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駒唄  作者: 無二エル
25/93

取材攻勢

 11月中旬 大学


「玲奈、そういえば次の大会はいつなの?」

「次は1月のオール学生個人戦ですわ」

「あれの個人戦もあるんだ・・・あれ?今スマホ見たら秋季関東個人戦・女流戦・団体戦ってのがあったみたいだけど」

「出ませんでしたわ。団体戦は7人制でしたし、女流は参加者が毎年10人いかないらしいんですの」

「へえ、そんなに少ないんだ・・・個人戦は?女でも出れるの?」

「・・・君島さん、ちょっと」


 え?なになに?

 玲奈に廊下に呼び出された

 みんなには聞かせられない話なの?


「とんでもなくレベルが高いらしいんですの。3日間あるんですが、女性が予選の1日目を突破したことが無いとか」

「それで避けたの?」

「はい、今は力を付けて来年出たほうが良いと・・・」


 玲奈と遥で話し合って決めたらしい。

 遥が言うには、他の3人だと1勝も出来ないどころか、自信を喪失する恐れがある。

 せっかくやる気を出して伸びている時期に、やみくもに出る大会では無いんだとか。


「実は遥さんだけ、試しに出場しましたのよ。ですが・・・」


 3勝出来れば1日目の予選通過らしいが、1勝するのがやっとだったらしい。

 遥でもそんなレベルなんだ?


「400人くらい参加するらしいですが、その大半が遥さんより強いとなるとゾっとしますわね」

「すごいね、関東だけの大会なのに・・・」


 まあ地方から関東の大学に集まって来るからレベルが高くなってしまうんだろうけど。

 そこまでレベルが高いと来年でもどうかな。

 あの3人が今の遥に追いつく事が前提となる。


「希望者だけにするかもしれませんが、私は来年出ますわよ?」

「玲奈は強くなったもんね。ハムスターにボコボコにされてたとは思えないくらい」

「うっさいですわ」ポカポカ


 オール学生大会団体戦の方は、実はあまり評判が良くないらしい。

 評判が良くないは語弊があるか。たくさん出るのに一日で優勝決めちゃうから、対戦相手に恵まれると、実力以上の順位に行けるし、その逆もしかり。

 前回の白湯女みたいに、小学生チームと当たる場合もあれば、当たらない場合もある。

 小学生チームだって、大人相手に果敢に挑んできてるのに、勝ち星計算にしかされていないので低年齢層の参加校が減って来ている、等々。

 うーん、私は面白い大会だって思ったけどなー。

 小学生が大学生と戦える機会なんてなかなか無いじゃん。

 主催者の意向は垣根を無くして平等な大会だったんだろうけど、結局みんな勝ちたい、優勝したいから文句を言うと。

 参加する事に意義がある大会もあるだろうに。


「そもそも将棋は本来男女の壁が無いですし、藤谷王太さんのデビュー戦の相手は60歳以上年上の鬼頭四五六先生だったと聞きましたわ。垣根が無いというのは私も素晴らしいと思いますわよ」


 そうだね。だから私も挑もうとしている。

 女が打ち破れなかった壁を、破ろうとしている。


「そういう意味で、秋季関東女流戦も見送りましたの。経験になるかもとは思ったんですが」


 そっか、玲奈たちも男女の壁が無い大会に出たいと。

 でも参加が10人いかないって事は、本当に頑張りたい女の子は個人戦に出るんだろうか。


「両方出る方もいるみたいですが・・・それがちょっと変なんですのよ?個人戦の決勝と、女流戦の日程が丸被りで」

「・・・ああ、最初から女が勝ち進むとは思われてないんだ?」


 ふーん・・・なんだかなぁ。

 まあ、女流棋戦に出ちゃってる私がどうこう言うのも変だけど、やっぱり女は舐められているんだね。

 そしてそれを覆せてないのも事実。

 ・・・・・・


 待ってなさいよ。

 私がそれを覆してあげる。

 別に、将棋界での女性の地位向上とかは興味が無い。

 強い者が勝つ。それでいい。

 自分の地位向上を自分でやるだけ。

 それがプロの世界だと思う。



------------------



 12月初旬、女王戦本戦2回戦があった。

 私は勝って、姉弟子も勝って、元女王も勝ち。

 卯亜ちゃんだけは負けてしまった。


 元女王はまだ25歳だが、9月の時点で三段リーグに上がれなかった為、年齢リミットを迎え、今は女流として参加している。

 次は姉弟子と準決で戦う。

 そして私の次の相手は・・・里理四冠。

 ついに来てしまったか。

 

