027勇者2人
「やあ君たち。僕が職業『勇者』になった姿を見にきたのかな?」
カイザ王子は溌剌としていた。エイユ以来100年ぶりとなる勇者としての彼は、しかし以前と変わらず意気軒昂だ。テストに合格できて血が上っているのか、その頬は赤い。
広院が苦情を申し立てた。
「カイザ王子殿下、まさか魔王を討伐しに行くだなんて、そんなふざけたお考えになってませんよね?」
王子は苦笑で答える。
「そのふざけたお考えだよ。やっぱりこうも命を狙われると、おちおち日常を送っている気にはなれないんだ。誰かがやらなきゃいけないんなら、僕がやる」
笑いが引き、生真面目な相貌に変化した。
「昨夜焼き殺された仲間たちの仇を討ちたいんだ」
「そんな……」
新たな勇者は元婚約者と現婚約者候補を等分に眺めた。さぐるような目つきになる。
「それで、2人はその……仲直りしたのかい?」
その言葉ではっと気がついたかのように、広院とアクジョはお互いの間に距離を作った。そっぽを向き合う。
ややあって広院が言った。
「アクジョさんを訴える気はございませんわ。もう勝負はついているし、怪我も元通りに回復しましたので」
「そうか、それは良かった」
カイザ王子がアクジョに面と向かう。極力優しげな声を出す風だった。
「アクジョ、君との思い出は忘れない。君は若いし綺麗で財産もある。きっと新しい男性が現れるさ。陰ながら君の幸福を祈っているよ」
ていのいい厄介払いだ。しかしアクジョは屈しなかった。
「ありがたいお言葉ですが……私、王子様の魔王討伐行にお供させていただきますわ」
その爆弾発言は無音無形の爆風を巻き起こした。王子が目を白黒させる。
「な、何言ってるんだ! 危険な旅に君を連れて行けるものか! それに君は冒険者ギルドに登録もしていないだろう」
広院もあわててアクジョをなじった。
「アクジョさん、命懸けの旅に同行すれば殿下のご気分が変わるとでも? しつこ過ぎませんか?」
しかしアクジョはひるまず、敢然と立ち向かう。
「私の結婚相手にふさわしいのはカイザ王子様のみ。王子様も魔王を倒す頃には、きっと私を認めてくださいます。一緒に生き、一緒に死にたいというこの気持ちは、もう決して揺るぎませんわ」
広院が俺に耳打ちした。いら立ちをつのらせている。
「ちょっと! 何なのよこのシナリオは! とんだクソゲーじゃないのよ!」
俺も小声で返した。
「知らねえよ。お前の攻略の仕方がまずかったんじゃねえの?」
俺は『勇者』に大声で請願する。
「私、ヒロも、アクジョ様同様旅の端に加わりたく存じます!」
「き、君まで?」
広院が破れかぶれに叫んだ。
「だったらあたしも! カイザ王子殿下、このヒロイもお連れください!」
そこへ試験官の高ぶり切ったどら声が伝播してきた。
「し、信じられません……! カレイド様も勇者の試験、見事合格です! ゆ、勇者が2人も……?」
闘技場の客席は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなり、カレイドへの熱き声援が飛び交った。
昨夜「ガラじゃない」と断っていた彼が、剣をしまい込みながらこちらへやってきた。無精髭は相変わらずだ。
「カイザ王子殿下、命令通りに試験受けましたよ。パスするとは思いませんでしたが……」
王子は破顔した。
「やはり僕の見込んだ通りだったな。これで魔王打倒の成功率はぐんと高まった」
カレイドは緑がかった黒い短髪をかき回す。
「王子の勅命は俺の中で絶対ですからね。行けと言われりゃどこだって行きますよ。ま、ガラじゃないんですがねぇ」
俺とアクジョ、広院を見渡す。あごをさすって興味津々な顔つきだ。
「彼女らも旅に加えるんですか? 女っ気があると華やぎますからね、いいんじゃないですか、それでも」
カイザ王子は頭を抱えてため息をついた。
2人の勇者が伝説の武器防具を身にまとい、魔王討伐におもむく――!
この報せは国中を駆け回り、多くの志願者が随行を求めて冒険者ギルドに殺到した。かつて勇者エイユは3人の仲間と共に出立し、謀殺されて命を落としたという。そのこともあり、勇者が2人、随伴者が50人以上というちょっとした部隊が計画された。新人も熟練者も、冒険者はこの栄えある旅路に同行することを希望して顧みなかった。
その中にはアクジョの元許嫁にして戦士のイナーズ、同じく戦士の幼馴染ウーザイ、街での大捕り物で俺を助けた――結果的には額を怪我したけど――武闘家ケルの姿もあった。アクジョはサボっていた法術を何とか実用化までこぎつけて、職業『僧侶』として登録した。広院は何の能力もなかったので、王子の世話をする従者の1人となった。
俺はアクジョのサポート役として連れていってもらえることに決まった。もちろん女装のままである。
伝説の装備はいくつかあったが、サイズのこともあってカレイドが強力な武器防具を、カイザ王子がやや弱い――それでも通常兵器より段違いの力を秘めた――剣と鎧を手にした。
そして一週間後。出発の際、ゼイタク王国シャシ三世とその王妃の前で、2人の勇者は必勝と無事の帰還を誓約した。今まで魔王と戦って破れた勇者はいない。そのことがこの長征の許可される最大の要因だった。
食料を積載した補給部隊も加わり、屈強な軍団は馬や馬車を駆って王都を進発する。
「行くぞ! 必ず魔王をねじ伏せるぞ!」
カイザ王子は剣を天に掲げ、勇ましく宣言した。沿道の見物人が大歓声を放つ。
こうして旅は始まったのだ――




