第十九話 パーティーメンバー
色々とあって、星5の依頼を受けることになった俺たち。
もしかしたら今日が命日なのかもしれない。
「言っとくけど、死にそうになったら逃げるから」
俺だって死にたくない。
ただ、それ以上にカインさん達を救えなくなってしまうことを避けたいのだ。
「もちろん、レイナもだから」
レイナは逃げるってことを知らなそうだし、どんな魔物にも勝負を挑もうとするだろうからな。
いざとなったら、俺が彼女を抱きかかえて逃げるしかない。
――――――――俺に出来るかな?
俺の人生15年の間に女子を抱きかかえた経験はない。
もちろん、妄想の中では軽々と抱きかかえることが出来ていた。
しかし、妄想は妄想なのだ。現実とは違う。
ああ、考えれば考えるほど無理な気がしてきた。
やっぱり、パーティーから抜けるべきかもしれない。
「おいおい、そんなに心配か?」
「そりゃ、心配だわ! 死ぬ可能性大なんだから!」
「大丈夫だって。俺は星5の依頼、今回が初めてじゃねえから」
カルスは豪快に笑った。
なんて楽観的な男なんだろうか。
いや、ここまでくるとただの馬鹿だな。
「そういえば、星5の依頼を受けるってことは、最低でもあと一人はメンバーがいるんだろ?」
「ああ、二人いる」
二人か……。
きっと、相当な実力者なんだろう。
でなきゃ、この馬鹿な男がデカい顔を出来るわけがない。
「宿で待たせてるから、会わせてやるよ。
と言っても、すぐそこだけどな」
果たして、どんな人たちなんだろうか。
剣士? それとも魔法使い?
とりあえず、喧嘩にならないようにしなくては。
「はあ~、楽しみだな~」
レイナはと言うと、さっきから依頼の事ばかり考えているようだった。
彼女はピクニックに行く感覚なのだろうか。
「ほれ、あそこにいる」
カルスは正面を指差した。
その先には二人の男女がいた。
どちらも俺よりも若そうだった。
特に女の方は小学3年生だと言われても違和感がないくらいだ。
「も、もしかして、あの二人がパーティーメンバー?」
俺は顔を引きつらせながらカルスに聞いた。
すると、彼は迷うことなく首を縦に振った。
「ああ、終わった」
いや、ひょっとしたら、あの子供達は相当な実力者なのかもしれない。
小さい体を目にも止まらぬ速さでビュンビュンと……。
――――――――ないな。
「ああ! やっと帰ってきた!」
こちらの存在に気づいたらしく、女が元気よく走り寄ってきた。
遅れて男の方も続く。
「あれ? 後ろの人達、誰?」
「新しいパーティーメンバーさ。仲良くしろよ」
「なるほど! もちろん仲良くする!」
女の子は納得いったのか、手をポンと叩いた。
どこかリダに似ている子だな。
「初めまして! 最近10歳になったアリス・ヴィグラートと言います!」
アリスは満面の笑みで名乗った。
その姿は、まるで活発少女だ。
「初めまして。私はレイナ。こっちの頼りなさそうな男はエト」
「誰が頼りないだよ」
まあ、実際事実だけどね。
これでも頑張ってるつもりなんだけどな……。
「僕はアンドル・ヴィグラート。こう見えても15歳だ」
15歳だと……?
人っていうのは見かけによらないな。
――――――――ていうか……
「もしかして、二人は兄妹?」
「当ったり~!!」
アリスはニコニコした顔で答えた。
なんて無邪気な子なんだろう。
「自己紹介の続きは歩きながらしろよ」
カルスはそう言い、歩き出した。
それに俺たちも付いて行く。
「二人も家出したの?」
いきなりアリスが聞いてきた。
それも、つぶらな瞳をこちらに向けながら。
「うーん……。家出ではないと思う。
ちょっとした出来事があってね。話せば長くなる」
実際は話せないけどね。
こんな幼気な女の子に「国王に命を狙われてるから」なんて言えるわけがない。
ただの頭の悪い中二病だと思われるならまだしも、アリス達も巻き込まれる可能性もあるからな。
「そうなんだ! それならいいや!」
いいのかよ。
まったく、最近の子は好奇心が無さすぎるんじゃないだろうか。
俺を見習ってほしいものだね。
「ていうか、「二人も」って言うことは、アリス達は家出したの?」
「そうなの! えへへへ~」
アリスは悪びれもなく笑った。
まだ幼いっていうのに……。
この子達の親はどれだけ心配していることだか。
「は!! まさか……」
俺とレイナは同時に声を上げ、鋭い視線をカルスに向けた。
「別に悪だくみとか考えてねえよ」
カルスは俺の頭に軽くチョップした。
この男、怪しいぞ。
やはり、アリスやレイナを狙っているスケベなのだろうか。
はたまた、俺たちを人身売買の商品にしようとしているのか。
「いや、カルスさんは口こそ悪いけど、優しくて良い人だよ」
アンドルは俺たちから一歩下がった位置からポツリと言った。
そして、顔を下げたまま続けた。
「僕が家出をしたんだ。アリスは僕に付いて来ただけさ」
なんとなく、アンドルの声には自責の念が混じっているように感じた。
