8、宗教が来た
セルシニアお嬢様の魔力が暴走したときは漏れなく報告するように執事のヨーゼフさんに言われていたので そのついでに問題の客について聞いてみた。
お嬢様錯乱の原因は間違いなくそこに有るようだし。
「大司教?・・」
そこで聞いた相手の立場に驚かされた。
言葉の意味が正確に翻訳されているなら相手は宗教関係者。
この世界にもダニは存在するらしい。
久々に復讐の感情が沸き立ってくるのを感じる。
「お嬢様はまだ小さいのに 何でそのような方が会いに来るのですか?。お嬢様がその方を恐がっています」
「ふむ・・なるほどそうでしたか。 良いでしょう。
側付きの貴方は知らなくてはなりませんね。
まずは・・そうですね
セルシニアお嬢様は大変に魔法の才に恵まれています。
それは分かりますね」
「はい、もちろんです」
そのせいで今も部屋がグチャグチャです。涙
「よろしい。
そして、セルシニア様の才はそれだけではありません。
お嬢様の目は聖眼なのです」
「セイガン?」
何?・・この言葉を聞くと胸の奥がキリキリする。
初めて聞いた言葉のはずなのに・・。
「聖眼は聖女の証とさえ言われ、過去に数えるほどしか存在が確認されていないのです。知らなくても無理も有りません」
聖女と来たか。さすが異世界、ブレないな。
「せいじょ?が何か分かりません」
ここは幼女らしく知らないふりをしておく。
恐らく今の会話の内容も一般人が知るはずのない特殊な分野の情報だろう。浮浪児だった自分が知っていたら異常なはずだ。
ここ何日か情報を集めていたけどメイドや庭師みたいな一般人からは世の中の流れを感じられる情報は聞けなかった。マスコミが無い世界では世の中の動きを伝える大きな情報は一部の人間しか得られないらしい。
さすがに執事クラスになると世の中の情報くらいは持っているようだ。今度おじゃましてみようかな。
「ふむ・・そうですね、順番に話しましょう。
まず聖眼というのは人の善悪が見える目と言われています。お嬢様の目がこの聖眼なのは確認されていますし、極端な人見知りなのもこれが原因だと思われます」
ちょっとまて・・・
セルシニアは人の善悪が見える目を持っている。
ここまでは良い。納得した。
でも、取り乱していたお嬢は言ってたよな
これから来る大司教がきらいで気持ち悪くて恐いと・・。
「過去に何度か聖眼を持った女性が確認されましたが、その方達は人々を導き 多くの偉大な功績を残されています。何時しかそんな尊い女性の事を人々は聖女と呼ぶようになったのです。セルシニアお嬢様はそんな聖女になると期待されているのですよ」
あぁ、宗教にありがちな作り話だ。
記録も怪しくて誰もウソだと言えないのを良いことに美談を作り上げ、時代が進むと尾ひれが付いて宗教の飯の種になる。
大方、そんな女性の能力を利用しまくった奴らが都合の良い話をでっち上げたんだろ。
裏にどんなドロドロした話が有るのか 少し想像するだけでボロボロと出てきそうだ。
で、今現在 幼女のセルシニアお嬢様にそんな魔の手が伸びている・・と。
なるほど、・・理解したよ。
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そして、とうとう大司教一行が到着した。
大司教と言えばかなり上の立場だから老人だと思っていたが馬車から降りてきたのは三十代の貧相なオッサンだ。
女みたいに肩まで髪を伸ばしてトーガに似た宗教的な衣装を身に纏っている。
その後ろにはお揃いの白い鎧を装備した神殿騎士が10人整列している。
領主家を訪問するには過剰戦力に見えるけど治安が悪い世界だからその点を指摘する事は無理なんだろうな。
領主邸の玄関はホテルのロビーのように広い。
その中ほどに彼らはズケズケと入って来る。
先触れが来たとはいえ突然の来客を領主自ら迎える事は無く、執事のヨーゼフさんが応対している。
壁際には領主側の騎士たちも配置され キリキリと緊迫した雰囲気が荒事に素人の自分にでも分かる。
「御領主様はただいま手が離せません。しばしの間客室にてお寛ぎください」
