1.日々の活動記
「おい クラウド、魔物の転送を頼むぞ!」
「おう 任せてくれ、、」
C級ランクのグループリーダーから倒したばかりのミノタウルス3体の処理を依頼される。俺は荷物持ちとしてこのグループに依頼されて同行してダンジョン内にいた。
職種は冒険者でありその仕事は俗にいう荷物運びも含まれるのだが、只の荷物運びとは少し事情が違うのも事実である。
彼は今年19歳になるソロでスキルは荷の転送のみが可能なスキル持ちである、生き物以外であればそれなりの大きな荷も指定されている場所へと送ったり取り寄せることが出来る。転移スキルの下級版と世間は認識している、時折商人達からも依頼があるが荷の重量や個数にも使用する魔力の量が違い、大量の荷については対応できない事があり、はっきり言って大量の荷は使い勝手は悪いのも事実であった。
何より送る先や取り寄せる時は俺の知っている場所であるという制約もあり、初めての場所に対する転送は甚だ困難な状況となってしまう。特に初めての場所に関してはわざわざ一度はその現場を確認に行かねばならないので至急の依頼は場所確認の手間とかに効率が甚だ悪い。
よってよく知る近くの場所でしか直ぐに対応は困難の為に、商人達も良く依頼される品は一般的な穀物や重い部材等ではなく、重要な品で出来れば重量も嵩張らないものに限定されてしまう。
重量等に関してはスキルレベルの上昇により、一回での重量や使用魔力の量もそれなりに成長して行くのだが、現在においては今だスキルレベルは2であり懸命にスキルレベル3を目指しているのだ、今現在は目の前に倒れているミノタウルスクラス1体が限界でもあった。これ以上の大物は魔物を解体して何回かに分けて転送するしか手は無いと言う事になる。
そんな訳で商人が必要とする大量転送は期待に応えられずにお断りする次第となる。俺のレベルが低い事もあるが大量の品を小出しに転送すればたちまち魔力が尽きてしまうからだ。
よって俺のスキルの利用価値は冒険者達がメインとして指名してくれる。俺自身も冒険者の端くれでもありEランクではあるが一応何かの時は低クラスの魔物退治にも参加できる事で、高ランク冒険者から時折指名が入り生活には左程苦労はしていない。
指名が無い時は個人でレベルアップの為に魔物狩りに汗を流している身だ。高ランク冒険者達は収入が良いので俺の希望以上の報酬を貰える事も多い。目の前にいるミノタウルス3体を担いでダンジョン内を移動するのは余りにも効率が悪い話になるからだ。
大概は重要部材のみを回収して更なる魔物を目指すのが通常の冒険者達であるからだ。しかも俺のお蔭で自分の荷は最低の必要品のみしか担いでいない。つまり移動の為に余計な体力も消費しない事になる。そう考えれば彼の利用価値もそこそこあると皆が考えてくれている。
「・・ここらで休憩とするか、クラウド 荷を頼む、、」
頼まれて俺は別の場所に保管してある皆の荷を転送して目の前に出現させる。
「「「おうおう これは確かに便利だな、、」」」
今回初めて俺を指名してくれたこのグループの皆が微笑みながら、ある意味感心した様子で皆の荷が出現した事を喜んでいた。
「・・・なぁ この荷は何処に保管してあったのだ?誰かが知らぬ間に勝手に持ち去る危険性が無いのだろうか?」
「なんだ メリー姐さんは最初の説明を聞いていなかったのか?彼は冒険者ギルドの鍵のある一室を契約して依頼が入った時に都度利用していると話していたぞ」
「そうなんだ、、ならば泥棒が勝手にギルドに入る事もなく安心して保管も出来るんだな、、」
いかに手慣れた泥棒でも冒険者ギルド内に侵入しようとは思わないだろう。ある意味安全に関してはこれ以上はない場所なのかもしれない。
現在で言えば警察内の留置場の一室に保管庫をキープしている状態?に近いのであろう。そんな場所に忍び込む泥棒は余程のマヌケか大泥棒として名を売っている者しかいない筈だ。
「はは、、左程広い場所ではなく昔は書庫として利用していたが手狭になり空いている場所を安く借りられましたので、、でも一度失敗しましてね、大量の魔物の死体を送ったら部屋中が血まみれになりギルマスから怒られました、、、、」
その後は彼は清掃と死体の血を吸収してくれる特殊な布を床に敷き詰めて二度と迷惑を掛けない事を誓約書にサインしてその場を収めた苦い経験がある。
「ガハハ、、あのギルマスは顔に似合わず綺麗好きだからな、、、」
「でも それなら民間の倉庫等を安く借りた方が経費もかからんのでは?」
「はい 一時はそう考えましたが やはり安全を考えますと、、、」
