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第7話 戦略を描く

机の上いっぱいに、大きな地図と分厚い帳簿、それに何枚もの紙が広がっていた。

私とジュリアンは向かい合い、その横には護衛のレオンハルトが静かに立っている。

窓から差し込む午後の陽が、書き込まれた数字や矢印を金色に照らした。


「これが今の市場の構造です」

ジュリアンが棒で地図を指す。

「大きな投資ができるのは、ほとんどが貴族と上位商人だけ。

平民はせいぜい物々交換か、小さな金貨のやり取り程度ですね」


地図の上には、領地や主要都市の印と、交易路を示す赤い線が引かれている。

都市ごとに小さな円が描かれ、その隣には「魔力株式」「金貨」「土地」「魔導鉱山権利」といった文字。

けれど、そのほとんどが“貴族・大商会専用”と書き込まれている。


「投資対象は色々あるのにね」

私は地図の端に指を滑らせる。

「魔力株式、金貨、土地、魔導鉱山の権利……

どれも利益を生む可能性はあるけど、最初に必要なお金が高すぎるわ」


部屋の隅に控えていたレオンハルトが、低い声で言った。

「つまり、金がない者は最初から勝負の場に立てない、ということか」

「そういうこと」私は頷いた。

「このままじゃ、王族と貴族が権利を握り続け、平民は奴隷同然に働かされる構造が変わらない。

だから、平民でも入れる“入り口”を作るのよ」


ジュリアンが帳簿をめくりながら眉をひそめる。

「問題は、平民が“投資”をどう捉えているかです」

「きっと、遠い夢だと思ってるわね。自分には関係ない、別世界の話だって」

私は即答した。

「だから、夢じゃなく“現実的な手段”だって見せるの。

たとえば……」

私は紙に簡単な数字を書きながら説明する。

「金貨一枚を預けてもらう。その金貨で鉱山権利の一部を買い、魔力結晶を売って利益を出す。

翌月、手元に戻るのは一枚と半分。――たったそれだけでも、人は笑顔になるわ」


ジュリアンは少し目を細めた。

「……実際の配当を手にした時の喜び、か」

「ええ。一度その味を知ったら、もう元の生活には戻れない。

そして、その数が増えれば――王族貴族中心の世界は壊れる」


レオンハルトが腕を組み、低く呟く。

「……反発は必ずあるぞ」

「分かってる」私は真っ直ぐに返す。

「でも私は、多くの平民に幸せになってほしい。そのためなら、王族貴族中心の世界なんて、喜んでぶっ壊すわ」


ジュリアンがふっと笑った。

「やはりあなたは数字だけじゃなく、人の心も読む」

「市場は数字と心理、両方で動くものよ」


私は地図の中央を軽く叩く。

「今の市場は、でっかい城門で閉ざされてる。

私たちはその門に小さな通用口を作るの。

一度通った人は、もう外の広さを忘れられないわ」


「戦場だな」レオンハルトが短く言った。

「ええ。戦は剣だけじゃない」私は微笑む。

「市場もまた、戦場よ」


ジュリアンはその言葉に応えるように、羊皮紙に太い線を引いた。

それは、この国の力の地図を書き換える、最初の設計図だった。

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