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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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夢のような時間


「すごい…すごいすごいすごいっ」


会場入りしたケルティは目一杯首を仰け反らせて、シャンデリアの輝く高い天井とそこに描かれている躍動的な宗教壁画に魅入った。

その隣で彼女の腕と背中を支えるセリウスも同じように足を止め、急かすことなく優しい眼差しで見守っている。


学園内にあるダンスホールの数倍広いこの舞踏場は戦前の国王がかなりの財をかけて建てた歴史的建造物であり、内装には金や宝石がふんだんに使われていて積み上げた石で出来た無骨な外観よりも遥かに豪華絢爛な造りであった。


足を踏み入れた瞬間誰もがまるで別の世界に来たように胸が高鳴り、非現実的な感覚に陥る。



「そんなに見つめられて、この天井が心底羨ましいな。僕の部屋も同じように改装したら、君の瞳を釘付けに出来るかな。」


いつまで経っても視線を戻してくれないケルティに、セリウスが拗ねた口調で呟いたが未だこちらを見る気配はない。


その後、学園代表としてキャメリアが堂々たる挨拶をしたが会場に見惚れるケルティとその彼女に釘付けのセリウスにはまるで届いていなかった。


いつの間にか学園長による開始の挨拶も終わっており、皆ぞろぞろとフロアに移動し始めていた。



「あまりに無防備で、その唇に触れてしまいそうになるんだけど。」


セリウスは耐えきれず、ケルティのピアスが揺れるほどの距離で吐息混じりに囁いた。



「ひゃっ!!!!!」


体温を感じる生暖かい風と心を乱す言葉を耳に当てられ、ケルティは軽く悲鳴を上げながら片耳を抑える。そしてニコニコと見てくるセリウスに視線を向けた。



「せ、セリウス様!み、みみ、耳元でいきなり変なことを言わないでっ!!!ああもうっ顔が熱い!!」


「ふふふ、ようやく僕のことを見てくれた。開始の挨拶も済んだことだし僕たちもフロアに出よう。」


顔を赤くして慌てふためくケルティに優しく微笑みかけると、セリウスは彼女の腕を掴んでやや強引に連れ出した。


正面に楽器隊を配置したダンスフロアには、キャメリア達を中心として既に多くの人達が演奏開始を待っている。

通常なら気後れしていまそうな張り詰めた雰囲気であったが、セリウスは一切動じることなくケルティの腕を引いたままフロア中央まで進んで行った。


そして二人の姿を目にした者たちは一歩二歩と後退して場所を明け渡していく。皆、セリウスの威風堂々とした佇まいに見惚れ、彼の放つ独特の空気に完全に呑まれていた。


一方のケルティは内心焦りまくっていた。


ー 嘘でしょ!なんでこんな目立つ位置に陣取るのっ!!こんなの自分から的になるようなものじゃない!一体周りからどんな風に思われることか…



「ケルティ」


ふと視線を上げると、ケルティの両手を繋いで優しく微笑みかけてくるセリウスと目が合った。


目が眩むほどのシャンデリアの光の下、セリウスの瞳はどんな宝石よりも輝いており、その視線には異様なまでの熱が込められている。

一度目を合わせたら最後、ケルティは一瞬で惹きつけられ視線を晒せなくなった。


瞬く間に胸の鼓動は高鳴り、自分が自分でなくなるようなそんな漠然とした不安と悦びが体の中を突き抜ける。

今自分の身に起きていることが夢が現実か、その境目ですらも曖昧になっていく。


ー 夢みたい…


「夢みたいだ。」

「え?」


心の声とセリウスの声が見事に重なり、ケルティは驚きの声を上げた。



「君とこうして踊れる日が訪れるなんて…一生かけても叶わないと思っていたんだ。自分の諦めの悪さには驚くよ。」


ふふっと恥ずかしそうに俯き、照れ隠しで笑ってみせるセリウス。

彼の言葉の真意は分からなかったが、初めて見せる彼の表情にケルティの心拍数は上がる一方だ。


気持ちを整えるため視線を足元に移すが、それと同時に一曲目の演奏が始まってしまった。



「顔を上げて。」

「……………っ」


顎に指を添えられ、優しく上を向かせられたケルティ。鼻先が触れてしまいそうな距離で見つめられ、息を呑んだ。


セリウスは軽く頷くと、彼女の腰を支え一歩目を踏み込む。そして楽器隊の奏でる演奏に乗せて優雅にステップを踏み始めた。


普段の練習と異なり音の広がる生演奏に合わせることは難しかったが、セリウスは自分達のための演奏であるかのように自然な動きでステップを重ねていく。

だが、かといって決して独りよがりになることはなく、常にケルティに気を配りながら彼女の美しさを最大限引き出せるよう都度見せる角度を調整していった。


セリウスの腕の中で大輪の如く舞うケルティ。



「セリウス様って本当にダンス上手なんだね。」


「毎日必死に練習した甲斐があったね。」


「え、嘘でしょ。」


「本当だよ。君以外の誰とも踊る気は無かったから、知識として踊り方は頭に入っていたけれど、先生の手を取ることは拒んでいたんだ。だから君とのダンスが僕の初めての経験であり、すべてだよ。」


「そんなこと…」


「話の続きはこの後にしよう。」


セリウスは終盤に向け盛り上がる曲調に合わせてぐっとケルティの腰を抱き寄せ、くるりと一回転してみせた。


力づくて話題を変えられたような気もしないでもなかったが、「この後のこと」を想像してしまったケルティの耳はほんのりと赤く、セリウスにされるがまま彼の腕の中で必死にステップを踏んでいたのだった。



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