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06 ☆2の戦い

 融合。

 俺が自覚したこの力は正直……使い勝手が悪い。

 

 同調だと思っていた時の様に、意識を軽く共有する位にしておかないと不味い気がしている。

 

 ユニークモンスターとの戦いの後、何度か蛍火が俺の魔力を使った様な感覚があった。

 その時は、融合しようと思っていなかったにも関わらず。

 

 一週間もしたらそんな事は無くなったが……次に互いの魔力を融合させたらどうなる?

 今度は一週間で済むのか?

 

 もっと深く融合した時……再び二人に戻ることは出来るのか?

 

 そんなことを考えると、中々どこまで出来るのかという実験もし辛かった。

 

「蛍火!」


 水棲生物が元になったモンスターならば、確実にこれは効くだろう。

 

「フロスト!」


 ジャイアントクレイフィッシュの表面だけではなく、足元の水も纏めて凍り付く。

 そのタイミングに合わせて蛍火は自分に炎を纏って無力化。

 

 ユニークモンスター戦で行った連携は今となっては定番だ。


 一瞬でモンスターを包んだ氷に罅が入る。

 ☆2のモンスター……即ちランク2のモンスターはフロスト程度では長時間止められない。

 

 その一瞬が、俺達には欲しかった。

 

「貰いました!」


 懐へ飛び込んだ蛍火へ更なる支援を。

 振りかぶる拳へ合わせて。

 

「ストレングス!」


 肉体強化。

 魔力を宿した拳が甲殻へと突き立てられる――が。

 

「くっ……!」


 甲殻のひび割れと同時に、蛍火の拳からも血が舞う。

 蛍火の痛みが俺にもフィードバックされてくる。

 

 この手応え……下手に格闘戦を挑むのは危険だ。

 ストレングスの効果が無ければ砕けていたのは寧ろ蛍火の方。

 

 その危機感を共有したのか。

 蛍火が指先を真っすぐに伸ばす。

 

 炎が五指の先にそれぞれ宿り、連続しての発射。

 至近距離からの炎のつるべ打ちは、威力をほぼ減じることなく華を咲かせる。

 

 その爆炎を掻き分けて、巨大な鋏が飛び出してくる。

 

「っ!」


 自分の攻撃が目隠しとなってしまったその一撃を、蛍火が寸でのところで躱す。

 引き戻されそうになる鋏を蛍火が己の身体で抑え込む。

 今の鋭い一撃を、次も躱せる自信が無かった。

 

 だがこの咄嗟の行動は悪手。

 蛍火の焦りが俺にも伝わってくる。

 

 何故ならばザリガニにはもう一つ鋏がある。

 動けない蛍火への追撃。鋏を手放せば、この至近距離で切り刻まれる。

 

 スパイダーウェブ――はダメだ。水場だと糸が融けるかもしれない。


「ストーンピラー!」


 鋏に合わせて伸ばした石柱。

 だがそれすらも切り刻んでいく鋏の鋭さ。

 時間稼ぎにしかならない。

 

「いけーがーちゃん!」

 

 その時間稼ぎの間で、追い付いてきた亀型のガーちゃんが全力のタックルをかました。

 頑強な甲殻も、関節部を引き延ばされては意味がない。

 

 引きちぎれる鋏。

 痛覚があるのか、悶えるザリガニへ蛍火が更なる追撃。

 

「眼も硬いですか?」


 高所にあるザリガニの眼へ突き立てられるハイキック。

 更に爪先から炎の追撃付き。

 

 視界を奪われたザリガニは最早まな板の上。

 

 鈍重な亀の接近にも気付けず――立ち上がって振り下ろされた足による全体重を乗せたスタンプ。

 

 それを一度、二度と繰り返されるたびに甲殻も細かくなっていき……。

 

 そしてピクリとも動かなくなると同時に光となって魔石に変わった。

 

「一体目でここまでリソースを使わされるのか」


 張り詰めていた息を吐きだすのと同時に俺はそうぼやく。

 これは中々に厳しい出だし。

 

 リングを四つも使うのはちょっと想定外。一対一ならば二つくらいの消費で済むと踏んでたんだけどな。

 

「たくろー終わった? 終わったよねー。じゃあ私の話を聞いて」


 戦闘が終わったとみれば寝屋がよしと言われた犬の様に勢い切って話し始める。

 

「私はダンジョンの属性が魔力波長として感知できるんだと思ってたの。でも違ったーそうじゃなかったんだよー」

「蛍火、周り警戒しておいてくれ。違ったってのはどういうことだ? やっぱり衝突ダンジョンの検知は出来てなかったって事か?」

「ううん。ダンジョン単位で考えるべきじゃなかったー。ダンジョンは結局外側で主体になっているのは中身……モンスターなんだよ」

「つまり、ダンジョンじゃなくて実際に衝突しているのはモンスターって事か?」

「たくろーも大分分かって来た。私も鼻が高い」


 何故お前が誇らしげ……?


