表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/127

第3話:アンサー7

 その二人の目に―――アカネとアオイのファントムが、動き出す姿が映る。


 ―――さあ、どんな策を打ってくる。どんな手でこようと、必ず追い詰めて、その獣の本能を引き出してみせる。


 アカネとアオイを見定めると決めた、リンとミユウはその動きに警戒するどころか、心躍らせた。


「動きました!」


 模擬戦を見守るギャラリーの中、真っ先に声を上げたのはシオンだった。


「やはり先に動くのはアカネだったのですよ。さあ、どんな手を打つのか楽しみなのですよ!」


 チトセも動き出した戦局に期待を込めて、歓声を上げる。


(動いた!―――何かリン様を破る策が見つかったというの、コダマ=アオイ?)


 動かない選択を、内心支持していたカノンは、それでも先手を打つ姿勢にまわったアカネたちを心配する様に、身を乗り出した。


「カノンはー、いったいリン大佐とアカネ―――どっちの味方なのです?」


 カノンの微妙な心理を見抜いたチトセが、すかさず冷やかしを入れる。


「も、もちろんリン様ですわ!私があんなバカ女など……」


 慌ててチトセの勘ぐりを否定するカノンだったが、その顔は分かりやすい程に真っ赤に染まっていた。


 そんな会話がかわされている間に、アカネのファントムの動き―――その狙いが明確になってきた。


 アカネはリンのファントムとの、八十メートルの距離を保ったまま、ホイールドライブでコンパスの様に左右の旋回を繰り返している。


 どうやら動きはしたものの接近はせず、引き続き相手の出方を窺う策と、カノンをはじめ皆は判断した。


 だがアカネだけに、それだけでは終わらない。


「じゃあ、そろそろ始めよっか」


 隣のアオイが促すと、


「いくわ!踊りなさい、ファントム!」


 叫びを上げながら、アカネはアクセルをさらに踏み込んだ。


 そしてアカネのファントムは、ヒューマンモードのままランウェイを舞台に演舞を始める。


「踊って……ます?」


「踊ってるのですよ……」


 ランウェイをドリフト、スピンターン、傾斜を利用したジャンプでもって、踊り始めたアカネに、シオンとチトセは呆気に取られてしまった。いや二人だけではなく、ギャラリー全員も同様の反応であったが、カノンだけは別の感想を抱いた。


(これは面白い手かもしれませんわ。攻めないとはいえ、ヒビキ=アカネは動いている。対してリン様がこのまま動かなければ、次第に消極的姿勢なのはリン様の方だと、皆の目に映る……)


 そしてアカネのファントムは、さらにそのダンスに激しさを加え、八十メートルの距離を保ったまま、ランウェイいっぱいに跳ね回り、動かぬリンを挑発し続けた。


「さあ、クスノキ=リン!かかってらっしゃい!一緒に踊らせてあげるわ!」


 興が乗ってきたとばかりに、意気消沈した先程とは打って変わって、アカネは声を張り上げた。


「アカネ、それでいいよ!これで動かなければいけないのは、リン大佐の方になったからね」


 アカネ得意のダンス走行で、一定の距離を保ったまま挑発を続け、追ってきたら逃げて、逃げて、逃げまくり、そこで生まれた一瞬の隙を突いて逆襲する―――授けた策の初手が順調な事に、アオイも声を弾ませる。


「こうきましたか……どうする、リン?」


 動き出したアカネ組に対するミユウも、楽しそうにリンに問いかける。その口元の薄ら笑いは、『どう狩りましょうか?』という意味を含んでいる。


 それを十分理解しているリンも、


「言った通り―――追い詰めるまでだ」


 静かにそう言うと、コクピットのレバーをひねった。


 するとリンのファントムは、戦車部が二足の脚部へ変形しながら立ち上がる―――遂にリンは開戦時からのタンクモードを、近接戦用のヒューマンモードへシフトした。アカネとアオイを追い詰め、狩るために。


「で、リン……トランスミッションはどうするの?セミオートマ?マニュアル?」


 あえてミユウは問うた―――アカネは、機体制御が困難なため現行ではタブーとされている、ヒューマンモードのマニュアル走行を武器としている。そのアカネを狩るのだ―――リンの答えは決まっている。


「マニュアルだ!―――出るぞ!」


 答えを受けてミユウが、トランスミッションをマニュアルに設定した瞬間、リンは脚部車輪を降ろしたファントムの回転数をピークまで上げ、素早くクラッチとシフト操作を行うと、その場でアクセルターンを決め、その反動も利用しつつ、アカネのファントム目指して突進を開始した。


「動きました!リン大佐が!」


 またもや、真っ先に叫んだのはシオンだった。


「あのアクセルターン……まるでアカネの動きなのですよ!」


 まるでアカネの操縦が乗り移ったかの様な、リンの動きにチトセも息をのむ。


(という事は……リン様もマニュアル走行……?)


 リンの操縦技術は信頼しているが、それにしてもアカネに合わせた様なマニュアルシフトの選択に、カノンは危惧を抱き、今度はリンを心配して身を乗り出した。


「アカネ、リン大佐が来るよ!」


「フン!かわしてみせるわ!」


 アオイの報告に、アカネは高ぶった気持ちそのままに、余裕の返答を投げた。そして打ち合わせ通り、リンが迫ってくる方角と逆方向に、弧を描く様に走り出す。


 逃げながらもダンス走行を織り交ぜ、リンへの挑発行動も継続するアカネは、策が順調に進んでいるという実感に得意満面だったが、隣のアオイは現実に気付き愕然とした。


「アカネ……リン大佐のファントムを見て……」


 明らかに焦燥を帯びたアオイの声に、不審を抱きながらも、アカネはサブモニターに映るリンのファントム見た瞬間、息を詰まらせた。


「なっ、なっ、なによ……これ」


 振り絞る様に、やっとそれだけ言うと、アカネは音が鳴るほどに奥歯を噛みしめた。


 リンの動き―――それは、アカネの操縦を完璧にトレースした走行だった。


 アカネのファントムがスピンを決めれば、リンのファントムもまた同じスピンを決める。ドリフト、ジャンプ、すべてしかり。


 それは、周回軌道での逃走を続けるアカネに対して、あえて等間隔をキープしたまま、まるでメリーゴーランドの様に、二機でクルクルとランウェイを回る、一種のダンスショーを見る様であった。


 逃げているどころか、逃がされている。挑発どころか、遊ばれている。


 それを自覚したアオイ、そしてアカネの心は掻き乱される―――リンとミユウの狩りは始まったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