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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
肝試し編2
212/518

・出ようとするもの

今回長めです。

・出ようとするもの



「暇だわ」


 私は南。英語でSouth。現在午後三時。おやつも何もないまま、何とかここまで時間を潰した。


 サチコといっちゃんとのくだらない口論も三十分と続かず、一応持って来てたタブレットで、動画投稿サイトの動画を見て、時間を潰したけど限界。


 怪物にはデイウォーカーと呼ばれる、昼間でも活動する種もいるんだし、今日はこんな天気なんだから、仮にお化けが実在するのなら、出たっておかしくないはずなのに。


 もしかして、幽霊は夜に出るものと思ってる人間が幽霊になると、やはり夜にしか出ないのかしら。


 だったら逆にもう夜が来るまでは、何も起きないと思っていいでしょうね。


 そう考えたからこそ、今のロビーには私しかいない訳で。正確には猫もいるけど、残りの三人は何処かへと行ってしまった。


 いっちゃんが何か気になることがあるから、確認を手伝って欲しいと言って来た。私もサチコも断ったんだけど海さんが乗っちゃって、じゃあ危ないからってサチコも付いていったのよね。


 で、この猫を番犬代わりに置いていったんだけど。


「私も猫ならアンタとにゃんにゃんしてたかもねー」

「ふし!」


 サチコが黙って連れてきた『みーちゃん』はソファに座っている私に座っている。


 可愛くない。いえ、白黒で毛艶も良いし、ちょっと小太りで可愛いんだけど、懐いてくれないのよね。


 サチコが言うには化粧品の匂いに敏感らしい。嫌々ながらも飼い主の言いつけを守って、私を護衛してくれているってことなんでしょう。


 SP猫。懐かない孤高の守護猫。なんて。


「でも部屋は見て回ったはずよね。今更何を調べるのやら」


「にゃい、にゃい、にあー」


 猫が急に喋り出した。犬でも猫でも鳥でも、一定の知能と鳴き声を持つ生き物は、それによってコミュニケーションを図ろうとする。


 よく人間の言葉に反応しているのは、意志疎通が可能かを探っているのだ。


 考えてみれば不思議よね。ペットからすれば基本的に理解できないし、言葉も通じないけど、利益にはなるっていうんだから。


「お金払って神様気取らせて下さいって言ってるようなものなのかしら、それとも単に可愛いものを可愛がりたい、愛玩本能とでも言うべきものが、あるのかしらね」


「考え過ぎでしょ」

「そうかしら、そうかもね」


 猫をぺちぺちと叩くように撫でていると、猫が寝返りを打ちながらそう言った。ん。


「あんた今喋った」

「みゃうぃ」


 猫が頷く。こっちの言ってることは分かってるけど日本語を喋ってる訳じゃないみたい。幻聴?


 それともたまたま猫の言葉が、何となくそう言ってるように聞こえただけかしら。


「まあいいわ。話し相手もあんたしかいないし、外は音が止むどころか更に雨風の勢いが強くなってるし、テレビが無いからタブレットを繋いで大画面で見るのも無理だし」


 せめてここが洋館だったら、もうちょっと雰囲気が出るんだけど。それっぽい恰好をして、こう偉そうなガウンなんか羽織って、猫もシャムネコ辺りだったら良かったんだけど。


「盛り上がりに欠けるわねえ」


 夜公演なのに午前中に入って、それまでずっとすることなくて待ちぼうけって、絶対休日の使い方損してるわよね。


「誰かに電話でもして、いや、でもしかし、うーん」


 そんなときだった。

 突然私の携帯電話が鳴ったのは。


 当たり障りの無い無難なクラシックがちゃちい電子音で空気を汚す。


「ちょっと、誰よ」


 出たくない。この状況下で電話に出るとか絶対良くない相手からの着信だ。出たらいけない類の奴。


 名前を確認することさえ憚られる。でも電話は一向に切れる様子が無い。


 しつこい。普通の人ならとっくに切ってるはず。

 でなきゃメールを入れる。

 どうする、どうするの私。


「そうだ、ね、ねえみーちゃん」


 呼んでみると、なんとみーちゃんがこちらを振り向いた。我ながら上手にネコナデゴエを出せたと思う。


 そして鼻先に自分の携帯を突き付けてみると、彼(玉が付いてるからオス)はつまらなそうに、ゆっくりと眼を閉じた。


 危険はなさそうね。それにしても何だろう。


 いっちゃんたちがこの台風の中を出歩いて、緊急事態に陥ったのかしら。いや、それならサチコもきっと無事じゃないから、この子もこんなに落ち着いていないはずよね。


 あのサチコが下手な人間よりもずっと信頼してるんだし、となればこの電話は、取り合えす脅威ではないわね。よし、出てあげようじゃないの。


「も、もしもし」

『もしもし? 南さん?』


 聞きなれない声に私は全身が総毛立つのを感じた。いっちゃんとサチコにとっては友好関係を築いている怪奇隣人。


 間違いない、愛同研切っての不気味なあの人。


「あなた……オカルト部の……!」

『はい私です。蓮乗寺桜子』


 知ってるわよ。なんでわざわざフルネームを名乗るのよ。

 

