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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
女トラックどすこい編
171/518

・対高速重量物衝突訓練

今回長めです。

・対高速重量物衝突訓練


 引き続き何処かの山奥から、ノーブラノーパンにてお送り致します。死にたい。


「先ずは君の覚えたての相撲を見ようか」

「一言一句屈辱なんで、俺はお前を許さんからな」


 俺は悪態を吐きながらも、特訓をすることにした。ここで逃げてはいけない。でないと相撲のパネルを取得した、俺の女子力が浮かばれないからだ。


 先ずは蹲踞の姿勢になってから、両手を真上に真っ直ぐ伸ばし、外側へ円を描くように開く。


 肩より少し下がった辺りで、腕を手前に引き寄せることなく、胸の前で手を叩く。叩いた手を揉み合わせてもう一回叩く。


「おお、意外と」

「静かに」


 次に花が咲くように両掌を上に向け、そのまま左右の下方向へ両開きにする。海外ドラマの恋人が、飛び込んでくるのを、待ち受ける際のポーズに似ている。


 そのまま両手を広げて頭上へ。何かを持ち上げる、或いは天を仰ぐような構図だ。


 締めに手を外向きに翻す。思ったより優雅。立ち上がり数歩前へ。


 先ほどと同じく円を描いてから、拍手の二セットを繰り返す。ここからが次の型である。


 足を肩幅程度に開いて立ち、左手を腰に当て右手を下から掬い上げる。上まで来たら手の平を翻し、腰に持ってくる。


 それから右足を閉じ、左手で同じようにする。


「ヨイショォー!」


 右足から四股踏み。相撲の基本は左利きでも右かららしい、左利きには不便な話だが、俺は左利きじゃないから、特に困らない。


 高々と持ち上げた右足を、踏みしめてから両手を開いて、前へとにじり寄る。そのまま両手を持ち上げながら中腰から立ち、両手をまた手をくいっと翻す。


 左差し上げ右の四股、右の差し上げ左四股。振り上げた足で、地面に刷り込むように踏みしめる。


「ヨイショォー!」


 ミトラスが合いの手を入れる。


 腰をやや落とし、溜めを作って立ち上がり、来た道を戻る。再び蹲踞から拍手まで二セットを繰り返し、最後に開いた腕を持ち上げ、外側に向けて終了。


 あまり肯定的なことは言いたくないけど、俺は今変身して身長が二メートル半あるから、動きに結構な迫力がある。


 カッコいいかはともかくとして、見れた動きではあると思う。


「腕をカヌーのオールみたいに使うね」

「実際それで体を動かしてる節がある」


 あとやってみると分かるけど、相撲の型って体幹を鍛える様な動きだな。


 上半身と背骨を、上下前後に小まめに動かすから、苦しいけど慣れると、自分で自分の体を持ち上げてるというのが、実感できる。


 柔軟運動とぶつかり稽古を考えると、理に適っていない鍛え方、という訳ではないんだな。


 もっとも相撲に拘らないなら、他のスポーツや格闘技の鍛え方を、取り入れたほうがいいんだろうけど。


「ふう、こんなところか。パネルの複数取得で習熟しているせいか、あんまり恥ずかしくなかったな」


「そういう面も慣れるんだね。思ったよりいいね」


「それで、特訓と言うからには、傾向と対策を練って集中的に、反復練習を行うんだろう」


「つまりはそういうことだけど、説明されるとなんかすごいがっかりする」


 そんな目で見るな。


 気持ちが先走って、何がしたいか分からないような真似を、されるんじゃないかって、こっちも不安なんだよ。


