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駒唄  作者: 無二エル
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祝賀会

 9月下旬


 男性棋戦の玉座戦一次予選の2回戦が行われた。

 今回もベテランのそこまで強い人では無いのだが、この棋戦は持ち時間が各自5時間だ。

 またしても正座に苦しむ事となる。


 痛い、痛い、集中出来ない、痛い。

 早く指して、早く指して。

 はあ、本当に慣れるのかなこれ。

 でも、今の内に慣れておかないと、龍王戦の予選だって5時間だ。

 まだエントリーは決まってないけど、羽月さんのタイトルだから出たいに決まっている

 その為にもここで勝ってアピールを・・・

 あ、悪手指しちゃった。ガーン。

 でも相手は考えてる。ひょっとして悪手だと気づいてない?

 そんなに甘くなかった。一気に攻められて負けた。はあ。

 


 

 数日後。


 姉弟子の聖麗タイトル獲得と、私の女王タイトル獲得の合同祝賀会が行われる。

 祝賀会と言っても、仲の良い関係者だけで質素に行う事にした。

 居酒屋を貸し切っての25人くらいのパーティ。

 

 祝賀会はファンから会費を取って、盛大に行う場合もある。

 羽月さんが永世七冠達成並びに国民栄誉賞を取った時の祝賀会なんて1000人近く集まったらしい。

 私も行きたかったな。


「君島さん、主役なんですからもっと堂々としては?」

「え?良いよ私は、取ってからもう四カ月経ってるし、姉弟子のタイトルの方が大きいし」


 いつも記録係を手伝ってくれる白湯女将棋部の面々も参加してくれた。

 他にも仲の良い棋士が何人か、女流も何人か居る。

 後は連盟関係者だったり、主催者の関係者だったり。

 あれは記者の人かな?


「あれは、高美永王ですわね」

「う、うん、さっき挨拶された」


 高美たかび 大地だいち永王。

 歴史の新しい49動が主催の永王タイトル保持者。

 明るい性格と面白い解説でも人気。


「あっちは中町女流ですわね」

「うん、同じ女流でも来てくれるもんなんだね」


 中町なかまち 桜子さくらこ女流初段。

 お兄さんも棋士と言う美人女流棋士。

 家族と同じ世界に飛び込むって凄いな。仲良いんだろうね。


「でも、私達ってまだお酒も飲めないし、食べるしかないんだね」

「あら?流歌さんはそうかも知れませんが・・・」

「流歌!君は相変わらず薄情だね!」ヒック

「那由?飲んでるの?」


 ああそっか。。

 私はまだ19だけど、将棋部の面々も何人かは二十歳になってるんだ。


「因みにわたくしもすでに二十歳になってますわよ」

「ええ?れ、玲奈、誕生日いつだっけ?何かプレゼントを・・・」

「長い付き合いなのにこれですもの。シャリーさんなんて留学生ですからすでに22歳ですわよ?」

「ええ?そうなの?」

「そ、それはボクも知らなかったよ」

「ヒドイヨー。将棋部の絆もココマデカ・・・」

「ごめんごめん、そっかシャリーって年上だったんだ」

「チナミにカナダでは18歳から飲酒オッケーダッタヨー」


 そう言ってビールをおいしそうに飲むシャリー。

 向こうで高校を卒業した後、日本語を勉強しながらバイトをし、二十歳の時にこっちに来たらしい。


「シャリーは何で日本を選んだの?」

「シネマで見た日本が素敵ダッタンダヨー」


 何の映画?

 ロスト・イン・なんとかって映画らしい。

 へえ、珍しいね。日本に来る外国人って大抵アニメが目的なんじゃないの?


「アニメも嫌いじゃないけど、シャリーは東京にコイをしてシマッタノダヨ」

「へえ、じゃあ卒業後は日本で働くの?」

「ウウン、留学をツヅケルヨ。今度はヨーロッパにイキタイナー」


 恋多き女なんだね。

 外国人って30くらいまで学生の人も珍しくないもんなぁ。


「・・・もう卒業後の話?」

「は、遥?顔赤いよ?」


 遥も最近二十歳になったらしい。

 で、飲んでみたらこうなったとか。

 いつものクールビューティはどこへやら。

 弱いんだね。


「まあでも皆大学3年にもなれば就職活動始まるでしょ?遥は考えてるの?」

「・・・アタシは、報道関係」


 へえ、女性記者って事?