 女流ナンバーワン、里理さとり 奈々なな四冠。

 出雲のイカズチと呼ばれる、今一番脂の乗っている女流。

 タイトル獲得30期以上、そして奨励会三段リーグ5期経験。

 長い将棋界の中で、もっとも棋士に近づいた女性。


 さて、どうしたもんか。

 研究するのは当たり前としても、小細工使って来そうにない人なんだよね。

 言ってしまうと天然というか・・・

 着飾ると綺麗な人なのに、その辺に全然執着が無さそう。

 服装や化粧に無頓着で、私がいくら若さで挑発しても、何とも思いそうにない。

 ただ、物凄い努力家だと聞く。詳しい事は知らないんだけど・・・

 まあ対局まで2カ月あるし、じっくり作戦を練ろう。


 

 取材がまた増えた。

 これもやはり里理さん効果だろう。

 奨励会初段の子が、女流四冠にどこまで出来るか注目されてるみたい。

 しかしやたら写真撮られるな・・・その写真変な事に使ってませんよね?

 公に女の子の写真を撮れる仕事。でもカメラマンとは言え男。

 写真集出さないかって?出しませんよ。

 写真集出した人みんな辞めてるじゃないですか。

 おかしなジンクスに誘うのやめてください。



------------------



 12月第二例会


 この間にも3回例会があった。

 結果は4勝2敗。

 少し成績が上向いて来た。

 初段に上がってからは12勝5敗。

 ここから、14勝5敗・16勝6敗・18勝7敗を狙って行かなければ・・・


 今日2連勝出来れば・・・

 しかしそう上手くは行かない。1局目惜敗。

 ああ、これでかなりキツくなった。

 16勝6敗を狙うなら4連勝?18勝7敗なら6勝1敗?

 折れそうになる心を何とか繋ぎ止める。

 2局目は勝てた・・・・・・ホっとした。

 これで13勝6敗か。


「君島さん。取材が来てるよ」

「ま、またですか?」


 奨励会幹事の言葉にうんざりする。

 いや、注目されてなんぼの世界なんだけどさ・・・


「そうだよ。取材が来るってのは幸せな事なんだからね」


 はいはい、解りましたよ。

 でも将棋以外の質問も多いし、疲れるんだよね・・・



「君島さんは彼氏は居るんですか?」

「いません!将棋が恋人です!」

「でもモテるでしょ?」

「そんな~私なんて」

「美人でお洒落だし、スタイル抜群だし」

「ええ?そんな事ないですよぉ」


 終わった。はあ、何の取材だったんだ今のは。

 はい?え?また取材?


「君島さんはどんなキャッチコピーがいいですか?」

「はい?」

「例えば出雲のイカズチとか、守る大和撫子とか」

「はあ(どっちもテイストが古いんだよね。誰が付けてんだろ?)」

「どうでしょ?バレーボールみたいにプリンセス流歌とか?」

「す、素敵ですねぇ。でも私には重いです(絶対ヤだ!)」

「じゃあ、ミラクル・流歌リン無限大!とか」

「バレーボールから離れてくださいよ」


 そんなキャッチコピー付けられたら絶対グレると思う。

 バレーボール選手は大変だな・・・

 え?また取材?


「君島さん、今後メディア展開をする気はあるんですか?」

「・・・芸能活動と言う事でしょうか?その気はないです」

「ですが美人過ぎる将棋棋士として売りだせば・・・」

「(また古い売り文句)私はまだ奨励会員ですよ?芸能活動しながら棋士になれるとは思いません」

「モデルには興味ないんですか?そのスタイルなら・・・」

「もともと母親がモデルで苦労を聞いているので・・・そんな良いもんじゃないですよ?」

「じゃあ写真集・・・」

「出しません!」


 なんなのよ!そんなに辞めさせたいの?

