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モンスター協会



世界資料


王立魔族生態管理協会


――通称 《モンスター協会》総合解説――




■ 総論


モンスター協会。正式には《王立魔族生態管理協会》。

大陸中央諸国においては単に「協会」と呼ばれることも多いが、辺境では畏怖や嫌悪を込めて「白衣の狩人」「図鑑屋」「賞金札の館」などとも呼ばれる。


この組織は、表向きには魔族の生態調査、危険個体の管理、民間人の保護、未踏領域の調査記録、被害抑止のための討伐認定を目的として設立された公共性の高い機関である。

しかし実際のところ、その本質は単純な調査団体でも冒険者の仲介所でもない。

モンスター協会とは、人間がこの世界の覇者となった後に築き上げた、「異形なる他者を分類し、定義し、制度の内側へ閉じ込めるための巨大装置」である。


魔族とは、人間側が用いる包括名称に過ぎない。

本来、山に住む角持ちの氏族も、霧の中にしか定着できない半霊種も、地下深部で群体国家を営んでいた節足系知性種も、古代戦争以前にはそれぞれ固有の呼称・言語・歴史・祭祀体系を持っていた。

だが人間は勝利後、それらを細やかな差異ごとまとめあげ、危険生物・異常個体・災害種・討伐対象として統一的に扱うための言葉を必要とした。

その便宜的かつ政治的な呼称が「魔族」であり、モンスター協会はこの呼称を社会常識に固定した最大の機関である。


したがって、協会の最大の役目は「魔族を知ること」ではない。

むしろ、人間にとって都合の良いかたちで魔族を“知ったことにする”ことにある。

図鑑とは理解の書であると同時に、所有の書でもある。

分類とは学問であると同時に支配の技術でもある。

モンスター協会はまさにその両義性の上に成立している。


この世界資料では、モンスター協会の成立史、組織構造、権限、思想、各部門、図鑑制度、ランク付け、賞金制度、検体保管、対外関係、現場文化、腐敗、異端派閥、そして物語上の機能に至るまでを体系的に整理する。




■ 成立の歴史



一、黙示戦争後の混乱


数百年前、人間諸邦と多種族諸勢力のあいだで勃発した《黙示戦争》は、大陸の秩序そのものを塗り替えた。

戦争の本質は単なる領土争いではなかった。

魔力脈の支配、古代遺構の継承権、進化観の優位、神話解釈、資源流通、交易路、祭祀権、そして何より「この世界の中心はどの種であるべきか」という文明論争が長期化した結果、戦場は全土へ広がった。


戦争末期、人間は単体では劣る戦力を共同体形成、記録保存、技術転用、兵站構築、規格化された装備運用によって補い、ついには各地の異種族圏を断続的に崩壊させた。

しかし勝利後、人間が直面したのは平和ではなかった。

敗北した魔族の一部は滅び、一部は辺境へ逃れ、一部は人間都市へ潜伏し、一部は互いに同盟し直し、局地的抵抗を続けた。

しかも彼らは単一種ではなく、生態も言語も習性も異なるため、王国軍や騎士団ごとの場当たり対応では被害が絶えなかった。


ある地域では夜間に家畜だけが消え、ある地域では井戸水が意志ある毒へ変じ、ある都市では生まれた子供に獣化兆候が現れ、また別の山道では討伐済みとされた死体が翌月には別個体として再出現した。

