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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第3話:アンサー5

 予想外の直角ターン、そして撃てたのに撃たなかった余裕の構え―――初めて知るリンの驚異的な実力に、アカネはおそらく人馬戦車ケンタウロスに乗ってから、初めて覚えたであろう戦慄、恐怖をいやが上にも自覚した。


 リンのファントムとの距離は約八十メートル。こちらの出方を待つ様に、それは沈黙を守り続けていた。


 次の発想が出てこない。何をやっても、かわされそうな気がする―――こんな感情はアカネにとって初めての事だった。


 それを敏感に感じ取ったアオイは、力強く言った。


「アカネ、動けないなら無理に動かなくていいよ!」


「アオイ……?」


「最初の接触でわかったでしょ。リン大佐は、こっちの出方を窺ってる。なら、無理に動けば相手の思う壺だよ」


 その落ち着いた態度に、アカネはようやく焦燥から少し解き放たれる思いがしたが、まだその息は乱れていた。


 それを見てアオイは、


「アカネ、深呼吸しようか」


 と、ケロッとした表情で、そう言った。


「はあっ?なに、のんきな事言ってんの!?今、戦闘中よ!」


 何を考えてるんだと、本気でそう思ったアカネだったが、アオイは大真面目だ。


「大丈夫。こっちが動かなければ、向こうも動かないから。ほら、いいから深呼吸して!」


 あまりのアオイの押しに、なんとなく流れでアカネも従わざるをえない空気となり、言われるがまま深呼吸をした。


 一回、二回、三回―――大きく息を吸い吐く事で、不思議と気持ちが落ち着いてくる。


 その効果に驚き、言葉を発しようとするアカネを制する様に、「いいアカネ?聞いて―――」と、先にアオイが声をかけた。


「リン大佐は、撃てるのに撃ってこなかった……という事は、きっとリン大佐は受け身に回る事で、アカネの力を測ろうとしてるんだと思う―――だから、リン大佐が先手を打って動いてくる事はないわ」


 先制攻撃を見事にかわされ、舞い上がってしまったアカネとは対照的に、アオイの態度は冷静そのものであった。


 最初の接触以来、距離を取ったまま動かない二機のファントムを見つめるギャラリーも、この状況に次第にざわつき始めた。


「動きませんね……どちらも……」


 いきなりの膠着状態に、なぜか心が落ち着かなくなり、ソワソワとしてしまうシオン。


「うーん、動かないとはアカネらしくないのですよ。まさか怖気づいた……とは思わないのですが……」


 リンはともかく、あの勝気なアカネが動きを止めている事に、チトセも懐疑的な見解を漏らした。


 そしてカノンは、また言葉を発さずに、心の中でこの状況を分析する。


(どう足掻いてもリン様に勝てないのは明白。それなら動かないという、この選択は理にかなっていますわ。だけど、あのバカ女がそんな選択をできるはずが……という事は、手綱を握っているのは、コダマ=アオイ!?)


 コクピットの中で、そのアオイは、キョトンとした表情のアカネに向かって言葉を続ける。


「こちらも下手に動くよりも、動かない方が得策。だけど、どちらも動かなければ勝負はつかない……ある意味それでもいいと思うの」


 何を言っているのか、その真意が掴めないアカネだったが、それを質す言葉が出てこない。今のアオイには、それほどの何かがあった。


「負けなければ……負けじゃないんだよ!引き分けでも、こちらにしてみれば、勝ちと同じくらいの価値があるんだよ」


 勝負の場で、引き分けを狙う戦略―――サッカーに例えれば、圧倒的な戦力差をつけられたチームが、アウェイでドローに持ち込み勝点1を確保するようなもの。強者にとって、それは敗北にも似た失策であり、弱者にすれば大金星である。


「だから、引き分けを狙おう!」


 そう言いながら、ニコッと微笑むアオイ。


「ちょっ、引き分けって、そんな―――」


 ようやく反問を始めたアカネの唇を、アオイの指先が押さえ付け、その言葉を封じ込めた。そしてアオイは言葉を繋ぐ。


「引き分けを狙ってると見せかけるの。そして……その裏をかくのよ!」


 静かなるその勢いに、思わず気圧されてアカネは再び言葉を失った。いまだアオイに唇を押さえられているせいだけではない。本当に言葉が出せないのだ。


 時々、アオイは自分の想像を超えた、高みを見ている時がある―――アカネは常々そう感じていたが、今もまたそうだ。


 そう思うと、何かが解けた様に、自然と言葉がアカネの口からこぼれた。


「ねえアオイ……アンタに見えてるもの……その高みにアタシも連れてってくれるの……?」


 なぜ、そんな事を言っているのかアカネ自身にも分からなかった。だが言葉が止まらない。


「アタシを……勝たせてくれるの!?」


 懇願でも、要求でもない。それは言葉では言い表せない『絆』が導き出した一言だった。


 いつの間にか、唇に置いていたアオイの指はほどけ、今その手は優しく、ヘルメットの中のアカネの頬に添えられていた。そしてアオイは頷きながら言った。


「アカネ……一緒に勝とう。一緒にだよ!」




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