・除霊コンサル
今回長めです。
・除霊コンサル
※このお話は南視点でお送りします。
私は南。南号。一般人とコメディアンと大型動物とのロケに狩り出された、悲劇のヒロイン。
幽霊屋敷の探検も一区切り付いたし、もう寝ようかという場面で、コメディアンがまた馬鹿なことを言い出した。こいつは心臓が止まるまで動き続けないと、気が済まないのかしら。
斎はいつも、馬鹿になるか天才になるかの間際を、反復横跳びする奇人である。知識に知識以外の名前を付けることをよしとしない、高潔な面もあれば、変な様式を踏襲することを尊ぶ、変人でもある。
その彼女がこの状況で勝負所と頼んだ相手が、よりにもよってオカルト部の部長。この上無く適任ではあるけど私は彼女が苦手だ。なんというか、同じ人間という気がしない。
付き合いの末にメッキが剥がれて、お互いに自分が透けて見えるというのが、斎やサチコの場合だ。
この人の場合は付き合いも無いのに、全部把握されているような不気味さがある。工作員の如く『知ってるぞ』と、ひけらかすようなこともない。
赤の他人に対して知ってるし、分かってるだけでどうでもいいと思うなら、知らないでおいて欲しいという願いも通じない、怖い人なのよね。
「もしもし桜子部長? みなみんから聞いてると思うけど、それから更に調査が進んで、もっとやばい感じなんだよね」
――それで私の力が必要になったのね。
「そうそう。詳細まとめた奴を、今からそっちに送るから、ちょっと見てよ」
そう言って斎はタブレットPCを取り出すと、オカルト部部長に、メモ張の中身を画像データとして転送した。
――はい受け取りました。どれどれ~。ふんふん、なるほど。それでお札を外してみたいと。
「そうなんだけど、私たちが安全な段取りを、組んで欲しいんだ」
――え、お札外して?
「そう」
――うーん、難しいと思うなあ。
「ほら! ほらね! 彼女も難しいって言ってるんだから! 止しときましょういっちゃん!」
「しかし意外だな。何とかできそうな気配がしたが」
「お坊さんだってお祓いの依頼を断ることがあるのよサチコさん」
後ろで海さんが怖い事を言ってるけど掘り下げないことにしましょう。
今はとにかく私たちの安全が大事よ。何だって危なそうなことに首を突っ込んでおいて、無事に帰ってこれたのに、また別の危険にチャレンジをしないといけないよ。
成功するためのチャレンジはよくても、成功したらチャレンジは必要ないのよ。
「具体的にはどうして難しいの」
――お札を剥がすと中の霊は外に逃げるし、外の霊も入ってくる。外の霊があなたたちに襲いかかってくるかも知れないけど、それは電話越しでも私が何とかできる。問題はやっぱり鈴の霊なのよね。
「アレか。目にしたらいけない感じの奴だったが」
――その声はサチコさんね。例の霊、あ、ダジャレじゃないのよ。その鈴の奴なんだけどね、これお祓いする手がないっぽいのよ。
「え、マジで」
「他の幽霊が怯えてたし、凄い霊なのね」
そんなグレーターデーモンみたいな存在だったの、アレ。既に自分が大丈夫じゃない気がしてきた。
――凄いというよりは不具合かしら。
「化けて出てるのがもう不具合なんじゃないの」
――何千年も世界中で怪談話が尽きないのに不具合な訳ないでしょ。現実を見なさい。それでね、何がどう不具合かっていうと、幽霊のお祓いっていうのは、基本的に霊を慰めてきちんとお弔いしてあげること、これがほぼ全部なのね。
「それこそ世界中の坊主が口を揃えて言ってるな」
――そう。でね、ここが落とし穴っていうか忘れられがちなんだけど、霊のお祓いっていうのは目の前の霊に南無南無して消すんじゃなく、故人に対してされる慰撫と請願なの。それによって故人は、己の生前を想いお越し、改めて死という終わりに納まるのよ。
「どういうことサチコ」
「なんで俺に振るのか、またこの説明でどうして分からんのか分からんが、先輩向けに説明すると戦闘破壊はできないから、専用除去の魔法カード祈りを墓地の相手に対して、発動しないといけないってことです」
「うへえ面倒臭い」
――ゲームライクに続きを説明するなら、そうすることで現在は幽霊の一つ前、生前のデータをロードして幽霊の現在を消すの。死亡エンドで幽霊編を上書きしちゃうのね。
真面目な話を不謹慎な例えで濁しつつ、私たちはオカルト部部長の説明を受けた。
目の前にいるのが人間だったということを、忘れてはいけないということね。そう考えると幽霊を掃除機で吸ったり、必殺技で吹き飛ばすのって、かなり罰当たりね。
まあその世界の幽霊はそういうものって、お約束の上でやってるから、言うだけ野暮なんだけど。
「でもこの場合はそれが通じないんでしょう」
――そう。歴史が改変されるってのは過去が改変されるってことなんだけど、過去が変わると言っても、先に今が存在してることに変わりはないのよ。変化は必ずしも過去から未来への順で起こる訳ではないの。未来が過去の変化を受けて遡ることもあるの。
「お、それってもしかすると、私たちの推論がそれを補完するかな」
――どういうこと?
