プロローグ、自業自得かも
少年の家は平屋の一軒家。
家としては小さいが一人で住むには丁度良いだろう。
一見すると普通の家なのだが、目立たない防犯対策が各所に施されていた。
防犯カメラは勿論のこと、ドアにはカギが3つ付いている。
(空き巣が敬遠するカギの数らしい)
窓は外からは手が届かない高さにあり、勝手口が存在しないなどなど 異常なまでの防犯対策である。
他にも色々有るのだが問題はそこでは無い。
その家の所有者は1人の少年だ。
別に親が大金持ちという事では無い。
それどころか、彼の親は悪質な宗教団体に騙されて 多額の寄付を毟り取られ、
日々の生活にすら支障をきたしていた。
そんな両親は、会社の資金を使い込んでいた事がバレると 少年を残してあっさり自殺してしまう。
夫婦には一人息子がいた。
彼は突然「犯罪者の子供」と言われる事に成る。
中学生だった彼の心境はとても語れるものではない。
その衝撃が彼の潜在していた特殊な能力を開花させた・・・のかも知れない。
************ある日
大きな会場のステージに とある新興宗教団体の教祖が登場する。
会場の人々は万雷の拍手で迎え、壇上に並ぶ幹部達も 腰を90度にキッチリと曲げて頭を下げ、教祖のカリスマを後押ししていた。
宗教あるあるのパフォーマンスだ。
マイクの前に立った教祖が何時ものように話を始める、はずだった。
なぜか下を向いたまま一言も話を始めない教祖。
信者も宗教関係者も そして居並ぶ報道陣も驚き、教祖を見つめた。
やがて突然 顔を上げた教祖は口元を歪ませた凶悪な顔をしていた。
「諸君。今日も沢山の寄付を持って来たかな?。
テメェらの全財産は俺のものだ。とっとと寄付しろや!」
有難い教えを期待していた信者に向けられた第一声は想定外なものだ。
「「「「「「?!」」」」」」ざわざわ、がやがや
一瞬の静寂の後、騒然となる大会場。
教団の幹部達があわてて彼に駆け寄るが 振り返った教祖の手には銃が握られている。
とある方法で先日 警察官から手に入れた本物の銃である。
パーン☆ パーン☆ パーン☆ パーン☆ パーン☆ パーン☆
響き渡る銃声、次々と撃ち殺される幹部たち。
大パニックになる会場。
教祖は 打ち尽くした銃を投げ捨てると 今度はナイフを取り出し、逃げ惑う少女の服を笑いながら切り裂いた。
どれ一つ取っても 社会的に抹殺されるであろう凶悪な行為である。
マスコミは怯えながらも必死でこの大事件をカメラに収めた。
さんざん暴れまくり高らかに大笑いをした後、正気を取り戻したのか
教祖は呆然と立ち尽くし駆けつけた警察官に取り押さえられたのだった。
この宗教団体こそ、少年の両親を破滅に追いやった元凶である。
会場の片隅では 少年が無表情に教祖が逮捕される様子を見ていた。
教祖の凶行は全て少年の仕業である。
少年が得た特殊な能力、それは「実体をともなう憑依」。
ウソか 本当か、この世には憑依という現象が有る。
一般には「霊が取り付いた」と言われ、まるで別人のような性格になったり、
女性なのに男のような声やありえない腕力を出す事も有るそうな。
少年が行う憑依は それとは全くの別物と言える。
少年自身の肉体ごとそっくり乗り移り、完全に相手の体を支配してのける。
憑依された相手は その間の記憶が全く無く、
もしも催眠術を使って聞き出したとしても原因を突き止める事はできない。
まさに完全な乗っ取りである。
その能力をもって、少年は教団に復讐を果たしたのだ。
宗教団体が解散するのは時間の問題だろう。
復讐を終えた少年は次の行動を開始した。
両親が居ないのだ、生きて行くためにはお金がいる。
だが少年はまだ中学生の年齢だ。
しかも、両親の起こした事件で世間の目は冷たい。
まともに働いたとしても知れていた。
もちろんギャンブルも論外だ。
本当なら彼の人生はここで詰んでいただろう。
だが彼には誰にも知られていない特殊能力が有る。
「絶対に生き残ってやる」
少年は そう心に誓い金策方法を考えていく。
辿り着いた答えは帳簿に残らず警察が調べない資金。
それをかすめ取る事だった。
そこで思い出すのは裏社会の闇金融。
教団と裏でつながり 両親に借金を取り立てに来た闇金融の業者を調べ上げた。
そこの幹部にはずいぶんと脅されたのだ、顔を忘れてはいない。
後は簡単だった。
幹部の男に憑依すると 組織の金庫に有る大金をダンボールに詰めて宅配を使って
自分の自宅に送った。
当然、足が付かないように偽名で送り、荷物の中身も書籍と伝票に記す。
送った後は伝票を燃やし、証拠を残さなければ誰も調べようが無い。
両親から騙し取ったお金を取り戻したのだ。
列記とした犯罪だが、少年に罪悪感は無かった。
その後 組織内で幹部の男を見た者はいない。
こうして少年は宅配の荷物を受け取り大金を手にしていく。
その後も同じような手を使い、警察の調べが入らないように裏金限定で資金をかき集めた。
次に不動産会社の人間に憑依して架空の保証人を作り土地購入の手続きを済ませ、新しく家を建て 未成年ながら土地と家を手にする事に成功した。
少年が一人きりで生活するのは不自然に見えたが、近所の人には親の遺産で生活していると誤魔化している。
憑依する事で多くの知識と情報を得た少年は 決して表に出る事は無く、存在を隠しながら悠々自適の生活を満喫していた。
そして 銀行に入れられない大金を守る為、自宅に過剰な防犯対策をするのだった。
やがて 社会を信用しない少年はネットの世界に没頭した。
************
ある日、少年がコンビニから出てくると、坊主が 檀家であろう家から出てきて車に乗り込む所だった。
宗教と見れば破滅させたくなる少年は坊主に憑依すると そのまま支配することなく様子を見ることにした。
その時 少年は良い方法を思いついた。
「人通りの多い所で車を暴走させてやろう」と。
「群集に車が突入し人々を撥ね飛ばす」ニュースでは時々流れる出来事だが、
聖人面している坊主が無差別に人をひき殺したら それはそれは大事件である。
もっとも、「精神がおかしかった」と認定されれば人殺しも許される変な国なので 死刑に成るかは疑問だが、坊主の人生が破滅するのは間違いない。
もはや 少年の心は犠牲者の事を考える良心などカケラも無く、悪魔と呼べるまでに落ちていた。
いよいよ商店街が近づき、人通りが激しくなってくる。
ついに 坊主の体を乗っ取った少年は 車を急加速して人の波に飛び込もうとした。
ところが、ここで計算違いがおこる。
坊主は仕事柄 憑依現象に慣れていた。
彼は自分の身に何が起こっているのかを瞬時に理解し、全ての力を振り絞って一瞬だけ体の支配を取り戻した。
完全に支配しているはずの腕が勝手に動きハンドルを切る。
車は高速で電柱に突っ込み大破。
坊主は 自ら電柱にぶつかる事で人をひき殺す事を防いだ。
新聞は伝えた、
『僧侶運転中に急死。幸いにも被害者は無し』と。
この時、憑依していた少年もまた即死していたのだが、
彼の死に気付く者は誰一人いなかった。




