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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
見捨てられた地編
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・合体! スカルパラディン!

・合体! スカルパラディン!



「ぐわあぁっでふっ! んん!」


 サメ男のコウユウが、雑に振るった腕に吹き飛ばされて、俺は校舎の壁に叩きつけられた。バトル漫画でよくある『壁にビターン!』と叩きつけられるアレ。


 髪の毛のおかげで背中はそれほど痛くなかったが、頭のほうは頭蓋骨が頑丈じゃない人だったら、たぶん怖いことになってたんじゃないだろうか。


 目がチカチカする。痛みが遅れてやってくる。頭部を強くぶつけたときの乾いた、金属とも陶器ともつかない『ごちっ』という嫌な音がして、一発で危機感が伝わって来る。


「ってえ……」


 むしろ殴られた正面のほうが痛い。ジャージを着てるのに体の前側の全面が、地肌にビンタされたように痺れる。


 ガードしようと上げた両腕は強引に、そして過度に押し込まれたせいで、不気味な違和感を訴えている。


 脱臼や骨折はしてないみたいだけど、何だか気持ち悪い。動くけどすごく気持ち悪い。


「おっと、いかん。水中とは勝手が違うな。部下みたいに扱っても死んでしまうし、加減が難しいな」


 巨大サメ人間は自分の手を見て、握ったり開いたりした後、手近な半魚人を捕まえて叩き潰した。頭のほうは魚だからまだいいが、下は当然グロ画像。


 かつて異世界で騎士団が公金横領した連中を粛清した際に、血の海にアレやコレやが浮かぶ光景を目にしたが、まさかそれが役立つ日が来ようとは。おかげで吐かずに済んだ。


 四月のストーカー女のときといい、夏休みのときの幽霊といい、世の中は修羅場に満ちている。


「これ程度の力で死ぬな。よし、これで少な目だな」


「はは、手加減の練習って難しそうですね。ていうかそんなに味方殺しちゃっていいのか」


 俺は体の前側と腕を擦りながら質問した。背中はスカルナイトにやらせる。この野郎完全に俺たちを嬲るつもりでいるな。


「こいつら下位種は数だけが取り得だしな。また直ぐ増えるよ。むしろ邪魔なくらいだ。餌にしても口減らしが間に合わん。そのくせ弱くて大騒ぎして、今回みたいに周りを焚きつけて呼び出す。殺していいというよりも、積極的に殺さんといかんのだ。本来ならな」


 そう言ってまた近くにいた半魚人が捕まれて、今度は頬擦りされた。おろし金に何度もこすられたみたいに頭だけ消失してるの。捕まれたら最後、食われようが食われまいが助からないな。


「まあそういう憂さ晴らしも入ってるんだ。だからなお嬢さん、頑張ってくれ。ほれ、正体見せるなら今のうちだぞ」


「そう言われると、意地でも意地を張りたくなっちゃうな」


 言い返すとサメ人間がニタリと笑う。

 余裕綽々。シャークだけに。


 俺のほうはというと、よし、よし。何とかダメージは回復してる。足、動く。頭、クリア。腕、痺れも取れてる。


「可愛げがあるのはいい。本気を出さないことに本気を出すのも、ひよっこにありがちだ。でもなあ、オレが相手だから、止しといたほうがいいと思うぜ」


「誰が本気出さないっつった。俺の正体は現すと俺も危ういからな。その為の奥の手を、使わせて貰うよ。ついこの間完成したばっかりなんだぜ」


 見上げる。でっけえ。五メートル超えの全長もそうだが、強いから尚更にでっけえ。ミュータントちっくな厚みのある体と風格で、倍はあるんじゃないかって気になってくる。正直勝てる気は全くしない。


 ただ、頑張れば生存はできそうというのが俺を必死にさせる。字に起こすと何とも情け無いが、全力を出すに当たって、過不足のない心理状況である。


「いいね、やってみろよ」

「遠慮なく。スカルナイト! 合体だ! とう!」


 俺の呼び声に応えて、スカルナイトが合体シーンを逆再生するかの如く分離する。俺もポケットから軍手を取り出して身に付け、靴を脱いでから全力で空中へと飛び上がる。


 特技枠で習得した『ジャンプ力』と、今日まで地味に鍛えられた脚力よありがとう! できれば月は出ていて欲しかった!


「おお、ま、まさか!」


 コウユウが驚く。俺の体にスライムがまとわりつく。俺のスライムだから俺の服が溶けるなんて展開はないぜ!


 次にスケルトンが抱き付いて防具のように重なる。手足が分離し、胴体は両断されて上半身は肋骨のない腹部を覆い、分解された骨盤はあたかもファウルカップのように下半身を守る。


 骨の手足は俺の手足に沿って貼り付く。

 頭蓋骨を被り、下アゴをマスクのように装着。


 そしてリビングアーマーを装備!


 最後にゴーストが取り憑いて、髪の毛を兜の後ろからこう、ぶわっと外に出してくれたら!

 

「魔人合体! スカアァルッ!パラディィィィン!」

「おおー!」


 俺も先輩に大分影響されている。スカルナイトを製作してから、今までずっと温めてきたアイディア。


 こいつらを召還できるようになってから、今月はもうずっと夜中練習してた。その光景のイタさたるや、とてもお見せできない。


 しかし練習の甲斐あって、ジャンプしてから着地まできっかり3秒! その3秒で、変身が完了するようになった!


