・一年生最後のレベルアップ
今回長めです。
・一年生最後のレベルアップ
終業式も終わって今日から春休みだ。
四月の始業式までは、バイトを除けば休みということになる。まだまだ肌寒い日が続くものの、晴れの日も増えてきた。
冬ももう終わりだ。桜はまだ咲かないが。
「麗らかだねえ」
「そうだなあ」
俺と一緒にダラダラしているのは、ファンタジックな緑髪に猫耳を生やした、種族不明の魔物少年のミトラス。獣人だと思うんだけど違うらしい。
「この前まであんなにバタバタしてたのになあ」
二月の部活動見学体験を機に、ここまで平和な日々が続いていた。ありがたいことだ。
先輩も南も三年になるからって、三月は部活に顔をほとんど出さなかった。東雲も年度末で仕入先やら、海さんのことやらで忙しい。
暇してるのは俺たちくらいだ。
「休みって言われてもなあ」
「困っちゃうよねー」
いかん。学校生活とバイト勤めのせいで、ワーカホリックのようになってしまっている。これではまるでミトラスだ。休みはいいことなんだよ。
「しかしすることねえな」
「あ、じゃあしちゃう? レベルアップ」
「まだ昼だぜ。でもまあいいか」
あんまりすることが無くて、何かをする気も起きなくて、俺は渋々成長することにした。
「折角だから今までのことを思い出しつつやろうぜ」
「思い出話しながらやるの。お年寄りみたいだね」
「夜の営み以外はな、別に年取ってても構わないのが人間の文化だ」
取り合えずこの一年で、俺がどのくらい強化されたのか、パネルを数えてみよう。
という訳で一覧どん。
肉体
『優良人種置換』『なまけ無効』『鉄の胃袋』
『油断体質』『余剰栄養変換』『内臓強化』
『骨格矯正』『神経全強化』『血液改善』
『血管強化』『再生不能部位再生』『臓器再配置』
『臓器保護』『外分泌系強化』『内分泌系外ホルモン増量』『アンデッドパネル解禁』『獣人パネル解禁』
知能
『ぼけない』『記憶力拡張』『暗記』『未使用領域解放』『下垂体強化』『視床下部強化』『松果体強化』『シナプス増量』『ニューロン増発達』『珠算』
『速読術』『六感強化』
魔法
『習得魔法拡張』『気合』『魔力消費軽減』『魔力濃縮』『超能力』『闇属性レベル3』『風属性レベル3』『雷属性レベル3』『土属性レベル3』『水属性レベル3』『光属性レベル3』『火属性レベル3』=『全属性レベル3』そして『闇属性レベル4』
特技
『光合成』『過剰栄養変換1』『過剰栄養変換2』『ばか』『投擲強化』『水泳』『ペン回し』
『指パッチン』『柔軟』『外見維持』『ジャンプ力』『木登り』『壁登り』『岩登り』『登攀』『ボルダリング』
「取ったなー」
「限界は上がっても魔法そのものは、全然覚えてないけどね」
ちなみにミトラスに教えてもらったものと俺が自分で覚えたものはこちら。
『燚火』 五指から火の粉を連続発射。STGでいうバルカン(両手可)。
『壊病風』 腐食系の毒ガス。気流操作で防げず火と光の複合回復魔法でないと治せない。
『魔法剣(土属性)』 丈夫で太い石の棒が出ます。幽霊だって殴れちゃう。
『カルス』 バッドステータス回復及び徐々に封傷と体力回復。
『ヒール』 説明不要の回復魔法の世界的権威。
「こっちはそんなにだな」
「でも一通り必要なものは揃ってるんだね」
遠距離から手数で押す攻撃魔法と状態異常、下手な武器より強く魔力も乗る魔法剣。そして回復二種。総じてMP的な消費も少ない。
「犠牲サプリのおかげで一項目辺り、一年の成長点がだいたい36,000で、フリーの成長点まで含め五項目だから×5で約180,000か。これってだいたいどれくらいになるんだろうか」
「さあ、軍隊には入ってないし、僕は冒険者でもないからね」
「その二つ除かれると、途端に計算難しくなるな」
軍隊でもなく冒険者でもなく、経験値を求められるのって、あとは格闘家ぐらいか。どちらにしろ当て嵌まらないな。
「他に戦う職、農家は違うし」
「農家は戦うだろ何言ってんだよ」
「それもそっか」
しばらく二人で考えたけど、思いつかなかった。
だがいつまでも、そうしている訳にもいかないし、さっくり今回の成長を遂げるべく、テレビのリモコンを弄くることにする。
外まだ昼だよ。
「取り合えずいつも通り3,000点の奴を四つ取るか」
「フリーの成長点は使わないの」
「あーじゃあそれも使うか。以降毎月各3,000点ずつのほうが、切りもいいしな」
計画も立て易い。よし先ずは肉体だ。
『心肺機能強化』:心臓及び肺の呼吸機能、酸素循環を向上させます。代謝が良くなり疲れ難くなりますが歌唱面に影響が出ます。
取得。
「え、取っちゃうの!?」
「なんでそんな驚くんだよ」
「だってこれ多分喉と声が、太くなっちゃうかもしれないんだよ!」
「じゃあ試しに歌ってみようか。高音出さないといけないやつ」
「え!? 歌うの!? ぐわ!」
俺はミトラスのおでこに、痛いほうのでこピンをかました。何が『え!? 歌うの!?』だ失礼な。
「俺だって音痴は去年消したんだ。人並みに程度には歌えるはずだよ」
「だといいけど」
そして歌ってみた。普通だった。
「まあ素人の分際で高音とか低音とか十年早かった」
「下手なほうが反応し易い分、まだ良かったかも」
