・アドベンチャーパートな学び舎
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甘かった。
特訓は次のステップへと進んだ。二足歩行のふざけた外見のゴーレムは、ようやくちゃんとした車両の姿になり、先程より速度を上げて進んできた。
結論から言うと惨敗である。
バランスが悪く、尻餅を搗いた時点で動けなくなる人型と違い、車両は最初から倒れている。『倒す』という勝利条件が、失われているのだ。
「そりゃあ古代から戦車が強い訳だよな」
改めて俺は今回の問題に、どのようにして対処すればよいのか、考えさせられることになった。
「そんな気落ちしないで、まだ一日目だよ。力そのものは不足してないって、分かったじゃないか」
「とはいえそれでアレをどうするかな」
実際は運転手がいるから、最善は一度車を停めてもらうことなんだけど、仮に八尺形態で正面からトラックに掴みかかったら、相手はブレーキを踏んでくれるだろうか。
恐怖心でアクセルをべた踏みするかもしれないし、ハンドルを切りすぎて横転するかも知れない。そこにバイクまで突っ込んで来たら、たぶん三人一緒に死ぬだろう。
「明日オカルト部の部長に、もう一度スケブを見せてもらって、何処でどんな奴が事故るか再確認しよう。うちに突っ込んでくるってことは、そう遠くない場所だろうから」
「アルバイトはいいの」
「海さん家はまとまった休みは、家族で過ごすから閉まってるんだよ」
働けないので無収入なのは痛いが、だからってお邪魔するのもな。第一それどころじゃないし。
「連休で特にすることが無い、暇な連中は学校に来てるから、愛同研の奴らはだいたい揃ってるはずだ」
「それって年頃の青少年としてどうなの」
「こんな山奥で相撲の特訓をしてる俺に、言う資格はないよ」
辺りはすっかり暗くなっている。連休一日目は何だか無駄になったような終わり方をした。
無駄ではないが、これを実りとして受け止めたくはない。
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そして翌日。五月の快晴とは裏腹に、その辺の雑木林にはチャドクガが飛び交い、業者がせっせと殺虫剤を撒き散らし臭っせ!
「あんま近寄らんとこ」
俺たちは部活動で、簡易合宿状態になってる体育会系や、準体育会系似非文化系倶楽部の元祖こと、吹奏楽部の部員たちが、死んだ魚の目をして屯する学校へとやってきた。
そんなに嫌なら来なきゃいいのに。
アレに比べれば我等が部室の、なんと居心地の良いことか。第二の私室。セーフティーネット。
そして案の定いる部員たち。猫が一緒にいても特になんとも思わない。
「あ、先輩なんで来たんですか」
開口一番失礼なそいつは黄縣蘭ことアガタ。細見で髪も長く、切れ長の目の中華系美人だが、寝不足が隈取みたくなってる。凶暴。
「おはようございますブラジリアンチャイニーズ様。お前に用は無い」
室内でベニヤ板の縁を、やすり掛けしていた彼女に、心温まる挨拶を送って室内を見回す。
これはスプレーで絵を描くときの、キャンバスとして使うんだろう。画用紙と違ってそこから吟味とか、調整をしないといけないから大変だな。
「南がいないのは分かるけど、部長がいないなんて、珍しい日もあるな」
「部長ならバイク部の部長っていう人と一緒に出掛けましたよ」
バイク部ことバイク研究会の前部長は、大型の鳥類を思わせるちょっとアレな感じの人だったが、今期はどうなんだろう。
「どっちの用事だった」
「部長のほうがバイクの塗料のことを聞きに行って」
(私が気になるって言ったら、聞いてきてあげるって出ていったんだけど)
こいつはまた自分の先輩を、飛び道具みたいに使いやがって。さも相手が自分の用事で行きましたみたいに言うんじゃないよ。心の声がデカいよ。
「そういうのは自分から行かないと、伝手はできないものだぞ。今度からは自分でいけよ」
「なんの話ですか」
「俺はお前より一年分あの人を見てるってことだよ」
「チッはいはい分かりました」
アガタは舌打ちをしてから返事を寄越した。すっかり取り繕わなくなってもう。
「しかし困ったな。オカルト部の部長に連絡して欲しかったんだが」
「愛同研の連絡網を持ってないんですか」
「電話したけど繋がらないんだ。こういうとき部長に直接聞くのがいいんだが、いいや部室に行ってみる」
「オカルト部ってこの前のなんか危ない人ですよね、大丈夫なんですか」
