第11話 天気のいい朝
朝、日の光がカーテンの隙間から差し込んできて、部屋を明るく照らしていた。愛理は目を開けると、少しぼんやりとした頭で起き上がり、ベッドから足を下ろした。
昨夜の雷の音も今はすっかり静まり、外はとても良い天気だ。風が窓を通り抜けて、穏やかな朝の空気が部屋に満ちていた。
「うーん、気持ちいい朝……」
愛理はまだ半分寝ぼけたまま、あくびをしながら部屋を出た。
廊下を歩いていると、ふと良い匂いが漂ってきた。香ばしい匂いに誘われるように、愛理はリビングの方に向かうと、キッチンからは誰かが朝食を作っている音が聞こえてきた。
「おはよう、お父さん……」
愛理はまだ少し寝ぼけたままの頭で、ついその言葉を口にしてしまった。だが、すぐに自分の今の状況に気づいて、慌てて顔を赤らめた。
「あ、いや、今のは違んです……すみません、和宏さん」
和宏は驚いたような顔をし、しばらく黙ってから笑いながら言った。
「いや、いいんだよ。自分の家のように安心していてくれるなら。でも、君からお父さんと呼ばれるなんて驚いたな。これからもそう呼ぶかい?」
「もう、いい歳した大人をからかわないでください、和宏さん」
「もう一度呼んでくれたら忘れてあげるよ」
「……お父さん。ううーーー」
愛理は頬を赤くしながら、テーブルの席に着いた。
和宏は楽しそうに笑いながら、「おはよう、愛理ちゃん」と言った。
愛理は和宏が朝食を作っているのを見て、改めて感謝の気持ちが湧いてきた。
「ありがとうございます。こんな朝から私の分まで…」
和宏はフライパンをひと振りしながら答えた。
「昨日は君が頑張ってくれたから、朝ごはんくらい作ろうと思ってね。僕にできる事なら協力するって言っただろう?」
愛理はその言葉に、少し照れくさそうに微笑んだ。
「すごくいい匂いですね、何か特別な手の込んだものを作っているんですか?」
和宏はニコニコしながら、
「まあ、特別ってほどでもないけど、卵焼きとベーコン、それにトーストを焼いてるだけだよ。今日も君に頑張ってもらいたいと思って」
愛理はその言葉に胸が温かくなるような気がした。普段、一人暮らしをしている愛理にとって、誰かがこうして朝食を用意してくれるのは、なんだかとても嬉しいことだった。
和宏がテーブルに朝食を運ぶと、二人は一緒に座って食事を始めた。朝日が差し込むリビングで、静かな時間が流れた。
和宏がテレビを付けるとニュースをやっていた。何か桜子の手がかりは掴めるだろうかと、愛理は耳を澄ませた。
「今日、○○市で熊が出没したとの情報が入りました。市民に注意を呼びかけ、警察や地域の自治体が対応にあたっています」
愛理はびっくりしてテレビを見つめた。
「熊? この市に?」
和宏もテレビの画面に目を向け、少し驚いたような表情を浮かべた。
「うん、最近よくニュースになっていたけど、この市にまで出るなんて驚いたね。桜子は大丈夫だろうか……」
「大丈夫ですよ、きっと。この辺りはまだ街中の方ですし、桜子さんも危険には近づかないと思います」
愛理は心配しながらもそう言った。テレビでは、熊が町の近くで目撃されたという報道が流れ、警察が住民に注意するよう呼びかけていた。
和宏は少し考え込んだ後、愛理に向かって言った。
「もしこの辺りに熊が出ているなら、僕たちも気を付けた方がいいかもしれないね」
「そうですね、いざとなったら私の格闘術をお見せしますよ」
「頼りにしてるよ、愛理ちゃん」
愛理はうなずきながらも、まだテレビの画面に映る熊の姿が気になっていた。大きな熊が町に現れるなんて、考えただけでも恐ろしいことだった。
「もし桜子さんが……熊に襲われたら……」
愛理は自分の食事に手をつけながら考えたが、事件の謎以外にも気が抜けない日々が続きそうだという予感がした。
和宏は朝食を食べながら、愛理の気持ちを察してか、少し気を使って、
「桜子のことも心配だよね。まだ色々調べなきゃいけないことがあるだろうけど、あまり無理しないで、自分の体にも気をつけてね」と言った。
愛理は少し驚き、和宏の優しさに心から感謝した。
「ありがとうございます、和宏さん。私、少しでも早く桜子さんを見つけなきゃって思ってて……でも、無理せず、熊にも気を付けて調査を進めますね」
「そうだね、焦らずに行こう」
和宏は穏やかな笑顔で言い、二人は朝食を食べながら、自然に会話を続けていった。外の天気は良くても、二人の心の中にはまだ解決すべき問題が山積みだったが、それでもこうして一緒に過ごす時間が、少しずつ二人の距離を縮めていくような気がした。