とにかくこれで更に健康になった訳だ。口笛を長時間吹いても苦にならないぜ。で、次が魔法。
「フリーの分と合わせて六千。半分ずつで召還術と、降霊術取るか」
「あ、とうとう取るんだ。それ便利だけど、扱いには気をつけてね」
ミトラスが心配そうに言う。召還術は俺が異世界に呼び出されたのと、同じ魔法のようなものだろう。
降霊術は、夏のホラー特番でたまにやったりする。
「大丈夫、『異世界に召還された俺が異世界転移させてみた』みたいなことはしないよ」
「本当気をつけてね。デリケートな問題だけど、僕たちは基本的に、踏み倒すことしかしないんだから」
他にできることが有るのに、そうするというのが何とも人間らしい性質の悪さだな。よし、取得っと。
『召還術』:異なる世界から力量を問わず、対象を呼び寄せる魔法的着手法。相手の世界や対象に応じて、消費される精神力が異なる為、最低限の必要分として全精神力が僅かに成長します。
『降霊術』:世界に存在する霊魂等を召還し交流、使役する霊的着手法。召還術と併用することで、異世界の霊を呼ぶこともできます。※個人の技量によってはできないこともあります。
うーん。シナジーがあるって奴なのかな。交霊術の説明文を見る限り、召還術は物質や生命体に限られそうで、降霊術があれば幽霊も呼び出せると。
「力量を問わずっていうのが怖いな」
「うん、召還術で対象を選んだり、安全に運用することって難しいんだよ」
「お前ってやっぱりすごいことしてたんだな」
そういってミトラスの頭を撫でると、彼は取って付けた様にニヤリと笑った。自分が褒められたことに、気付くのが遅い上、喜び方もおかしい。
「次は知能だけどこれはもう決めてあるんだ」
「あ、そうなの」
「おう、これこれ」
『近縁種補間』:主に他の哺乳類と比べて劣る運動神経や、知能を無理のない範囲で動物に近づけ向上させます。具体的に言うと類人猿や海洋哺乳類に比べて、どん臭い部分を補強します。
「馬鹿にされてるじゃないか!」
ミトラスが珍しく、苛立ちも露にテレビへと食って掛かる。どうどう。俺がこいつを抑えるのって、何気に珍しい気がする。
「何言ってるんだよ。巨人と言えど人型である以上、特化型の生き物と同じ土俵で張り合っても、勝てる理由は無い。人類の優れている点は、何よりも文明を持てる体という点に尽きる。声だって人類という動物の鳴き声に過ぎない。しかも同一種の分布の中でさえ、通じない場合を考えると、言葉は全然優れてない」
「え、なんでそんな他の動物の肩持つの。他にも何かあるでしょ。怖いんだけど」
割かしとアカデミックなことを、言ってみたつもりだったんだけど、引かれただけで終わったのが、地味にショックだ。次に移ろう。最後、特技。
『五感強化』:五感を強化発達させます。
「あれ、それって」
「ああ。六感強化が魔法的な感覚まで、含めてのものじゃなく、魔法的な感覚のみの強化だったからな」
「いやそうじゃなくて、それって特技なの」
言われて見れば確かに。『六感強化』は知能タブ。対して『五感強化』は特技タブ。肉体ならまだしも。これはいったい。
「お前分類間違えたんじゃないか」
「いや、僕はあくまでも、エラーが出ない程度にしかパネルの並び替えは、やってないから」
パネル関係を掘り下げれば掘り下げるほど、こいつがいい加減な仕事しかしてなくて、苛立ちと不安が募るものの、じゃあどうすればいいかなんて、何も言えないのでどうしようもない。
自分のことが一番分かるのが自分なのか、一番分からんのが自分なのか。そこが一番分からん。
「思うに肉体タブは先天的な部分なんじゃないかな。元々の分を底上げというか」
「となれば特技は逆に後から鍛えた分だね。六感って何か使った?」
「俺が攻撃魔法の練習しようとすると、だいたい発動する。危機感が煽られるので、全く捗らない」
いわゆる嫌な予感がするという奴で、危機管理意識を引き上げてくれるのはいいんだけど、自分からそういうことをし難くなった。
「しかし五感となると、具体的にどうなるんだ」
「え、そこ説明要る?」
「いやいい」
他はともかくとして、触角は敏感肌ってのになるんだろうな。生活面では静電気が辛くなって、点字が読み取り易くなるくらいだろう。点字読まないけど。
味覚はより味が分かるようになるんだろう。
意味は無い。意味の無いことの良い所は、悪い意味も無いことだ。
「こんなところか」
「あっさり済んじゃったね」
「年度納めだってのになあ」
また暇になってしまった。特にすることもないしまいったな。
「こんなことなら一年おきに異世界に、帰れるようにしとくんだった」
「そうだねえ」
「本当に皆一年会わないで過ごせちゃったよ」
異世界で出会った魔物たちは、今頃どうしているんだろう。
俺たちが帰る時間は決まっているが、この世界がそうであるように、俺たち不在のあの異世界もあるんだろうか。ちょっと不安で心配だ。
「また会いたいなあ」
「そうだねー」
テレビを消して、再びごろごろし始めた俺たちは、ここにいない仲間たちのことを思い……やっぱりごろごろし続けるのであった。
新章開始です。
レベルアップの抜けを修正しました。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




