第十八話 パーティー結成
宿代を銀貨8枚に変更しました。
翌朝。
俺が床の上で目覚めたのは言うまでもないな。
特に今日は痣までできていた。
寝るときは全身を縄で縛ってやろうかな。
まったく、彼女の寝相はいつになったら治るのだろうか……。
このままだと、目覚めたときに目の前が天国になっている日もそう遠くないだろう。
いや、もしかしたら地獄かもしれないな。
ともあれ、早く別々の部屋を取れるようにお金稼ぎを頑張らなきゃ。
一体いつまで続ければいいのだろうか。
何処に行ってもお金稼ぎ。
せっかく大金が入る目処が立ったってのに、結局はパー。
ほんと嫌になる。
さて、弱音も吐き出したところだし、今日も一日頑張るとしますか。
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相変わらずいい天気だ。
俺の曇り切った心を明るく照らしてくれる。
「さてと、今日も行くとしますか」
目的地はもちろん冒険者ギルド。
昨日、一悶着あったし、変な奴に絡まれないか心配だ。
ロドルフの時みたいなのは、もう御免だしな。
「ふあ~。眠い……」
レイナは大きなあくびをした。
ベッドを独り占めしていたくせに、よくもまあ。
「――――――――っと、冒険者ギルドってここだよな」
危うく通り過ぎてしまうところだった。
思ったよりも宿から離れていないんだな。
「頼むから一人行動をしないでくれよ」
俺はレイナに念を押しておいた。
すると彼女は――――――――
「わかってるって」
不貞腐れた顔をしながら答えた。
果たして本当にわかっているのだろうか……。
少々不安になるな。
「よし! じゃあ、行くぞ」
俺は勇気を振り絞って冒険者ギルドの中に足を踏み入れた。
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ギルドの中には、数多の猛者たちがいた。
鍛え抜かれた肉体を持つ者や、高級そうなローブに身を包んだ者。
明らかに、オメドの町の冒険者ギルドにいた人達よりも別格だった。
ロドルフなんかよりもずっと。
決闘なんてしたら、けちょんけちょんにされてしまうかもしれない。
そうならないためにも、揉め事は避けなくては。
「レイナ、ついてこい」
俺は一直線に受付カウンターへと向かった。
出来るだけ周りを見ずに。
はぁー。いつまで肩身が狭い思いをしなくてはいけないのだろうか……。
もっとこう……、堂々と歩けるようになりたいな。
「すみません。依頼一覧を見せてもらえませんか?」
「……あ、ああ、もちろんです!」
ギルド職員は呆気に取られたような顔をしていた。
まるで「子供だけで何故ここにいるんだ」とでも言いたげだ。
事実、周りの人からはそんな視線を感じる。
「……何がおかしいんだろう」
レイナはポツリと呟いた。
多分、無意識に口から漏れてしまったのだろう。
俺は慌ててレイナの口を塞いだ。
そういう何気ない一言で、争いになることがあると知っているから。
「むぐぐ……、な、なにすんの!?」
レイナはびっくりしたような顔をして、口を塞ぐ俺の手をどけた。
「シィーッ」
俺は人差し指を口に当てて、静かに言った。
すると、レイナは頷いた。
「それで……、どれどれ」
俺は、渡された依頼一覧に目を通した。
そこには、ざっと数十の依頼が書いてあった。
普通なら、選べる依頼の選択肢が多くてラッキーってなるところだろう。
しかし、少なくとも俺はそうならなかった。
「これって、嘘だろ……」
そこに書き連ねられた依頼の大半は星3以上のものだった。
つまり、俺たちは受けることが出来ない。
一応、星2の依頼もちらほらあった。
だが、問題なのはその報酬額だ。
どれも銀貨3枚だとか、4枚だとかで、とにかく少ないのだ。
報酬のいい依頼は、すでに他のパーティーにとられてしまったのだろうか。
それとも、元からそんな依頼は無いのか……。
どんな理由があれど、目の前の現実は変わらない。
さて、どうするべきか……。
「おいおい! ここは子供が二人で来ていい場所じゃねえぞ」
椅子に座っていた男が、いきなり声をかけてきた。
それだけじゃない、ギルド内の人々の視線が俺たちに集まっている。
また喧嘩でも吹っ掛けられてしまうのだろうか。
はぁー。ほんと強面な男よりも、もっと綺麗な女にモテたいな。
「子供は帰ってママと仲良く暮らしていればいいんだよ」
男は立ち上がり、ずんずんとこちらに近づいてくる。
あれ? 昨日も見たような光景だな。
確か……、カルスだったっけ。
昨日、いきなり話しかけてきた男の名前。
「別に揉め事を起こしたくて来た訳じゃない」
俺は必死に弁明した。
どうせ意味ないだろうけど。
「さっさと帰れって」
男は目の前まで迫ってくる。
俺は頑張って平然を装った。
それと同時に、頭の中でどうすれば乗り切れるのかと思考を巡らせる。
ここは舐められないためにも、言い返した方がいいだろうか……。
――――――――いやいや、それは最終手段だ。
今は頑張って説得するのが最優先だ。
「俺たちも好きで来てる訳じゃないし、お金さえ稼げればいいんだ」
すると、男は鼻で笑った。
「たった2人なんかで満足に稼げる訳ねえだろ」
確かに、この男の言うとおりではある。
星2の依頼しか受けられない上、報酬も宿代よりも少ない。
このままでは俺とレイナは金欠で死ぬことになるだろう。
だが、一日に星2の依頼をいくつかこなせば話は別だ。
かなりのハードスケジュールになるが、これしか手はない。
「……エト、どうする?」
レイナは俺を直視していた。
期待の眼差しだった。
……くそ。何かいい手はないか?
