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・一年を振り返って:南と斎 前編

今回長めです。

・一年を振り返って:南と斎 前編


「三人で普通に出かけるのって、何気に初めてだな」

「いつも妙なことに巻き込まれてるもんね」


 もうじき春休みが明ける今日この頃。俺は先輩と南の三人で、服を買いに街をぶらついていた。


 目指すは公民館で本日開催されるフリーマーケットとバザーだ。生まれて初めて普通の出だしをしたような気がする。


「地域のチャリティイベントってたまに助かるわね」

「て言っても要は処分市だけど」


 なおフリーマーケットの場所は、バザーの収益の一部として計上されるらしい。


 チャリティとはいったい。


 それはともかくとして、まさか俺の人生で人間の友達と一緒に、趣味とは関係ない用事で、出かける日が来るとは。


 これも異世界転移と歴史改変のおかげか。そこまでしないといけないのが悲しいが、この際それには目を瞑ろう。


「普通に駅前のデパートでいいんじゃないのか」


「はあ? 駄目に決まってんでしょ幾らすると思ってるのよ。値札見たことないの」


「サチコのことだから見たことないと思うな」


 確かに見たことないけど、なんだこの言われよう。


「こういうのは街の古着屋とかフリマとか、そういう場所を回って、なるべく安くてイイ感じの奴を買う。それから自分好みに直したり、小物と組み合わせたりして、ちょっとずつ整えていくのよ」