クラウドは頭を掻きながら説明する。預かった荷が紛失する事が一番の問題になる。今現在はギルド内で一室を借りるのが一番間違いがないと彼は苦笑する。
「・・だな 多少手間賃がかかってもギルド内が一番の保管場所として最適かな?」
皆が笑いながらそれが正解かもと頷いてお茶の時間を過ごして行く。
「さーて もうひと稼ぎするか?」
やがてメンバーは顔を引き締めてダンジョン内の奥を見つめていた。
「お疲れ クラウド。今回の稼ぎはどうだったの?」
ギルド内の受付嬢の一人が彼等の帰還を見つけ手を振って成果を尋ねる。
「・・おう マミヤ嬢は今日も元気かな?」
リーダーのジョブスも彼女を見て微笑んでいた。
彼等は高価な部材関係をカウンターに並べてにこにこと清算を待つことになる。その間にクラウドは別室に届けた魔物を解体倉庫へと並べて行く。
「おう クラウド、今回も大量か?」
解体倉庫の責任者が微笑んで魔物達を確認していく。
「・・ふむ 今回は誰のグループに同行だ?かなり腕の立つメンバーだな、、」
魔物についている傷は最低限に近い仕留め方だと理解したようだ。
「おう 今売り出し中のBランクのメンバーか、、ふむ 将来が楽しみだな」
何やらニツコリと笑って預かり書を彼に手渡すと、早速解体へと運ばれていった。
「ジョブスさん 解体所の預かり書です。明日の昼前には完了だと言付けです、、」
「ああ 了解だ、次回もタイミングが合えばよろしくな、、」
今回の手間賃を受け取り彼はギルドの外へと出て行く。
「ふぅ お仕事完了だな、、何時もの安酒場へと向かうか、、、」
宿屋はひと月契約で押さえてある、その宿屋の近くの安酒場へと彼は疲れた体を向かわせるのであった。
「・・うーん もう朝か、、さて今日はフリーだな、どうするか?昼前から少し近場の魔物退治をしてみるか?」
目標のDランクまで早く到達したいと彼は疲れた体を起こして活動を開始する。
この都市の東側に広大な草原が広がっている、北側は深い森林地帯だ。本来は魔物の豊富に住む森へと進みたいが一人での活動が多い彼は森内では見通しが悪く、万一に備えて見通しの良い草原地帯へと足を向けて行く。
草原でも1メートル程の小蜥蜴や灰色ボアの彼にとっては強敵の魔物が存在しているが、森の中程には豊富には生息していない。彼にとってどちらか1頭でも退治できれば日銭を稼げることになる。
「うーん 今日は不作かな?」
本日の獲物は大型の二角兎の数体を倒して一息つく。空は快晴で青く澄み渡っていて気持ち良い風が草原を拭いていた。汗を拭きながら小高い岩山で休憩していると遠くで見慣れた冒険者の一行が魔物と戦っているのを見つける。
「・・あれは同じDランク冒険者の一行かな?」
何となく見たことがあるパーティだとぼんやりとその戦いを見ていたが、目の前の魔物に夢中で後方から新たに迫って来る魔物がいることに彼は気が付く。
「いかん、、目の前に夢中で後方の確認が、、、 おーい 後ろだ 後ろに気を付けろ!」
あらん限りの大声で注意勧告を繰り返すと、何とか声が届いたのか慌てて後ろを振り返りながら新たな魔物にも対応していく姿が見られた。
「・・・よしよし 無事に対処している様だな、、」
3名の若き冒険者が懸命に魔物との戦いを終わらせると、彼に向かって手を振って近寄ってきた。
「有難うございました お陰で無事に怪我無く対応が出来ました」
彼より若い冒険者達が嬉しそうにお礼を述べる。
「いや ここから見させてもらったが見事な対応だったよ」
その言葉にその冒険者達は少しテレながらも微笑む。
「あのー もしかして収納スキルをお持ちのクラウドさんですか?」
女性メンバーの彼女が何かを気づいて彼に尋ねる。
「うん?クラウドは間違いないけど収納スキルとは少し違うんだよね、、」
「「あっ 見たことがあったけどクラウドさんなんだ!」」
どうやら彼の事はギルドでも有名になりつつあり、意外と知らぬ他人の目があると感じられる。
「はい だってあのスキルで上級パーティと良く同行していると、、俺達Eクラスでは羨望の対象なんですよ」
「・・有難う 将来クラスが上がり私が必要になったら指名してね」
「「はい あんなスキル持ちなんて凄すぎます」」
どうも過剰にスキルを褒めてくれているが、彼本来のスキルは転送スキルであり、亜空間収納スキルでも転移スキルでもない。たんなる物品の移動スキルでしかないのだ。
彼等はまた別の魔物を探しに彼の前から立ち去って行った。
「・・さて 俺はここまでにして帰るとするか、、」
彼は草原から一路ギルドへ向けて彼等と反対の方角へと歩み始める。