「いいから、それで具体的にはこの後どうするんだ」

「あ、うん。こっちに付いてきて」


 促されるまま山道を歩く。


 チョコチョコと前を行くミトラスの後ろを、のっしのっしと歩いて追いかける俺。これが男女カップルとは夢にも思うまい。


 そもそも俺が今、女に見えないもんね。


「ここ!」

「道路だな」


 それもいたく荒れ果てた。深夜の運送業だって通っていないのでは、というほど路面が荒れている。


 あちこちがひび割れ、動物のフンが転がり、封鎖された道路という気がしてくる。


 一糸乱れぬ汚れの絨毯は、アウトローな者さえここを通っていないことを、窺わせる。


 結構な幅と長さがあるが、見渡す限りに人の気配はなかった。


「ここで君には連休が終わるまで、ずっとぶつかり稽古や魔法の練習を、してもらいます」


「本格的だな。異世界にいた頃は、こんな日が来るとは夢にも思わんかったよ」


 あの頃は皆に守られて、人間的な暮らしを送れていたな。今じゃすっかり人間離れしちまって。思えば遠くに来たものだ。


「僕がこれからゴーレムを召喚してけしかけるから、君はそれを受け止める。簡単でしょ」


 ゴーレムってのは分かり易く言うと、ファンタジー世界のロボットだ。


 石とか木で出来たものが一般的だが、製作者の技術や材料や製作期間等々で、姿形や実力の、何もかもが違う、夢と浪漫の申し子である。


「分かり易い、やってくれ」


「よろしい。じゃあいきますね、出でよ我が従者よ!仮初の時と躯により、我が命に応えよ!」


 おおそれっぽい。ミトラスが呪文を唱えて、頭上で指をパチンと鳴らす。そして地面から現れる、巨大な石の塊。


 ただ眩い光や謎の魔法陣が、浮かんだりはしない。


 ミトラスが魔法を使うと、溜めとか発動時のリアクションのようなものが、一切ない。いきなり出る。


 ラグが無く瞬時に出るから、それだけでも強力なんだろうけど、見てるこっちとしては非常に淡泊。


「これがミトラスのゴーレムかって」


 勿体ぶった地響きもないし、地面をかち割ったりもしない。現れた巨石の分だけ、地面が使われて減るとかそういうこともない。完全に自前。


 そして目の前のゴーレムくん。

 ストーンなのかロックなのか。

 言えるのはその姿が、その、なんというか。


「なにこれ」

「徐々にトラックに近付けていくからね」


 トラックの正面、運転席を模した四角い巨石。それに生えた手足。


「これが走って来んのか」

「止められたら足を車輪に替えるよ」


 この光景に緊張感を感じられるかどうかで、そいつがファンタジー世界の人間か、或いは現代人かが分かるだろう。俺だと変な笑いが出ちゃう。


「さ、構えて」


 蹲踞の姿勢を取って備える。灰色の石巨人は、少し前の位置で、ダッシュでお馴染みの、クラウチングの体勢を取る。頭が地面に着いてるけど。


「それじゃ……行け!」


 ミトラスの号令に従って、ゴーレムは緩慢な動きで頭を持ち上げ、つんのめるように詰め寄ってくる。まだ走るというほどの速さではない。


「八卦良し、残った!」


 俺は自分に発破をかけてぶつかりにいった。


 トラックの運転席に、手足が生えただけのふざけた物体だが、石なのだ。重量だけでも十分なのに、速度が乗れば、ぐうの音も出ないほどの凶器になる。


 衝突。両手を突いて頭、体と押し付ける。


「っぐ、お、んんぉおおっお!」


 痛い! 硬い! 重い! 冷たく乾いた感触、頭がぶつかったときの、ごちっという嫌な感触。押す力もそこまで強くないはずなのに、全然止まらない!


