第42話、ソコノケ ソコノケ ファルナが通る
帝国・・・それはリリセンティア皇国 に隣接する大国。
正式名称をファセラティ・メラサイト・ウプリュナティス帝国。
言うまでもなく憶えるのを放棄したくなる長ったらしい名前の国だ。
博識な執事のアルベルトが知る限り近隣で 帝国と呼ばれている独裁主義の国は
この国だけで人々には単に帝国とだけ呼ばれ、それが通称として成り立っている。
選定の神殿に行く最短ルートを通るにはこの帝国の一部を横切る必要が有った。
「ひょっとして・・・帝国の人間はヒマなのかな?」
「・・・そう思われても仕方がないですね」
自分の呟きにアルベルトですら同調してしまうのは無理も無いだろう。
私達一行は国境から帝国に入り半日ほど進んだ・・・だが
小さな丘を越えると森の手前の平原には
数えきれないほどのテントが並んだ大部隊の宿営地が広がっていた。
しかも今まさに完全武装した騎士や兵士が整列し出撃体制をとっている。
その数、軽く千を越えているだろう。
まさかとは思うけど私達に対する妨害のためだけにこれ程の労力と予算を使うか?。
とりあえず、こちらに対して戦闘態勢を取っていない。
敵と断定するには早計だ。
この数が敵対するなら今度こそ謎生物コロタンを顕現させるしかない。
「姫様、この場合は先に相手の指揮官と話を付けるのが通例です」
護衛のアデリーナが騎士の立場から進言してくれる。
「えっ、ひょっとしてそれ私の役目?」
「「はい、我々の代表は姫殿下になりますので」」
アルベルトとアデリーナの二人がシンクロして肯定している。
幼女の自分にそれをさせるのですか・・・
姫様稼業も楽では無いのですね。はぁ
襲撃と思われないようにゆっくりと歩み寄るのだが
戦場での招かれざる客に相手方も少しだけ慌ただしくなる。
当然、相手方も代表者が出て来るが・・・
「その旗は神殿に向かう者達だな。この先に行きたいなら止めんぞ」
対応してくれたのは小学生くらいの子供だった。
その身形も装備も上等な仕上がりだと分かる。
上から目線な言動からしても身分の高い家柄のボンボンなのだろう。
幼くしてこんな戦場?に派遣されるのならば気の毒ではあるが
彼の勇気に敬意を表してカワイソウとは思わない事とする。
「ただし忠告しておく。これより先に進めば生きては帰れぬぞ」
この先に行くけば命は無い・・・と?
「聖女候補の進路妨害をするだけでなく脅迫ですか?」
静かに抗議しているアルベルトの顔には「またか」という思いが滲み出ていた。
「進路妨害?何の事だ。通っても良いと言っただろ」
「言質は取ったからね。遠慮無く通してもらいますね」
何も知らない私を憐れむように苦笑いする少年。
「行くつもりなら言っておくが、
この先でダンジョンから魔物が大量に溢れ出している。
その数の護衛で突破できるとでも?」
それってファンタジー定番のスタンピードってやつじゃん!
「もしかして我が軍が聖女の神殿行きを邪魔するとでも思われてたのか?
心外だな、帝国が聖女ごときで大軍を動かすはずが無いだろ。バカにするな」
だよねー・・・
まだ小学生と思える年齢の王子は拗ねたように言っているが、
あの年齢で大人を相手にこれだけの交渉が出来るのは凄い事なんだけどね。
気になる・・・
彼の幼い顔には戦って手柄を立てようとする若者が持つ野心も覇気も無い。
それどころか、どこか死を覚悟したような悲壮感すら感じられる。
後ろに控える兵士たちからも死地に赴く暗い雰囲気が漂い、全体の士気も低いようだ。
それにしても今度はスタンピードですか、私が行く先々でイベントが多すぎる。
自分ってトラブル体質だったのだろうか・・・
「姫様、あれを・・・」
慌てるアーレナが指差す前方の上空には魔物の群れが見え始める。
「ぬっ、飛行タイプの魔物の群れとはやっかいだな」
「違う、あれは我が軍の飛行部隊だ。攻撃するな」
私のセリフに間髪入れず少年の焦ったような制止の命令が発せられる。
部下じゃないのに命令口調とは・・・
先行する一騎が急速に接近してくる
「アリアテクト、何をしている。もうじき魔物の大群が押し寄せて来るぞ」
頭上から聞き覚えのある声が聞こえる。
見上げた先には飛獣とそれを駆る戦乙女。
昨晩、自分達一行の脳裏にその強烈なキャラを焼き付けてくれたリリシアだ。
「なんだ、またお前達か・・・今は構っている暇など無いのだ、立ち去るが良い」
彼女に続き次々と飛獣が降下してくる。
ほどなくして50騎以上の飛獣が整列したように整然と着地していた。
「帝国の飛行部隊は壮観だねぇ」
「ふっ、そうであろう。分かっておるではないか」
私が子供らしく感激していると戦乙女は鼻高々にしている。
べつにマウントを取られても痛くも痒くも無いけどね。
「姉上、群れの規模はいかがでしたか?」
「うむ、・・・数は200体ほどで想定より少ないな。
だがその殆どがトロルやオーガなど大型の凶悪な魔物だ。
先に槍の雨を降らせて数を減らしてはきたが焼け石に水だった。
地上部隊も苦戦は覚悟しなくてはならない・・・」
「そうですか・・・
姉上、いままで僕を守っていただいて有り難うございました」
「まだ希望は捨てるでない。
其方をくだらぬ帝位争いに巻き込んだ兄たちには必ず報いをくれてやるのだ」
