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第22話 接触

 


「随分と繁盛しているようですね」


 きららはそう声をかけられて顔を上げた。

 男性が立っていて会計だろうかときららは彼の手元を見て、カウンターを見たが何も置かれていない。


(敵情視察かな?)

【……?】


「はい、ありがたい事に」

「店にある物全て、初めて見るものばかり。なかなかに、商人の適性が高いと見えます」

「あー……いえ、この店の主なメンバーは商人の適性を持っていないんです」

「持っていない?」

「はい。どうしても、ちょっと、お金が必要になったためにこういう手に出たと言いますか……」

「……なるほど……」


 男は肯いた。そして、小さな声で「だからか」と呟いた。

 他の人間だったら聞き逃していたかもしれないが、きららは神の手によって身体強化されている。その呟きが耳に入ってきて、思わず首を傾げた。


「あの?」

「ああ、失礼。参考になりました」


 そう言って男は去って行く。結局彼は何も買わなかった。


(やっぱり敵情視察だったね)


 きららはそうトモに話しかけて、今後の予定の素案をノートに書き連ねていく。


【あの、きらら様。今は目の前に先ほど話していた方は居ないんですよね?】

(え? うん。出て行ったよ? 見てなかったの?)

【……見えていませんでした。邪神族だと思われます】

「えっ!?」


 思わずきららは声をあげて立ち上がる。

 店内にいた客の目が集まり、きららは両手を軽く挙げて、頭を横に振り、なんでもないです。とジェスチャーする。

 レジを代わってもらい、きららは喫茶室の奥にある休憩所に飛び込む。


(どういう事!?)

【きらら様がお話している最中、私にはそれらしき者が見当たりませんでした。きらら様は目の前に立っていた人物と話をしていたんですよね?】

(う、うん。そうだよ!? え!? 本当に!?)

【はい。邪神族だと思われます】

「…………」


 きららは急激に体が冷えていくのを感じた。

 もしかしたら、そのまま戦闘になっていたのではないかという恐怖もわき上がってくる。


(こ、これ、みんなに知らせた方がいいよね?)

【はい。もうみなさまには連絡いたしております】

(トモ流石)

【マップデータと見える範囲内で人数が同じであるかという確認もお願いしています】

(……トモ、もしかして、それって……)

【はい。一番危険な方々をマップに表示出来ていない可能性があります】

(……うわぁ……)


 きららは密かに頭を抱えた。


【申し訳ありません】

(ん。いやいいよ。トモにばっかり負担をかけてるし。それに、良いか悪いかは分かんないけど、リンク切れた事で、基本的には地図という認識でしかみてないし)

【……申し訳ありません】

(謝らないでって)


 言い方がまずかったかなぁ。ときららは苦笑を一つした。


(きらら、今大丈夫?)

(うん。大丈夫だよ)


 奏太の言葉にきららは肯く。


(邪神族にあったって事らしいけど)

(うん。知らなかったけど、そうみたい)

(どんな感じだった?)

(どんな……。男性だった)

(それだけ!?)


 とツッコミを入れてきたのは誠だ。


(えっとね。ちょっと待ってね。えーっと……、服装は白い今までのやつで、……ものすっごい普通の人だったと思う)

(おーい、きらら~。それじゃなんのヒントにもならないぞー)


 誠がもう一回と言おうとした時、きららは違うと否定する。


(そうじゃなくて、印象を消しているっていう感じだったなって今思ったの! どこにでも居るような感じの人で、かつ、影が薄いって特筆するわけでもなく、本当に普通の人。正直トモが言わなきゃあたし信じなかったんじゃないかって今思ったもん)

(……それってけっこうまずい?)

(見分ける判断って付きそうにない?)

(特に印象に残るようなものってなかったと思う……)


 奏太の言葉にきららは特徴らしい特徴を考えようとして、そこら辺にいそうな人。としか言えそうに無かった。


(こちら特に人影なし。ところでゴーレムでも判断出来る?)


 今日はミチルが島に居たらしい。


【分かりません】


 トモには判断が付かなかった。

 自身が見えていない分、ゴーレムが見えているが、命令を受けていないから無視しているのか、本当に見えていないのが分からないのだ。


(監視カメラプリーズ)

(お、っぽいもの、やれるだけやってみるか?)


 いっそのことただの電子機器の方が映るかも知れないと、ミチルが呟くと誠も乗り気になってそんな事を言ってくる。


(きらら、どんな話したの?)


 悪のりではないだろうが、そのまま魔道具作製に話が行きそうな二人に割って入るように奏太が問いかける。


(え? 普通の会話。繁盛してますねっていう感じのやつ)

(んー……一応詳しく)

(えっと、繁盛してますねって言われて、ここにある物、見たことない物ばかりですって言われた? 後は……、トモ、あたしどんな回答してた?)