「動かすのに力の要る物が、一人でに動くと言うのがどういうことか、分かったかな」


 石の向こうでミトラスが淡々と言う。分かり易く言うと、恐らくだがこのデカい石を動かすのに、俺の力が足りていない。


 勿論止まっている、ほぼ地面に置かれた状態のこのデカい石をだ。


 それなのに、石自ら俺のほうに歩いて来る。これまた分かり易くいうとだ、石の重さに石を動かす力が、加わっているということである。


 結論、無理だな。


「お、ぐ、ぬ、うんんんんっ!」


「忘れちゃだめだよ、君の目的はトラックを押し返すことじゃないよ」


「知ってる!」


 くそう、妖怪みたいな体になったのに、重たいものが持てないなんて、俺もまだまだ女の子。


 文明の明かりが魔物や夜の恐怖を取り払ったなんて嘘だ。断言できる。魔物は重機に勝てない。運搬車両も厳しいだろう。


 こいつは大型車じゃないからまだいい。というか足のせいで頭、でいいのかな。頭の位置が高いからか押しつぶされそうだけど、力を正しく発揮できていないと思う。


 思うと言ったって上方向から降ろされそうな頭部を持ち上げるのも厳しいこの有様では本気なんか出されても困るが。


 周りの景色がゆっくりと動く。俺がじりじりと押されているからだ。


「サチウス! てっぽう!」

「もってねえよそんなん!」


 ミトラスから謎の指示が飛ぶ。

 第一石に銃なんか撃ったら跳弾が危ないだろうが。


「違う、相撲のほう!」

「相撲の鉄砲? はっ!」


 俺は歯を食いしばってなんとか片腕を引いた。当然支える手が減る訳だから、一気に苦しくなる。


 もう少し、もう少し頭が下がれば。


 突き進んでくるゴーレムの頭が、また一段下がる。重さに耐えかねて、肩に担ぐように俺の姿勢が、崩れかかる。ここしか打てねえ!


「ドッッセアァ!」


 角で拳を痛めないよう下から体重移動の力を借りて張り手を放る。相撲のてっぽうと言えばこれのこと。


 微かに揺れる石の巨体に手応えを感じたが、相手は止まることがない。駄目か。


「ぼうっとしない! 次々に打ちなさい!」

「簡単に言うなよ!」


 辛いが確かに一発で止める理由は無い。もう一度片手で支え、体を使って打つ。打った反動でまた打つ。一発一発の間隔を出来る限り短くし、可能な限り連打する。


 これは。


「もっと! ラッシュをかけて!」

「これか!」


 踏みしめる足が、もつれないよう気を付けながら、後退するのに合わせ、体幹を前へと押し伸ばす。


 張り手の一発が確かにゴーレムの勢いを削ぎ、続くもう一発が、更に大きな手応えとなって返って来る。


 これは連射式の大砲だ。


 前に倒れない障害物があり、体と腕が折れ砕けない限り、撃ち続けることができる連装砲。正面から受け止め、正面から打ち破るための功夫。


 これが力の技、これが相撲の業か!


「止まった!八卦良し!」

「オォオ―――!!」


 張り手の力が、瞬間的にでも支える力を上回れば、その一手はただ支えるよりも、大きな力で抵抗することができる。


 同じように、前進を止めずに張り続ければ、それはただ堪えるより、遥かに大きなうねりとなり、やがて前をこそ突き崩す!


 右左右、半歩踏み込む。左右左、もう半歩。右左、半歩、右左右、一歩!


 巨体が、止まる。否、巨体が、下がる!


「イヨォオオーーーーーーッ!」

「そこまで!」


 張り手で微かに退けたゴーレム、その少しの距離に渾身の力で飛び込んで、体をぶつけたことで、石の巨人はたたらを踏み、尻餅を搗いた。


「勝者サチウス! よくできました!」

「オッシャー!」


 全身汗だくで、体中の痙攣が止まらんけど、特訓の一発目を成し遂げた。俺はやってやったんだ!


「すげえテンション上がる」


「先ず休憩を挟もう、いやあ、もう素直に褒めるよ、すごいよサチウス!」


「へへへ、今はまだ小型のフォークリフトだけどよ、すぐに大型クレーンになってみせんぜ」


 疲れと達成感からか、自分でもよく分からんことを口走ってしまうが、悪い気はしない。いけるんじゃないか。これ。


 今の俺は実物のトラック相手でも、負けないんじゃないかな!

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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