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時空魔法の練習を始めた

 あれからさらに一ヶ月がたった

 実はまだ時空魔法は練習していない。

 身体強化をもっと使いこなせるようになってからのほうが安全だと思ったからだ。

 なのでここ一ヶ月は身体強化の訓練をしていた。

 父さんと身体強化ありで槍術の特訓もした。極意というギフトを持っているからか、父さんよりも俺のほうが身体強化の出力は高いみたいだったが、やはり槍術師のギフト持ちの父さんからはなかなか一本がとれない。

 力だけがあっても技術が伴わないとダメってことのようだ。

 父さんは魔力が少ないので部分強化という特定の部位だけを強化する身体強化を多用していたが、俺は魔力は十分にあるようなので全身を身体強化していつも挑んでいた。

 一ヶ月特訓しただけあって、身体強化もそれなりにサマになってきた。

 そろそろ時空魔法のトレーニングを開始してもいいだろう。


「よし」


 俺は気合を入れた。時空魔法の練習をこれから始める。

 ギフトに集中すると、最初に覚えるのに適した魔法が浮かんでくる。

 空間把握。これは目をつむっていても空間を立体的に把握できる魔法。失敗しても怪我もしないし安全だ。

 クロックアクセル。これは対象にかけたら、対象の時間が加速する魔法だ。これも失敗してもそこまで危険ではない

 俺はまずこの2つを練習することにした。


 午前中は父さんと模擬戦、午後は空間把握の練習をすることにした。

 父さんとの槍術の模擬戦でクロックアクセルを自分に使うと、今まで全然一本がとれなかったのに父さんから一本とれるようになった。


「ケイ。お前はもう戦闘面に関しては冒険者デビューしてもやっていけるぞ」


 父さんからお墨付きを得た。クロックアクセルは失敗もなく、実戦でも使っていけそうだ。


 そして午後。


「空間把握」


 魔法名を唱えると空間の情報が入ってくる。

 三次元的な物の情報の他にも、空気の組成や温度などの情報も手に取るようにわかる。

 ただ、いかんせん情報量が多すぎて、集中した部分の情報を得るので精一杯だ。

 今は目をつむって空間把握の魔法だけをたよりに、ここ、ジマリーノの街を散策する練習をしている。


「ケイ。目をつむって何をしてるの?」


 幼なじみの一人、アリスが話しかけてきた。

 アリスの隣にはホーンロッピーのミューちゃんがいる。

 アリスはあの日、テイマーのギフトを得た。テイマーは動物や魔物を仲間にして使役できるギフトだ。

 

「ギフトの練習だよ。目をつむっていても空間を把握する魔法の練習だ。それよりミューちゃんかわいいな、抱っこさせて」


 俺はかわいいものに目が無い。ホーンロッピーは頭の角で敵を攻撃する魔物だが、モフモフでかわいい。かわいいは正義。

 テイムされている魔物は、基本的に気性が穏やかになる。俺がテイマーじゃなくても、テイマーが使役している魔物は普段は大人しいのだ。

 アリスは成人の儀がすんですぐにジマリーノの森にいってミューちゃんをテイムしてきたと聞いた。

 やっぱりかわいい魔物がいいよな


「いいわよ。ミューちゃん行ってらっしゃい」


「ミュウ!」


 俺はミューちゃんを抱っこした。モフモフだー。フワフワだ。このまま時が止まって欲しい。


「アリスも冒険者になるのか?」


「ああ。良かったらパーティ組む?ケイとだったら文句はないわ」


 ミューちゃんを抱っこしながら考える。アリスといたらモフモフし放題。俺は即決した。


「ぜひよろしく頼む。俺は前衛向きかな」


「ならこれで前衛と後衛が1だな、他にも回復役や斥候がほしいところだ」


「斥候は俺の魔法でなんとかなるかもしれない。回復役がいればよりバランスが良くなるな」


「回復役は希少だからねー、しばらくはポーションで頑張ることになりそうね」


「今回の成人の儀では回復術師やヒーラー、薬師のギフト持ちでたのかな」


「冒険者活動をしていればいずれ出会えると思うよ。気楽にいこう」


「そうだな。それじゃ俺は訓練に戻るよ」


「うん。私もミューちゃんと狩りの訓練に行ってくる」


そうしてアリスと別れた。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 この世界、アセロスフィアは一年が360日、一ヶ月が30日で12ヶ月、一週間は7日だ。

