然ながら女は私一人、異彩を放ってます。


『あの人、百田さんに勝ったんだろ?』

『夕日杯一次抜けただけでも凄いよ。男だってなかなか・・・』

『女流タイトルも持ってるしな』


 やばい、無茶苦茶マークされてる。

 も、もっと油断してくれていいんだよ。


『それにしても凄い綺麗やな』

『脚、めっちゃ細長い』

『東京の女はええなぁ』


 そうそう、そんな感じでお願いします。

 ・・・でも対局が始まると眼つきが変わるんだろうな。



-----------



「なあなあ、アンタって白湯の水女子大の将棋部なんやろ?神楽坂って言う陰気臭い女おるやろ?」


 対局前に対戦相手に話しかけられた。

 関西の子だ。


「神楽坂?・・・下の名前は?」

「んん?なんちゅう名前やったかな・・・・・・そや、確か織華」


 なんだ織華ちゃんか。

 私はまた苗字を覚えてなかった。ごめんなさい。

 そっか、織華ちゃんは関西で研修会に入ってたんだっけ。

 当然知り合いが居てもおかしくない。


「織華ちゃんがどうかした?」

「あいつ湿っぽいからようイジめとったんや。いっちょ前に白湯女なんぞに入り寄ってからに」


 ・・・こいつ殺す。

 お前だって見た目キモオタにしか見えないクセに。


「大学の新人戦であいつの名前見つけた時はたまげたわ。女のクセにベスト8に入っとるし」

「・・・織華ちゃんは変わったわよ。今の貴方より強いかも」

「んな訳あるかw俺は三段リーグに5年おるんやぞ」


 未だに抜けれてないって事でしょ?

 ああ、24歳なの?

 リミットも近いね。それなのに随分余裕だね。

 いい歳こいて馬鹿かこいつは。


「今日はアンタに勝って弾みをつけさせてもらうで。1局目が女でついとるわ」


 引導を渡してやる。

 もう絶対プロになれないくらいのダメージを追わせてやる。



----------------



 勝負は終盤。

 もうすでに私の駒台には乗り切らないくらいの持ち駒が増えている。

 ただで負かすのも癪だったので、とどめを刺さずに相手の駒を取りまくってやった。


 相手にはもう大駒も無い。

 金一枚と銀一枚、香一枚とあとは歩があるだけ。

 こっちの守りは盤石、もう諦めたらいいのに。


 それでも何か無いかと探すキモオタ君。

 ある訳無いでしょ。どう見ても自駒が足りない。

 三段ともなればそれくらい解かるでしょ。


 更に銀を取った所で相手が投了。

 流石に裸王になる前には諦めたか。

 あー良かった。最初の相手が馬鹿で。


『あいつの負け方見たか?w』

『嫌なヤツやから清々するわ』


 嫌われてるのね。キモオタ君。

 名前は覚えないでおいてあげるわ。


 弾みをつけさせてもらったのはこっちの方で、私は2局目も勝った。

 キモオタは2敗。今回も駄目そうね、さよなら。



 奨励会が終わって帰ろうとしたら、1階に織華ちゃんが居た。

 記録の仕事だったの?タイミング良く居るわね。

 他の関西の三段の子と話をしていた。


「か、神楽坂なんか?えらい変わったなぁ」

「えへへ、君島先輩のお陰なんよ」

「織華ちゃん」

「あ、君島先輩、結果聞きたくて待っとったんやけど」

「2勝よ、それよりもうちょっと待っててくれない?」

「ええけど?流石やなぁ」


 キモオタが肩を落としながらやって来た。

 いっちょ前に落胆オーラを出してるんじゃないわよ。


「・・・アンタも来とったんか」

「・・・だ、誰やお前?」

「今日1局目で私に負けた・・・えーと、何君だっけ?紹介するわ?私の可愛い後輩の神楽坂 織華ちゃんよ」

「え?!」


 おっとそれ以上近づかないで。

 今の織華ちゃんと貴方では不釣り合いだわ?

