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駒唄  作者: 無二エル
33/93

女王の貫録

 次の日曜日、白湯女将棋部はC1昇格を決める。

 これで次の秋季大会ではC1としてリーグ戦を戦う。


「余裕だったね?これなら次も余裕なんじゃないの?」

「・・・余裕って事は無いよ。でも私達も秋までに強くなる」

「油断はしませんわ」


 慢心も無いなんて。

 女王気分で浮かれてる私が馬鹿みたいじゃないか。


「1年生の皆さん?次は6月の新人戦がんばって下さいまし」


 そっか、次は1年生の戦いか。

 でも応援に来てない子も居るね。


「仕方ありませんわ。わたくしも強制する気もありませんし、皆さんもう大人なので自分で決めるべきですわ」


 サークルはあくまで課外活動。

 学業に差し障るようなら本末転倒だし、それでいいのかもね。


「これでもやる気がある子は増えた方ですのよ?君島さんの女王就任が刺激になったようで・・・」


 そう?私のお陰?

 私のサークルへの貢献って事だよね?


「いいから帰りますわよ」

「何が良いのよ。そこはハッキリして欲しい」

「あぁー、楽しかったぁ。1回しか負けなかったぁ」

「頼子調子よかったね。ボクは2敗しちゃった」

「シャリーは3敗ダヨー」


 11戦も戦ってそれくらいで済んだんだ。

 ・・・本当に強くなったね。みんな。


 そして全勝した玲奈と遥と織華ちゃん。

 花音ちゃんは6勝5敗。


「うう、足を引っ張ったのだ」

「そんな事無いよ、勝ち越したんだから立派だよ」

「そうやよ?君島先輩の言う通りや」


 実は一番驚いたのが花音ちゃんの成長なんだよ。

 1か月でよくぞここまで。

 ハムスターに勝てる程度の実力だったのに。

 新しい事を教えてもらえるこの時期が一番伸びる。


「織華のお陰なのだ」

「織華ちゃんも全勝おめでとう・・・あれ?織華ちゃんも隠れ巨乳?」

「ええ?」

「花音もそう思っていたのだ」

「いややわ!恥かしい事言わんといて!」


 だぼっとした服着てるから解んなかった。

 赤くなって恥かしがる織華ちゃん。可愛い。


「君島さん!セクハラは絶対許しません!!」


 隠れ巨乳の親分が本気で怒ったのですみませんでした。

 さあ、帰りましょう。



----------------



 5月第二例会


 この間にも一度例会があった、結果は2勝。

 女王も取ったし調子が上がって来たかと思った今日の例会だったが、今度は2連敗。

 これは痛い、調子に乗ってたツケが回って来たのだろうか。


 ●○●○○○○●○●○○○●●


 二段になってから9勝6敗か・・・

 良いとこ取りで良いんだから一番最初の黒星は無視して良い。

 ここから14勝5敗・16勝6敗・18勝7敗を狙いに行く?

 4連勝は生かしたい。これをいれても昇段に届かない成績になったらかなり厳しくなる。

 9月の第二例会までに三段として、残りは例会8回、16局。

 追い詰められて8連勝を狙う以外なくなる状況が一番怖い。

 

 こんな時期に自動車学校に行ってる場合なのかな。

 今更ながら、そんな呑気な事をしてていいのかと自答する。

 7月からは、女流玉座戦も始まるし、男性棋戦にも呼ばれるなら参戦するつもりだった。

 出てる場合なのかな・・・?

 大学の授業だってあるけど、そんな事してる場合じゃ・・・


「君島さん、取材が」


 またか、勘弁してほしい。

 今はそれどころじゃ・・・


「取材が来るのは幸せな事ですよ?」


 ・・・・・・

 はい、解りました。



「君島さん、6月から始まる棋精戦、そして8月から始まる玉座戦にエントリーされた感想をお願いします」


 ああ、参加意思を連盟に言ってしまったんだっけ。

 私の気持ちとは裏腹に、エントリーは通ってしまった。


「はい、勿論頑張りたいです」

「それと、恐らくですが12月から始まる将棋界最高峰のタイトル、龍王戦にもエントリーされるはずです。お気持ちは?」


 龍王戦?・・・羽月さんのタイトルだ。

 羽月さんの・・・タイトル。


 ・・・何を迷ってるんだ私は。

 手が届くところまで来ているのに、私とした事が。


 棋士にもなる。棋戦も出る。学業だって親との約束、頑張るに決まっている。

 免許くらいあっという間に取ってやる。それと、サークルだってもちろん大事、頑張るに決まってる。


「私は羽月さんに憧れて棋士を目指しています。龍王戦にエントリーされれば非常に光栄な事ですし、出来れば羽月さんに挑戦したいと思ってます」

「ちょ、挑戦ですか?挑戦するとなると、来期になりますが」


 解ってる、10月から行われるタイトル戦を羽月さんが防衛しないと、来期の挑戦もクソもない。


「それぐらいの気持ちで頑張ると言う意味です」

「な、なるほど、ですが、女流棋士は未だ6組予選で1勝挙げるのも・・・」


 龍王戦はまず、1組から6組に分けられた予選を戦う。

 6組は一番レベルの低い組。

 だが最高峰タイトルは男性棋士も必死、なので女はその中でもなかなか勝利を挙げられていない。

 稀に1回戦を勝てる程度なのが現状。


「ですが、別に思い出作りに出る訳じゃありません。勝ち進む気が無いのなら、最初から出なければ良いのではないでしょうか?」

「お、おお!そ、そうですね、失礼しました。それではご活躍を期待しています」



-----------------



 6月

 

