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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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誓い



「本当にお綺麗です…ケルティ様。この世のものとは思えないお美しさに言葉がございません…グスッ」


純白の衣装を纏うケルティを目の前に、支度を行ったミカが声を詰まらせる。



「ちょっと!なんでミカ泣くの!まだ始まってすらいなのに、全くもう。」


大袈裟に笑いながら後ろを振り返り、ハンカチを差し出したケルティの瞳もまた潤んでいた。



今日はセリウスとケルティの結婚式当日。

教会の控室にて、ミカがドレスの着付けとヘアメイクを行っていた。


ケルティのウェディングドレスはオートクチュールで作られており、セリウスが原案から考えた超特注品だ。


白は白でも、ケルティの肌に映える白生地を厳選し、その生地の中に砕いたダイヤモンドを散布するように加工した。そのおかげで光を受けるたびに、ダイヤモンドの輝きが星のように瞬く。



「本当に素敵なドレスだよね。」


スツールに腰掛けるケルティがスカート部分をまじまじと見つめる。その後、なにやら思案顔で一瞬だけ眉間に皺を寄せた。



「でもこれ絶対1年以上掛かるよね?婚約した時から考えていたとしても計算が合わーー」

「ケルティ様、野暮なことを考えるのはやめましょう。」


ひとつの恐ろしい仮説に辿り着きそうになったが、ミカに強い口調で止められてしまった。



「教会は本当にこちらで宜しかったのですか?セリウス様より、他の格式高い教会もご提案されていたのですよね?」


「そうなんだけど、レナ達も来てくれるし、王都にある教会の方がみんな来やすいかなって。それにセリウス様、際限なくお金使いそうでちょっと怖いし…ん?ミカ?」


「いえ、なんでもございません。そうですね、お二人で式を挙げた教会となれば特別な場所になりますものね。」


一瞬目を逸らしたミカだったが、また視線を戻し、ヘアメイクの最終調整に入った。

床を引き摺るほど長いヴェールを取り付け、前髪がばらけないようワックスで丁寧に横に流す。


最後に、ケルティの顔に最もよく似合うコーラルピンクの口紅を塗った。これもこの晴れ日のためにセリウスが職人につくらせた特注品だ。


こうやって知らぬ間に新郎の思惑に染められ、ケルティは非の打ち所がない花嫁姿となった。




「セリウス様がいらっしゃいましたよ。」


支度を終えたタイミングで控室にやってきたセリウス。ミカはお役御免とばかりにそっと控室から退出していった。


二人きりになった部屋の中、普段ならケルティを視認して0.5秒ほどで美辞麗句の嵐がやってくるはずが、今日のセリウスは何も言ってこない。

青い瞳をこれでもかと見開き、顔の下半分を隠すように手で覆ったまま微動だにしなかった。



「セリウス様…………?」


無言の凝視に耐えられず、不安になったケルティが恐る恐る彼の名を呼ぶ。



「ああ、ごめん。あまりの美しさに心を奪われてしまった。本当に物凄く綺麗で…上手く言葉に出来ないな。それでも強いて言葉にするなら…このまま攫って屋敷に閉じ込めて生涯誰の目にも触れさせないようにしたい。それほどまでに君は美しい。」


「……ちょっとだけびっくりするから無理に言葉にしなくても大丈夫だよ。」


かなり言葉を選んでやんわりと指摘したケルティ。

褒め言葉と見せかけて想像以上に物騒な言葉を掛けられ、顔が引き攣りそうになる。



「本当はここに留まっていたいけれど、そろそろ行こうか。」


差し出したセリウスの腕に、ケルティがそっと手を添える。極上の笑みで視線を交わした二人は控室を出て、聖堂へと向かった。


ケルティの父親の代役は立てず、新郎であるセリウスがヴァージンロードをエスコートする。



セリウスと共に聖堂内に一歩足を踏み入れた瞬間、教会特有のひんやりとした空気が肌を撫ぜた。呼吸とともに神聖な空気が身体に染み渡る。



「あれ?」


ヴェール越しに見えた光景に思わず声が出たケルティ。荘厳な雰囲気の中、キョロキョロと左右に視線を揺らした。



「誰もいないんだけど…どうして?もしかして時間間違えた?」


「ん?ここには僕達だけだよ。」


「え?でもレナ達に招待状渡したんでしょう?なのに、どうして皆いないの??」


「あぁ、あれは挙式後に行うパーティーの招待状だよ。パーティーと言っても、王都のレストランで1時間だけ。控室に制服を用意してあるから、式が終わったら着替えて行こう。」


「ごめん、ちょっと何を言ってるか分からないんだけど…」


ヴァージンロードの開始地点にいるため前を向いたまま話をしていたケルティだったが、今はもう完全に真横を向いてしまっている。

身体ごと視線を向けられたセリウスは頬が緩み、彼も同じようにケルティに向き合った。



「こんなに素敵な僕のケルティを他の奴らに見せられると思う?無理。そんなことしたら嫉妬で焼け死ぬよ。だから、参列者はもちろんのこと、父も君の侍女も神父も遠慮してもらったんだ。今この場で君の瞳に映るのは僕ひとりだけでいい。」

「!!」


最後にぞっとするほど美しい笑みを浮かべたセリウス。

ケルティのヴェールを丁寧に取り払い、露わになった陶器のように真っ白な頬をひとなでした。



「こんな僕に嫌気がした?」


弱々しい口ぶりとは真反対に、今の彼は獰猛な捕食者の目をしている。そしてその瞳はケルティのことを捕らえて離さない。

それなのに彼女は、不思議とそれを怖いとは感じなかった。それよりも、この歪な好意を向ける相手を愛しいと思ってしまった自分に恐怖を覚える。



「…何でだろう。ちょっと嬉しいって思っちゃった。今日の私どうかしてるよ。」


喜びと不安が入り混じって僅かに揺れるケルティの瞳。その不安を取り除くかのように、セリウスが瞼に口付けをした。



「怖がらなくていいよ。」


甘く蕩けるような笑みを向けるセリウス。

至近距離で彼にじっと見つめられ、次第に他のことが考えられなくなる。ケルティの頭の中がセリウスで埋め尽くされていく。


その瞳に映るのはたった一人だけ…


セリウスがケルティの両肩を抱くように腕を回して更に顔を近づける。そして、唇が重なる直前で動きを止めた。


抑えの効かない感情を言葉に乗せる。



「ケルティ、愛してる。一生僕のそばにいて、僕だけを見ていて、離れないでいて。」


「私もずっと隣にいたい。愛してる。」


言葉で気持ちを確かめ合った後、互いに引き寄せられるようにして唇が重なった。一度離れてもまた求め合うように重なる。

それは愛の誓いであると同時に、秘密を分かち合う共犯者としての契りでもあった。


こうして神父も聖歌隊も参列者もいない中、二人だけで愛を誓って秘密を背負い、二人の結婚生活は幕を開けた。



ここまでお読みいただきありがとうございました!

予想以上に仄暗い展開になってしまいました(・_・;


また気が向いたら結婚生活を描ければなと思っております。


また機会ありましたら宜しくお願いします!

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