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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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身を案じる婚約者


この邸で唯一の味方だと思っていたミカにも裏切られ、希望を失ったケルティは更に塞ぎ込むようになった。

最低限の食事は摂っているもののその量は極端に少なく、頬がやつれてきた。だが、そんな彼女の様子を見てもミカはダリクを勧めることをやめようとはしない。



「ケルティ様、久しぶりにお化粧でもしましょうか。少しは気分転換になるかもしれません。」

「…」


夕飯の少し前の時間帯、化粧道具を持ってきたミカが普段と変わらない口調で声を掛けてきた。対するケルティの反応は薄く、ソファーに座ったまま人形のように白粉と紅粉を塗られていく。あっという間に血色が良くなった。



「とても素敵です。」


微笑んだミカが手鏡を見せてくるが、ケルティが興味を示すことはない。

日が沈み冷えてきた室内、ミカがストールを羽織らせた。



ー コンコンコンッ


軽快にドアをノックする音が聞こえた。思わず肩を震わせるケルティ。

この邸の使用人はミカしかおらず、彼女が室内にいる時にノックしてくる者など誰もいない。



「もしかして…」


ケルティの唇が小さく動き、息のようにささやかな言葉を発した。

今すぐ会いたい人物が瞼の裏に思い浮かび、期待する心を止められない。唇を噛み締めてドアを見つめる。



「調子はどうかな?」


開いたドアから姿を現したのは、いつものニヤけ顔を隠して紳士的に微笑むダリクであった。

清潔感のある白シャツにジャケットを羽織り、手には華美な花束を抱えている。それはどこからどう見ても婚約者の身を案じる年頃の青年の姿であった。



「なっ…」


どうしてここにダリクが…そう言いたかったのに、期待が絶望に変わったショックで上手く声が出ない。それをいいことに、ダリクは余計なことを言わせぬよう畳み掛けてくる。



「しばらく顔を出せず申し訳なかった。陞爵が決まってその対応に追われていたせいだ。グレンダン家失脚の尻拭いもあって大変だったからな…キンベラー家のこともあるし、益々忙殺されそうだ。だからその前に顔を見たくてな。」


「え…あのグレンダン家が失脚…?それにキンベラー家って…」


「おっと、君の前だからつい口が緩んでしまったな。これはまだ非公開の情報だった。…気になるか?」


「良いから早く、知ってること全部教えて。」


「可愛い婚約者にねだられたら仕方ないな。…お前は退出及び人払いを。一晩中この部屋には誰も近づけるな。長い話になる。早ければ明日の朝には終わるだろう。」


「は!?……朝までここにいるつ」

「ダリク様、畏まりました。」


ケルティの抗議を無視したミカは恭しく一礼すると、目を合わせないまま部屋を後にした。




「一体なんのつもり?」


「はぁ?ひとりぼっちで可哀想なお前のこと慰めに来てやったんだよ。有り難く思えよなぁ。」


ジャケットを脱ぎ捨てドカッとソファーに腰掛けたダリクをキツイ目つきで見下ろすケルティだったが、彼が気にする素振りはまるでない。

そんな彼女の反応が楽しいのか、ヘラヘラとニヤついている。



「全部自分でやったくせに…」


「強気な女も悪くねぇけどなぁ…お前自分の状況考えろよ?」


「きゃっ」


側に立っていたケルティの腕を引っ張り、ダリクは無理やり自分の隣に座らせた。逃げられないように両腕を掴み、限界まで顔を近づける。



「俺が今お前に何をしても助けにくる奴は誰もいない。それどころかお前の親父も唯一の使用人もこの状況を承知済みときたからな。俺が咎められることなんか何一つねぇんだよ。」


「こ、これ以上近づかないでっ」


「は?もしかしてお前ビビってんの?ようやく可愛くなってきたじゃん。ほらもっと泣けよ。」


「別に泣いてなんかっ……」


頬を濡らす涙が唇に伝わるが、認めたくないケルティは手で涙を拭うことはしない。

憤りと恐怖と悔しさとやるせなさと、様々な感情が全身を支配する。己の無力さを突きつけられた。



「頼みの綱である元婚約者も没落決定だしなぁ。ただの平民とスロットル侯爵家では話にならねぇよなぁ。」


「キンベラー家が没落って…何の話?」


「あー…軟禁されてるお前は知らないんだっけー?裏稼業に手を染めたグレンダン侯爵家の黒幕がキンベラー家だったんだとよ。その長年の悪事を暴いたのがスロットル家なんだから、そりゃ王宮からの褒美も弾むよなぁ。」


「そんなっ…セリウス様の家が犯罪だなんてあるわけない!」


「はぁ?何勝手に怒ってんの。お前金持ちと結婚したかったんだろ?あいつと同じ侯爵家との婚姻なんだから何も変わりねぇじゃん。」


「私は侯爵家だから良かったんじゃなくて、セリウス様だからっ…」


「はいはい今更綺麗事かよ。つまんねぇなぁ。まぁ別にもうどうでもいいけど、気の済むまでお花畑の中にいろよ。」


一気に興味を失ったダリクは、乱暴にケルティの両腕を離した。

赤く跡のついた手首をさすり、ケルティは逃げるようにして窓際まで下がり出来るだけ距離を取ろうとする。



「何を言われたって、私は貴方なんかと結婚しないんだから。」


「はぁ?俺がお前なんかと結婚するわけないじゃん。お前馬鹿なの?想像力とかないわけ?」


「え…だってお父様と結託して学園も通わせなくして…何が本当の目的なの…」


「アイツが一番嫌がることをしてやろうかなって単なる思い付きだからなぁ。別にお前のことなんかどうでもいいわ。まぁ、適当に傷を付けて婚約解消したらアイツの澄ました顔をぐちゃぐちゃにしてやれるかなって。ほら、結構面白そうじゃねぇ?」


「ダリクっ…貴方って人はっ……」


今度こそ怒りで握った拳が震えるケルティ。抑えきれない怒りで全身の血が沸騰しそうになる。血走った目でダリクに侮蔑の表情を向けた。



「あーあ…やっぱりやーめーた。一晩中二人きりで部屋にいれば既成事実を作れるかと思ったのに、イラついて来たわぁ。面倒だし気が乗らないが、お前やっぱムカつくから俺がヤッテやるよ。有り難く思えよなぁ?」


ソファーから立ち上がり、口元だけニヤつかせたダリクがシャツのボタンを開けながらゆっくりと近づいていくる。



「いやっ…やめてっ!!!こっち来ないで!!」


叫び声を上げるが、人払いがされているこの部屋の異常事態に気付く者はいない。静かな部屋にケルティの甲高い声が木霊するだけだ。


窓際に寄ったケルティにもう逃げる場所はなく、ジリジリと近付く恐怖から庇うように自分自身を抱きしめキツく両目を閉じた。



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