1962年 11月5日 開戦3日後 北海道
あらすじ
1962年、米ソはキューバに設置されたソ連のミサイル基地を巡り対立し、核戦争もそう遠く無いと思われていた。そして1962年11月、米ソの交渉は決裂し米国はキューバに侵攻、NATO諸国も臨戦態勢を整えるがそれを受けソ連ははNATO諸国に宣戦布告、WTO諸国もそれに続きついに世界大戦が始まったのである。
日本国 北海道 稚内市にて
陸上自衛隊第2師団 第3普通科連隊及び第2戦車大隊所属の一個中隊
この日、稚内の天気は横殴りの吹雪であった。気温は0度を下回っているであろう。吐く息は白く、あらゆるものが凍りついていた。11月にこんな天気になるなんて、古今東西無いであろう。
「一尉、こんな天気でも奴さん来ますかね」
ショベルで雪を投げながら佐藤三尉がいかにも寒そうに言った。
「来るさ。来なきゃ何のために俺たちはここにいるんだ」
川西一尉が平然と答える。しかし彼も寒さで震えていた。海岸を走る道路脇に掘られた塹壕の中では普通科隊員が寒さに体を縮めながら前に見える宗谷海峡を見張って居た。しかしそこには海自のフリゲートが一隻以外何も見えなかった。横を向くとショベルを持った戦車隊員が暗い中で必死に、61式戦車に偽装のため雪をかけていた。
しかし吹雪は強さを増していき、戦車はすぐに雪で覆われてしまったため川西一尉以下戦車隊員はショベルを持って戦車に飛び込んだ。しばらくすると吹雪が止んできた。やがて雲がだんだん減ってきてあたりは明るくなっていった。すると微かに何か音が聞こえて来た。
「一尉、何か来ましたよ。敵機でしょうか」「さあな」
音はだんだん近づいて来る。そしてそれが真上に来た時、上を向くと空自のF-86の36機が爆音を地上に叩きつけて頭上を飛び去っていった。
前を向けば地平線の下からポツリポツリと黒点が現れた。数は20以上あるだろう。それは近づいて来るに従いだんだんと形がはっきりしてきた。おそらく敵のMiG-19というやつだ。そう思っているとF-86の両翼からロケット花火のような煙が伸びていった。対空ミサイルだ。
「ああ、始まりましたね…」
「頼んだぞ……!」
対空ミサイルの噴煙は敵機に向かって伸びていき、空中でひとつ、ふたつと爆発が見えた。ミサイル攻撃の次は格闘戦である。敵味方双方が入り混じり、戦闘機が次々と火を吹き墜落する様は実に壮観だった。気づけば宗谷海峡上空で飛び回っている飛行機の数は100機を超えているようだった。
やがてバラバラだった飛行機の動きがだんだんと纏まってきて、数の少ない方を多い方が追いかける形となった。数の少ない方を見れば日の丸をつけたF-86である。
「畜生!」
「やはり数には勝てなかったな…」
そこに今更、F-86が12機飛んできた。F-86は対空ミサイルを放ち、敵機の群れに突っ込み、何機か撃墜したが健闘虚しく最初のF-86とともに撃墜された。敵機の数はいつの間にか100機ほどに増えていた。戦闘機を撃墜した後は対地攻撃である。MiG-19が数十機、こちらにまっすぐ向かってきたかと思うと普通科の塹壕にロケット弾や機銃を浴びせて飛び去っていった。
「戦車に被害が出なくてよかったですね…」
「ただでさえ少ない戦車をすり減らされなかったのは実に幸運だが、これからどうなるかな…」
やがて砲声に気づき顔を上げて宗谷海峡を見れば海自のフリゲートが砲撃しながら東に向かって速力を増していた。その向こう、樺太の方には煙が見える。敵艦隊がすぐそこまで来ているのだ。すぐに水平線の向こうから砲声が聞こえて来て、フリゲートの周りに何本もの水柱が立ち上がった。しかしフリゲートは何事も無かったかのように砲撃しつつ離脱していった。その直後、水平線下から敵艦が姿を現した。普通科隊員が慌てて無線機に叫んだ。
「敵襲!敵襲!我第3連隊!敵は10隻以上の艦隊!詳細不明!」
遥か彼方からかすかに乾いた砲声が聞こえた。その十数秒後、敵艦隊は水柱に包まれた。特科の射撃だろう。
「こちら観測所、射撃諸元そのまま、続けて撃たれよ」
「こちら特科、了解」
そして特科が2斉射目を撃った時、敵艦隊からも砲声が聞こえてきた。普通科の塹壕が爆煙に包まれ、直後に敵艦隊が水柱に包まれる。その水柱の中から爆炎が上がった。
「やったぞ!」
普通科隊員が歓声を上げた。しかしそのうち砲弾が着弾する爆音にかき消されて聞こえなくなった。
