第七話 旅立った俺
「なぁ。」
「わかっておる。」
メルと二人でちらっと振り返った先には、白いタイツが生えた草のかたまりがあった。それも二つ。知りたくもない中身には多大な心当たりがある。
「こんな何も無い平原のど真ん中で移動するものがあれば嫌でも気づくわ。」
「それがとってつけたような茂みじゃなおさらな・・・」
前を向きなおし二人ではぁ、とため息を吐く。
そのときだった。
3歩ほど前の空間がゆらりと歪み、さも空間を越えてきましたと言わんばかりにガタイの良い黒いリザードマンが現れた。
腰に提げた抜き身の円月刀と、太陽の光を跳ね返して煌く硬質な鱗がその存在をしっかりと主張している。
「我は魔王様の配下が一人、豪腕のガルディス。勇者よ、これ以上先には一歩たりとて進ませまいぞ。」
2mはあるガルディスの顔が無表情に見下ろしてくる。
これは疑いようのない死亡フラグ・・・だが、この俺の本気を見てもそんなことが言えるかな?
「私はただの通りすがりの村人です。勇者様ならあちらにいらっしゃいます。」
すっと脇にどいて、遥か後ろの茂みを手で示した。
ちらっとそっちを見て、もう一度俺を見るガルディス。
「・・・おお、そのようだな。足を止めて悪かった。失礼する。」
LV1以下の村人オーラに気づいたガルディスが見事な礼をして後ろの茂みのほうへ歩いていく。
それをしばし見送って、俺たちは再び歩き出した。
しばらく行くと森があり、少し奥には泉も発見した。
ちょっと休もうかとあたりを見回した視線で、立ちかけのフラグに気がついた。
森で悪漢二人に襲われているケモミミ幼女。
真っ白いふわふわのウサミミに、少し長めに切り揃えた榛色の髪が揺れている。
淡い桜色のワンピースには、首のとこと袖先と裾に白いもこもこがついていて、同じような白いもこもこがついた淡い桜色のニーハイがつくり出す絶た、
「早よう助けんか!」
「ぃだっ!」
思いっきり人の頭をハリセンで叩けるならお前が、
「妾は無駄なことはせん主義じゃ!」
腕を組んでふん!とそっぽを向いたメルをじとっと見下ろす。
今のは無駄なことじゃないのかよ。
「何じゃ?」
「イイエ、ナンデモゴザイマセンヨ。」
はあっとため息を吐いて、武器を・・・あれ?俺って武器なくね?
現在の装備を確認する。
高校の夏の制服一揃いなーり。
メルポンチョ一枚なーり。
紫の石が一個なーり。
以上なーり。
あっれー?まじ武器ないんですけどー。
「根性を見せるのじゃ!」
俺は泣いた。
根性って、そんな・・・
手ぶらで渋々そこへ向かった俺に、早くも悪漢の一人が気がついた。
「ああっ!兄ぃ!助けが来やしたぜ!」
「何!?ああぁ助かった!そこの君!」
なぜ悪漢が涙を流してこっちを見ているのだろう?
頭の後ろを掻きながら、なるべく穏便にすむよう願う。
「えーっと、そのへんにしてあげてくれませんか?そんな小さな女の子を虐めてもつまらないでしょ?」
「な!ごっ、誤解だ!俺たちはっ」
「君は誤解してっ」
必死の形相で叫び出したうちの一人をどんっ!と突き飛ばし、何とか逃げ出せたウサミミ幼女が俯いて駆け寄ってくる。
その後ろでは、突き飛ばされた男がもう一人を巻き込んで泉に水柱を立てていた。
結構深そうだな、成仏してくれ。
一応拝んでおいた。
「なぁんでお前がついてくるのじゃ!さっさと去ね!すぐに去ね!」
蹴るマネをしているメルを静かに見返すウサミミ幼女。
「わたしはご主人様に助けていただいた。だからご主人様についていくの。」
・・・ん?
「ご主人様って、もしかして・・・」
「そう。ご主人様はご主人様。」
「なぁんじゃと!?この小動物が!」
「・・・ふっ、それはあなたも同じ。」
いいなぁ、子供ってすぐ仲良くなれて。
和み要員も増えたし、これでさらにパティの友達が増えるわけだしな。
「んじゃ行くか。」
「はい。ご主人様。」
「・・・くっ!」
幼女ばかり引き連れて、俺は魔王城を目指し歩き続ける。