6.ある解体職員の嘆き
「おう ここまで順調に過ぎたな、、怪我がないのが一番の成果だ、、」
麓の野営地で彼は楽しそうに語る。
「はい お陰様で無事に成果も出ました、有難い事です」
「そうだな 転送した部屋は今頃魔物で溢れ返っているぞ、、」
愉快そうにギャンドが笑い出す。
「そうですね、、これもギャンドさんのお蔭です、特別手当を支給する予定ですので楽しみにしてください、、」
「あん?それは嬉しいニュースだが、当初の金額で俺は構わないぞ。無理するな、、」
「いえいえ やはり上位冒険者と同行は勉強になりました、是非とも、、、」
「・・そうか 是非ともくれるものは断らない主義だ、ありがとう、、、」
彼は孫の手土産がたくさん買えると嬉しそうに笑う。
「お疲れさまでした クラウドさん。そうそう早く部屋の整理お願いします、何やら大量の血の匂いが、、ギルマスにバレるとまた問題が発生しますよ、、、」
ギルドに帰ってきた途端に受付嬢が小声で彼に注意する。
慌てて彼は部屋に入り山と積まれた魔物の死体に今更ながらため息を吐いた。
・・これ ヤバイよな、、この部屋ではこれ以上は無理があるか? うーむ 何処かに手ごろな部屋を借りに探すか、、いやいや 今は直ぐに解体部署へ運ばねば、、、。
彼はギルマスに見つかる前に慌てて魔物の移動へ集中する。
「お待たせしました ギャンドさん、これが今回の報酬です。次回も良ければ同行をお願いします」
予定の額の倍以上の金額を彼は手渡す。当然今回は予想以上の魔物収入があるからだ。
「すまんな 有難く受け取っておく。次回も良ければ呼んでくれ、、」
彼は感謝してその金額を受け取りギルドから出ていく。
ふう いい勉強を今回させてもらった、、あっと 新事務所探しを本格的に始めるか、、、
立地も安全面もそして賃貸し料もここ以上の場所は無いのだが、部屋自体が手狭になりつつあるのは事実であった、彼は今後の方針をどうするか本格的に考える事となる。
「なぁ ランドこの魔物を見てくれないか?」
「あん?ジェームス この忙しい時に何なんだ?」
二人は隣り合わせで運び込まれた魔物の解体作業に追われていた。忙しい最中にランドは首を傾げて作業の手が止まっていたのだ。
「・・なぁ この魔物には魔石が無いんだよ、、、」
何をほざいているんだ、冒険者達が倒した魔物の魔石を先に回収して運ばれてくるのはよくある話であったのだ。
「・・・いや 少し様子が違うんだ、何処にも取り出した形跡がないんだな、、、」
こいつ目でも悪くなったのか?大概は冒険者達はいい加減な解体をして魔石の取り出しを行っているのでかなりの大きな傷跡が魔物に残っている。その傷跡が見えないくらい視力が落ちているのかと彼は隣のジェームスを憐れむ目で見つめていた。
「なぁ 一度医者に行って目を見てもらえばどうだ?まだ老眼には早いだろう?」
ランドは解体の手を休めずに憎まれ口をたたく。
「うるせぇぞ お前等。口ではなく手を動かせ!」
そんな二人の会話を遮るようにこの部署のチーフである男が離れた場所で同じように魔物を解体しながら怒鳴りつける。
「チ チーフ、違うんです。ジェームスが変な事を言うもんですから、、、」
「チーフ これを見て下さい、続けて2体の魔物から魔石が見つからないんです。何処にも冒険者による魔石回収の傷跡なんかないんですよ、、」
ジェームスは声を荒げて自分の正当性を主張する。
「あん? 何を馬鹿な事を、、、いやまて、そう言えば前にも誰かがそんな事を、、、」
仕事場は2交代で対応して冒険者が持ち込む魔物処理に追われている。
「・・・おい 俺に少し見せてみろ」
何かが気になりチーフが慌ただしく彼の横へ移動してその魔物を凝視する。
プロが解体した物と素人の冒険者が解体した傷跡は直ぐに判断がつく、その道で生活している者達は一般人達には見えない解体手順やその解体した腕前が判断できるのだ。
「・・・これはジェームスの解体の傷だな、決して冒険者達が傷つけた跡とは違うな、、、、」
「でしょう チーフ。この魔物は2体続けて魔石が無いんですよ、こんなの初めてです」
「これは、、そうか確かこの魔物はあいつが持ち込んだ岩蜥蜴か、、、」
何やら考えていたチーフに突然隣にいるランドからの悲鳴が届く。
「ひっ ひぃぃ チーフこいつにも魔石がありません!」
たった今解体に入ったランドが驚いたようにチーフに訴える。
「何だと!見せてみろ、、、」