「私が見ていたのはダンジョンの魔力じゃなくてモンスターの魔力。それが見れるって事はつまりー?」

「……もしかして魔力を計測するだけでそのダンジョンのモンスターが分かるって事か?」

「大正解ー。事前にモンスターの魔力を計測する必要はあるけど、そういうことー」

「……いやいや、待って。これ絶対衝突ダンジョンより役立つ話だぞ?」


 衝突ダンジョンか否かを知りたい奴はぶっちゃけそんなにいないだろう。

 だがそのダンジョンで何が出るかを事前に知りたいという奴は確実にいる。それはもう絶対にいる。

 

「そうかなー?」

「そうだよ。いや、衝突ダンジョンの方も進めてもらわないと俺は困るからそっちを優先しろとは言えないけど」

「んーでも多分どっちにしてもやることそんなに変わらないよー? モンスターの魔力が系統によって似通うからその衝突痕跡を見つけるってことだしー」

「それなら引き続き頼む」

「おっけー。私、研究担当だものねー」


 何故か嬉しそうに、寝屋がそういう。

 女子ってこういう担当分け好きなのか……?

 

 いや、サンプルが寝屋と緋鞠だからな。

 一般的な女子とするには外れ値な気がする。

 

「戦闘だと、私足引っ張ってるし。研究でも役立てるのは嬉しいー」

「いや、引っ張っては……」


 ない、とは言い切れない。

 正直こいつ、研究に夢中になってたらモンスターの群れの中に居ても気付かないような奴だし。

 モンスター任せでよく半年も探索者やって生き残れたな。

 

「だからたくろーが☆2ダンジョン攻略続けるなら他の人と組んだ方が良いかもー。私、戦闘だと役に立てないよ」

「んーまあその内に考える」

「真面目に考えるべきー。多分私たち二人じゃ☆2ダンジョンはギリギリ何とかなっても☆3以降の階層は無理ー」


 と言ってもな。

 ああ、そうだ。

 

「蛍火の話とかユニークの話とかその辺を共有するのが難しいんだよ。あんまり大々的に広げて欲しい話でもないし」


 少なくとも口の堅い奴。

 ダンジョン配信者とか論外。

 

「ところでたくろー。そのユニークモンスターはどうするの? 今回戦うの?」

「それなんだけど、さっきの寝屋の話を聞いてて思ったことが一つある。モンスターの存在が分かるっての。階層単位でも可能か?」

「たぶんー。理屈の上では出来ると思う」


 少し考えながらの寝屋の答えに俺は頷く。


「だったらそれで充分」

「どうしてー?」

「ユニークモンスターは組合の情報を見ても最下層にしか出てきてない。だったら最下層に二種類のモンスターが検知出来たら……」

「ダンジョンマスターとユニークモンスターで確定だー」


 そういう事である。

 

「あんなんと戦わずに済むならそっちの方が良い」

「そんなに強いのー?」

「強い」


 寝屋の問いに俺は一言で答える。


 正直一発で引けるとも思っていなかったので蛍火の強化も足りていない。

 せめて蛍火のレベルを上げて、スペルリングをもう少し……まだ空いている指があるのでそこも埋める。

 

 前回の時間遡行など、はっきりと言えば何で勝てたのか分からない。

 バックドラフトが奇跡的な噛み合いを見せたからとも言えるが……。

 それを当てにも出来ないだろう。

 

「今回は私もいるよー?」


 二対一と言うけどね。

 お前さっき自分で研究担当言ってただろ。

 

「ぶっちゃけ寝屋はいなくても」

「ひーどーいー」


 だってお前夢中になることあったら戦闘そっちのけになりそうだし……。

 

「じゃあお前、ユニークモンスター目の前にしてデータ取りしないって言いきれる?」

「……衝突ダンジョン時に見られるスプリットパターンと一致するものが取れるかもしれない?」

「よく分かんないけどそうかもしれない」

「自信なーい」

「やっぱ俺一人で行くわ」

 

 肩を掴んで揺すってくるが、とても撤回できる要素が無い。

 

「蛍火はどう思う?」

「……主様の為ならと言いたいところですが、今の我々では厳しいかと……あれ、もあの時程上手くは行きませんし」

「だよなあ」

 

 それでも意思疎通やらは前よりも高度に出来るようになっているんだけど。

 

 ……やはり危険だ。

 

「後身も蓋も無い事を言うと、昇級条件の実績ってこういう研究系でもよかったはずだから俺にも一枚かませてもらってEランクの足がかりにしたい」


 後はペースを少し落として緋鞠との時間の確保をしたいというのもあった。

 だからある程度のところで一度区切りをつけたい。

 

 そう、そして区切りと言えば。

 

「今日こそストーカー野郎を何とかするぞ」


 ここ数日、後ろを付けているのは分かってもそれ以上が出来なかった。

 だが今日は違う。秘策があった。


「寝屋、持ってきたか?」

「うん、もってきたー。はい、蛍火ちゃん」

「あの……本当にこれ、私が?」


 渡された紙袋を困惑気味に眺めながら蛍火は念押しの様に確認してくる。


「お前が頼りだ蛍火」

「がんばってー」


 俺達二人の応援に観念したのか。

 蛍火が渋々頷く。

 

「わ、分かりました。やって見せます……!」


 悲痛な表情と共に握りしめているのは――俺たちの学校の制服だった。

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