第1話 赤都
「こらぁ!まちなぁ!」
ざわつく商店街の中、八百屋の老婆から人目のつかない場所へと一人の少年は逃げていく。
ここ赤都はどこもかしこも赤ばかり。生まれてくるものはなぜかみな赤髪のみであり、情熱的で上昇志向、好奇心旺盛な人々で溢れていた。
この少年トゥイもその一人である。
「ハァハァ…ここまでくりゃあ…大丈夫だろ。」
「こらっ!あんたまた市場の食材盗んだでしょ!」
トゥイの前に現れたのは彼と幼馴染のミンリンという名の少女だった。
「げ⁉てめェなんでいつも俺の居場所わかんだよ⁉」
「何年あんたと一緒にいると思ってんのよ!いいからその食材をモトあったとこに返しなさい!」
「やなこった!誰が元に戻すか!…それよりお前…今日赤白のストライプなんだな。」
チャイナ服の隙間から少し覗き見して彼女の下着を妖艶な目で見つめた。
「ちょ…あんた…なに…」「ふんじゃあな!」
隙をついてミンリンを追い越し、軽快なステップで障害物をかき分けスルスルと奥の路地へと抜けていった。
「ちょっと待ちなさいよ…!」
ミンリンもすぐトゥイの後を追う。
だが、トゥイに追いついたときには決まっていつも何も言う事ができなかった。
「兄ちゃん!またこんなに!今日もご馳走だね!」
「ホントだ!食材いっぱいだ!」
「だろ?よーし!待ってろよ!すぐ作ってやっからな!」
トゥイは来る日も来る日も食材を市場から盗んでは、まだ幼い六人の兄弟たちにたらふくごはんを食べさせていた。それが不本意な形であったとしても、彼の兄弟を前にしてミンリンは強く言うことが出来なっかったのだ。
『ブー!ブー!』
突然近くの拡声器からサイレンが鳴りだした。
『緊急!緊急!今すぐ紅の館に集合せよ!紅の館に集合せよ!』
村の人々は動揺を隠せずざわつき始めた。
「大丈夫だ。お前らはなんも心配することねーんだから。ほらっ!早く部屋に入った!入った!」
トゥイは事態を気にすることなく、兄弟たち心配そうな様子に優しく笑いかけた。
「よくないでしょ。」
さすがにこれは見逃せないと言わんばかりに、ミンリンはトゥイの腕を掴む。
「なんだよ…まだいたのか…ミンリン…」
「あんたも知っているはずよ。この国では緊急や集会の際は16歳以上は集まらなきゃいけない決まりがあるの。いくら兄弟たちが大切でも、この国のルール従わないのはご法度なはず。」
「別にいいだろそんなの。オレには関係ないね。」
いつになく真剣なミンリンの表情に少しうっとうしく感じ、荒い口調でミンリンの手をはらう。その様子をみていた兄弟たちが声を揃えて言う。
「ダメだよ !行かなきゃ!お兄ちゃんだからこそ行ってほしい!」
「そうだ!そうだ!」
「お、お前ら…」
しまったという表情でトゥイは腰が引けてしまう。
「…ったく…しゃーねぇ…今回だけな…。」
「あなたも兄弟たちには弱いのね(笑)」
兄弟たちの説得もあり、仕方なくミンリンの言う事を聞き、紅の館にトゥイは行くことにした。
ミンリンは少し嬉しそうに鼻をすすった。
「おい、まだかよ。おせーなーだりーなーかえりてーなー。」
紅の館に到着してはや十分が経過していた。国の人々は既に集まっており、まだかまだかとざわついていた。
「もう!せわしないわね!少しくらい黙って待てないの?」
「うるせーな!おりゃあ待つのが嫌いなんだよ。」
「はぁ…これだから単細胞は…」「おい、なんか言ったか?」
2人がくだらない言い合いをしていると、館の奥から色鮮やかな着物で身をまとった美しい女性が現れた。
「チョンテイ様だ…。」
「相変わらず美しいわ…素敵…」
人々はなかなかお目にかかることができないせいか、その美貌ぶりに誰もが彼女に見とれていしまっていた。
「おいミンリン。誰だあれ?」
突拍子のないその発言にミンリンは唖然とした。
「あ…あんたバカじゃないの⁉この国の長のチョンテイ様よ⁉」
「ふーん。そーか。」
ミンリンが小声で耳打ちをしたのにもかかわらず、そのことを恥じないトゥイに呆れていた。
そしてようやく準備が整い、長の口が大きく開く。
「皆の者!今回集まってもらったのは他でもない!重大な言付けをするために少々時間をとらせてもらう!」
周囲が息をのむ。長は深呼吸をして静かに口を開いた。
「…朱雀が死んだ。」
「ウソだろ…」「まじかよ…」「そんな…」
皆、落胆の表情を浮かべていた。だが、トゥイだけは意味が掴めない顔をしていた。
そんな彼を置いていくように話は進められていく。
「朱雀が死んだことにより、今!この場で新たに!四神の一人朱雀を!一刻も早く決めなければならぬ!そこで!候補として私自らが火生土で占い、候補2人を選出する!」
長は火生土と呼ばれる水晶を掲げた。
そのまま予め用意されていた椅子に座り、膝の上に風呂敷包みをそえて、さらにその上に火生土を置いた。
そして長は火生土に両手を近づけ占いが始まる。皆、黙ってその様子を見守る。
一人取り残されたトゥイは、相変わらずワケが分からず首を傾げていた。
「!…占いの結果!酒場のペイニュ!義賊のトゥイ!この二名とする!以上の者は三日後の闘技に備え訓練に励め!その勝者が!三十二代目の朱雀とする!!」
オオオオオオオ!と歓声が沸き上がり、そのまま集会は終わった。




