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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
番外編 南北奔走編
124/518

・レベルアップしたとて

・レベルアップしたとて


「イエーイ今日も元気にレベルアップするぞー!」

「わー!」


『内分泌系外ホルモン増量』:内分泌系以外でのホルモンを生産、放出する臓器からの、分泌量を増加させます。


 取得!


『外分泌系強化』:血中への放出用の分泌物を生産、放出する臓器群を強化します。滞りなく発汗し、便秘になり難くなります。


 保留、いや取得! しめて成長点6,000点也。去年の師走から貯まっていた分を使用。


「よし! 次は魔法だ!」

「わー!」


『火属性レベル3』と『光属性レベル3』を取得! 苦手な属性の分、巨人化の影響で必要となる成長点が減っても、まだ3,000かかる。


 パネルに『呪術』と『奇跡』が出現。感慨深いが獲得はまた今度。フリーの成長点と合わせて、6,000点を使用。


「よし! 次は知能だ!」

「わー!」


『六感強化』:六感の知覚を強化することで、感知できる範囲を拡大します。


 成長点を3,000点払って取得! 魔法以外の二つは、巨人になってから新しく出たパネルだ。今のところはこれだけ、後から新しく出るかどうかも謎。


「よし! 次は特技だ!」

「わー!」


『ジャンプ力』『木登り』『壁登り』『岩登り』『登攀』『ボルダリング』を取得! 効果は読んで字の如くだ。合計たったの3,000点。安い! しかもこれで身体能力もそこそこ向上する。コストパフォーマンスに優れる特技だ。


 対応する筋力を鍛えれば、効果も向上する。うむ。今回は久しぶりに、ちゃんとレベルアップしてるな。


「新しく獲得したのはこんなところか! 回復魔法も真面(まとも)に使えるようになったし、進歩してるな!」


「このところ頑張ったからねえ」


「やはり参考文献が有って、イメージし易いってのは大きいな! 漫画とゲーム様々だな!」


「この調子で行けば他の無属性魔法も、使い分けられるようになるだろうね!」


「魔法使えないときに聞かされた、ウィルトの授業を恨みに思って、覚えていた甲斐があった!」


「不純だけど君の成長に繋がって嬉しいよ!」


 ミトラスは嬉しそうだ。俺も嬉しいぞ!

 なんだかんだ練習してよかった!

 いやあ魔法の練習は楽しいなあ!


「そうそう。俺自分で新しい魔法を作ってみたんだ」

「え、サチウスが自力で魔法を!?」


「ちょっと心配だから見てくれないか」

「勿論だよサチウス!」


 上手く出来れば良いけど。


「じゃあちょっとここを引っ掻いてくれ!」

「わかった、えい!」

「痛い! でもってここに『カルス』!」


 引っかかれて薄ら血が滲んだ傷口に、掛け声一つ。魔法で出来た緑の葉っぱが貼られたではないか!


「この葉っぱは魔法のカサブタだ。しかも殺菌消毒解毒作用もある! 徐々に回復して行って防虫剤よろしく効果が切れると消滅する! 何度も使えるし貼ったまま風呂にも入れる!」


「わーすごーい! ちょっと本当にすごいな」


「何度でも使えるし属性の変換も簡単だ! 属性毎にカサブタの色が変わるので分かり易いし使い易い! どうだいミトラス!」


「すごい! 今日のサチウスは今まで一番すごい! 偉い!」


「そしてお前に書いて貰った、この変身するときだけ光って見える、マジカル入れ墨のおかげで、第二形態への変身も簡単になった! 実際にやってみよう!」


 シャーマン的なイベントではあったけど、正直病気になったりしないかと不安だった。


 結果としては杞憂に終わったが、流石は魔王の血筋だな。むしろまた強くなった気さえする。


「さ、じゃあ変身するか。とりあえず服を脱ぐ。破けるからな」


 ミトラスが自分の血と爪で彫った模様は無限と橋。両腕を顔の前で閉じることで、腕の部分の入れ墨が∞のマークになり、魔力的な力を込めれば、真っ赤に輝き始める!


 これを開き、今度は胸の前で拳を突き合わせると、手の甲に描かれた○が繋がり、もう一つの∞のマークになる!


「変……身! ダイダラアァァァーーーー!!」


 そして腕と拳までの途中の模様が橋となって、両腕に架かるのである! その後両手を天に突き上げて、変身の掛け声と共に、叩き付けるように振り下ろす!