 自動車学校に通い始める。

 私が余りに真剣に取り組むので女性教官がビビり気味。


「き、君島さん、もっと力を抜いて・・・」

「車を運転するんですよ?気を付けるに越した事は無いでしょう。そんな甘い事言ってるから事故が無くならないんですよ!貴方は人に教えると言う事の責任の重さを解っていますか?私がどんな気持ちで車を運転するか、どんな覚悟で鉄の塊を天下の往来で走らせるかは貴方にかかってるんですよ?力を抜いて?そんなリラックスして気楽な気持ちで人の命を簡単に奪ってしまう時代と共に進化して来た・・・

「す、すみませんでした」


 6月第一例会にも出る。


「君島さん、こないだ2連敗したんだって?」

「ああしたさ。でもだから今日も負けるとでも?どんな根拠で?私がこのままズルズル負けて、貴方達の養分になるとでも?貴方が寂しい夜に、私の事を思い浮かべ、自分で性的な欲求を満たす分には構わないけ・・・

「す、すみませんでした」


 はい2連勝。


 大学の新人戦にも行く。


「やっておしまい!!!!」

「ちょ、ちょっと君島さん、あまり大きな声を出しては・・・」

「どうせ童○ばっかりよ!金と玉を隣に並べて喜んでるような奴ばっかりに決まってるわよ!!」

「き!君島さぁぁぁん!!!!」


 激励が功を奏したか解らないが、織華ちゃんが二日目に進み、ベスト8に入った。




 そして、6月第二例会。


 今日2連勝すれば、直近の成績が12勝4敗になり、三段リーグへの昇段が決まる。


「君島さん、調子良さそうだね」

「卯亜ちゃん、今日決めるわ」

「え?!」


 今日決めて、10月からの三段リーグに備えるわ。

 回りにも聞こえたみたい。

 今日の対戦相手が、そうはさせないと睨んで来る。


 2日後に、男性棋戦の棋精戦の第一予選の1回戦がある。

 その前に楽になる為に、私は今日決める。


 気合は入っている。

 今までならあまり力みすぎるのも良くないと思ってた。

 いつもの力を出せない。冷静になれ、と、思っていたはずだ。

 でもいつも以上の力を出さずに切り抜けられる状況では無い。

 だったらもう吹っ切って開き直るしかない。

 精神論に頼るしかない。


 第一局、悪手を指してしまう。

 でも動じない。まるで好手であるかのように振る舞う。

 相手は冷静に私の悪手を逆手にとる手を指して来た。

 さて、ここで時間を使っては駄目だ。

 私が悪手を指してしまった事を認める事となる。

 すぐに、踏み込みの一手を指す。

 ここで相手は迷う事となる。

 ひょっとしてこの手には何か意味があるのか?

 そう思わせる事が出来れば成功だ。


 相手が私の様子を伺う。

 私は腕を組み、すでに次の手が決まっているかのように目を瞑る。

 もうそちらの玉に詰みがかかっている。気付いてないの?とでも言いたげに。


 いつもなら通用しないかもしれない。

 相手だって奨励会高段者だ。

 駆け引きにも慣れているだろう。


 でも今の私は女王だ。

 タイトルホルダーの貫禄が私にあるかどうかは解らない。

 それがこの人に通用するかも解らない。

 だが、指してしまった以上、もう戻れない。


 相手はまだ指さない。

 私の狙いが解らないからだろう。

 それはそうだよ。悪手だもん。

 なのに私は涼しい顔。


 ・・・しめた、警戒し過ぎて消極的な手を指して来た。

 私はここから怒涛の攻めを繰り出す。


 攻め続けるうちに、さっきの悪手を利用する事に成功する。

 ただの悪手が、好手に変わる。


 私にとってはたまたまだが、相手にとっては予想外だ。

 これを狙っていたのかと、動揺する事になる。

 精神的にも優位に立てた。

 

 そのまま対局は終了、私の勝ち。


 第二局、こんにちは、黒森君。

 なんとなく貴方が来ると思ってたよ。

 調子はどう?ボチボチみたいだね。

 私は王手をかけたよ。


 以前、自分が先に三段になるって言ったよね。

 覚えてるよ。女は執念深いから覚えてる。

 あの時は何とも思わなかったけどね。

 

 14歳で二段の貴方は才能に溢れている。

 きっと若くして棋士になる。私よりも羽月さんに近い存在かも知れない。


 羨ましいよ。16からのスタートだった私には羨ましい若さだ。

 私のスタート時よりまだ若くて、しかもすでに二段なんだから。

 

 リミットも26歳でしょ?まだ12年もある。なんて恵まれてるのかしら。

 20歳がリミットの私とは大違い。


 私が切り開くのは女性初のプロ棋士と言う道。

 貴方とは色々違う物を背負っている。

 想像できないでしょ?男じゃないってだけで色々言われるんだよ。


 そんな、恵まれた状態の中で、貴方は更に、私よりも早く三段になると言うのね。

 もちろんそれがプロの世界、早い遅いは関係無い。

 でもそれは、私のセリフだったわ。

 

 私は、貴方よりも先に三段に、そしてプロになる。

 貴方よりも先に羽月さんに近づく。

 ここで、邪魔させはしない。先に行く。

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