 

「君島先輩、こいつに勝ってくれたん?」

「当たり前じゃない。三段リーグに居るのが疑わしいくらい弱かったよ」

「くっ・・・」

「奨励会のストレスのはけ口で研修会の年下の女の子をイジめるような奴に負けないわ」


 悔しそうに顔を歪めるキモオタ君。

 貴方にもそんな感情があるのね。

 でもだったら人の痛みも解りなさいよ。


「もうええよ、君島先輩。ウチももう気にしとらんし」

「そう?流石は織華ちゃんね。こいつなんて対局前にわざわざ織華ちゃんの事を聞いて来たのよ?ホントは好きだったんじゃないかしら?」

「な!ち、ちが・・・」

「ごめんなあ、ウチ尊敬出来ん人は好きにならへんねん」

「!・・・・・・」


 綺麗になった織華ちゃんを見て言葉が出てこない。

 勿体ないわね。身近にこんな可愛い子が居たのに。

 貴方はそうやって、プロへの道も逃せばいいんだわ。


 ともかく私は2勝した。

 弾みをつけさせてくれてありがとうと言っておくわ。

 次は1カ月後、結構時間が空くけどもっと強くならないと。



---------------



 12月からの龍王戦予選にエントリーされた。

 この予選も持ち時間が5時間だから、この前のように正座が気になって負けるような事は無しにしたい。

 羽月さんのタイトル、そう言えばそろそろ七番勝負が始まる。

 私がエントリーされたのは来期の為の予選。

 約一年かけて龍王戦は行なわれている事になる。



 10月下旬


 私は行けなかったのだが、大学の秋季関東個人戦・女流戦があった。

 玲奈と遥と織華ちゃんは個人戦。

 那由と頼子とシャリー、花音ちゃんは女流に出たらしい。


 まず個人戦の結果だが、3人共一日目を突破したらしい。

 凄いね、去年まで一日目を突破した女子は一人も居なかったらしいのに。

 一日目を突破すれば、取りあえずはベスト64が確定。

 そこから勝ち抜いていけばベスト32、16、8と上がって行くんだけど・・・


 織華ちゃんは1回戦で負け、ベスト64。

 遥は1回勝ち、春大会と一緒のベスト32。

 そして玲奈はなんと、3回勝ってベスト4に入った。


「玲奈凄いね!関東の大学生のベスト4なの?」

「たまたまですわ。トーナメントの良い山に入れましたの。それに3位決定戦も負けてしまいましたわ」


 そ、それでもベスト4だよ!ベスト4!

 関東四天王だよ!


「将棋の先生に言われましたわ。女流でも十分やっていける強さになったと」

「でも、そんな気無いんでしょ?」

「はい、わたくしの夢は前にも言いましたが、ノーベル賞を取る事ですの」


 そっか、そこまで強くなったのに。

 でも女流で食べて行けるのはほんの数握りだ。

 あんな職業を進める事は出来ない。


 さて、次は女流戦の結果。

 今回は14人で行われたらしい。

 そしてなんと那由が優勝。

 頼子も準優勝で、シャリーは春と一緒のベスト4。

 花音ちゃんは7位だった。


「ボク、12月の女流名人戦に出るんだ!」

「私もぉ」「シャリーもデース」

「ええ?皆出れるの?」


 女流名人戦は各地区の秋季大会で日本一を決める大会。

 とは言っても出場者が少ないから秋大会に出てれば誰でも出れるらしい。

 なんと緩い・・・


「花音はやめておくのだ。まだまだ弱いのだ・・・」

「でも14人参加で7位なら上位じゃない」

「もっと上に行きたいのだ。織華、特訓なのだ」

「ええよ」

「団体戦は頑張るのだ」


 10月の終わりからは秋季関東団体戦が始まる。

 7人制の3週に渡る戦い。

 白湯女は次はC1クラスで闘うんだっけ?

 是非ともB2に上がって欲しい。

 ここまで強い面子が集まったんだ。恐らくは余裕・・・いやいや、慢心は良くないか。

 ともかく応援してるからね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