「見事巨人形態へ移行できるようになったぞー!」


 一気に視点が高くなり、声もデカくなる。

 部屋も狭いことこの上ない。


「すごいよサチウス! 本当にここ最近、ものすごく頑張ったよ! あと服着て」


「はっはっはもっと褒めろ―!」

「偉い偉い偉い偉い! あと服着て」


「そうだよ頑張ったんだよ、俺もやればできるんだーはっはっはっはっはっはー! ……はあ」




 尽きた。テンションが。




「もー駄目だ」


「あ、ちょっとサチウス! そんな裸で大きいまま床に寝そべらないで! 空元気に付き合った僕の身にもなって! それと服着て」


「うるせーちくしょー。流石に二メートル越えで着られる服なんか早々あるかばーか」


「分かったけどここまでやったんだから、何とか元気出してよう!」


「そりゃあ頑張ったよ他にすることなかったから」


 ああ、無理矢理調子を上げた反動で、床の冷たさが心地よい。なんかもうどうでもよくなってきた。元からそんなに執着とか無かったけど。


 室内に反響する時計の音が、虚しさを際立たせる。別に強くなってもあんまり意味なんか無いよ。強いからって暮らしが快適になる訳じゃないからね。むしろ巨人化すると、生活が不便で堪らん。


 高低差を筆頭に距離感が狂うし狭いし着る服無いわで人間社会に不適合であることを痛感する。大きさが一つ違うだけでこれなんだから、魔物たちはさぞ違和感のある暮らしをしていたことだろう。


 ミトラスが人型で生活形態の近い魔物を、率先して集めた理由と彼らの不自由が、今更ながら慮れる。


 そういえば役所にいた頃は、行政対応ばっかりで彼らのお宅拝見とかしてなかった。人様の家を勝手に観察するとか以ての外だから、仕方ないけど。


 どうして巨人たちが今の人間サイズになっていったのか。きっと暮らし難かったから、小型化に至ったんだろうなあ。


 小型省エネ高速化は効率化の三本柱だ。ただ数が増えすぎて、三本柱が白アリに集られたみたいな現代を迎えている訳だけど。


「体が強くなってもさ、降りかかる火の粉を殴ることしかできないし、実際役には立ったけども」


「うん、気持ちは分かるけどそこはね、ほら、うん、ごめんちょっと慰めの言葉が思い浮かばない」


 内心期待してたから、これにはがっかり。でも俺がミトラスの立場だったら、どう言ったら良いか、皆目見当が付かないから許しちゃう。


「巨人化から戻ると無駄毛も戻ってるしなあ」

「そ、その辺は追々何とかしていこう、ね」


 変身を解いたら毛が生えてる不具合。たぶん不具合じゃないんだろうけど、要らないんだよなあ。


「自棄になった勢いで刺青なんか入れちゃってさー」


「ファッションじゃなくて強化だし、嫌なら直ぐに消せるから! 痛みもないし跡も残らないから!」


 これだけ至れり尽くせりの、初期状態を迎えているのに、この世界では反撃にしか使えない。


 それも行き過ぎれば、別の敵を呼ぶ。冒険ファンタジーの主人公なら、中盤まで苦も無く辿り着けそうなくらい、強くなったというのに。


「あーもーやってらんねーわ。面白半分でやって来る敵とか、人類絶滅したらいいのに」


「そんなこと言わないで、今はいなくなって欲しくない人間も出来たでしょ」


 そうなんだよなあ。愛研同の連中や海さん、ミトラスの友達とか、気が付けば人の縁が増えてんだよな。振り返ってみれば一年本当に頑張ったなあ。


「それなのになー」

「しまった地雷を踏んだ!」

「いいやもう、今日は布団を敷いて寝る」


 俺は起き上がると脱衣所に行き、バスタオルを出して胸と腰に巻いた。その後部屋に戻り布団をリビングに持ってきて敷く。


「変身解かないの」

「面倒臭いからいい」


 元の状態に戻るためには、別に特別なアクションは必要ない。


 でもさっき言った通り、今はまだ変身に慣れていないせいか、戻ると毛が生えるので、今はもう戻りたくない。夜も遅いのに無駄毛の確認したくない。


「あ、じゃあ一緒に寝ていい」

「ダメ」

「え!?」


 心の底から驚愕し、傷付いた声を上げるミトラス。ここまで演技入ってたのに、ここだけ本気なのが少し嬉しい。でもダメ。


「ど、どうして」

「お前寝るとき脇腹辺りの肉を掴んでくるだろ」

「う!」


「抱き枕みたいなのならまだしも、器用にそこだけを掴んで寝やがって、俺は落ち着かないんだよ」


 本人はすこぶる健やかな寝顔を浮かべるが、俺のほうは反応に困る。悶々として眠れないのだ。


 体に筋肉が付いてきても、ミトラスの好みのために腹回りの肉を残しておいたが、巨人化してそれが増量してからは、目に見えて反応が良くなった。


 正直反応に困る。


「なるべく控えめにするから、ね!」

「……本当だろうな」

「胸でもお尻でもないのになんでそんなに怒るの?」

「そのほうが気になることもあるんだよ」


 結局同衾することになった。ミトラスは喜んで布団に潜り込んでくる。こういう所は猫のようである。


 テレビを消して、明かりを消して、特にこれからの予定も無く、俺たちは今日を終えることにした。


 あー、本当にこの世は理不尽だ。



 ――臼居祥子、停学三日目。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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