最終話「その後」
衝撃が、雷のように澪の胸を貫いた。
目の前に立っていたのは、
CIOの責任者――葉月と呼ばれる男。
けれど、その顔を見た瞬間、澪の時間は止まった。
「……うそ……」
その声は、かすれていた。
「間違いないよね、兄さんだよね……?」
死んだはずの兄、如月遥人。
その姿が、今、目の前にあるなんて。
澪の心は、混乱と喜びで揺れていた。
これは、新政府とCIOが長い対立に終止符を打つために選んだ決着の舞台。
その一場面だった。
「颯真さんが、今どこにいるかわかるかい?」
兄の問いかけに、澪は一瞬戸惑った。
自分に会いに来たんじゃないの? そんな思いが頭をよぎる。
でも、澪は小さくうなずいた。
「颯真は……もうすぐこの控室に来ると思う。」
「そうか。じゃあ、少し待たせてもらおうか。」
遥人はそう言って、部下から受け取った包みを澪に差し出した。
「あとでちゃんと話す。でも……澪と颯真さんには、随分と迷惑をかけた。
遅すぎるかもしれないけど、ようやく目が覚めたんだ。」
信じたい。でも、信じていいのか、澪には、まだわからない。
遥人は、澪の正面に立ち、少し照れたような笑みを浮かべて言った。
「その包み……高級なものに見えるかもしれないけど、
中身はね――澪の好きな卵焼きなんだ。
さっき、自分で焼いてきた。
よかったら、食べてくれないか?」
その瞬間、澪の心の奥で、何かが静かにほどけた。
—― 控室へとつづく廊下
控室の中から漏れる話し声が、薄いドア越しに伝わってくる。
その気配に、俺の胸の奥が少しだけ軽くなる。
――けれど。
ドアを開けた瞬間、その空気は一変する。
「おはよ……っ、ええええええ!!?」
俺の驚きの声が、控室中に響き渡る。
さらに、自分のその声にも驚いた。
たまにこういうのってあるよねと思った。
視線の先に立っているのは、葉月と呼ばれる男のはず…だった。
だが、その顔を見た瞬間、俺の脳裏に別の名前が浮かぶ。
「……葉月=八月、如月=二月……そういうことかよ……」
思わず、呟きが漏れた。
「ご無沙汰してます。颯真さん。」
遥人は俺の名を呼ぶと、静かに、そして深く頭を下げた。
「言葉でどうにかなるとは思っていません。
だけど……これまでの僕の行いについて、
本当に申し訳ないことをしてしまったと思っています。」
その声は、かつての冷徹なCIO責任者としてのものではなく、
弱さを隠しきれない、ひとりの人間の声であった。
澪が小さく息を呑む。
遥人は続ける。
「僕は、あの日シグナルロストで死亡したことになっていると思う。
だけれども、その後に奇跡的に一命をとりとめたんです。」
その目は、逃げ場を探すように揺れていた。
俺は黙って頷く。
「命は、大丈夫だったんですが、かわりに有害な光線である
“時空干渉性・高負荷脳領域錯乱光”を浴びてしまったんです。
そのせいで……つい最近まで、普通の判断ができなかった。
自分の脳が自分のものじゃないみたいで……2人を害する衝動が、
勝手に、何度も何度も湧いてきたんです。」
澪と俺が、状況を飲み込めていないことに、
遥人はすぐに気づく。
「信じてもらえないのは当然だと思います。
でも……僕は、本当に、もう2人を傷つけたくないんです。」
その言葉は、懺悔というより、祈りに近かった。
「今回こうして落ち着いて話せているのは、新政府側の龍馬さんの影響が大きく、
彼と出会ってから、症状が目に見えて少しずつ改善していったんです。」
そう言って、遥人はわずかに目を伏せる。
澪は震える声で、ようやく言葉を絞り出した。
「……兄さん……本当に……戻ってきたの……?」
遥人はゆっくりと澪を見つめ返し、答えた。
「すまなかった……。」と言い残したあと、
しばらくして準備のために遥人は、退出した。
そして――その数時間後。
ゼロブレイクの対決は、龍馬の不戦敗を除き、
新政府側の4勝1敗で幕を閉じた。
その後、颯真は新政府の体制を刷新し、
CIOの良い部分を取り入れながら、新たな平和の形を築いていく。
歴史的な意味合いで言えば少し違うのかもしれない。
だが、この出来事は、まるで幕末の薩長同盟のように、
龍馬がもたらした大きな歴史の分岐点だった。
さらに十年という時が流れる。
幕末レジェンド3人組と呼ばれた彼らは、
この平和が恒久であり続けるための礎を築き、
新しい世界線で、それぞれの志を貫いていた。
左内さんは医療分野だけでなく、労働制度の見直しや
貿易関係の調整など多方面で活躍し、
颯真の良き相談相手として現在も支え続けている。
清隆さんに関しては――積極的に世界の技術を取り入れ、
技術庁長官を経て、総理大臣に就任した後、
交通・通信・電気の分野で活躍する。
そして颯真から禁酒を命じられていたので、
この世界線では、お酒による失態は、今のところないようだ。
龍馬さんは相変わらずで、ちょくちょく連絡はくるのだが、
毎回、住所が変わっており、常に違う住所から連絡をしてくれる。
今は、火星の別宅を拠点に商売しているらしい。
本当に自由な人だなと思う。
そもそも政には一切興味が無く、
平和な世界で楽しい日々を過ごしている。
澪さんは、兄が戻ってから何やら2人で新たな研究をしているらしく、
最近は会うことも減って少し残念だけど、兄と仲良くしている澪さんを見ると、
それはそれで嬉しい。
いや、 いいんだけれどもね……
澪さんよ!そこはさ、俺と結婚していて、
俺たちの子の名前を大々的に家族団欒の中、紹介するところじゃないの?
とツッコミを入れておく。そして心の中では、
流石は澪さんだと再認識する。
俺は?どうなったかって?
一応、知力でガチっていくよ。これからはね。
でもね、今は 一旦、ペンを置いて、この話を終えようと思う。
この物語に何か進展があった時は、
再度ペンをとって、みんなに伝えようと思う。
しかし、今は、まだ早い気がする。
いつになるかわからないけれど、また会えることを願いつつ。(完)
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
今回で最終回となります、ご愛読ありがとうございました。
次作も引き続き、応援してもらえる作品を書けるように頑張ります。
それから、他の作品も書いておりますので、宜しくお願いします。




