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10 生まれた日に

「主様が帰るべき場所なのに、そこから遠ざかろうとしているのは大問題です」


 腰に両手を当てて蛍火は憤懣やるかたないといった表情。

 尻尾と耳がピーンと立っているのを見ると、結構不満を抱えていたみたい。

 

「そう、だな」


 こんな逃げがいつまでも続けられるとは、思っていなかった。

 実際かなりキツイ。

 この二週間だけでも緋鞠を騙しているのだという罪悪感。

 

 それを受け入れられていたのは、それが罪に対する罰だと思っていたから。

 

「とんだ自己満足だ」


 被害者に更なる加害を加えて罰気取りとは分かってしまえば笑えない醜悪さ。

 面と向かって指摘してくれた蛍火には感謝するしかない。

 

「それにあいつ、なんか気付いている気がする」


 恐らく探索者という正解には至っていないだろうけど。

 言葉の端々から探るような気配を感じる。

 

 俺が何かを隠している事には既に気付いているな。

 当たり前か。

 

 俺がずっと緋鞠を見ていたのなら。

 緋鞠はずっと俺を見ていた。そのはずだ。

 

「蛍火の言うとおりだ。逃げずに、言うべきだ」

「はい。そうしましょう」


 妙に嬉しそうな蛍火……。

 ん? 緋鞠に話すって事は。

 

「蛍火の事も明かすってことだよな」


 必然そうなるよな。そこ伏せて話すのは難しいし。

 つまり、蛍火は緋鞠の前で本来の姿でいられる。

 

「おい、お前まさか」

「……良いじゃないですか。私だって緋鞠様とお喋りしたいんです」


 まあ私情の一つや二つ、混ざっていてもな。

 俺と緋鞠の今のすれ違いを憂いていたのは本当だろう。

 

 そこに、蛍火にとっての役得があったところで気にすることじゃない。

 

 ただ明かすとしても。


「絶対怒るだろうな……」

「怒るでしょうね。ですがそれは受け入れてください」


 手厳しい。

 だがここまで隠し続けてきたのは自分なのだから、自業自得。

 

 蛍火の言う通り受け入れるしかない。

 

 むしろ問題は、自分でダンジョンに行こうとするであろう緋鞠をどうやって止めるか。

 

「つっても誠心誠意説得するしかないんだよな」


 怒っている緋鞠相手に。

 

「それでは早速今日にでも」

「いや、流石にそれは」


 急すぎる。

 というか正直心の準備が全くできていない。


「ですが主様。後回しにしたらまたずるずると引き延ばして言い出しにくくなります」

「お前、結構きついこと言うね」

「融合した時に、そういう感情も微かに流れてくるんです」


 戦闘中に意識していない筈の感情まで蛍火に悟られているという事。

 俺が自覚していないだけで相当に負担に感じていた?

 

 それだからこそ、蛍火も俺に言おうと決めたか。

 

「10月10日だ」


 一つの日付を告げる。


「なんですかそれ?」

「緋鞠に言う日」

「少し先ですね。どうしてです?」

「俺と、緋鞠の誕生日」


 そういうきっかけを無理やり作って踏ん切りをつけなければ。

 蛍火の言う通りずるずる引き伸ばしそうだった。

 

「俺にも、準備が必要なんだ」


 同じことを繰り返さないように、自分の考えを変える時間が。

 無意識を変えるっていうのは難しいかもしれないけれども。

 

「だから、蛍火も俺がやばそうだって思ったらすぐに言ってくれよな」

「はい、お任せください。主様が帰るべき場所を見失いそうになったら、すぐに私が連れ戻します」


 どこか誇らしげに。

 彼女は己の由縁を口にする。

 

「私は主様を導く光ですから!」


 その後のダンジョン探索は……妙にぎくしゃくしてしまった。

 蛍火は何時通り。

 

 だけど俺の方が何時も通りじゃなかった。

 

 一々今の行動は自己犠牲的じゃなかったか? と考え込んでしまったり。

 融合の時、こういう考えも蛍火に読まれてる? と悶えてそうになってしまったり。

 

 一人で挑んでいるという事もあるけど、昨日よりも遥かに少ない領域しか探索できなかった。

 

 それに、後半になればなるほど単純に敵が強い。

 

 仲間を増やす。

 それを真剣に考えないといけない。

 

 それは俺のモンスターの事でもあり、一緒に先に進む誰かの事でもある。

 

「というか緋鞠様がダンジョンに行きたいというのなら、拓郎様が一緒に潜って守ればよいのではないでしょうか?」


 何度目かの休憩中。

 蛍火に試しに仲間にするならどんな探索者が良いかと尋ねてみた時の事だ。

 

 俺が前向きに一人にならないようにしようとしている姿を見て素直に喜んでいた……お前は俺の母親か?

 色々と考えて出てきた言葉がこれだ。

 

「緋鞠を、か……?」


 露骨に渋面を作ってるのが分かる俺。

 

「良いか蛍火よく聞け」

「は、はい」

「あいつは基本的に運動神経が良くない」

「はい?」


 何を言われたのか分からないという表情をする蛍火。

 

「ゲームとかやってても分かるんだが……あんまりルールを理解して活用するってことが得意じゃない」

「……主様?」

「無条件で信用できる相手だが、正直探索者として戦力的にはあんまり当てに出来ないと思う」


 緋鞠が俺を裏切る可能性を考えるなら世界が滅ぶ方が早いだろうと思う位に信じている。

 だけど、探索者としてあいつが強くなれるかって言われると。

 

 勿論、俺自身が何とかやれているのだから緋鞠だって可能性はあると思う。

 

 だけど、もしも守れなかったら。

 俺が一緒にいて、それでもダメだったら。

 

 想像しただけで心臓がわしづかみされた気分になる。

 

 結局、怖いのだ。

 また俺のせいで緋鞠が傷つくかもしれない事が。

 

 その情けない姿まで、まだ俺は蛍火には曝け出せない。


「正直、だから緋鞠にはダンジョンに入って欲しくないと思ってる」

「な、なるほど」


 その観点で行くと……寝屋も微妙なんだよな。

 あいつ絶対戦闘中でも興味引くものあったらそっち行くだろ。

 

 信用出来る人間ほど、戦闘力的には信頼できない。

 ままならないな……。

 

「兎に角まずは、俺たちの陣営強化だ」


 今のままだと☆2階層の攻略は効率が悪すぎる。

 

 フロアマスターからの召喚石狙い。

 ☆1ダンジョンに一度立ち返る必要がある。

 幸い、寝屋の予約枠は使っているけど俺の予約枠が残ってる。

 

「……一応寝屋も誘ってみるか」


 正直研究優先な気もするけど……。

 いや、☆3以降のダンジョンの調査の為に強くならないと、と言えば案外乗り気になる気もする。

 

 声かけるだけかけてみよう。

 

 そう決めて、元来た道を戻ってダンジョンの外へ。

 

 電波が入ったのでスマホを見れば、寝屋からのメッセージが入っていた。

 

『ごめん拓郎。駅まで迎えに来て欲しい』


 部長は捕まったんだからもう大丈夫と、そう言って出かけた寝屋。

 その言葉を翻すような依頼に訝しんでいると、続けてのメッセージ。

 

『ストーカーの件で知り合いからも気になることを聞いた』


 そして最後に。

 

『あの事件、まだ終わっていなかったかもしれない』


 思い出されるのは部長の奇妙な様子。

 

 私じゃない。その言葉が脳裏に蘇っていた。

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― 新着の感想 ―
緋鞠ADHDかな? >少し先ですね。 立った!立った!フラグが立った!
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