「じつはここに至るまでに『かくかくしかじか』ではないかってこと話し合ったんだよ」
かくかくしかじかとは過去が変わったことで、人々の中に入ってる魂が別人になった場合に、幽霊は蘇生できないのではないか、というもののことである。
――確かにそうかも。生前が現在と魂の不一致を起こしているから、お祓いを受け付けないのよ。
「どういうことサチコ」
「なんで俺に振るのか、またこの説明でどうして分からんのか分からんが、先輩向けに説明すると今のセーブデータが詰んでるんだけど、ロードしようにも前にデータが別キャラになってる、或いは記録媒体そのものが別になってるからロードできないってことです」
「参照する墓地が無いってことだね」
「分かってんじゃねえかこの野郎」
「でもそれじゃあどうすればいいのかしら」
サチコと斎がコントをやってる横で、海さんが至極もっともな疑問を口にする。要するに現状無敵と化した鈴の幽霊の脅威に対して、私たちが身の安全を確保するには。
――先ず一つ。そこを出て駅辺りで夜を明かすの。それなら霊の状況はそのままだから、そこに寝泊まりする危険は関係なくなるね。
「この天気で駅まで歩くのも朝まで野宿ってのもしんどいが、そのほうがいいかもな」
「え、やだ」
「え、やだ」
「え、やだ」
「え、やだ」
「お前ら……」
命の危機ってあるけどね、人間としての基本道徳ってあると思うの。シベリアで捕虜になった日本兵が、ジャコウネコみたな真似して食い繋いだっていうけどあんなの論外ね。
野宿せずに済むならそうするべきだし、全力を尽くさないといけないわ。
――次に、その鈴の霊はお札を剥がさない限りは、中の霊を追い回し続けるんじゃないかしら。今日までそうしてたみたいだし。だから近くに来ても目を明けなければ大丈夫よ。
「他の幽霊に危害を加えられる恐れは」
――私がお経を読んであげるから、それを録音して定期的に鳴らせばいいわ。
震えて眠ることになるけど、これがベターね。特に労力が寝る以外に無いのが素晴らしいわ。
これにはサチコも海さんもみーちゃんも、異論ないみたいね。ん?
「念のため聞くけどさ、このオフダって剥がしたら、どうなるかな」
斎が未練がましい質問をする。私たちは正直嫌気が差していたけど、気になるから止めなかった。剥がさないにしても、もしも剥がれたら、ということは知っておくべきだし。
――先ず中の霊は逃げ出して然るべき場所、人の下へと向うと思う。次に外の霊は入ってきて、中の霊やあなたたちにも危害を加えるかも。
「鈴の奴はどうなるかな」
――内外の霊を、どこまでも追っていってくれればいいけど、希望的観測をしないなら、標的があなたたちに移ると考えたほうがいいかな。仮に逃げ果せても次の誰かが狙われて、犠牲になるでしょうね。お祓いはできないから、可哀想だけど処理するしかないし。
「処理ってやっつけるってことか」
――そう。
「できるのそんなこと!?」
私は思わず腰を浮かせて、携帯電話に詰め寄ってしまった。幽霊を倒すなんてそんなの頭の悪いアクション映画の世界だとばっかり思ってたわ。
――相手は人間だし、全ての人間には、格上を引き摺り下ろす力があるもの。足を引っ張る力と言い替えてもいいわ。相手が霊でも変わり無いのよ。それで、やるの? やらないの?
ここまで聞いて私はしまったと内心で叫んだ。つい驚きと好奇心から尋ねたばかりに、あたかも私まで、オフダを剥がすのに、乗り気のようになってしまったじゃないの。
「私ね、無謀なことはしない主義なの」
――そう、じゃあやり方を教えるから、よく聞いて頂戴。
「あ、待って待って今の無し! 今の無しだから!」
「流石みなみんだ。締めるときは締めてくれるよ」
この流れは不味い。サチコたちを巻き込んで空気を厭戦に戻さないと。
「幽霊退治と言や聞こえはいいが、気乗りしねえな」
「でもやるしかないよ」
サチコは刀の具合を確かめてるし、海さんも荷物の吟味を始めている。
何故! どうして私のときだけ皆して乗り気になるのよ! あ、そうか。きっと皆疲れてテンションが狂い始めてるんだわ。しかも私は斎ほどアレな言動してないから、この場の発言と態度が一気に私に傾いたんだわ。よりにもよってこんなときに!
相手の評価が勝手に下がっていくのも考えものね。相対的に自分の価値が大きくなりすぎたせいで、意図せぬ言葉が意図せぬ時に意図せぬ形で最大限評価されてしまう。
「待って、やっぱり安全を最優先するべきよ。私たちが危険を冒すことなんてないわ!」
「こういうところがリーダー向きなんだよなあ」
「熱くならずに一歩引いてくれるのはありがたいね」
「流石だ相棒。私たちは全力でやらせてもらうよ」
――じゃあいい感じでまとまった所で、作戦を説明するわねー。
なんていうこと。私の言葉が切掛けとなって最後の挑戦をすることが決定してしまった。
示し合わせたかのように皆は冷静さを失って、私を担ぎ上げてしまった!
歴史上の偉人たちは用意された舞台に上るが如く、有り得ないような状況に直面してきたけれど、今の私はまさにそれ。
「こういうのがきっと、運命っていうやつなのよね」
「考え過ぎでしょ」
また猫が喋ってる。
どうやらここに来て、疲労とプレッシャーが深刻なことになっているみたい。
決めた。この旅行から帰ったら、新学期まで皆とは縁を切ろう。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




