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4話 新しいお仕事

「……よしっ、昨日分の冒険者の依頼の報告書はこれで終了。次は今年の冒険者の昇級試験の日程のチェックを――」


 昼下がり、冒険者ギルド仲介所。

 受付の奥の業務用の椅子に座るレティカは、朝からずっと書類の山とにらみ合いを続けていた。


「……あのう。ところで、なんで私は冒険者ギルドで書類関係の仕事をやらされているんでしょうか?」

「愚痴なら後で聞いてあげるから、今はキリキリ手を動かしなさい。今日中に終わらせないと明日はもっと増えるわよ」

「ひえ……」


 隣の先輩のギルド従業員に尋ねるも、逆に釘を刺され、レティカはがっくりと頭を下げる。


 確かに領主様と面接した時、自分は事務仕事も含めて大抵の仕事はそれなりにできると言った。

 だが、同時に本業は魔法関係だとちゃんと説明もしたはずである。


 そもそも自分の所属は国家で民営に当たる冒険者ギルドは別々のはずだが、このサポロヘイム領ではどこも人手不足であるため、手が空いてる人間は手が足りない方へ応援に行くのが普通らしい。


「お疲れ様。ずっとここも人手不足だったからね。経理とかできる人が来てくれて本当に助かったわ」


 ひとまずは山場を越えたレティカは先輩から感謝と共に昼食用の菓子パンと牛乳を渡されるが、嬉しくもなんともない。

 早速ホームシックになってしまいそうだ。


「はあ……。魔物の生態調査がしたい……。魔法の研究がしたい……」

「よう。やってるか?」

「うげっ」


 そこへ見知った冒険者の青年が一人、相変わらずの馴れ馴れしい挨拶と共に顔を出してきた。


「なんだよ、その顔は。こっちは心配して様子を見に来てやったんだぜ?」

「冷やかしの間違いでしょう、ダストさん。こっちは忙しいんです。仕事の邪魔なので帰ってください」

「ツレないねえ。その仕事の依頼を終えたっていう報告も兼ねてるってのに」


 だったら、さっさと次の依頼にでも行ってくれとレティカは念じるが、ダストの方は意に介さずに魔物から採取した戦利品を見せる。


「これ見ろよ、ロックバイソンの角! かなり大物でな。もう少しで村の方にも被害が出る所だったんだぜ」

「ほほーう、そりゃすごいですねー」


 ドヤ顔で語るダストに適当な相槌で返しながら、レティカはその角をじっと見る。


 ――これはこれは確かに結構な大物ですね。このサイズなら一部削り取って研究用の触媒に……ってダメダメ。


 誘惑を振り払うように、いそいそと鑑定を始めるレティカ。

 やがて彼女は鑑定を終えると、手早く手元の書類にダストに依頼達成のサインをさせて、机から報酬の銀貨を数枚取り出し、彼に手渡した。


「毎度どうも。それにしても、お前さんも随分と仕事にも慣れてきたようで安心したよ」

「なんですかソレ。皮肉ですか?」

「普通に褒めたんだぞ。なに不貞腐れてんだよ。そんなに自分のやりたい仕事ができないのが不満なのか?」

「そういうわけじゃ……まあ、なくもないですけれど……」


 思わずレティカは黙り込む。

 彼の言う通り不満が無いわけではないが、それ以前に自分とて一人の労働者としての自覚はある。

 ゆえに与えられた仕事は自分なりにしっかりやってるつもりだ。

 だが、かつての職業病というものは中々治らないものである。


「ああ、やっぱり魔法研究がしたい……! この地域の魔物の生態や地脈の魔力循環が知りたい……!」


 子供のように駄々をこねるレティカの様子をダストは呆れるように眺めている。


「さっきのロックバイソンの角……きっと良い魔法武器の素材になるでしょうねえ、ふひひ」

「お、おう。……武器か。そういえばさ。俺の剣も寿命だから、そろそろ取り替えたいんだよなー」


