7、嵐の前
さて。
何の呪いなのか嫌がらせなのか 幼女になってしまったファルナです。
自分は今 鳥になってます。笑
例のごとく憑依してるだけですけどね。
ここ数日は時間を作って色々な鳥に憑依している。
その種類によって食べているエサの情報が異なるのがおもしろい。
先日の鳥は大きな木の実を教えてくれた。
ひょろ長いひょうたんのような形で色は黄色。
森の中にある大きな木の高い枝に実る。
不思議な事に人々には知られていないようだ。
下に落ちる前に鳥たちに食べられしまうからだろうか。
大きさは子供の自分では運べないほど大きい。
生で食べてみた時は味の薄い穀物のように思えたけど、火を通すと少し甘いジャガイモとトウモロコシを混ぜたようなホクホクの食べ物に変わった。
これはスープに入れて煮込むとトロトロのポタージュのようになって美味しいだろう。
鳥たちは完熟した実から食べるらしく、見つけた時にはまだ手を出していない実が何個か残っていた。
これは何としても持ち帰りたい。
手に入ったのは4個。
次に実を付けるのは半年後かな?。
どうやって運んだのか?
以前憑依したワニのような口の巨大な鳥が都合良かった。
木の実を収穫するのも運ぶのもね。
小鳥で飛んでいるとかなりの頻度で襲って来る奴だ。
ワニ鳥?は魔獣らしく、見つかると館の衛兵に下から攻撃される。
しょうがないので広大な庭の片隅に運ぶだけにした。
その木の実を回収したのが庭師のおっちゃん。
彼なら庭をうろついても不自然にならないから憑依した。
全部で荷馬車の半分くらいの荷物なので幼女な姿ではとてもとても・・。
タダ働きさせるのも悪いから一緒に焚き火で木の実を焼いて食べた。
おっちゃんとはその時に仲良くなった。
今後は憑依しなくても助けてくれそうだ。
焼けた木の実はとても美味しかったよ。
なので セルシニアお嬢にも食べさせた。
「これ・・食べるの?」
「うん。ぜーったいに美味しいから♪」
子供らしく自分が美味しそうに食べて見せた。
彼女は恐々と一口食べた後 驚いた顔になる。
味を知った後は好きなお菓子を食べる子供のような笑顔で満腹になるまで食べていた。
普段 食が細いお嬢様とは思えない食欲だ。
食欲が出るように体を動かす遊びをさせているのも役に立っているようだ。よしよし。
そして、そんな物をお嬢様に食べさせた自分はこっぴどく怒られた。
美味しそうな匂いがセルシニアの部屋に残っていたので先輩のシャルナにバレたのだ。
懇々と説教をした先輩メイドたちに残りの木の実を没収されてしまった。
大きな実なので残りと言ってもかなりの量になる。
その後 メイドの部屋から楽しそうな声が漏れていた理由は語るまでも無いだろう。くそっ。
だがしかし、庭師の作業小屋にはまだ三つもあるのだ。
ほとぼりが冷めたらまた焼いて食べようとおもう。
「おい、ちっこいファルナ」
「ちっこい言うな」
いきなり後ろから変な呼び方をされて思わず定番の反撃をしてしまった。それがツボにはまったのか 振り返った目の前には大笑いしている料理長がいた。お嬢様の食事を運ぶ仕事があるので顔は知っていたんだよ。
「はは、まぁいいか。それより、シャルナたちが食べていたアレはお前さんが持ってきたそうだな。何なんだ、ありゃあ。いい子だから俺に教えろや」
領主家の料理長のくせに山賊かチンピラのような口調で聞いてくる。カツアゲされている学生の気分だ。
そう言えば、先日 この世界の調味料の情報が知りたくて彼にも憑依したけどアレの情報は無かった。
料理長でも知らなかったのだろう。
「何で知りたいの?」
「そりゃあおめぇ、自分が知らない食材が有れば是可否でも知りたくなるのが料理人ってもんだぜ。それによ、自分が作った料理をお嬢さんがゴッソリ残されているのを見ると辛くてな」
「なるほど・・」
どうやら金儲けがしたい訳では無いらしい。
口は悪いけどいい人だよな。
お嬢様の食事も味が子供向けじゃないから不評だけど、食べ易くなるように気を使って作られている。
