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王立魔導航空団斯く戦えり  作者: 日渡正太
第1章 迷惑な来訪者
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3.目標捕捉!

 偵察飛行隊は、隊長、あたし、ミランダを含めて全部で6名。


 飛行杖の離着陸スポットは、土の地面に、白い石灰で離着陸場所であることを示す直線と円のラインが描かれているだけのシンプルなものだ。


 さらに今は夜なので、照明と誘導用の篝火がたくさん焚かれていて、明かりに照らされた半分木造、半分石造りの小型の城塞といったおもむきの基地庁舎の一部が、闇の中に浮かび上がっていた。


 その離着陸スポット上で、偵察飛行隊の6名がそれぞれ自分の飛行杖「ナイトゴーストR40」を魔法技師(魔法杖のメンテナンスや魔力充填作業などを専門に行う魔法使い)から受け取り、外観に異状がないか確認した後、念を込めた呪文を唱えて魔力を起動し、杖をアイドリング状態にする。


 そうすると、杖がふわっと浮かんで。地上1メートルくらいのところで滞空するので、その状態で杖にまたがり、データ表示用の魔法陣を呼び出し、システムに異常がないかチェックする。


 ちょうどその作業をしている時、隣の待機所から、第1戦闘飛行隊「ダート・フライト」のコールマン隊長と、アイワスが出てきた。

 2人はまずハドソン隊長に敬礼したあと、コールマン隊長はそのままハドソン隊長と何かを話し始める。


「俺達が最初から出ていけなくて申し訳ない、なんせ俺達の『バルチャー』は足が短くて夜間の捜索飛行には向かなくて……」

「いやいや気にしなさんな、これは偵察隊の仕事だよ」

 みたいな会話が聞こえてくる。


 ふと、アイワスが2人から離れて、あたしのところへやってきた。

「出撃だって? 大変だな」

 何やら優しい声でそう囁く。


「何? 見送り頼んだ覚えはないけど?」

 ハドソン隊長やミランダなど、他の仲間もいる中で、どうしてあたしだけにそんなことを言うのか意味がわからず、つっけんどんに言ってやると、アイワスは苦笑し、


「俺達も5分待機(命令があれば5分以内に離陸出来るよう準備を整えて待機すること)だ。……いいか、無理すんなよ。何かあったらすぐ基地に連絡しろ。俺達が飛んで行って、ライティアの竜騎士ぐらい一撃で仕留めてやるから」


 アイワスによると、現在、第1から第3まである戦闘飛行隊(第1がアイワス達が所属する通称「ダート・フライト」)が、全てアラート待機に入っているらしい。

 すでに基地全体が臨戦態勢だ。


「うん、わかった」

 いつにないアイワスの真剣な表情が何かおかしくて、あたしは微笑を返してやった。


「絶対、危ない真似すんじゃねえぞ」

 顔を近づけて、もう一度念を押すようにそう言ったあと、アイワスはあたしから離れた。


「いいねえ、リーザちん」

 すぐ後ろのスポットでアイドリング待機しているミランダが、意味不明の言葉を呟き、クククと笑うのが聞こえてきたが、まあ無視する。


 間もなく、基地の指揮所からテレパス通信で「離陸許可」が告げられ、あたし達偵察飛行隊は、地上誘導員の持つカンテラの合図に従って、ハドソン隊長を先頭に、一斉に離陸を開始する。


 飛行杖は垂直離着陸も可能だが、それだと魔力消費量が大きいので、離陸場所に十分な広さがある場合は、地上すれすれを水平に滑空しながら、徐々に杖先を起こして斜めに離陸、上昇することが多い(着陸するときはこの逆で、斜めに低い角度で進入して徐々に高度を下げて行き、接地する)。


 こうすることで離着陸にかかる魔法力が多少なりとも節約できるし、いったんホバリングしなければならない垂直離着陸より時間も短くて済むのである。


 あたしは、目の前のハドソン隊長が、背中越しに軽く手を上げて発進の合図をしたのを確認すると、待機所の扉の前で挙手の礼をして見送るコールマン隊長とアイワスに軽く答礼し、隊長の後に続いて、杖に念を送って前進加速をかけた。


 ぐん! と体に後ろ向きのGがかかるとともに、左右に並ぶ誘導用の篝火がさあっと後ろに流れる。5秒後、離陸速度に達したあたしの「ナイトゴーストR40」は地上を離れて上昇を開始した。

 

 離陸完了したあたし達偵察飛行隊6名は、上空500メートルに達するとすぐに散開して、それぞれが指示された哨戒担当エリアに向かった。


 偵察飛行隊が任務中に編隊飛行することは、あまりない。あたしも仲間と別れ、単独で自分の指示された担当区域に向かう。


 そして夜通し飛び続けた結果……何も発見できなかった。


 町や村の上で低空飛行して、異状の有無を確認しろと言われても、まずその町や村にたどり着くことが難しい。地上の見えない夜間飛行だから、まさに目隠しされて飛んでいるようなものなのだ。