 レティカの呟きに若干引いていたダストは、話を逸らすように彼は腰に差した長剣を取り出す。

 一見普通の剣だが、よく見ると何らかの魔法のエンチャントが施されているようだ。


「へー、少し見せてください」

「ん? ああ……」


 彼女の興味がこちらに移ったのならありがたい、そう思ったダストはあっさりと得物の剣を渡す。

 一方で、レティカはどこからか針のような小道具を取り出し、ダストから渡された剣を弄り回す。


「ふむふむ。……ああ、使い過ぎて剣身に刻まれた魔力の循環経路が歪んでますね。魔剣系統によくある奴ですよ。えっと……ここをこうしてこうっと……ほい、直りましたよ」

「いや、早過ぎるだろ。……うおっ⁉」


 返されたダストが再び剣を手にした途端、勢いよく刀身に炎が駆け巡った。

 確かにこれは己が多少なりとも魔力を滲ませれば炎が出る仕様だったが、火力もスピードもさっきとは段違いになっていた。


「……とはいえ応急処置ですからね。後で本職の鍛冶師にも見てもらった方がいいですよ」

「いやいや十分だよ。……あんた本当に優秀だったんだなあ」

「え? ええ、ええ! もっと褒め讃えてくれていいんですよ」


 いつも自分を軽く見ているように思えたダストが、一転して感心したような目を向けているように見える。そう思うと、レティカは少しばかり得意げに鼻を鳴らす。


「ところで、そんだけ優秀なのにどうしてこんな場所まで飛ばされてきたんだ?」

「うぐっ!」


 そして痛い所を突かれて、即座に心が折れてうずくまった。


「ふひひ。……どうせ私は世渡り下手の落ちこぼれですよ」

「え⁉ わ、悪かったって……変な事聞いてごめんな!」


 ダストは慌てて取りなそうとするが、既にレティカは完全に自分の殻に閉じ籠ってしまっていた。


 どうしたものか、とダストは頭をかいてたその時。


「た、大変だぁ!」


 何人もの男たちが血相を変えて、ギルド仲介所に入ってきた。


 いかにも熟練の冒険者と言った出で立ちの彼らは、鎧が砕け、決して軽くはないであろう怪我を負った者らを背負い運んできていた。


「は、早く……早く回復魔法を、もしくはポーションを持ってきてくれぇ!」

「おいおい、何があったのか、ちゃんと状況を説明してくれ」


 ダストに言われ、幾分か冷静さを取り戻した男は一度深呼吸をして経緯を話し始める。


「や、山の麓の方で突然ローウルフの群れが現れたんだ! なんとか全部討伐できたが、仲間が――!」


 深手を負って運ばれてきた冒険者たちは、丁度居合わせていた回復術師や駆けつけた僧侶が必死になって回復魔法をかけていた。

 温かな光が怪我人の怪我を包み癒していく。


 しかし、その中の一人……特に重傷を負った者が、傷が一向に塞がらず血だまりが広がっていく。

 どうやら、重要な器官にまで届いているであろうその傷の深さに、回復魔法の効きが追いついていないらしい。


「おい。もっと高位の魔法かけられねえのか? このままじゃこいつ死んじまうよ!」

「は、はい……!」


 回復用のポーションを持ってきたレティカは彼女らに待ったをかける。


「そこまでです。そんなに長く使い続けたら、あなたの魔力が切れてしまいますよ」

「で、でも……、それじゃあどうしたら……」


 悲壮な表情を浮かべる僧侶、見た所だいぶ若い。

 修道院に行けば、もっと熟練の回復術の使い手がいるだろうが、このギルドに来るまでそれなりに時間がかかる距離にある場所だ。

 レティカは怪我人たちを改めて見る。


「……見た所、軽傷が三人、残る二人の重傷者……の片方の人は傷が深い上に血の量も多いですね。軽傷者は私が代わります。あなた方は重傷者二人にかけてあげてください。所詮私は専門外、細かい肉体の損傷の具合はわかりませんし、高位の回復術も使えませんので」