 連盟に出入りするようになってから興味を持ったらしい。

 将棋関係の記者なら新聞社志望って事なのかな。

 

「ボクはまだ決めてないや。でも証券会社か不動産関係がいいな」


 どっちも将棋のスポンサー関係じゃない。

 いいね、応援するよ。


「頼子は?」

「私はぁ大学院に行くからぁ、まだ決めてないぃ」

「わたくしもですわ」


 玲奈と頼子は大学院に行くのか。

 そっか・・・急に皆が遠くに行くように気がして来た。

 あんまりサークルに顔出さない私が寂しがるのもおかしいんだけどさ。


「イチバン遠くを目指してるのはルカデショー?」

「そ、そうなるのかな」

「・・・来月から三段リーグだよね?準備は出来てるの?」

「うん。またサークルにはなかなか顔を出せなくなるけど・・・」

「凄いよね。本当に将棋のプロを目指してるなんて・・・ボク最初は冗談だと思ってたよ」

「ひどいなぁ那由」

「だってぇ、モデルさんみたいな体系だもんねぇ」

「でも、目の前まで来ましたわ。わたくしは信じてましたわよ」


 ありがとう、元気をくれて。

 まあ皆さん今日は飲んでくださいよ。

 頼子はまだ19なの?じゃあ他の皆さんじゃんじゃん頼んじゃって。


「むう、私だってぇこのシークヮーサーソーダおかわりぃ」

「なにそれ、美味しそうね。私も―」


 誰が払うんだか知らないけど飲んじゃって。

 あれ?誰よ姉弟子にこんなに飲ませたのは!

 師匠ですか?


「流歌が部員とばかり話してるから嫉妬して飲み過ぎたんだよ」

「そ、そんな事言われたって全然話してくれないのに!」


 ああもう、姉弟子大丈夫ですか?

 流歌ですよ?解りますか?

 ・・・抱きつかれて離してくれそうもない。どうしよう。


「今日は流歌の家に泊めてやってくれないか?」

「うーん、解りました」


 みなさん申し訳ありません。

 今日は来て下さってありがとうございました。

 姉弟子もお礼言わないと・・・寝てる。

 寝てますけど感謝してますんで。


 例によって玲奈の家の車で送って貰い家へ。

 パパママ、今日は姉弟子に泊まって貰うからね。



----------------



 10月初旬


 もうすぐ三段リーグが始まる。

 だがその前に夕日杯の一次予選決勝戦が行われた。


 相手は百田ももた 翔也しょうや六段。

 嘘でしょ?滅茶苦茶強い人だよ。

 勝率7割2分のタイトル挑戦歴もある若手。

 そして、コンピュータソフトにとても詳しい人。


 ・・・強い人だけど、同じソフト研究者としては負けたくない気持ちもある。

 勝算もある。この人は斉上 倫太郎玉座を苦手としている。

 今回はその辺の棋譜を重点的に研究して来た。


 この人に勝てれば物凄い自信になる。

 三段リーグを戦う上で弾みをつけたい。




 勝負は終盤。

 椅子対局なのに辛いな。

 今私は優勢なのか、劣勢なのか、それすら解らない。

 次に指す手が決まらない。

 

(あ、でも、斉上玉座との棋譜で似たような局面見たかも)


 斉上玉座ならどこに指すか考えてみよう。

 ・・・ここかな?パチン。


 百田六段の表情が硬くなる。

 ・・・効いたみたい。

 

 ここから先は間違えられない。

 一手一手、相手を追い詰めて行く。

 自分に迫る手が無いかも要確認。


 ふう、勝てた・・・勝てたか。



「君島さん、夕日杯一次予選突破、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「玉座戦は残念でしたが、夕日杯は調子がいいですね」

「はい、普段の勉強法が椅子に座ってパソコンのモニターへ向かう物なので、それに近い形が一番力を出せるような気がします」

「相手は百田六段だったわけですが」

「強かったですね。勝てたと言う事は普段以上の力を出せたのではないかと思います」


 凄く嬉しいけど、謙虚に謙虚に。

 椅子対局が得意だと言うアピールも忘れずに。


「ですが、棋士になれば正座の対局ばかりになります」

「はい・・・慣れて行かなければならないでしょうね」


 甘い事言うようだけど、椅子対局増えてくれないかな。

 出来ればドレスでも着て優雅に指してみたい。

 そう言う対局があっても良いと思うけど。


「ドレスで対局ですか。面白いですね」

「・・・あれ?私、口に出してました?」

「はい」


 し、失敗したなぁ。

 まだ棋士にもなってないのに何を生意気な事を。

 将棋は日本の文化。ドレスなんて認められないに決まってる。


「いえ、将棋界には貴族と呼ばれる人も居るので、そういう企画もありかなと」


 名人 佐川 天飛虎さんか。

 って名人と対局?冗談でしょ?


「君島さんならビジュアル的にも映えると思うので、将棋ワールドの表紙でもいいかなと」


 将棋ワールドは連盟が発行している月刊誌。

 え?そんなにお金かけてくれるの?


「君島さんが棋士になる事が出来れば、それくらいは可能だと思いますよ?女性初の棋士という反響は恐らく物凄い事になると思います。それこそ数年前の藤谷 王太フィーバーと同等くらいの・・・」


 いやそれは言いすぎのような。

 王太君は負けないからブームが長く続いた。

 女が棋士になるのは初の事だから一時的には盛り上がるかもしれないけど・・・


「まあすべては君島さんが棋士になればの話です」


 そうですね。それでいいと思います。

 棋士になる前からそんな扱いされると勘違いしてしまいます。

 ・・・でも棋士になった時にはそんなご褒美があってもいいなあと思いながら、取材が終わった。

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