 4月に成人の儀があり、今は7月。

 俺の誕生日は1月10日でアリスは3月20日。

 なので冒険者登録は来年の1月10日から可能だがパーティ登録はアリスが冒険者登録できるようになる3月20日からとなる。

 それまでに可能な限りギフトを使いこなせるように準備をしておかねば。


 今日は安定空間生成の魔法に挑戦する。

 これは、温度や気圧、空気の組成などがこちらとほぼ同じ環境の別空間を生成する魔法だ。

 アイテムボックスを使えるようになるための前段階の魔法と言える。

 安定空間自体も空間をつなげればアイテムボックスとして使えるのだが、まぁプチアイテムボックスといった感じの魔法だ。

 すでにある程度マスターしている空間把握がこの魔法取得の前提条件となる。


「安定空間生成!」


 こことは異なる空間に安定空間が生成される。

 空間把握で確認してみると、気圧はほぼ同じだが気温が-10度となっていてちょっと寒い。

 生成した空間はまだこちらとはつなげていないので、こちらには影響はない。


「安定空間解除!」

 

 一度解除して再度気温がもっと上がるように挑戦する。

 今度は気温15度とうまくいったので空間を接続してみる。


「空間接続」


 この日のために用意しておいたダミーの袋のあけ口に空間接続してみた。

 ダミーの袋を用意するのは今後目立たないための措置だ。


 試しにそこら辺にある石を入れてみた。

 うん、袋の重さも感じないし、石はバッグの先の空間に浮遊するように存在している。

 取り出しもしてみたがバッチリだ。

 軽く濡らした石を入れてしばらく経ってから取り出すと、石は乾いていた。

 これは時間が経過するタイプの空間のようだ。


「やった!ついにアイテムボックスの初歩をマスターしたぜ」


 その日は嬉しくて空間をぽこぽこ作っては、何でもないもの、石や川の水やらを入れて出してを繰り替えした。

 始めての魔力切れも経験した。

 安定空間は魔力で環境が作成されるようで、魔力消費が大きいようだ。

 ただ、一度空間を作成した後接続するだけなら魔力はほとんど消費しない。

 一度作った空間は俺にしかわからない場所にある倉庫みたいなもので、あらかじめたくさん作っておけばいざというときに助かるかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――


 安定空間生成の魔法を練習し始めてから一ヶ月が経った。

 当初1立方メートル四方ぐらいだった空間も簡単な倉庫サイズぐらいに広がった。

 市場で保存食を買ってきたり、テントや毛布などを家から持ってきて空間に保存した。

 というのも、今日はアリスとジマリーノの森の探索にいくからだ。


「おはよう、アリス。ミューちゃん」


「ケイ、おはよう。準備はできてる?」


「ミュミュー」


 ミューちゃんも元気良く答える。


「おう、ばっちりだ。新しいモフモフを捕まえにいこうぜ」


「気が合うね。私もテイムするならモフモフがいい。ただ、近場にはミューちゃんより弱いのしかいないんだよねー」


ジマリーノの森浅域はさほど危険な場所ではない。森の浅域ではホーンロッピーが生態系の頂点にいるぐらいなのでもっと強い仲間を探すなら森の奥までいかねばならない。


「新しいモフモフは魅力的だが、まずは安全第一で行こう。森の奥は慣れたらな」


「強い魔物じゃなくても愛玩用のモフモフを捕まえてもいいかも。いいのがいたら」


 期待を胸に俺たちは森へ入っていくのであった。


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