 冷静に分析したレティカは、指示と共に持っていたポーションを彼女らに渡した。


「ずっとかけていたら魔力はすぐに尽きてしまいます。十分毎に休憩を取りながら、併用してください」

「「は、はい!」」


 どれぐらい経過しただろうか、修道院から応援が到着するまでの一時間弱、彼ら交えた三時間。レティカたちは根気よく治療を続けた。


 そうして日が暮れた頃には、重傷を負っていた二人は峠を越えて、安定した状態へとなっていた。


 見守っていた周囲からワッと歓声が沸く。


「……お前さん、本当にすげえのな」


 ようやく終わったとレティカは身体から力が抜けて、ダストが倒れようとする彼女の身体を支え起こし、賛辞の言葉を贈る。


「へ、へへ……そうでしょう。そうでしょう? 昔、簡易の回復術を短期で学びましたからねっ」


 対して、レティカはドヤ顔で返した。

 王都で散々な目に遭った経験から、こういう賞賛に飢えていたのだ。


「さぁ、もっと私を褒めたたえ――ありゃ?」

「お、おい⁉」


 魔法使いとしては並のレティカは不慣れな回復魔法を使って、そのまま倒れ伏して眠ってしまった。


「ふわぁあ……」


 レティカが目を覚ますと、そこはギルドの応接室のソファーの上。

 外を見てみると、すっかり陽は沈み夜の帳が降りていた。


「あ、起きた。今日は大活躍だったわね。あなたの仕事は代わりにやっておいたから、まったく……今日は残業せずに済むかと思ったのに」

「いやー、なんかすいません」

「いいわよ。その代わり明日は今日の分もしっかり働いてね。とりあえず、今日は早く帰って寝なさい」

「へーい……」


 起きて早々、先輩からのありがたいお言葉をいただいたレティカは『そこは明日は休みでいいから、家でゆっくり寝てなさいじゃないんですか?』と言いたくなるのを堪えて、まだ少し疲れが残る体を動かし、帰路につくため、荷物をまとめ始める。


「よう、お疲れ」


 そこへ、いきなり後ろからダストに呼び止められる。

 どうやら自分が起きるまで、ずっとそこで待っていたらしい。


「……ストーカーですか?」

「失礼な! そんな露骨に嫌な顔するなや! ……同業の仲間たちを助けてくれた礼だ。メシぐらいは奢らせてくれよ」


 さっさと帰って寝たいレティカは断ろうとするも、その前に腹の虫が鳴った。

 悩んだ末に、レティカは睡眠欲よりも食欲を取ることにする。


「……言っときますが、私すごい食べますよ?」

「望む所だ。ジャンジャン食え」


 ……一時間後、食堂。


「……ゲフッ。もう無理」

「随分と小食じゃねーか」


 うっぷと口を押えているレティカにダストは呆れながら酒を呷る。


「……ところで、なんであんな数のローウルフが現れたと思う?」


 一息ついたダストは本命を切り出した。

 そういえば、ローウルフと呼ばれる狼型の魔物は、本来ならばもっと山奥にナワバリを作って生息しているらしい。


「なんでそんな話を私にするんですか?」

「あんたが有能なのは今回の件でわかったからな。是非に専門家の話を聞きたいんだよ」

「うーん。私はここに来たばかりでパッと思いつくようなのしかありませんが、繁殖期による大量発生。それから来る食糧難による移動。……後は外敵による住処を追われた、とかですかね?」


 レティカは食堂の壁に立てかけられた、この周辺を記された地図に目をやる。


「女将さーん、この地図借りますねー」


 あいよー、と了承を得たレティカはブツブツと呟きながら、地図に人差し指を当てなぞり続けていると、やがてとある地点を指さした。


「おそらくは山の向こうのこの辺りに何か原因があるんじゃないでしょうか」

「なるほど。調べるにしても、こりゃあ大仕事になるな。まずは腕に覚えのある奴等を集めて、専門家も必要だな」

「ああ。だったら、私も行きますよ」


 レティカの言葉に、ダストは目を丸くする。


「……おい、本気か? 俺たちに任せておけよ」

「そっちこそ何言ってるんですか。あなた方の中に魔物の生態に詳しい人がいるんですか?」


 バツの悪そうな顔をして押し黙るダストにレティカは不敵な笑みを浮かべる。

 彼女としてもギルドでの書類仕事から解放される大義名分ができるのだから、願ったりかなったりである。


「フッフッフ、心配ご無用。私を誰だと思ってるんですか? なんてったって王都で働いていたエリート魔法士なんですからね!」

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