人間はここで初めて悟る。

異形を殺すだけでは足りない。

異形を分類し、その出現法則を記録し、社会全体で共有しなければ支配は完成しないのだと。



二、初期調査院から協会へ


最初に設立されたのは、中央聖冠歴三一二年に王都ヘルミナで発足した《異形生物臨時調査院》である。

これは戦後復興政策の一環として作られた小規模機関で、任務は被害報告の収集、死体標本の保存、危険地域地図の作成に限られていた。

当初は魔術師、従軍神官、薬学者、地誌学者、解体屋、退役兵などの寄せ集めであり、学術機関と軍の中間のような不安定な組織だった。


しかし調査院は予想以上に有効だった。

同一地域で繰り返される襲撃が、別個の怪異ではなく同系統個体の回遊や繁殖によるものだと判明し、対策が飛躍的に改善されたのである。

被害の記録を蓄積し、特徴を統一語彙で整理し、再現的な対応手順を作る。

この実務が各国に評価され、調査院は次第に予算と権限を拡大した。


やがて中央諸国は、各王国・公国・自治都市・聖教区がばらばらに怪物対策を行うよりも、広域で情報を統合する常設機関を置く方が効率的だと判断する。

こうして調査院は再編され、中央聖冠歴三四八年、複数国家共同の認可組織として《王立魔族生態管理協会》が成立した。

名に「王立」とあるのは最初の認可国が王国だった名残であり、現在では共和都市や神殿領も加盟しているが、呼称だけは維持されている。



三、成立時の政治的本音


協会設立の表向きの理由は民衆保護であったが、真の目的は三つあった。


第一に、魔族の定義権を国家側に独占させること。

ある存在が「知性種」なのか「討伐対象」なのかを誰が決めるのか。

この判断権を握る者は、戦後秩序の道徳的正当性を握る。

協会はその判定基準を制度化した。


第二に、賞金制度を通じて民間武力を国家管理下に置くこと。

討伐依頼を協会経由にすれば、傭兵や冒険者は公的認証に依存せざるを得ない。

これにより、戦後に余剰化した武装者たちを秩序の外へ流出させずに済んだ。


第三に、魔族関連情報を中央集権的に蓄積すること。

辺境でしか得られない知見、遺跡に眠る古文書、血統情報、繁殖特性、変異兆候、弱点、禁忌儀式。

こうした知識は軍事にも、医療にも、神学にも、統治にも使える。

協会は学術機関を装いつつ、巨大な情報諜報網としても発展していった。




■ 協会の基本理念


協会の公的理念は、建前としては以下の四つにまとめられている。


一つ、人命の保護。

二つ、魔族被害の抑止。

三つ、生態の理解と記録保存。

四つ、秩序ある討伐と封印の実施。


だが内部文書、とりわけ高位職員向けに配られる訓練冊子には、より露骨な一文がある。


「分類されぬ脅威は、秩序の外にある。秩序の外にあるものは、やがて秩序そのものを食らう」


この言葉は、協会の精神をよく表している。

彼らにとって恐ろしいのは強い魔族ではない。

理解不能、定義不能、制度化不能なものこそが最大の恐怖である。

ゆえに協会は魔族を討つだけでなく、名を与え、番号を振り、図録に載せ、危険度を定め、対応手順を作る。

「知られたもの」「記録されたもの」に変えてしまえば、人間社会はそれを管理可能だと信じられるからである。


この思想はしばしば信仰に近い。

現場の職員のなかには、「図鑑に載らぬ怪異は存在しないも同然だ」とさえ口にする者もいる。

つまり協会にとって図鑑とは単なる本ではなく、世界を“人間が扱える形”へ翻訳する聖典なのである。




■ 組織構造


モンスター協会は極めて巨大で、単一の庁舎で完結する組織ではない。

大陸各地に支部・観測所・収容庫・研究棟・封印墓所・前線連絡詰所を持つ準超国家機関である。


一、中央総院


本部機構。中央大陸西方の商都兼学術都市エルミオンに存在する。

通称「総院」。

総院は行政機能と学術機能の両方を持ち、各地の支部から送られる報告・標本・申請・苦情・遺品・討伐証明書を集約する。


総院の長は総監と呼ばれ、任期制。

ただし実質的には加盟諸国と大貴族、聖教会、軍閥、学術会派の思惑が絡み、純粋な能力主義で選ばれることはほとんどない。

総監の下には複数の局があり、それぞれが独自の権限を持つ。


二、分類編纂局


図鑑作成の中核。

新種認定、既存分類の再検討、命名規則の整備、学名付与、危険度査定、旧記録との照合を担当する。

ここに所属する者たちは「分類官」「記述官」「編纂師」と呼ばれる。

協会における権威の中心は実は戦闘部門ではなく、この分類編纂局にある。

