第3話:アンサー6
同じ頃、リンのファントムでも、この膠着状態に対して、リンとミユウの会話が交わされていた。
「動かないわね、フフフッ」
「動かんな……」
ミユウは変わらず朗らかで、リンもまた変わらず冷静だった。
「受けて立つ……って事だったけど、向こうが動かないとねえ……」
ミユウはそう言いながら、どうするの?と言わんばかりの表情で、リンの顔をのぞき込む。
「もう少し待とう……これはコダマ=アオイの考えだろう。それなら、その策も見極めてみたい」
「本当に、あの二人がお気に入りなのね。カノン大尉が妬くのも無理ないわね」
アカネに続いて、アオイの事も測りたいと言ったリンに対して、ミユウは茶化しながらも率直な感想を述べた。
「カノンが……?そうなのか?」
「やーだ、もう」
カノンの想いに鈍感すぎるリンに、半ば呆れながら本気でミユウは吹き出した。
だが、「まあ、いいわ」と、カノンの話にひと区切りつけると、ミユウはアカネとアオイの件に話を戻した。
「あの二人の可能性に……賭けるのね」
「人工知能が実戦経験を積めば、これからどれだけの脅威になるか分からんからな」
リンは、これから自分たちが立ち向かう相手―――人工知能『バクフ』の成長を懸念する。
「チェス、将棋、囲碁……人工知能は経験を積み、データを蓄積し……ついに人間を超えたわよね」
「その通りだ。今はまだいい。だが、この戦いが長期戦になった時……我々がすべての手の内を見せた時……我々は人工知能に屈する事になる」
そう言いながらリンは、親友であるミユウだけに見せる憔悴を帯びた苦い顔を作り、そして目を閉じた。
「アカネ准尉なら……常に既成概念を超える彼女なら……人工知能に勝てるかもしれないわね」
ミユウも、彼女にしては珍しく厳しい目をしながら、アカネの可能性について言及した。
「もし、ヒビキ=アカネが私に勝つのなら……約束通り、トムキャットはくれてやる。それで私の期待に応えてくれるのなら安いものだ」
「太っ腹ね。でも……負ける気はないんでしょ?」
いつも通りの表情に戻ったミユウは、妖しい目でリンに問いかける。
「無論だ。やはりこうして操縦席に座ると、血が騒ぐものだな」
リンもまた、いつもの冷静な表情に戻っていたが、ミユウの煽りに反応したその目には、戦士の光が宿っていた。
「アオイ准尉の策……私も見てみたいわね」
闘争本能に火がついたリンに追随する様に、好奇心がそそられたミユウも口元に薄笑いを浮かべた。
「ハッキングに対する電子戦への対応力。素人離れした支援機の管制能力。昨日のハッキングを陽動だと見抜いた洞察力。どれを取ってもコダマ=アオイは逸材だ」
「もしかすると、アカネ准尉以上の拾い物をしたと思ってるんでしょ、リン?」
「それは否定しないな。だが私が、もっともコダマ=アオイを評価しているのは、ヒビキ=アカネへの対応力の早さだ」
「確かに、あの無茶苦茶な動きが成立しているのは、アオイ准尉の機体管制があってこそよね。私じゃ、とてもあの動きに合わせられないわ」
そう言いながら、ミユウはクスクスと笑った。
「お前でも、そう思うのか?」
かつての自分の相方だという事を差し引いても、ミユウを人馬戦車の最高の管制官だと思っているリンは、半ば本気でその真意を問うた。
「ええ、思うわ。私は、あなたには合わせる事ができる。あなたが展開の何手先を読もうと、それをちゃんと理解できるわ―――でもアカネ准尉のは無理ね」
ミユウの見解に興味をそそられたリンは―――なぜ?とは問わずに、ミユウの次の言葉を待った。
「例えるならアカネ准尉は獣ね。人間の感覚じゃないのよ……発想が。追い詰められれば、その瞬間、瞬間で、本能で動いてるのよ」
「獣の……本能か……」
さすがにミユウの洞察力は深い。リンも答えを得たとばかりに、その説明に深く納得した。
「だから、それに合わせられるアオイ准尉もまた……獣なのかもしれないわね」
「タイプは違えど、その底に流れるものは同じという事か」
「そう。だから私とあなたは人間なのよ。フフフッ」
彼女らしい朗らかな笑みでもって、ミユウは自身の洞察について、区切りをつけた。
「追い詰められれば……か」
「そう……追い詰めれば……よ」
それ以上の言葉は二人には必要なかった。コクピットのリンとミユウは思いをひとつにして―――ともに獣を狩る狩人へと、すでに変貌を遂げていた。




