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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
19/31

●【19・愚痴】●


 買い出しに行くベイルたちを見送った後、俺は馬車の床に仰向けに寝転んだ。

 

「ウィリ、疲れた?」

「……少しな」


 横に座って顔を覗き込むミーニャに、苦笑いで答える。


 美術商の店でのやりとりは、実は結構緊張していた。

 小判をロゼロットの金に変えねば旅を続けるのが困難になるのだから、絶対に買い取らせなければならない。美術商が買い取りを拒否した場合を考えてセドアス宛の手紙を作ってみた。


 できれば使いたくない手だった。


 だから、銀貨五枚でも使える金になったならまあ良いか、と思ったのだが。妥協しようとした瞬間、ベイルが美術商を見据えひどく不快そうな顔をした。

 おそらく安すぎるのだろう。

 ここで折れては主人として面目が立たない。

 故に、美術商に手紙を差し出した。


 商業で成り立つブランシュレ領。その領主の子が興したレドス商会は、ロゼロット王国随一の大商会だ。その鑑定士であるセドアスに宛てたもので、セドアスは現ブランシュレ領主の息子だ。


 美術商はレドス商会を知っているが、取引はないということだった。なのに手紙を託しただけで買取値段が倍になった。

 手紙を伝手にレドス商会と顔をつなぎたいのだろう、とは思ったが。


 ……あんな怪しい手紙を中も改めずあっさり信じるとはな。


 あの手紙は、小判が遠い異国の金貨であることや手に入れた経緯をざっくりとだけ書いてある。セドアスならそれで納得するだろうが、サリオスが出てくれば美術商に持ち込んだ者のことを詳しく聞くだろうな。

 サリオスはセドアスの弟でブランシュレ領主の次男である。長男のセドアスは美術品趣味が行きすぎて次期領主の座を下ろされたので、今の次期ブランシュレ領主はサリオスだ。

 そして、次期傍位領主の地位は王位継承者の地位でもある。

 サリオスは王位継承権第五位。いや、俺が死んでいることになっているから今のところは四位か。


 セドアスは美術品にしか興味がなく、サリオスは商売にしか気が向かない。それでもサリオスの方が領主の後継としてましだからと、ブランシュレ領主は次男のサリオスを跡継ぎに指名した。


 幼い頃に会った二人を思い出して、息をつく。


 セドアスは小判を見れば欲しがるだろうな。美術商の言い値で吹っかけられても買い取りかねない。おそらくセドアスが美術商と会うとなればサリオスが出てきて仔細を聞こうとするだろう。


 売った者の特徴を聞けば、あの二人なら俺が生きていることに気がつくかもしれない。


 あの兄弟は王位にはまったく興味がないから大きな障害にはならないと思うが……


 天井を見上げたまま大きく息をつく。


「ウィリ?」


 ひとり、頭の中だけで考えを巡らせているとミーニャが心配そうに首を傾げた。

 愚痴にはなるが、思うことを口に出すことにした。


「路銀を得るだけでも、考えねばならんことが多々あるのだな」

「ウィリ、がんばった」

「いや……そもそも、あの小判は養母殿の心遣いで、換金するための方法や店を見つけてくれたのはベイルだ。俺の力で得られたものではない」


 情けない話だ。


「自分が、思っていたより無知で無力と知って落ち込んだ」


 王位を望む者としては情けなさすぎる愚痴だ。

 それでもミーニャは笑って頭を撫でてくれた。


「ウィリは賢くて強いよ」

「剣も小父上からいただいた魔剣のおかげで──」

「ウィリ」

「すまない。弱音が過ぎたな」


 頭にあったミーニャの手を軽く叩いて、起き上がって座り向き直る。


「わかっている。あの森で得られた知恵も力は誇れるものだ。ただ、もっともっと知るべきことが多いし、力も欲しい」

「うん。獲ろう」


 知識も力も獲るものか。

 言い得て妙だ。


 幼い頃、王位継承者として教育を受けていた頃によく言われた。

 より多くの知恵を得ること、より強い力を得ること。それすなわち人を得ること。


 頼り誇れる臣下を得よと。


 四年前には、できなかった。

 むしろ臣下に不要と暗殺されかけた。


 これからの俺にできるだろうか。


 この不安は口にしなかったが、ミーニャは笑っていた。

 その笑顔には励まされる。

 今度は前向きな言葉を告げた。


「ベイルをこのまま臣下に置きたい。できることなら忠臣となるべく育てたい」

「できると思う」

「そうか?」

「ベイルもウィリを気に入ってる。わかりやすい」

「だといいな」


 まだ褒賞もまるで与えていないし、地位も身分も与えられる立場ではない。

 利に聡い商人の子だからな。

 簡単ではないだろう。

 ……ベイルはサリオスと気が合うだろうか?


「デラとロームも?」


 意識が横道に行きそうなところに問われた。


「二人についてはまだ保留だ」


 子供のうちは保護して育てるつもりではあるが、臣下として教育できるかはまだわからない。彼らの能力も知り得ていないし。


「ミーニャが欲しい」


 ミーニャがそんなことを言うとは思わなかったので、少し驚いた。


「それは、かまわんが」


 同性ゆえに、デラはミーニャに侍女にと引き取ったのだからな。

 けれどミーニャの意図は別だった。


「妹と弟にしたい」

「……弟妹に?」

「おじちゃんがおかあさまと(つがい)になったらいっぱいできるぞって言ってた。でもまだまだみたいだから」


 養母殿は身持ちが硬いようだったしな。

 良いことなのだが。


「それで、デラとロームを?」

「デラは毛艶がおじちゃんと似てる。ロームは名前が似てる」


 確かに、ラウドロームクヴァルト殿は黒い毛並みの魔獣だ。


「それと、ロームはちょっとミーニャと似てる」

「……は?」


 どこがだ?


「ウィリ。ロームに妖術、教えていい?」





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