なぜなら、何がどのランクで、何と名付けられ、どのように社会へ告知されるかを決めるのは彼らだからである。


三、観測調査局


現地調査、足跡採取、痕跡解析、生息域地図作成、聞き取り調査、遺跡踏査を行う。

現場で最も死者が多い部門の一つ。

ここに属する者は「観測官」「野帳士」「踏査員」などと呼ばれる。

彼らは武装もするが、主眼は戦闘ではなく記録である。

生きて帰って報告書を書くことが仕事であり、英雄的突撃はむしろ無能と見なされる。


四、賞金執行局


討伐依頼の発行、賞金額の設定、達成条件の審査、討伐者登録、成果物確認、報奨金支払い、不正請求の摘発を担当する。

世間一般が「モンスター協会」と聞いて真っ先に思い浮かべる窓口はたいていここである。

傭兵、冒険者、騎士崩れ、追跡屋、辺境猟師、魔術師崩れなど、人間社会の荒事人材が最も多く出入りする部門であるため、雰囲気は他局に比べて荒っぽい。


五、検体保全局


死体、器官、骨、角、皮膜、卵、寄生体、魔石化したコア断片、血液、分泌液などの保管と管理を行う。

公式には医療・研究・同定のためとされるが、ここが最も倫理問題を抱える部署でもある。

知性を持っていた魔族の遺体が、同意なく解剖・標本化・展示されることも珍しくない。

地下収蔵庫は「白墓」と呼ばれ、内部事情を知る者ほどその名を嫌う。


六、封印管理局


討伐不能、殺害非推奨、あるいは死後再生の恐れがある個体に対し、封印・隔離・監視を行う。

古代術式、教会封印具、契約楔、封墓の管理などを担当するため、魔術師や神官、刻印師が多い。

最も機密性が高く、失敗した場合の被害も大きい部門である。


七、対外交渉局


王侯貴族、地方領主、教会、商会、学術院、傭兵団、時に一部の知性魔族との交渉を行う。

とくに外交上厄介なのは、ある地域で「討伐対象」とされる種が別の地域では「古き守護者」として崇拝されている場合である。

協会は中立を装うが、実際には加盟強国の意向に引きずられやすい。


八、秘録局


公には存在しないとされる部署。

図鑑に掲載不能、情報公開不許可、政治的配慮により削除された記録、または人間の起源や魔族との連続性に関わる禁忌資料を管理する。

ここに触れた者は昇進するか、消えるかのどちらかだと言われる。

物語上きわめて重要な部門になりうる。




■ 支部制度と地域差


中央総院がすべてを直接支配しているわけではない。

モンスター協会の現実は、むしろ地方支部ごとの顔つきの違いにある。


豊かな王都支部では、帳簿、標本室、薬品庫、検査室、賞金審査窓口が整然と並び、職員は制服を着て職務に就く。

一方、辺境砦の出張所では、狭い石造りの建物に乾いた血、剥製の臭い、酒気、破れた地図、槍傷だらけの机、そして壁一面の手配札が貼られ、半分は兵站拠点のような有様になっている。


地域差が出る理由は大きく三つある。

第一に、相手とする魔族の種類が違うこと。

第二に、協会への予算が地域ごとに違うこと。

第三に、地方領主や教会との関係性が違うことだ。


ある支部では知性魔族との接触報告すら握り潰されるが、別の支部では非公式に交易や情報交換が行われることもある。

つまり協会は一枚岩ではない。

総院が掲げる理念の下で統一されているように見えて、現場では地域事情と担当者の思想が強く反映される。

この揺らぎは物語の余地として非常に重要である。




■ 図鑑制度



一、図鑑とは何か


モンスター協会の象徴が《魔族生態図録》、通称「図鑑」である。

これは単なる怪物名鑑ではなく、各種魔族を個別の項目として整理した大規模記録体系であり、現場携行用の簡易版から、総院にのみ保管される原典版まで複数の階層を持つ。


一般流通する簡易版には、以下の情報が載る。


* 呼称および通称

* 暫定分類番号

* 想定系統

* 危険ランク

* 主属性および副属性

* 生息域

* 目撃頻度

* 特徴的形状

* 推定異能

* 行動傾向

* 推奨討伐手段

* 納品対象部位

* 賞金基準額


しかし原典版はこれよりはるかに詳細である。

繁殖情報、変異条件、混血可能性、精神汚染事例、会話記録、断末魔の発話、部族名、古語、遺物との共鳴性、封印履歴、人間社会への潜伏事例など、政治的に危険な情報まで載る。



二、記述の偏り


図鑑は客観的な記録を装うが、実際には強いバイアスを持つ。

たとえば知性のある魔族についても、「交渉可能」「弔いの習俗あり」「文字使用」などの記述は要約されがちで、その代わり「狡猾」「擬態性高」「人語模倣あり」といった脅威表現が強調される。