「ほう……」


 魔物たちには感謝の念が絶えないし、上手く行くまで掛け声出しながら、毎晩ぴょんぴょんし続けていた俺の羞恥心もさようなら!


 でも名前はなんだかしっくり来ないから考え直そうかな。ともかく!


 これが! 巨大化、八尺形態<ダイダラモード>にならない状態での、俺の全力である!


「さあ来い! さっきまでの俺とは違うぜ!」


 叩き付けられても手放さなかった刀を、思い切り振りかぶる。首に掛かるくらいに傾けて、頭が前に出ない範囲で体を捻り、体勢を低くして踏ん張る。


 漫画だと刀は胴体の捻りで使うんだとか言うけど、それは野球漫画のバットの振り方でも、ゴルフ漫画のクラブの振り方でも、だいたい似たようなことを言ってる!


 両手で持つ長い武器を振り回す要領は、だいたい同じだ! 言い換えれば全力でブン回すだけなら、それはスポーツってことだ。今日から俺も紳士淑女!


「おーおー、なるほどなあ。だがよお、武器がよくなかったな」


「そんなことはねえ、確かに俺は格下で三流の人間だけど、間違いなくこの刀は、てめえの体を切り裂く。その首カッ飛ばしてホールインワンできるだけの業物なんだぜ」


「そうかもなあ、だがお前さんには棍棒のほうが合ってると思うぞ。試せば分かるんだが」


「やってみようじゃねえか」


 相手のほうが格上だ。傷つけることはできても致命傷にならないんじゃないか。


 釘バットとかのほうが、面積的なダメージが大きいだろうし、防御にも使えそうだもんな。俺が刀を使うようなキャラじゃないってことも、分かってる。でも今はこれでやるしかないんだ。


「よしじゃあ分かり易くやるぞ。いいな。せーのっ」


 コウユウがさっきと同じように大振りの拳で殴り付けてくる。合わせろ、合わせてぶった切れ。


「ここだ!」


 全力で振り抜いた刀は、相手の大きく、おぞましい殺傷力のサメ肌を切り裂き、骨を断ち、巨大な手を貫通して。


 ――しかしそれだけだった。


「あがっ!」


 切り裂かれたまま止まることの無かった拳が、振り抜いた直後の俺の体に打ち込まれる。傾きに力が加わり強烈なスピンが掛かる。


 およそ二回転半してから地べたに転がる俺。効果音は『ベターン!』だと思う。全身が揺さぶられて一気に疲労感が蓄積する。


「な、つまりはそういうことだよ。おー痛」


 サメ人間は拳を深々と切り裂かれているのに、どうというふうでもない。やるならせめて突きでいくべきだった。相手の攻撃を止められないし、俺にはファンタジーの剣聖みたいな技量はない。


 まぐれでも危うい攻撃が来ない所で、ダメージも織り込み済みで掛かって来られたら、そら中途半端な反撃なんかカモられるだけだよね。


 人間相手の喧嘩では、ある程度分かってたつもりだけど、いざこういう実戦になって頭を回せなかった。完全に飲まれている。


「はっはっは、綺麗に回ったなあ。生きてるだろうが流石に堪えたか」


 完全に地元の格闘技教室の先生が『いっちょ揉んでやる』という『てい』だ。


 何かを手を打たないと、このままでは折角のパワーアップが、死ぬまでの時間をちょっと延ばしただけということになってしまう。


 ミトラスもいないのにそんなかませ犬みたいなのは絶対に嫌だ!


「なあ、そろそろどうだい。化けの皮、脱ぐ気になったかい」


「骨の一本も折れてねえのにそんなことするか」

「お? そうか?」

「ごめんなさいもうちょっと機会をください」


 あっぶね。凄い嬉しそうな顔しやがって。顔に書いてあるけど『折っていいのか』じゃないんだよ。それならまだ虫歯を作って抜かせるわ。


 そんなことを考えていると、不意に校舎から大音量で音楽が流れ出す。毎日給食の時間にうんざりするほど聞いた、あの鬱陶しい音楽が。


 ※地域により該当する音楽が異なりますので、読者の皆様におかれましては、自分の胸に手を当てて思い出してみてください。気分が悪くなっても作者は責任を負いかねます。


「あ゛あ゛!? いきなりなんっだっこりゃあ!」


『あーあーテステス。ただ今マイクのテスト中。間に合いました。間に合いました。これよりサチコさんの援護を始めます』


「でかした、ありがてえ」


 放送室に無事辿り着いたであろう、オカルト部部長こと蓮乗寺桜子の声が、夜のグラウンドに響き渡る。


 途端に頭を押さえて蹲る半魚人たち。やはりこいつらは音楽とか大音量に弱いんだな。パチンコ屋辺りに放り込んだら無力化できそう。


「そういや、一人じゃねえって話だった、なあ」

「卑怯で悪いけどよ。一対一は止しとくぜ」

「いいんだ、数ならこっちのが多いしな」


 コウユウは俺が切ったほうの手を軽く振った。血は出ていない。もう止まったのか。一挙手一投足に力の差をちらつかせてくる。


「それで、まだ続けていいんだろ」


 サメ人間は酒のつまみでも食うみたいに、また他の半魚人を一口にした。こいつは強いが下種だ。


 相手に断る余地がなく、また断ることも許してないのに、敢えて質問の形で話かける。


 格上だし無理臭いけど、なんとかしてこの野郎に、目にもの見せてやりてえな。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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