「ふん、その必要は無い。用が有るのは聖女セルシニア様だ。今日は神殿にお迎えいたす為に来たのだ」
「はて?。御領主様からはそのような指示はいただいておりません。お嬢様はただいま体調がすぐれず休んでおられます。外出されるなど御領主様が許可されません。失礼ながら お会いいただくなら日を改めていただくしかございません」
「なっ、貴様 使用人の分際で大司教猊下に対して出直せと申すか!」
おおっ、ヨーゼフさんスゲー。
要求をつっぱねたぞ。
武装した騎士達の威嚇にもビクともしない。
セルシニアが盛大に嫌っているのも知ってるから要求を飲むなんて出来ないだろう。ガンバッテネ。
おれ?。
自分は階段の手摺の隙間から覗いてるだけですが。
「ヨーゼフの言葉は私の気持ちとまったく同じだ。何の問題も無いな」
「ひぅっ!」
頭の上から突然重い声がしてビクついてしまった。
自分は憑依能力以外はただの無力な幼女なんです。
声の主はセルシニアの父親。つまり領主さま。
自分がここから覗いてるのを後ろから見てたんですね。
このオッサンもなかなか油断ならないですよ。
彼は俺の頭に軽く二回手を置くと階段を降りていく。
「これはこれは御領主殿。
客をこのような所で応対するのはこの国のしきたりなのかね」
「ここは辺境ですからな。いろいろと特殊なのですよ」
「ほぅ、なるほど。そのような僻地におられるから聖女様も体調を崩されるのだな。やはり神聖な我が神殿にお迎えするのが一番であるぞ」
おーおー。面と向かってここを僻地と言いはなったぞ。
意図的に喧嘩をふっかけているねコレ。
たかだか10人程度の騎士しか居ないのに何でこんなに強気なんだ?。
にしても あの男、何故か見てると超ムカつく。
セルシニアが嫌がるはずだ。
聖眼とやらで見たらこれ以上にキモいんだろう。
何であんな男が大司教なんだ?。
「確かにここは僻地ですな。なにせ 砦が無くては攻め込んでくる蛮族が近くにおりますからな。
そう言えば・・大司教様の神殿も砦のむこうでしたか。さぞご苦労が多い事でしょうな」
明るく社交的に毒を混ぜた言葉が応酬されている。
領主様も負けてないな、さすがだ。
しかし、思わぬところで大事な情報が聞けた。
今居る場所が国境に接しているのは知ってたけど、となりの国とは仲が悪いようだ。もろに最前線なんだね。
鳥に憑依した時に見えていた町が敵国だとピリピリした緊張状態にもなるだろう。防衛線に砦が有るのは当然だね。
「セルシニア様は神に祝福された尊いお方だ、地方の領主が手にすべきものではない。速やかに神殿が保護すべきものだある。それともなにかね?、この国は領主の判断一つで神に逆らい全ての国を敵に回すのかね」
「いえいえ、そんな考えはありませんよ」
「そうであろう。ならば・・」
「ただし、私の娘はまだ幼い。しかるべき時が来ましたら神殿に赴くかもしれませんが、それは当然この国の神殿となりましょう。既にそちらの大司教猊下の許可もいただいております。ですので、こちらの心配をしていただく必要は全くございませんな。他国の神殿は自国の民に祝福を与える事に尽力されるのが神の思し召しと存じ上げますぞ」
ハッハッハと笑いながら慇懃に敬語すら使っているが、領主さんの言ってる事は「俺の娘に手を出すんじゃねぇ!。他国の人間はすっこんでろ」という意味なのである。領主様ゲキオコなんですね。
相手が神をたてに脅迫してるから逆らわずに同じ土俵で正論をぶつけている。
上手いなぁ。
それに対して大司教は苦虫を噛んだような顔をしている。
役者が違うようだ。
この程度で顔に出るのは使者として落第だ。
しかし、あの顔は良からぬ事を考えているなぁ。
・・不本意ながら憑依してみますか。
入り込めば相手の深層心理以外の情報は覗けるからね。
できれば部屋をメチャメチャにしてくれた仕返しもしたい。
そして、気持ち悪いけど憑依してみた。
大司教が持っていた情報はそれはそれは凄い内容です。
他人事だったし傍観するつもりでしたが、ブチキレました。
なぐりたい・・・