この場を収めることが出来て、尚且つ今後にも影響が出ない手は……。
「……」
何も思いつかない。
まるで、定期テストの一番最後にある難問を解こうとしているような気持ちだ。
散々悩んだところで、結局解くことは出来ない。
当時の俺は捨て問だと割り切っていた。
しかし、今回はそんな風にはいかない。
なにせ、俺たちの今後に関わっているかのだから。
ここで揉め事を起こしてみろ。
ギルド内の全員が敵になる可能性だってある。
ロドルフの時のようにはいかないだろう。
袋叩きにされるのがオチだ。
ここは一旦、この場を去るしかないか……。
ここの連中に舐められるだろうが、仕方がない。
「レイ――――――――」
「おっと、誰かと思えば昨日の……」
声のする方に振り返ってみると、そこには男がいた。
昨日会った男。
そう、カルスだ。
「こんな所でまた会うとはな。そんで、何してんだ?」
昨日一回会っただけだってのに、妙に馴れ馴れしいな。
だけど、それが却って良い。
「……いや、なるほどな」
カルスは周りの状況を見て、事態を理解したようだった。
何か心当たりでもあったのだろうか。
「こいつら二人は俺のパーティーメンバーだ」
カルスは俺とレイナを指差して言った。
5秒程、沈黙が流れた。
「……はあー!?」
そして、全員が揃って声を上げた。
もちろん俺とレイナも含んでだ。
「ど、どゆこと?」
俺は頭が真っ白になった。
「ずっと外で待ってたのに、なかなか来ないから何事かと思ったら……」
カルスは鋭い視線で、俺に絡んできた男を見た。
相手を牽制するような視線。
それは昨日、ギルド職員に向けたものと同じだった。
「くそ、邪魔ばっかりしやがって」
男はそそくさとその場を後にした。
嵐が過ぎ去ったのだ。
「……何でまた助けてくれたの?」
レイナはカルスに問いかけた。
「まあ、色々とな」
カルスは依頼一覧を見ながら言った。
真面目に答える気はないらしい。
「それで、お前らは俺のパーティーに入ったって事でいいよな」
俺はレイナとひそひそと話し合った。
カルスは信用できるのか。
高魔石を狙っているんじゃないか。
まさかのレイナ狙いかもしれない。
「よし! じゃあ、この依頼で」
「ちょ! なに勝手に決めてんだよ!?」
俺は急いでカルスの受けた依頼を確認した。
そして、驚愕した。
「星5じゃねえかよ!!」
星2の依頼なら受けたことがある。
けれど、星5の依頼なんて受けたことがない。
一体どんなバケモンと戦うことになるのだろうか。
ていうか、これってパーティーメンバー全滅パターンじゃね?
「何してんだ、さっさと行くぞ」
「え!? ちょっと待てよ! 星5なんて死ぬぞ!?」
「大丈夫だって」
カルスと言う男は、頭のねじが何本か飛んでいるらしい。
レイナ以上に恐ろしい男だ。
「レイナも、なんか言ってくれ!」
レイナは、さも当然のようにカルスの後について行っている。
その顔は、まるで小学生のように歓喜していた。
そういえば、彼女は冒険者が夢だったんだっけ。
「はぁ、もうどうなっても知らないぞ」
俺は渋々カルスの後について行ったのだった。