 電話をかけてきた相手は、オカルトなんてざっくり言ってるけど正式名称がもっと胡散臭い連中の頭目。


 覚えてる範囲だと、髪を伸ばしっぱなしで目が隠れてる色白の女だった。


 上手く言えないけど非常に不気味な人間で、サチコやいっちゃんは本物の超能力者と言う胡散臭い人物。


 部員は確かに在籍してるけど、部活動をしてる所は見たことがない。何故だか怖いと感じる相手。


 そんな彼女がどうして。


『部長さんの電話が今繋がらなくてね、それで今連絡網から、あなたの番号を当たってみたの。出てくれてよかったわ』


「え、あの。もしかしていっちゃんがまた何か」


『また? いえ、私はまた予知夢を見たから、そのことで関係者に電話をしようとしただけ』


 しれっとおかしなことを口走らないで頂戴。何が予知夢よ。馬鹿を言わないで頂戴。


 いや、待てよ、関係者って言ったこの子。


「関係者って」


『例によってサチコさんと今回は部長さんとあなた、あと他にもいたかな』


「どういう夢」

『どこかに皆が閉じ込められる夢』


 間違いない。たぶん今だわこれ。


「あのね、蓮乗寺さん、よく聞いて頂戴。私たち今たぶん、その状態なのよ」


『どういうこと』

「実はね」


 私はここまで経緯を電話の向こうの相手に伝えた。現在地の廃旅館や、いっちゃんに騙されたことなども包み隠さず。沈黙が重く苦しいけれど、それはほんの少しの間だった。


『この歴史のそちらがどうかは知らないけれど』


 と彼女は前置きをした。この歴史、という言葉から彼女もまた改変の事実を、認識できている人物であることが判明した。


 別に驚きはしないし、前の会社を辞めた私にはどうでもいい話だ。それよりも。


『前の歴史だとそこって日赤が第二時大戦時に、仮の病院として借りてたことがあるの』


「嘘。戦時中の病院なんてもろに怪談のスポットじゃない」


『それでね、そこには色んな人が運び込まれたらしんだけど、中には行き倒れもいたんだけど、邪魔だし助からないからって、まだ息があるまま、地下の霊安室に押し込まれたんだって』


「それって野垂れ死と大差ないじゃない」


『直ぐ死ぬだろうと思ってたら、二・三日は息があったんだって。誰が確かめたのか知らないけど、生きてたって分かるくらいには、まあ動いた跡があったんだろうね』


 落ち着け。落ち着くのん私。聞かないほうが良かったけど、聞かないほうが良かったけど、聞かない方が良かった!


『それ以来、毎日その地下室からはチリーンって鈴の音が鳴るんですって。鈴は霊安室のドアに括り付けてあって、死体を運び込むときは、入室時に必ず鳴らしてたんだって』


「その話は誰から聞いたのよ!」

『曾おばあちゃん』


 それ実話じゃないの! もしかしなくてもあなたの曾お婆ちゃんがその当事者だったんじゃないの!


 いやちょっとまて。もしかしてまだ生きてた人を放り込んだのが。


『それ以上は考えないほうが身の為だよ』

「っ!」


 二重の恐怖が私を襲う!

 なんなのこれ! なんなのよこれは!


「あ、で、でも、それはあくまでも、前の歴史の話でしょ。こっちの歴史だと犠牲者は少ないから」


『全員が報われてるとは考え難いし、別の誰かが代わりになってるんじゃないかな。それに』


 ――歴史が変わっても報われなかった霊は、やっぱり今もそこにいるんじゃないの。


「脅かさないでよ。それじゃまるでここに忘れ去られた秘密の地下室でもあるみたいじゃないの!」


『あるんじゃない』


 えっ。


『こっちの歴史に、病院の過去がなかったとしても、地下室自体はあるんじゃないの。それがどういう使われ方をしたのかまでは分からないけど、無事に過ごしたいなら、皆で団結してそこを探し出して、中を検めたほうがいいと思うな』


 そこまで言われて、私は自分の足元を見た。ここに何かがある。そう思うとそれまでの余裕が、嘘のように吹き飛んでいってしまった。


 唐突に、靴底の下から揺れが伝わって来る。


 気のせいかと思った矢先にもう一度、その次にもっと強い衝撃が、ごん、という鈍い音と共に、床下から抜け出してくる。


『私から言えるのはなるべく単独行動を控えること、一人で怪異に遭遇したら、下手にその場を動かないことだよ』


「今その、一人なのよ。なんとかならないかしら」


『まだ今は耐えたほうがいいと思う。私がお経唱えてもいいけど、ここでバッテリーを使い切りたくないでしょ』


「分かったわ、今は耐える。耐えるけど、もしものときはお願いね」


 電話の向こうでオカルト部の部長は『分かった』と了承してくれた。そうしている間にも、地震のような響きは間隔を短くしている。


 私は電話を切って床を見た。外見上の変化はないけど何かが迫りつつあるのは分かる。


 そしてそれが本当に足元にいることが分かり、床を突き破って出てくると思った瞬間。


「なあぁ~おう。うなああーおおぉう!」


 猫が唸ると地響きが徐々に静まっていく。私はもしやと思い、彼を抱っこしてソファから立ち上がると、地面へ向けた。予想通り鳴き声を上げる度に、下からの脅威は遠ざかって行く。


「よしよしいいわよみーちゃん! もっと言っておやりなさい!」


「うなーうおうおうんんにゃーい!」

「もっともっと言ってやんなさい!」

「にゃうにゃーい!」


 どれくらいそうしていただろう。気が付けばロビーは最初の静けさを取り戻していた。


「はあ、はあ、ありがとー! 偉いわみーちゃんたすかったわー!」


「ふるるるるる」

 

 古来より動物には魔除けの力があると言われているけど本当だったのね。


 よし決めた! 元の時代に帰ったら、絶対ペットを飼うことにしよう!


「ただいまー」

 

 私が心に固く決心するのとほぼ同時に、何処かへと消えていた三人が戻ってきた。


 さっきまでの出来事を皆に説明しないといけないんだけど、なんて説明するべきかしら。

 

 そのまま言うのが一番なんだろうけど、それだと私が変な人みたいで嫌だわあ。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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