【番外編】セリウスの本音
人生をかけて切望した念願の彼女が今、自分の腕の中で眠っている。それも至極安心しきった顔で。その事実に、心臓が飛び出してしまいそうなほど舞い上がっていた。
腕から伝わる彼女の体温としっとりとした柔らかさ、鼻を掠める蜜のように甘い香り。その全てに卒倒しそうになる。
最初の主従関係ですら障壁が高いと思っていたのに、実の姉弟だったという重量級の足枷。それを引きずってなお、この世の倫理に反して手に入れた僕の最愛。
「ん…」
腕の中で、ケルティが僅かに動いた。
そろそろ起きそうな気配に、瞼にキスを落としてとびきり甘い笑顔を向ける。
「ケルティ、おはよう。」
「っひゃあ!」
挨拶代わりの可愛い悲鳴に、つい顔がニヤけてしまう。
「ふふふ、可愛い。」
「もうっ!!」
真っ赤な顔になったケルティは、隠すように頭までシーツを被ってしまった。
暴こうと伸ばす手をすんでのところで止め、布越しに頭を撫でるに留める。
びくっと反応を示した後、気持ちよさそうに身体を委ねる姿が堪らなく愛おしい。
ようやく手に入れたこの二人きりの甘いひととき。だが、僕の心は満たされることはない。苦痛を堪えるかのように顔が歪む。
ー 全然足りない…満たされるどころか喉の渇きは増す一方で貪欲な自分に嫌気が差す。
ずっと僕だけを見ていて欲しい
ずっと僕だけを求めて欲しい
そうやってずっとずっと僕だけを…
底の見えない己の欲望に呆れ、セリウスは深いため息を吐いた。
ー それでも求めずにはいられない。
例え君が僕のことを拒絶しようと、もう離してあげることは出来ないんだ…
ケルティ、ごめんね。
「セリウス?」
ケルティが僕の名前を呼んだ。
途端に心の憂いは晴れ、愛しい気持ちでいっぱいになる。
ありったけの甘さを声に乗せてケルティに囁いた。耳たぶにキスをするおまけ付きだ。
「ん?なぁに?」
「…っ!!なんでもない!」
期待通りに恥ずかしがってくれて、彼女の心を掻き乱したことに僅かに気持ちが満たされる。
だが、それがいけなかった。
その僅かな悦びが呼び水となり、ケルティのことを欲しくて欲しくて堪らなくなってしまったのだ。
欲望に突き動かされるまま、ケルティに覆い被さり顔を近づけた。
「え…?」
ケルティの瞳が揺れる。
動揺、困惑、羞恥心…その中に拒絶の色が無かったことに心底ホッとして、僕はもう少しだけ試してみることした。
ゆっくりと顔を近づけて唇にキスをする。
「んっ」
この体制でのキスは嫌がられるかと思ったのに、ケルティの可愛い声が聞けて歯止めが効かなくなってしまった。
強固だと思っていた自分の理性はあっけなく消え去り、愛しい人の前ではそんなもの無意味だと思い知らされる。
窒息しない程度に息継ぎの隙を与えながらキスの雨を降らせた。時に優しく時に激しく…自分の行動に翻弄され掻き乱されるケルティの姿を目に焼き付ける。
「もう、むり…」
強めの力で背中を叩かれ、我に返った。
腕の中でぐったりするケルティの額に優しくキスをして、蒸気する頬を手のひらで撫でる。
気持ちよさそうに目を細めたケルティ。
その姿にまた理性が飛びそうになったが、今度は気合いで押し留めた。
「朝からこんな…」
落ち着いたケルティがシーツを口元まで引っ張り上げ、恨めしそうな目で見上げてくる。その瞳はまだ潤んでいた。
煽りにしか見えないからほんとにやめて欲しい…次は途中でやめてあげられる自信がない。
「ごめん。ケルティが可愛くてつい…」
申し訳なさそうに眉を下げて謝ると、ケルティはまた顔を真っ赤にしてしまった。本当に可愛くて底が見えない。
「次は夜にするから。ね?」
「なっ…………そういうことじゃなくてっ!!」
冗談なのに、焦った姿がまた可愛い。
またシーツを被って潜り込んでしまったのは残念だけど。
でもこれ以上は僕の理性がもたないからちょうど良かった。
安心させるようにシーツごとケルティのことを抱きしめる。
「大丈夫。ケルティの嫌がることは絶対にしないから。」
ケルティの可愛い顔は見たいけど、それで嫌われでもしたら本末転倒だ。機嫌を取っておかないと。そんな邪な気持ちで気遣う声を掛けたのに…
「は、恥ずかしいだけで、別に嫌なわけじゃ…ない…から。」
「…………………っ!!」
それはとてつもない威力で、僕の全てを一瞬にして奪い去っていった。
愛しい相手に求められる悦びに、全身が痛むほど感情が暴れ狂う。
ああもう無理。
ちょっともう止められそうにない…
絶対にその機会を作ってやる。
でも臆病な僕は、敢えて大人なふりをするんだ。逃げられたくないから。まぁどんな手を使っても逃さないけど。
「言質は取ったらからね?覚悟してよ。」
余裕の笑みで揶揄うようにケルティの瞳を見つめる。荒れ狂う心の内は表には出さない。
「なっ…は?…ちょっ……」
「ふふふ。顔が真っ赤だよ?何を想像したのかな?」
「もう見ないでーっ!!」
真っ赤になった顔を両手で隠すケルティ。
その耳元にそっと唇を寄せた。
「それぜんぶ実現してあげるね。」
「きゃあああああっ!!」
くすくすと楽しそうに笑いながら、彼女の頭を撫でる。
自分の言葉で乱れるケルティのことが愛おしくて堪らない。
早くここまで堕ちておいで。
両手を広げて待っているから。
だから早く…ね?
ここまで読んで頂きありがとうございます!
思ったより怖い話になってしまいました笑
また気が向いたら、番外編を投稿できればと思います(´∀`)