 写真集には呪いがあるのよ!

 しかも思い出作って、はいサヨナラかって言われるのよ!


「君島さん、取材が」

「・・・・・・」


 はあ、これで最後ですか?

 解りましたよ。


「君島さんは、ソフトで勉強されていると聞きましたが」

「はい、私の親は元々私が将棋界に入る事に難色を示して居まして・・・数年前まで対局相手がソフトかネット将棋しか無かったんです」

「コンピューター将棋と言えば、数年前に行われた雷王戦らいおうせんは視聴されました?」

「はい!将棋界では珍しい団体戦で、しかも相手がコンピューターと言う構図には、ワクワクさせられました」


 4949動画主催の雷王戦らいおうせん

 第一回は引退棋士とコンピューターの1vs1の戦いだったが、第二回から様変わりした。

 5vs5の団体戦、棋士の意地と、ソフト開発者の英知がぶつかった熱い戦いだった。


「特に印象に残ってる対局は?」

「うーん、難しいですね。第二回第四局の塚本先生の涙も良かったですし、第三回第三局の豊縞先生の2一角にもシビれました」

「ソフト側で印象に残ったのは?」

「やはりThe ponanザ・ポナンではないでしょうか?屋根男やねおとこもある意味印象深かったですが」


 ああ、楽しいな。

 興味ある事を聞かれるだけで、取材ってこんなに楽しいんだ。

 こんな取材ばかりなら良いのに。


「雷王戦に羽月さんが出なかった事についてはどう思いますか?」

「(これは言葉気を付けないと)そうですね・・・ファンとしては見たかった気もしますが、正直羽月先生が出るメリットは無かったと思います」

「と、言うと?」

「(グイグイくるな)ソフト側が羽月先生を倒せば一気に名声が上がりますが、羽月さんがソフトを倒したところでソフト側に知名度が無いので」

「なるほど、割に合わないと」

「はい、対局者として釣り合わないんですよ。毎年のように一番強いソフトが変わって行く中で、すぐに忘れ去られる相手を倒したところで」


 それにソフトは勝ち逃げする場合がある。

 チェスのディープイエローがそうだ。

 世界王者に勝った途端、王者は再戦を要求したのに、ソフト側は開発をやめてしまった。

 ソフトメーカー側にとってみれば、世界王者に勝ったと言う実績が残れば良い。

 自社のコンピューターが優秀であると言う事実が残れば良い。

 あれはなんかズルいよ。


「ソフト開発者達は羽月さんが逃げてるみたいに言ってましたけど、主催して貰ってる場でそんな我儘を言うんじゃなく、対戦したければ自分達で莫大な対戦費を準備して交渉するのが筋だと思います」

「なるほど、これは手厳しい」

「(やば、言いすぎちゃった?)棋士側はリスクを背負ってるのに、ソフト側はリスク背負わないのでは不公平ですよ」


 少なくともそう見えた。

 棋士側が失う物は大きいのに、ソフト側はバージョンアップでまるで別人みたいな印象で再登場する事が出来るし。

 ソフト側は何回負けてもリスクは少ないように見えた。


「今もソフトの進化は目覚ましいですが、因みに今雷王戦が開催されたら結果はどうなると思いますか?」


 うーんこれは。

 ここは・・・方便で。


「私は棋士の皆さんが勝つと信じています」

「では最後に、自分が棋士になったら雷王戦に出てみたいと思いますか?」

「出て・・・みたいでしょうか?ソフトは確かに強いですが、穴もありますからね。ただその穴を突いて勝っても卑怯みたいに言う人も居るので、やはりメリットが・・・」

「たくさんの質問に答えてもらってありがとうございました」


 ふう、面白かったけど喋り過ぎた気もするなぁ。

 興味がある話だったからついつい口が滑っちゃった。

 まあでもイベントとしてあれほど面白かった戦いは今まで将棋界では無かった。

 私なら失う物も少ないし、出場する事にそこまでの葛藤も無い。

 いや、それはまだ棋士になってないから軽く言えるのかな?

 立場が変われば考えも変わるかも・・・

 まあ若手としては、棋士になる上でそれぐらいの意気込みがあると言っておいて損は無いと・・・思いたい。

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