 そうやって夜明けまで無駄に魔力を消費した挙句、なんの成果も得られないまま、むなしく帰路につき、途中ミランダと合流して、現在に至る……というのが今の状況だ。


「ふあー、リーザちん、もうライティアに帰っちゃったかもしれないね、竜騎士……」


 あたしの右側を飛ぶミランダが、あくびをしながら眠そうに目をこすっている。

 ミランダの言う可能性は十分に有り得る。


 ライティアの竜騎士だって、夜間の飛行は昼間より大変なはずだ。

 訓練か何かの理由で夜間飛行していた竜騎士が、誤って国境を踏み越えた。しかしすぐに位置の異常に気づき、引き返して自国の領域に戻った……。


 闇夜のことでもあるし、戻るところを国境監視所が見逃す可能性は大いにある。


「そうだったらいいんだけどねー」

 空の上で誰も見ていないのをいいことに、あたしも大あくびしながら答える。


 雲がますます低く垂れ込めてきて、この高度でも視界が怪しくなってきた。


 あたしらは高度を300まで下げる。

 この雲が地上にまで降りて、霧になってしまうと厄介だ。視界が確保できなければ、基地への着陸がかなり難しくなる。


 基地まではあと5分程度のところまで来ている。


 いつもならとっくに見えているはずのアップルヤード基地が、白い靄の向こうに霞んで、全く見えない。さらに高度を下げたほうがいいだろうか。

少し向かい風が出てきた。


 あおられないように両手で杖をしっかり握ってホールドする。急な突風に備えて、巡航速力の60ノットで飛んでいるのを、40ノットまで下げる。


 ミランダに合図して、高度150まで降下する。

「トーラ2よりアップルベース、感度ありますか?」


 普通なら、そろそろ基地のテレパス通信可能域に入るので、最終アプローチの連絡をするため、通信を送ってみる。


 あたしの顔のすぐ横に通信用の四角くて小さい魔法陣が現れ、魔法波が正常に送出されていることを示す緑色の光点が表示されるが、雲と風のせいなのか通信状態が悪く、基地からの応答がない。


 まあ、こういうものだからしょうがないか……。


 そう思いながら、急速に白く霞んで行く地上を見る……ん?

 左手の森林、木立の中で何か動いた。


 あたしは地上を指差して、ミランダに合図を送る。

 ミランダも気づいた。


 木立の中の一部の樹木が、ガサガサと動いている。

 高度を下げながら、木立の上空に向かって、杖を旋回させる。


 まさかとは思うけど……。


 降りて調べたほうがいいだろうか、それともこのまま基地に戻って連絡を……。


 まさにそう思った瞬間――――。


 突如として、上空まで聞こえるすさまじい獣の唸り声のようなものが響き渡った!

 一瞬、杖にまたがったまま凍りつくあたしとミランダ。

 

 同時に森の一部が盛り上がり、すごい勢いでへし折った木々の枝と葉っぱを派手に撒き散らす――――!

 と思う間もなく、その中から巨大な咆哮を上げて緋色の巨体が天を突くように飛び出した――!


「ひゃあああっ! リーザちん!」

「本当に出た!」


 見まごうことなきライティアの竜騎士だ!

 緋色の「スカイドレイク」の巨体と、それにまたがる黄金色の鎧をまとった騎士の姿もはっきりと見えた。


「スカイドレイク」の体長は約15メートルだが、こうしてみるとかなり大きい。巨大な翼を広げているからなおさらだ。それが、ほとんど垂直上昇するような角度で、あたしとミランダに向かって突っ込んで来た!


 この時、ブレスでも吐かれていたら、たぶん二人とも撃墜されていたと思う。


 だが「スカイドレイク」は、急上昇しつつあたし達の前を通り過ぎると、そのまま水平飛行に移り、南に針路を取った。

 南とは、つまりアップルヤード基地の方角だ!


「ミランダ、大丈夫!?」

「ふえー、やばいよリーザちん!」

 とにかく体勢を立て直して「スカイドレイク」の後を追うあたしら2人。


 強い向かい風にあおられて速度が出せない。

 巨大な「スカイドレイク」は風による影響をものともせず、羽ばたきと滑空を繰り返しながら、ぐんぐん基地に向かって突進して行く。


「トーラ2よりアップルベース!」

 慌ててテレパス通信でアップルヤード基地を呼んでみるが、相変わらず応答はない。

 とにかく、あれより先に基地に着いて、敵の来襲を知らせないと!


 あたしは風を無視して、杖を加速させた。

猛烈にあおられ、暴れまわる杖を必死に押さえ込む。普段なら危険行為だが、今は緊急事態だ、そんなこと言っていられない。


 激しい風圧で、目を開けているのがつらい、呼吸ができない。

 我慢して杖を握り締める。

 ミランダが付いてきているかどうか確認する余裕もない。


 しかし、さすがは速度性能に優れる「ナイトゴースト」だけのことはある。少しずつ、前を行く「スカイドレイク」の緋色の巨体が近づいてきた。


 あたしがアイワス達のような「戦闘杖乗り」なら、ここでファイアーボールの一発でもお見舞いして、竜野郎を撃ち落してやるところだが、それは出来ない相談だ。


 あたしは顔を下に向けて、少しでも呼吸を楽にしつつ、さらに緋色のドラゴンとの距離を詰める。


 魔法陣を呼び出して対気速度計を見る暇もない。今何ノット出ているんだろう?


 雲はほとんど地上までを覆いつくし、深い霧にかわっている。

 視程はおそらく500メートルもないだろう。


 前を行くドラゴンの緋色の巨体も、時折霞んで見える。

 すでに目前に迫っているはずのアップルヤード基地は、霧の向こう側に白く沈んで、まだ見えない。


 いや、待て、何か光った!


 霧の向こう、ゆらめく光が直線状に並んでいるのが見える。

 アップルヤード基地が、誘導用の篝火を焚いているのに違いなかった。


 濃霧の中、帰投する味方のために、基地の場所を示してくれているのだ。

 だが今はそれが仇になった。


 光を見つけたらしいドラゴンが、それに向かって高度を下げ始めた。


 万事休すか!?

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