 などと力説する南の服装は、当たり障りのない紺色のデニムに、裾がやや長めの白セーターと、ベージュのコートという出で立ち。


「説得力が無い」


「あんた達に合わせてあげてるの。前々から言おうと思ってたけど、あんた達の格好ちょっと人間ぽくないわよ!」


「せめてコスプレみたいと言って欲しい」


 北先輩が自分と俺の服装を見ながら、控えめに抗弁する。


 先輩の姿は赤いトレーナーにチノパン。そして緑色のジャンパー。配色がちぐはぐな印象を受ける。


 本人が言うにはジャンパーの生地の弛みが、中のトレーナーに引っかかり、ずり下がって来ないそうだ。


 そして俺。いつもの白いワイシャツとスラックス。そして色褪せたミリタリーコート。背中のピンクの不死鳥が、地味に気に入ってる。


 そんな連中が、何気ない小田原の昼下がりをぶらついているのだ。誰一人としてスカート穿いてねえ。


「だいたい衣服にお金かけなくていい、高校時代とはいえ、私服がそれしかないってどういうことよ」


「え、私はお母さんが買って来てくれるから、他にもあるけど」


「一週間の内制服を脱ぐ日が一日しかないんだから、ぶっちゃけ要らないとさえ言える」


「あんた達を見てると人間の幸福っていうものが揺らいでくるから嫌だわ……」


 南は何か難しそうなことを呟くと、頭を右手で軽く押さえて溜息を吐いた。


 衣食住が満たされるというのは、文明人としての最低限だが、その最低限がどの程度の物なのかは、人に拠る。


「際限無く求める人類だからこそ、欲望の上限が低く、また偏っている我々のほうが、道徳的には尊いのではなかろうか」


「だったら裸で過ごしなさいよ」

「宇宙旅行してる間に文明が核戦争で滅んでたらね」


 先輩と南がそんなことを言っているうちに、小田原の公民館こと、市民会館が見えてきた。


 公共施設特有の、何とも言えない微妙な背丈の建物である。うちの高校よりは大きい。


 で、中に入るとどこか学校みたいな空気感。妙に人がいるけど、これはさっき言ってたイベントのおかげだろう。


「じゃ各自自由行動で」


 そう言って先輩は勝手にどこかへ行ってしまった。


「いいのかアレ」


「どうせどうしていいか分からず、うろうろし始めるでしょうから、放っときましょう」


「それもそうだな」


 そうして俺たちは先ず、上の階のバザーから見て回ることにした。内容が主にご家庭内の不要品なので、痛みや古臭さに目を瞑れば、そこそこ良い物がある。


「こういう場所って何か不安にならない?」

「廃棄っぽさはあるよな」


 全体的に空虚さが広がる市民会館は、あまり特徴のないコンクリート建築で、人がいて廊下にも色んなポスターが貼られている割には、不思議と何も無いような気になってくる。


「それにしても、まさかお前とこういうことする日が来るとはな」


「あんたの中で私の評価って上がってないの」

「今のところは下がらなくなっただけだぞ」


 移動教室のていで、バザーがある展示室へ。規模の差からフリーマーケットは、上の小ホールで開催されている。


「こんにちわー」

『こんにちわー』


 入室して係員の人に挨拶を返して衣服を物色する。品揃えが悪いどころか足りてないので、地元土産がそこかしこに陳列してある。


「ねえ、もしかしてまだ根に持ってるの」


「根に持つようなことなら、お前は全部謝っただろ。謝るってことは評価を上げることじゃなく、下げ止まりさせることだぞ。止血と同じ」


「え、じゃあどうしたら回復するのよ」

「信用の回復かあ。したことないから分かんねえな」


 大なり小なり下がってから、相手への評価が確定するので、そこから俺の反応を良くしたことがない。


 海さんは最初から高止まりしてるし、ミトラスの場合は同病相哀れむと、一目惚れの折半みたいで、そもそも人間じゃないから判定が微妙。


「この二年色々あったじゃない!」

「お前にとっては二年でも俺にとっては一年だ」


 そう。今となってはどうでもいいが、南は未来人。


「そうか、もう一年か」

「やめて! 回想で流そうとしないで!」


 思えばこいつとも色々あったな。


 俺が異世界から帰って、ミトラスと初夜を迎えた次の日のことだ。ニュースを見たら何故か満州がそのままだったんだよな。


 正確には中国全土が満州化してたんだけど。


 それで異変に気付いた俺は学校に来て、同じような状態で、しかも極めてアクティブな先輩に会った。


 その後こいつが現れて、サクサク自分の正体をバラして。


「思えば色々あったなあ」

「ちょっとちょっとちょっちょっちょっちょっちょ」


 その正体が未来のアメリカポリスの下請け組織の派遣会社員となった飛び級で学校を卒業した元天才女子高生だと言うんだから驚いたものだ。悪い意味で。


 だって天才女子高生の末路っていう、悲惨な一文にまとめられるような状況に、南が陥っていたからだ。


 俺と先輩で、会社辞めたほうがいいよって、アドバイスしたりもしたっけ。


「お前と来たらうざったいし迂闊だし頭と見た目はいいのに度胸無くて俺より強いのにちょっと攻撃しただけで尻込みして本当に何だこいつと思ったもんだよ」


「あのね、体は鍛えても暴力を振るったことないんだから、怖いに決まってるじゃない。競技と実戦は違うのよ」


 レベルアップの一環でこいつとの能力差を見ると、流石天才英才教育と言わんばかりのステータスだが、それを活かせたことはほぼない。


 学校生活で活かせる場が無いというのもある。


 ただ身体能力が未だに俺よりやや上なのを見るに、こいつ二年通して、見えない所で鍛えてるんだよな。


「んなこと言って今でも鍛えてるだろ」


「そりゃ、健康なら医療費が節約できるし、スタイルの維持もしないといけないから」


 かまをかけて出た一年の、ちょっとした疑問の答えがとても現実的。ノーシックネス。ノー医療債務。


「ああ、健康は大事だな。お前も仕事辞めてなかったら間違いなく体壊してたと思うぞ」


「そうよね、あの犯罪結社みたいなのの、片棒を担がされてたと思うと、辞めて良かったと思う」


 南が時空アメリカ警察とかいう、B級コメディ映画みたいな名前の、業務内容はタイムパトロール的な仕事を辞めたのは、この世界に来て僅か三ヶ月のことである。


 辞職願を四月に出して、七月に辞めた辺り、中々厳しい職場である。


「唯一の良かった点は、支給された装備のおかげで海さんを助けられたことね。あんたがあの時、人に石を投げつけた瞬間、私一生忘れないわ」


 海さんは俺のバイト先の娘さんだ。地に足が着いた保守派女子高生。


 彼女がいじめに遭った際に、南は南で助けようとしてくれていたが、俺は早合点して首謀者と勘違いしてしまった。


 一歩間違えば、危うくこいつに石をぶつけてしまう所だった。そのせいか南の中では、一つのトラウマになったようだ。


 銃で撃ったり囲んで私刑に処した訳でもないのに、気にし過ぎなんだよ。


「そう言う割になんだかんだ一年一緒にいたよな」


 六月は俺がミトラスの友人の件でこいつを引っ張り出して、七月は南が一度未来に帰った。


「そりゃそうよ。そうしたくって帰ってきたんだし」


 南を見る。俺のことを見つめ返すと、少しだけ照れたようにして、顔を前に向けた。こいつのこういうところ、本当に育ちが良いと思う。


「わざわざ未来で大学に入って、そこでも飛び級してまでか」


「そうよ。できる以上大したことじゃないわ」


 南が膝丈くらいのサテンのスカートを手に取ると、俺に薦めてくる。よせよ見せられる足じゃない。


「雨の中バイクに跨り幽霊の出る廃校に乗り込んで」

「出来ればもっと出番が欲しかったわ」


 俺は白いレースのセーターと、紺色のベストを薦めてみた。いいとこのお嬢さんっぽい。


「いつの間にか何だかよく分からん部活未満の集まりに参加して」


「趣味の集まりだからとっても楽しいし」


 南が意地の悪い笑みを浮かべて、オーバーオールを薦めてきた。真顔で受け取ってやると渋い顔をする。


「そういや特に音沙汰の無い月もあったな」


「あら、私は修学旅行に行ったり、普通の女子高生生活を満喫してたけど」


 黒のフレアスカートと白のハイソックスを薦める。オシャレさは無いが、まとまっているとは思う。


「そうか。そんでこの前はその良く分からん部活未満の集まりを守って」


「アレはまあ、私もちょっと思うところあったから」


 白のスラックスを薦められる。染みが目立つな。


「そして今に至ると」


 最後に栗色のパンプスを薦めてみる。頭を指差すと南はむっとしてから受け取った。


「そうよ。一年間友達でいてあげたことに、感謝してくれたっていいのよ」


 結果として俺が白のスラックスとオーバーオール。南が白のハイソックスと栗色のパンプス。どっちも上着は買わなかったな。


 そうか。俺にも人間の友達が出来てたんだな。それも一年間。変わった奴だな。


「そうだな。ありがとう、南」


 俺たちは会計を済ませると、先輩がいるであろうフリーマーケットに向かった。


「本当、あんたのそういうところ、ちょっとズルイと思うわ……」


 隣で南が小さく呟いたけど、俺は聞こえてないみたいにして、そのまま歩いた。


 こんなに長いこと、人間の友達がいたことって今まで無かったな。


 ※でも評価は上げない。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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