「危険なことには違いないけど、沸点が低くないので大丈夫だ」
危害を加えて来ないという点では、お前よりずっと安心なんだぞアガタ。
お前の心配はすぐ手が出るチンピラが、ヘビー級のボクサーを捕まえて、ヤバいって言うのと同じようなものだぞアガタ。
「今年から部室が変わったんだよな」
「あ、先輩!」
部室内にある愛同研の見取り図を確認して、部屋を出ようとすると声、をかけられた。振り向くとアガタこちらをじっと見ている。
「その、猫ちゃん置いてってもらえますか」
「……どうする」
ミトラスが嫌そうな顔をする。
小動物の嫌そうな顔って本当に嫌そうなんだよな。ていうか人の猫を触るどころか置いてけって。
「こいつを貸したら、アガタはありがとう言えるか」
「い、言えます、ありがとうございます」
「俺がこいつ貸したら、アガタは挨拶できるか」
「あ、お、おはようございます」
「俺がこいつ貸したらサチコ先輩この間は山ほど蹴り飛ばしてごめんなさいできるか」
「サチコ先輩この間は山ほど蹴り飛ばしてごめんなさい」
猫を餌に教育するか。
アガタの情緒面の問題は睡眠不足と、強すぎる攻撃心にあるから、動物との触れ合いで、セラピー的な効果による改善が見込めないだろうか。
「よしじゃあはい、言っておくけど連れて帰るなよ」
「あ、そこは安心してください、うち飲食店でペット駄目なんです」
そういうのもあるんだろうな。
動物触りたいっていう欲求の一因というか。
「じゃあ、ごめんなみーちゃん」
「ぶなーう!」
抱っこされたミトラスは批難の声を上げた。そしてそのままアガタに手渡された。
猫がパーティから抜けて、俺は部室を後にした。
新しいオカルト部の部室は、三階の図書室隣にある空き教室。訪ねて見れば相も変らぬ閑古鳥。果たして本当に、他の部員など存在するのだろうか。
「おはようございまーす」
「あらサチコさん珍しい、おはようございます」
そしてお目当ての人物は、何気なくそこにいた。
伸びた髪はボリュームたっぷり。背中まで届くそれは外側に撥ねていて、前髪も、いや前から目元は前髪で隠れてたな。
なんで前髪はそれから伸びてないんだろう。そこは手入れしてるんだろうか。
「いや、まさか本当にいるとは思わなかったよ」
「あら、だってここ私の根城じゃない」
自分で根城とか言うな。
とにかくだ、リアルメカクレのオカルト部部長は、人気のない校舎の空室に一人でいた。
特に小説を読んでいたとか、携帯を見ていたとか、そういう何かしていた様子は無い。
「で、何の用」
「この前の絵のことでな、俺の家にトラックが突っ込んでくるなら、それがどこから来るのか、知っておきたいと思って。スケブにあったのは漫画のコマだし」
俺がそう言うと彼女はああ、と小さく頷いた。前髪が揺れて覗く目は、こちらを見ていない。
「あれは確か、ギリギリ隣町って感じだったわねぇ。近所だったと思う」
「何か目印はないか」
「ああ、右手に学校が見えたわ」
「何で学校」
「さあ、でも確かにあ、学校だって思ったのよね」
「隣町近所で右手に学校の見える場所か」
そこで事故って、俺ん家まで走って来ちゃう訳か。これ以上は実際に行って、実地を見分の一つも、しなきゃいかんか。
手がかりはあったな。
「ありがとう、あーあと車種って分かるか」
「そこまでは分からないけど、国道をブンブン走ってる大型の奴じゃないわ」
オカルト部部長は軽く髪を掻き上げた。野暮ったい風情の女子、が一瞬だけ大人びた雰囲気になるのは、魔法のようである。しかし良かった大型じゃなくて。
「でも妙なのよね」
「どういうことだ」
「なんていうのかしら、あまり見かけないというか」
この辺を走るトラックといったら、大抵は小型のもので、中型は引っ越し•通販•各種食品運送のものばかりである。
大型のものなんてそれこそ縁がない。でも大型じゃないなら、見慣れない小中のということになる。それこそどういうことだ。
「そんなものがどうしてこの辺りに来るのか、か」
この場合は、見かけないトラックが街に出る理由、といった所か。
「何となく察しはつくけどね」
「というと」
先を促すと、彼女は窓の無い一室の壁を向いた。
「旧校舎よ」
オカルト部部長は静かに言い放った。近所の学校。そういうことか。
旧校舎、その言葉に懐かしさが込み上げ、同時に苦い想いも蘇る。
またあの場所に、行かなくてはいけないのか。
誤字を脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