彼なりに努力しているのだろう。
しょうがないから彼に協力しよう。
自分の今後の食生活の為にも必要だしね。
隠していたジャガコーンの実を渡して一緒に色々と料理を作ってみた。あ、名前は適当なのでヨロシク。
作ったと言っても自分は口だけ出したけどね。
その結果、美味しいスープやらサラダ?が出来た。
料理長は雇い主の領主様からお褒めの言葉をいただいたらしい。
食材の出所はあのワニ鳥が溜め込んでいたのを見つけた事にした。使用人たちも何度か飛んでいるのを見かけているのですんなりと信じてもらえた。
他にも先日憑依した時に嬉しい発見が有った。
香りの強い植物を教えてもらったので試しに乾燥させてからハーブとしてスープに入れてみたら味がピリッと引き締まった。
さっそく料理長のシリルオーネに教えたら夢中になって色々と研究を始めていた。ガンバッテネ。
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そんな訳で今日も鳥たちの食事から何かヒントを教えてもらいたい。
憑依したと言っても鳥の自由にさせて感覚だけ共有し食べている物を観察するだけなので楽なんだ。
ただし、虫を食べる時は共有させている味覚を切らないと悲惨な事になる。
邸の庭は広大で一部が森になっている。
悪く言えば田舎なので手をいれずほったらかし状態。
このあたりに性質の悪い魔物が少ないから出来る事だ。
おかげで手付かずの自然をすぐ近くで散策できる。
鳥は森との境界に自生している草の実を食べだした。
形はムギの穂がまばらに実っているイメージだが別物。
小さな嘴を上手に使って食べている。
飲み込んでるので味は分からないな。
もし美味しかったとしても食べる部分が小さすぎてとても人が食べるものにはならないだろう。
とりあえず 何かに使えるかも知れないから覚えておく。
毎回 そうそう都合良く新しい食材は見つからないか。
帰ろうとして飛び立つと遠くに馬車が見える。
周りには護衛の騎馬も居るようだ。
こちらに向かってくるし、客が来たのかも知れない。
だとしたら 急いで帰らないとまずい。
とは言え空を飛んでいる訳で時間的には問題ない。
「ファルナ!。何処行ってたの、早くお嬢様の着替えを手伝いなさい」
うぉっ、いきなり怒られた。
あの馬車が来るまでかなり時間が有るはずなのに。
「あの、何か有ったんですか?」
「あぁ、ファルナは知らないんだね。隣町から偉い人がお嬢様に会いに来るの。少し前に先触れが到着したのよ」
「偉い人?。王子様でも来るの?」
「バカだね、王子様が隣町に居る訳無いでしょ。どうでも良いから急いで用意して」
「はーい」
まぁいいか。
バタバタしてるおかげで外に行った事を不問にされたし。
来客があった時のドレスは教えてもらっている。
選ぶのが大変だけど季節に合わせておけば無難だろう。
「お嬢様。お着替えですよー・・ひぅっ!」
セルシニアの部屋のドアを開けて思わず身構えてしまった。
部屋の中は嵐が・・いや爆弾が破裂したかのようにグチャグチャになっている。
はぅ・・これ自分が片付けないとならないのか?
勘弁して欲しい。
「ファルナ!。ファルナ、ファルナぁぁぁ。うあぁぁん」
ベッドに丸くなっていたセルシニアが自分を見て怒涛の突撃をして来る。
彼女の髪の毛はフワフワと不自然な動きをしていて魔力が制御しきれない状態だと教えてくれる。
今までに何度か感情の高ぶりによって見られたが今回は特別に強烈だ。
「お嬢様。どうされましたか?。よしよし、良い子良い子」
優しく抱きしめて頭をなでてやる。
この世界のマナーには違反しないようだし、子供が落ち着く効果は大きいから使うべきだね。うん
そもそも 精神不安定の原因が何か分からなくては収めようもない。
「あの人きらい、気持ち悪い。恐いよぅファルナぁ」
なるほど。そうですか、そうですか。
これから来るという偉い人が原因ですか・・。
ゆるすまじ