これは意図的である。

知性や文化を強調しすぎれば、討伐と解剖の正当性が揺らぐからだ。


また、過去の人間敗北記録や、戦争時に人間側が先に虐殺を行った史料などは原典版からすら削除されることがある。

協会の図鑑は事実の集積であると同時に、人間文明が自らの正義を維持するための編集物でもある。



三、図鑑と権力


図鑑に載るかどうかは、その魔族の存在が公的に認知されるかどうかを意味する。

逆に言えば、図鑑から削られたものは存在していないも同然となる。

このため協会内部ではしばしば「載せる・載せない」を巡って政治闘争が起きる。


たとえば、ある知性魔族が人間領で孤児を保護していた事例があったとしても、それを図鑑にどう記すかで意味は大きく変わる。

「人間幼体を誘拐し巣へ持ち帰る習性あり」と記せば討伐対象。

「地域防衛性を持つ高知能個体」と記せば保護研究対象。

この一文の差が命運を分ける。

つまり図鑑を編むことは、世界の道徳を編集することに近い。




■ ランク制度


モンスター協会は魔族を危険度・被害規模・討伐難度・生態不明度に応じてランク分けする。

ただし世間一般に信じられているほど、ランクは「強さ」だけを示すものではない。

むしろ人間社会にとってどれほど面倒かを示す指数に近い。


◼︎F級


小型、低被害、群れを成しても訓練兵で対応可能な個体群。

畑荒らし、家畜襲撃、墓地への侵入などが主。

新人討伐者の訓練対象になりやすい。

ただし、F級だからといって無害ではない。寄生や病原性を持つ種は死者を出す。


◼︎D級


一般的な低位魔族。

村単位で脅威になりうる。

冒険者や地元自警団が主に相手をする階級。

最も件数が多く、賞金制度の土台になっている。


◼︎C級


単独冒険者では危険、複数名の熟練者が必要。

特殊異能を持つ個体も増え、討伐証明にも厳格な審査が入る。

人里近くで活動する知能持ち個体がここに置かれることもある。


◼︎B級


地域脅威級。

街道封鎖、集落壊滅、商隊消失などが発生しうる。

ここから先は軍・騎士団・協会直轄班が関与する。

しばしば「知性を持つゆえに厄介」という理由で危険度が上がる。


◼︎A級


都市脅威級。

通常戦力では抑止困難。

高位異能、再生性、広域汚染、眷属生成、気象変動などを伴う個体が含まれる。

一国の外交問題になることもある。


◼︎S級


国家災害級。

討伐成功よりも、封じ込めと避難が優先される。

古代戦争遺存個体、広域呪詛存在、王都級防衛線を突破しうる種など。

図鑑に記載される情報も抑制されがちで、民衆には全貌が知らされない。


◼︎EX級


分類不能、または既存制度では扱えない存在。

記録の汚染、認識阻害、歴史改変、死後継続、群体国家性、交渉により戦略均衡が崩れる知性種などが候補。

しばしば一般図鑑からは秘匿され、秘録局案件になる。

主人公が最終的にここへ置かれる可能性は高い。


◼︎補記


ランクは固定ではなく、時代や政治都合で上下する。

討伐予算を引き出したい支部は危険度を盛り、被害隠蔽したい領主は低く報告する。

つまりランク制度は科学でもあり、行政でもあり、政治でもある。




■ 賞金制度


協会の顔とも言える制度が討伐賞金制度である。

これは、民間武装者に魔族討伐を委託する代わりに、成果に応じて金銭や物資、通行権、爵位推薦などを与える仕組みだ。



一、賞金の決まり方


賞金額は単純なランクだけでなく、以下の要素で決まる。


* 想定被害規模

* 討伐難易度

* 再出現の危険性

* 依頼地域の政治的重要度

* 検体価値

* 目撃件数の増加率

* 既存対策の失敗回数

* 生け捕りの必要性


つまり賞金は「危険度」だけでなく、協会がどれほどその対象を欲しているかの指標でもある。



二、納品証明


賞金受領には、通常、角・眼球・尾端・コア断片・契約刻印・頭部・黒血嚢など指定部位の提出が求められる。

だが高知能魔族の場合、その部位納品は遺体損壊に等しい。

それでも制度は維持されており、討伐者たちはしばしば賞金のために死体を損壊する。

この慣行は魔族側から見れば冒涜以外の何物でもない。



三、不正と偽装


賞金制度には当然腐敗が付きまとう。

別種の部位を寄せ集めて高ランク個体に偽装する者、死体を密輸して二重請求する者、保護対象の希少魔族を故意に高危険個体として申請する領主、協会職員と結託して賞金を分配する傭兵団。