隣にいた二人が真剣な顔で魔物を覗き込む。そしてその魔物の内部にはどこを探しても魔石らしいものが見当たらなかったのだ。
「・・・・どうなってやがる?そうだあいつは4体岩蜥蜴を持ち込んだよな?、、、これか?」
突然にチーフは何かを思いついたように最後の1体の岩蜥蜴を作業場に持ち込む。そしてチーフにより鮮やかな手際にて解体を始める。
「・・・ない 何処を探しても魔石が入っていない?どうなってるんだ、、、、」
極偶にではあるが魔石が小さく変形して見落とすぐらいの魔石持ちの魔物もいる。しかしそんな特異例もとうに承知しているというチーフは完全に魔石が消滅している魔物を見ながら固まっていたが。
「・・・あんの野郎 今度見かけたら問い詰めてやる、、」
彼は反射的に今回の事件はあの男が絡んでいると理解したのだ。
そんな解体場の騒ぎを知ってか知らぬのかその男は新しい事務所を探すべく都市内を駆け巡っていた。
うーん困った、、どれも帯に短し襷に長し かな、、、
何軒目かの紹介先を見てみたが、彼の望む先がなかなか決定せずに悩むばかりであった。
たかが倉庫兼事務所の決定にこれだけ迷うとは、、困ったな。
ギルドの解体部署が大騒ぎになっているのに彼は全く関心の無い状態であった。
どうですクラウドさん、気に入った物件は見つかりましたか?
ギルドの受付嬢が選んでくれた物件を下見していた彼だったが、困った顔で悩んでいた。
「うーん 室内が広すぎたり狭すぎたり、そして魔物を転送した時に汚れそうな床等々、、どうもこれと言う物件が無いんですよね、、、」
「・・はぁ ならば最初から居住と作業倉庫を新しい土地で好きな様に作る手もありますよ、、」
「ああ それも考えたんですが、目ぼしい土地は価格が高くてどうしても中心から離れた場所しか対象地がないのが欠点なんですよ、、、」
冒険者と半分は商人等の相手の商売も兼ねている、中心部から離れた場所は顧客が持ち込むのに不便となり迷惑を掛けそうであった。
「困りましたね、、、うーん 出来れば今まで通りこのギルドに近い場所が良いのですね? うーん、、、あれ?少し待ってください、、確かあの物件があった、、、、あっ これか! えーと クラウドさんはお化けは苦手ですか?」
はい?! あのー お化けを得意とする人の方が少ないのでは?
「そうなんですけど、、実害の無いお化け と言いますか?住めば都?と言いますし、、、」
「どんな物件を売りつけようとしているんですか?」
「・・そうなんですけど 場所は最高なんですよね、、検討しませんか?」
「・・・まぁ 興味本意で下見位はしてもいいかな?その物件の場所は?」
「はい 実はここなんですよ、、」
そう言って受付嬢は微笑みながら床を何度も指さす。
「ここ? えーと この地下ですか?」
「いえいえ 地下にそんな物件があれば私なら怖くて絶対退職します」
・・・おいそんな怪しげなお化けがいる物件を売ろうとするのか?
「・・その場所を正確に教えて下さい」
「ですから このギルドの敷地内に存在します、、」
はいいーー?! ギルド内にそんな物件があるのか?そこそこの広さもある?
「いえいえ ギルドの建物内ではなく 敷地内です。私はお化けは苦手ですから、この建物内なら絶対に職を辞めますので、、」
貴女の事情はこの際置いて、この敷地内の何処ですか?
「実はこのギルドは意外と広い敷地であると思いませんか?どうやら没落貴族からギルド設立時に買い取った邸跡らしいのです。」
あっ ああ、、現行の建物はそこそこの広さだが、ギルドの敷地の裏手は言われればかなり広いと思い出す。
「でしょう?裏手の訓練所なんて馬鹿広くて、それなのにほとんど活用されていないのが現状です、、」
ははぁ、、そう言えば行った事は無いが敷地内に森の様に木がうっそうと並んでいる場所があったな。
「そこ そこです!あの森がある場所は曰く付きの場所らしく、地元の人は怖がって誰も購入する事は無い場所なんです。おまけにお化けが出るし、、、」
・・・おい そんな場所を売ろうとしているのか?地元民も怖がる場所を、、、
「はい それについて実は何とか安値で良いから売ろうとギルド内の上の方からの指示で、、」
あ 頭が痛くなってきた、、上の連中は人としてのモラルも情けもないのか?
「はい 売れればギルドとは関係ないので、後はどうなろうと、、、」
・・俺 このギルドから脱退しようかな?
途端に悩みだすクラウドがそこにいた、、、。




