火力強めの援護射撃
キャメリアはワザとらしく隣に立つパートナーの腕に自身の手を絡め、ニタリと歪ませた目でケルティ達のことを見てくる。
彼女の隣に立つ相手の男性は、若くして辺境伯の地位を継いだことで有名な、トレント・ローレンスであった。
真面目そうな見た目で華はなく人目は引かないものの、この国では侯爵家と並ぶ地位にある家柄でいてまだ未婚のため常に周囲からの注目を浴びている。
「ご機嫌よう。」
そんな殺伐とした空気の中、ケルティ達の元へ優雅に微笑むセラフィーヌが現れた。
大きく胸の空いた黒に近い紫色のロングドレスに手には黒のグローブを付けており、普段とは異なり妖艶な雰囲気を醸し出している。
「セラフィーヌさんもいらしていたのね。あら、お隣はクラスメイトの…」
クスッと勝ち誇ったような嫌な笑みを向けるキャメリア。
セラフィーヌの横に立つパートナーと自身の相手を見比べて満足そうな顔をしている。どうやら、自分の相手の方が上だと分かり勝った気でいるらしい。
「トレント伯、先日はお断りしてしまって大変なご無礼を致しましたわ。本日はキャメリアさんがパートナーなのですわね。お二人ならきっと息の合った素敵なダンスをなさるのでしょうね。ああとても楽しみだわ。」
「あ、ああ…ファルタス嬢も壮健のようで何よりだ。」
気まずそうに視線を逸らして曖昧に返事をするトレント。
「なんですって…………」
彼の表情からキャメリアは己が二番手であったことに勘付き、手にした扇子を折ってしまいそうなほど強く握りしめている。
顔はなんとか笑顔を保っているものの、こめかみには青筋が浮き出ており今にも血管が切れてしまいそうだ。
「お二人にも改めてご紹介しますわね。こちらが本日のパートナーの」
「と、トレント伯、もう会場に参りませんといけませんわ!本日は挨拶も控えてますもの。皆様、ご機嫌よう!」
早口で捲し立てたキャメリアは、トレントの腕を掴んで強引にその場から逃げ去って行った。
去り行く彼女の背中を見つめながら、セラフィーヌは頬に手を当てキョトンとした表情で小首を傾げている。
「私、キャメリアさんに嫌われているのかしら…もっと仲良くなりたいのに…」
ぐすんと人差し指の背で涙を拭う動きをするが、全く濡れていない。
「セラフィーヌ、すごい…」
「ケルティには真似させたくないけれど、今回は良いタイミングだったね。」
キャメリアを撃退したセラフィーヌの見事な手腕に、ケルティとセリウスの二人はそれぞれ率直な感想を溢した。
「で、君がセラフィーヌ嬢のパートナーなのかい?ダンスパーティーなんて興味がないと思っていたよ。」
「こ、これには色々と事情があってだな…」
セリウスの言葉に、セラフィーヌの隣に控えるミハイルもまた非常に気まずそうな顔をしている。
「私からお願いしたのよ。セリウス様と仲の良い方をパートナーにした方が彼女嫌がるかなと思って。ふふふ、今はとても気分が良いわ。」
「「・・・・・・」」
ケルティとセリウスの二人は可哀想なものを見る目で未だ俯くミハイルのことを見つめた。彼らの間には並々ならぬ事情があったらしい。
「そんなことより、ケルティ。今日は本当に素敵だわ!元から綺麗な顔立ちだと思っていたけれど、着飾ってこんなにも美しくなるとは…間違いなく今日一番目立っているわよ。本当に綺麗だわ。」
「え?いや絶対そんなこと、」
「そうだろ?ケルティの美しさに並ぶ者などいないよ。かと言って、誰も彼も彼女のことを見てくるのは我慢ならないんだけど。心底鬱陶しい。」
セリウスはまた周囲に視線を向けながら、繋いでいたケルティの手を自分の方へ引き寄せた。
「!!」
二人の身体はこれでもかというほど密着し、ぴったりと寄り添う形になる。
「まぁ、セリウス様もそんな顔をなさるのね。意外だわ。」
「好きな子の前で余裕がなくなるなんて当たり前だろう。男は格好付けたいクセにいつも余裕がないからね。ミハイル、君もそう思うだろ?」
「…僕に話を振るなっ」
この手の話に耐性のないミハイルは顔を上げられず、何を想像したのか耳を真っ赤にしている。
一方ケルティは自分よりも冷静さを欠く彼を目にして、逆に落ち着きを取り戻しつつあった。
…が、それは一瞬で無に返る。
「これでも一応口説いていたつもりなんだけど、遠回し過ぎたかな?」
「ひゃああああああっ!!!」
耳のすぐそばで囁かれ、ケルティの口から悲鳴が上がった。
気にしないようにしていたドレスの生地越しのセリウスの体躯を意識してしまい、一気に顔に熱が集まる。
「少しは意識してくれたようで良かった。」
ふふっと満足そうな笑みをこぼしながら、セリウスはケルティのこめかみに口付けを落とした。
「わ、わわわわ、分かったから!もうほら、列無くなってるっ…だから早く行かないと!!」
「お望みのままに。」
手を繋いだままセリウスは微笑んでその場に跪き、ケルティの手の甲に口付けをした。
「!!!!!!!」
足元はタイルを貼られただけの地面だというのに躊躇なく膝をつくセリウス。
美しい顔に足元から微笑みを向けられ、ケルティはもう言葉すら発せられずにいた。俯くにも視線の先にはセリウスがいるため、意識を逃す先がなく岩のように硬直している。
「まるでお姫様ね…私もあんなふうに扱ってもらいたいわ…」
うっとりとした表情で二人のことを見ていたセラフィーヌがふとミハイルに視線を移した。
「…僕にはあんな真似出来ないぞ。」
「あら、もちろんそんなこと言わないわ。また次の機会で構わなくてよ?」
「僕が構うんだ…………………」
クスクスと楽しそうに笑うセラフィーヌの隣で、ミハイルは前髪をかきあげひどく疲れた顔をしていたのだった。