そのため賞金執行局には鑑定官がおり、魔力残滓や断面、腐食時間、属性反応などを見て判定する。



四、討伐の英雄化


都市部では賞金首を倒した者が英雄扱いされることが多い。

酒場には手配札が貼られ、達成者は武勇伝を語り、商人はそれを見世物にする。

この文化は人間社会に「怪物を狩るのは善である」という感覚を浸透させる。

協会は公的には煽動を否定するが、実際にはこの英雄文化を巧みに利用している。




■ 協会職員の階級と現場文化


協会職員は一枚岩ではない。

理想に燃える学者もいれば、金のために死体を解体する者もいる。

魔族をすべて悪と信じる者もいれば、彼らの文化を知ってしまい苦悩する者もいる。


◼︎主な階級


* 見習い記録員:書類整理や図録写本、簡易調査補佐

* 現地補佐官:調査隊の補給・運搬・雑務

* 観測官:現地での痕跡調査・聞き取り・危険判断

* 分類官:標本と記録の照合、項目作成

* 封印技官:危険個体の拘束と封印

* 査定官:ランク審査、賞金額算出、討伐証明確認

* 主任編纂官:図鑑項目の最終文言決定

* 支部監督官:地方支部の統括

* 総院評議官:中央で政策方針を決める上層部


◼︎現場文化


現場では、机上の規則と実地の経験がしばしば衝突する。

分類官は「報告書にない危険を持ち込むな」と言うが、観測官は「報告書に載る頃には死んでいる」と吐き捨てる。

賞金執行局は証明部位がなければ支払わないが、討伐者は「部位を取ろうとして二人死んだ」と怒鳴る。

こうした摩擦は日常であり、協会内部には独特の皮肉と諦観が漂う。


酒場ではしばしば次のような冗談が交わされる。

「魔族より怖いのは分類修正だ」

つまり、一度確定した項目が改訂されると、推奨装備も対策法も一変し、これまでの現場経験が無駄になることがある。

それほどまでに、協会では“記述”が現実を左右する。




■ 魔族に対する基本方針


協会は公式には、魔族全般を以下の四類型に分けて扱う。



一、駆除対象


低知能かつ人里に恒常的被害を与えるもの。

繁殖力が高く、交渉不能と見なされる。

もっとも件数が多く、制度上もっとも躊躇なく殺される。



二、管理対象


知能の有無を問わず、生息域の把握と接触制限によって被害を抑えられるもの。

封鎖区域や巡回警戒で済ませる場合もある。



三、研究対象


希少性が高い、あるいは未知の異能を持つもの。

この類型に入ると、生け捕り命令や死体完全回収指令が下る。

魔族からすれば最悪の指定である。



四、封印対象


殺害による被害拡大、再生、死後呪詛拡散などが予測されるもの。

S級以上に多い。


ただし現実には、知性を持つ高位魔族ほど「研究対象」と「討伐対象」の境界が曖昧になる。

対話可能であることは、協会にとって必ずしも保護理由にはならない。

むしろ思想を持つ異形は反乱の核になりうるため、危険視される。




■ 知性魔族と協会の矛盾


モンスター協会最大の倫理的矛盾は、知性と人格を持つ魔族を、制度上なお“生態管理対象”として扱っていることである。


たとえば、人語を話し、埋葬習俗を持ち、血縁概念があり、交易も可能な氏族がいたとする。

それでも彼らが人間国家に正式承認されなければ、協会上は「高知能魔族集団」ないし「準文明型脅威生物」の扱いとなる。

これは人間側の論理から見れば一貫している。

国家に属さない武装集団は脅威であり、異形であればなおさらだ。

だが道徳的には明白に歪んでいる。


この歪みを自覚する職員もいる。

若い分類官の中には、知性魔族に「種」ではなく「民」としての記述を与えるべきだと主張する者がいる。

逆に軍出身者や保守派は、「彼らを民と見なした瞬間、黙示戦争後の正統性が崩れる」と反発する。

この対立は協会内部で長年燻っており、秘録局が関わる案件ほど政治化しやすい。




■ 協会内部の派閥


外から見ると協会は統一組織だが、内部には明確な思想派閥がある。



一、秩序派


主流派。

「魔族は被害抑止のため管理すべき対象」という現行制度を支持する。

善悪より秩序を優先する現実主義者が多い。

冷酷だが有能な職員も多く、物語では単純な悪役にしない方が深みが出る。



二、殲滅派


軍閥や過激教会と結びついた強硬派。