他国の自分を目の前にして重たい帝国の内情を漏らしながら
悲壮な雰囲気で別れの挨拶をしている二人。
薄々感じてはいたけど、この少年は王子様なんだね。
確かに良く見ると幼いながら整った顔立ちの王子様的なキャラではある。
心が男のままな自分にとっては王子様だろうと ただのオスガキでしかない。
トキメキなど無いのだ。
でも、なるほどね。少年がこんな場所に居るのは兄たちの謀略・・・と。
帝国兵の雰囲気が暗かったのは千人以上の兵力でも魔物の群れには勝てないと
分かっていたからなのだろうな。
千人以上の生贄ですか、宮仕えは悲しいね。
「それじゃあ、通行許可も頂きましたので行きますね♪」
あえて空気を読まないファルナが通りますよっと。
「「えっ!」」
その場に居た全員が「何言ってんだ」という顔をしている隙に自分はラクダチョウから飛び降り、魔物の大群が感じられる方向に向けて走り出す。
「お待ちください姫様!ええい、急いで御止めしろ」
護衛の騎士達には気の毒だけど説明する暇は無さそうだし。
「まてっ!、今の話を聞いていただろ、死にたいのか!」
少年王子様の焦った声はすでに微かにしか聞こえない。
コロタンの身体能力とリンクしているファルナの脚力はとんでもない速さで走れる。
短距離なら飛獣でも追い付けないよ。
今の自分の思いはウザイの一言に集約される。
下らない謀略で足止めされた、とか考えただけでイライラする。
昨日からつまらない足止めをされてストレスが溜まったみたいだ。
旅の到着時刻は定刻が常識だろ。(元日本人視点)
もうすぐ森の入り口というタイミングで前方から地響きが聞こえ、
木々を蹴散らして大型の魔物の軍勢が迫って来る。
立ち止まると同時に 聖剣X狩場を構え相棒の魔力をイメージして遠慮なく注ぎ込む。
多少距離が有ったとしても間合いの内、100メートルの長さにイメージした聖剣を水平に一閃。
スパパーーーン☆
その一撃で数十体の魔物が上下で真っ二つになりグロイ光景を作り出す。
小さな私を敵と認定した魔物達は挑発スキルでも受けたかのように一斉に集まり襲い掛かって来る。
ズバババババババーッ☆
次々と迫り来る魔物は剣を振り回すだけで近寄る事も出来ずに切り裂かれていった。
あまり近寄ると返り血が嫌だし立ち止まったままで何度も聖剣を振り続ける。
怖くは無いのか?って、前世では無双ゲーム好きだったんだよね。
程なくして走り来る魔物の姿は無くなり場は静かに成った。
ふふん♫、魔物をこれだけ倒せば自分のレベルも上がったと思うよ。
ファンファーレは鳴らないけど。
次からは咆哮で魔物も混乱させられる・・・と良いなぁ。
≪コロタン、私は強くなったかな?≫
≪アホか、戦いの場で油断する者は食われるのである≫
えっ?
ドスッ☆
後ろで鈍い音が響いた。
振り返ると頭から槍に貫かれたコブリンが串刺しのまま立っていた。
ゴブリン小さくて眼中に無かったよ。
「詰めが甘いぞ、皇女殿下」
静かに上空で滞空しているのは姫騎士リリシア。
「リリシア助けてくれたんだ・・・」
「呼び捨てか・・・まぁ良いだろう。こちらこそ助けられた。
まさか皇国の末の姫君がこれほどの強者だったとは・・・
世界は広いものだな」
着地すら静かだ。気配を消す魔法とか使っていそう。
姫様ーーっ
遠くから置き去りにして来た旅の仲間が追いかけて来た。
心配かけただろうな、アルベルトが胃潰瘍にならないと良いけど。
「私達、もう時間無いから先を急ぎますね。魔物の始末はお任せします」
「魔物の素材や魔石はどうするの?後で届けさせようか」
「そちらの騎士の方々の差し上げますよ。臨時収入です。
きっと面倒な魔物の死体の始末も頑張ってくれますよ」
「死を覚悟していた兵たちが助かって、その上臨時収入か・・・
確かに喜ぶだろうな」
リリシアは複雑な顔をしている。
「姫様ー、ご無事ですかーー」
最初に慌てて駆け付けたのは仲間達。ラクダチョウは馬よりも早いらしい。
「ファルナリーア様ぁー」
聖女アーレナがラクダチョウから飛び降りて抱きしめて来る。
美少女からの熱い抱擁、前世の自分なら夢のような場面なのだが、
悲しいかな今の自分にとってはただの抱擁でしかない。
そして王子様も軍を引き連れてやって来た。
彼はまだ小さいのに一人で馬に乗っている。すごいな
「これは!、これだけの魔物が全滅している・・・」
兵士たちは魔物が死屍累々と切り倒された惨状を見て呆然としている。
「私は帝国第六王子アリアテクトです。助力感謝いたします。
死ぬ定めだった今回の遠征。生きて帰れるのは貴方のおかげだ」
いつの間にか近くに来ていた少年は私に堅苦しい口調で話しかけて来る。
さすが王族、とは思うけど子供らしく無い話し方とも感じる。
私も一応は皇女なんだし、それなりの受け答えが求められるよね。
「初めまして王子殿下。リリセンティア皇国皇女ファルナリーアと申します」
無難なあいさつで終わりにして先に進みたい。
「ファルナリーア皇女殿下、是非僕と婚約してください」
「いやです」
一国の王子が求婚したのに即答で断った。
私を帝位争いに巻き込まないで欲しい。
自分は誰も居ない静かな場所の一軒家に引き篭もる予定なのだ。
男と結婚するなど冗談では無いよ。