 ただ思い出そうとすると抜けそうで、きららは切り口を変えて答えることにした。



【『はい、ありがたい事に』】

(これは最初の『繁盛してますね』って声をかけられた時の返事)


【『あー……いえ、この店の主なメンバーは商人の適性を持っていないんです』】

(えっと、こっちは、『店にあるもの、見たことないものばかりです。商人の適性が高いんですね』って言われた時の回答)


【『はい。どうしても、ちょっと、お金が必要になったためにこういう手に出たと言いますか……』】

(あ、これは意外そうに聞き返されたから付け加えたやつだ)


【『あの?』】

(……ん? あれ、そんな事言った?)

【はい。これできらら様の返事は最後になります】

(……なんだっけ? えーっと、あ! そうだ思い出した。小声で『だからか』って言われたんだ)

(? どういう事?)


 密かにトモに会話をメッセージウインドウに順番に並べて貰っていた奏太が、眉を寄せた。


(え? 聞かれても困るよ?)

(……話の会話的にコレであってる?)



『男:『繁盛してますね』

 き:『はい、ありがたい事に』

 男:『店にあるもの、見たことないものばかりです。商人の適性が高いんですね』

 き:『あー……いえ、この店の主なメンバーは商人の適性を持っていないんです』

 男:聞き返す。(持っていない等)

 き:『はい。どうしても、ちょっと、お金が必要になったためにこういう手に出たと言いますか……』


 →『だからか』 入力?


 き:『あの?』 』



 出てきたメッセージウィンドウを見て、きららは肯く。

(うん。合ってる)

(……変)


 きららの言葉を否定するかのようにミチルが呟く。


(えー。でも確かにそう言ったんだよー!?)

(そうじゃない)

(うん。きららを疑ってるんじゃ無くて、これが本当だって考えた場合、その邪神族の男の回答が可笑しい。明らかに違和感がある)

(まるで、商人の適性を否定してる)

(適性を否定というか、商人だったらこんな事は出来ないだろうって思ってた、みたいな感じだ)


 奏太の言葉にみんなの中である疑問が浮かぶ。

 いや、確認なのかもしれない。


(そういやさ。商人の人達ってなんで新商品を作らず、転売ばっかりなんだろうな?)

(でも、テーブルクロスは考えたんでしょ?)

(いや、あれ、詳しく聞いてみたら部下の奥さんの案だったらしい。だから、正確に言うと商人の案じゃ無い)

(新商品。村の人達の方がずっと色々出してる)

(うん。鞄とか革とかそういうのも着色しようとしてたりするし……。言われてみたら、可笑しいかもしれない……)


 奏太の言葉に他の三人もこれまでの出来事に違和感を持ち始める。


(農家で家畜がいないのも俺、ちょっと意外なんだよな)

(家畜は餌がかかるからじゃないの?)

(いや、そうなんだけど、一応酪農やってるっぽい人も居るじゃん? それ借りて牛車というか、畑耕すのにも使わないんだって思った事はある)

(なるほど。あと鍋とかもデザイン統一されてるよね。大きいのとか小さいのとか。家庭環境によっても大きいのがいいとか小さいのがいいとかありそうじゃない?)

【基本的には核家族のような家庭環境はあまりこちらではありません。村のようなあえて人を外に出していない限りは……】

(うーん。そうかも知れないけど……。それにしても、鍋の種類は少なすぎると思うんだよね……)

(木材が使えない影響)

(いや、それで言ったら、火の魔道具がこれだけ普及してないのもおかしいって。どの家庭でも使ってても可笑しくないわけだし)

(魔道具が高いからでしょ?)

(……いや、誠のいう事は一理あるかも。魔道具が高いから買えないっていうけど、でも実際に薪だって結構な貴重品だ。火の魔道具自体がないんだったらともかく、実際にある。あるからこそおかしい。少なくとも商人だったら、各家庭に一つは必要なものっていう考えで、家庭用を開発させてもおかしくない。どうしても必要なものだから多少高くても買うはずだ。でも、実際にはそれがない……)


 奏太はそこまで考えた後、結論を出した。


(どうしよう……。ボクにはこれらが、作為的なものに思えてくる……)


 きららはその言葉を聞いて、一連の会話を見る。


 『だからか』


 その、聞かせる気の無かったであろう言葉……。


(邪神族が関わってる?)

(いや、たぶん、その大本、邪神じゃないかな)


 きららの言葉に奏太は弱った声で返事をした。

 帰るための道のりは思ってた以上に険しいのかも知れない。

 奏太はため息をついた。





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