知性の有無にかかわらず、魔族は根絶すべきと考える。

図鑑を理解のためでなく絶滅のために使う者たち。

辺境被害の大きい地域で支持が強い。



三、保護研究派


希少種や高知能個体の保全、対話、非致死的管理を求める派閥。

一見良識的だが、彼らもまた「保護する対象」として上から見ている点では協会の枠内にある。

真の意味で対等を認める者は少ない。



四、起源派


禁忌派。

人間と魔族の起源的連続性、あるいは人間もまた魔族の分派である可能性を研究する。

秘録局に近い。

表に出れば異端審問や政治粛清の対象になりうる。



五、実利派


賞金制度や素材流通、封印具産業、医薬研究との利権を重視する派。

魔族を脅威とも隣人とも見ず、「資源」としてしか見ない。

最も腐敗しやすく、最もしぶとい。




■ 秘録と禁忌


協会には公刊図鑑とは別に、一般職員の目に触れない「秘録」が存在する。

その中には次のような内容が含まれる可能性がある。


* 人間と魔族の混血事例

* 人間側が先に虐殺を行った戦争記録

* 友好的知性魔族の処刑報告

* 協会が意図的に絶滅させた種の存在

* 人間の突然変異が魔族的形質を示した事例

* 原初生命ルカに関する教会非公認史料

* 図鑑記述そのものが認識操作儀式の一部であるという仮説

* 過去改変や記憶挿入系異能の存在記録


主人公の《ブックマーカー》は、この秘録群と極めて相性が良い。

なぜなら協会は「記録によって世界を固定する」組織であり、主人公は「過去そのものの認識を差し替える」力を持つからである。

彼の出現は、協会の存在理由を根本から脅かす。

もし過去が書き換えうるなら、図鑑の客観性も、分類の権威も、歴史の正統性も崩れる。

ゆえに協会は彼を単なる高ランク魔族ではなく、制度そのものに対する災厄として認識するだろう。




■ 魔族から見たモンスター協会


人間にとって協会は秩序機関だが、魔族側から見ればその印象はまったく異なる。


ある者にとっては、故郷を焼いた討伐隊の後ろ盾。

ある者にとっては、祖の骨を瓶詰めにした蒐集者。

ある者にとっては、本来の名を奪い、蔑称と分類番号で呼ぶ記録官。

またある者にとっては、価値ある部位に賞金をつけ、死を経済へ変える死体商でもある。


とりわけ知性魔族が強く嫌うのは、「名の剥奪」である。

彼らにはそれぞれ固有の自称や氏族名がある。

だが図鑑には、人間がつけた通称と分類名しか載らない。

その瞬間、彼らは世界から一度殺される。

協会とは、物理的な狩猟機関である前に、他者の物語を人間の言葉へ翻訳し、原形を失わせる装置なのだ。




■ 総括


モンスター協会とは、人間が魔族を恐れた結果生まれた組織であり、同時に、魔族を理解したいという欲望から肥大化した組織でもある。

それは研究機関であり、行政機関であり、賞金配給所であり、検死院であり、検閲機関であり、歴史編纂装置であり、時には虐殺の合理化機構でもある。


この組織の恐ろしさは、悪意だけで動いていない点にある。

協会職員の多くは本気で人々を守ろうとしている。

だからこそ厄介なのだ。

善意、秩序、学問、保護、公益。

それらの名の下に、他者の名前を奪い、死体を記録へ変え、分類不能な存在を消していく。

協会は怪物ではない。

むしろ極めて人間的である。

そしてその人間性こそが、魔族から見れば最も残酷な怪物性となる。


主人公が魔族側の視点から世界を歩むなら、モンスター協会は避けて通れない。

なぜならこの組織は、魔族たちを狩る手であると同時に、彼らを“魔族”という一つの言葉に閉じ込めてしまった舌でもあるからだ。

剣より先に、言葉が彼らを傷つけた。

討伐より先に、分類が彼らを世界の外へ追いやった。

モンスター協会とは、その分類の王国である。


そしてもし主人公が《ブックマーカー》によって、奪われた過去、改竄された記録、消された本名を掘り起こし、あるいは新たな過去を差し込むことができるなら。

彼と協会の衝突は、単なる人間対魔族の戦いでは終わらない。

それは「誰が世界の記録を編むのか」という、文明の根幹を巡る戦いへ変わっていく。


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