そのうち敵は揚陸準備が済んだと見えて上陸用舟艇が群れを成して海岸に向かってきた。
「来ましたね…」
「撃ち方用意!徹甲弾装填しているな!?」
「徹甲弾装填ヨシ!」
砲塔がゆっくり旋回し、大きめの上陸用舟艇に狙いをつけた。
「目標!前方の敵集団!迫撃砲、テェー!」
迫撃砲が鈍い音を上げ、爆風に雪が巻き上げられた。迫撃砲は視界の悪さに構わず撃ちまくり、やがて上陸用舟艇のうちの一隻に迫撃砲弾が直撃し、爆散した艇から火を背負ったソ連兵が飛び出した。迫撃砲はそれに構わず毎分15発の発射速度で撃ちまくる。またもう一隻、上陸用舟艇が爆散した。しかし上陸用舟艇の大部分は無事に海岸にたどり着いた。扉が開き、中のソ連兵や戦車が見えた。その瞬間、普通科が射撃を始めた。
「撃てー!弾幕張れー!」
「薙ぎ倒せー!」
ブローニング機銃の掃射が揚陸艇に容赦無く飛び込んで行く。駆け出そうとしたソ連兵が次々と崩れ落ち、忽ち海岸に死体が山を成した。しかし敵歩兵の数に対して火力が足りていない。しかも敵戦車は銃弾の雨もものかわと前進して来る。
「目標!敵戦車!テェー!」
発砲音と共にマズルブレーキから爆炎が吐き出され、雪を舞いあげる。煙が晴れると砲身の先で、T-54が砲塔をこちらに向けて旋回して居た。
「次弾装填!急げ!」
僚車が次々と発砲する。しかし光を曳いて飛んで行った曳光徹甲弾は、虚しくも弾かれてしまった。すぐさま敵戦車が発砲する。幸いにも徹甲弾は61式の砲塔をかすめていった。
「テェー」
無反動砲が発砲した。発砲音と同時に雪が舞上げられ、T-54が数両炎上した。が、しかし次の瞬間、バババッと立て続けに敵戦車が発砲すると無反動砲陣地が複数消し飛んだ。
「撃てェー!」
轟音と共に硝煙が視界を遮った。硝煙が晴れると砲口の向こうでT-54が炎上していた。
「敵戦車撃破!」
「やりましたね!」
「次弾装填!急げェー!」
気づけば海岸線は敵歩兵に覆われていた。味方は果敢に反撃しているものの敵軍が放つ弾幕に比べ我が方の弾幕は情けなくなるほど貧弱だった。
「こちら第3連隊!敵戦力増大中!もう持ちません!」
「了解、後退を許可する」
「第3連隊は後退!戦車小隊は援護せよ!」
とうとう後退の指示が出た。普通科隊員が慌てて装備をまとめる。
「撃ちまくれー!食い止めろー!」
戦車は殿である。同軸機銃で突撃しようとした敵歩兵をなぎ倒し、慌てて装備をまとめる普通科を横目に戦闘を続けた。
「戦車中隊!後退せよ」
「操縦手!後退!」
ようやく後退指示が出され、操縦手に後退を支持したその時であった。ガンッと鈍い衝撃が走ったかと思うとボンッという爆発音が聞こえ、激しい衝撃が走った。
「脱出ーッッッ!」
即座にハッチから飛び出し、雪原に飛び降りたかと思うと後ろでズガーン!と大爆発が起きた。振り向くと61式が無残にも爆散している。自分以外のクルーの姿は見えなかった。61式の中を覗いてこようと一歩踏み出した途端に砲弾の破片が鼻の先をかすめた。慌てて近くを後退していた61式に飛び乗ると銃弾が飛び交う中だというのにキューポラのハッチが開き、そこから声が聞こえた。
「早く入れ!」
銃弾が飛び交う中でキューポラの中に飛び込むと2号車車長の山岡三尉が目を丸くして言った。
「隊長!失礼しました!」
「気にするな、それより無線機貸せ」
「どうぞ」
2号車の無線機を借り、中隊本部を呼び出す。呼びながら車外を覗くと61式が数両、炎上する僚車を避けながら煙幕を張りつつ後退していた。
「こちら連隊本部、どうぞ」
ようやく応答があった。
「こちら戦車中隊、撤退は完了したか」
「こちら連隊本部、一部が敵戦車の…」
向こうが言い終わらないうちに爆発音とともに通信が途切れた。
「連隊本部!何があった!応答せよ!」
しかし応答はない。
「三尉、連隊本部へ急いでくれ」
「ハッ!全速前進!急げ!」
「中隊全車、連隊本部へ!急げーッ!」
しかしあまり行かないうちに前方に敵戦車が現れた。
「もうこんなところまで…!微速後退!応戦せよ!」
しかし砲声を聞いて振り向くと後ろからも敵戦車が迫っていた。
「しまった!」
「畜生!後退できない!」
そして逃げる間も無く戦車中隊は完全に包囲されてしまった。
その後、戦車中隊は空自の支援を受け包囲を突破し帰還したが、その時戦車3両しか残存していなかったという。
次回!コンギョの始まりだ!