「僕にもっと力があれば、アリスにも、カルスさんにも迷惑を掛けることなんてなかったのに……」
アンドルの声はか細く、今にも消えてしまいそうだった。
それでも、みんなの耳に届くには十分だった。
「……」
場に沈黙が流れた。
アリスが作った和やかな雰囲気は、すでにその場にはなかった。
「……ごめん」
流石にまずいと思ったのか、アンドルはすぐに謝罪した。
それでも、雰囲気に変化は無かった。
「おい! 俺らはこれから星5の依頼を受けるんだぞ。
なんかこう……、作戦でも考えようぜ」
カルスは手を叩きながら話題を振った。
雰囲気を変えようとしているのがバレバレだったが、この場にいる全員がありがたいと思っただろう。
「作戦って言っても、今回もまたカルス一人で十分だよね!」
アリスがカルスの背中に飛び乗り、大きな声で言った。
「いやいや、今回は俺でもきついかもしれないぞ。
それに、何が起きるかもわからないからな」
実にわざとらしい言い方だな。
それでも、カルスは必死に言葉を続ける。
「ということで、パーティーメンバーも増えたことだし、お互いの手の内を確認し合おうぜ」
カルスの提案にすかさずアリスが我先にと手を上げた。
「はーい! 私は初級回復魔法と水魔法を少し使えるよ!」
その少しって言うのが一体どのくらいなのかは分からないが、おそらく初級だろう。
つまりアリスは戦闘では役には立たないということだ。
「アンドルは?」
「僕は下級火魔法を使える。でも正直、戦闘には自信がない」
アンドルは暗い顔をしながら答えた。
ヤバいぞ。また、空気が重くなってしまう。
「私は中級水魔法と下級回復魔法が使えるから、役には立つと思う」
レイナは淡々と述べた。
如何にも強者の風格が漂っている。
実際、彼女は実力者だからな。
戦闘においては、まず足手纏いにはならないだろう。
「じゃあ、エトは?」
アリスの言葉で、全員の視線が俺に集まった。
心なしか、期待されているのかもしれない。
しかし、それはまずい。
俺はレイナ程の魔力総量を持っていないだろうし、初級回復魔法ですら習得できなかった男だぞ。
がっかりされるに決まってる。
アリスに「なんだ! 大したことないね!」なんて言われたら堪ったもんじゃないし。
正直、今すぐにでも話を逸らしたい。
けど後々面倒なことになっても困るしな……。
「……」
ふと、アリスの顔を横目で確認してみた。
すると、なんとびっくり。
彼女は期待の眼差しを俺に向けていたのだ。
その眼差しが、俺の心にボディーブローをかましていることをアリスは知る由もないだろう。
まったく、10歳になったばかりの少女にここまで精神的ダメージを負わされるとは思いもよらなかったな。
「いや~、レイナは天才だからさ。いくら同い年とはいえ、彼女に比べたら俺は全然だよ」
俺がとった策は、ハードル下げだ。
レイナが異常なだけで、別に俺は普通だとアピールするのだ。
「確かにレイナはすごい! それでエトは?」
見事に受け流されてしまった。
どうやら彼女には効果はいま一つだったらしい。
「ああもう……、俺は属性魔法も無属性魔法も使えない雑魚だよ」
こんなことで悩んでいるのが馬鹿らしくなり、俺は若干投げやり気味に言った。
「え!? そうなの!?」
アリスは驚きの声を上げた。
アンドルも目を丸くしている。
「いいんだ。どうせ俺なんか……」
「いや、それはおかしい」
自嘲していると、カルスが口を開いた。
「無属性魔法が使えないのはまだしも、なんで属性魔法が使えないんだ」
「いや、自分でもよくわからないって言うか……。
多分、俺には魔法の才能が無かっただけだと思うけど」
俺がそう言っても、カルスは怪訝な顔を崩さなかった。
「いや才能どうこうとか関係なく、五大属性魔法の内、最低でも一つは使えるはずだ」
そんなこと言われましても……。
使えないものは使えないんだから。
「でもエトは電撃魔法を使えるよ」
「電撃魔法?」
カルスはレイナの言葉に首を傾げた。
しかし、すぐに自己解決したようで――――――――
「それって、つまり特異属性魔法か?」
「何それ?」
なんか聞いたことのない単語が出てきたぞ。
特異属性魔法だって?
「はぁ、仕方がない。ここはひとつ、俺が教えてやろう!」
カルスは少し嬉しそうだった。
「まず、属性魔法は五大属性魔法と特異属性魔法の二つに分けられる。
五大属性魔法はさすがに知ってるだろ?」
「はい! 火魔法と水魔法と土魔法と風魔法、そして光魔法の五つです!」
「正解だ! まあ、これくらいは常識だな」
カルスは目を瞑りながら首を縦に振って教師面をしている。
なんか腹が立つな。
「次は特異属性魔法についてだ。こいつはちょっと特殊でな。
使用できる五大属性魔法は親からの遺伝で大体決まるんだが、特異属性魔法は違う」
遺伝か……。
確かにルビアさんはどうだか知らないけど、カインさんは水魔法を使えたからな。
だから彼の娘であるレイナも水魔法を使える。
そして、この世界では生みの親を持たない俺は五大属性魔法を使えない。
納得だ。
「特異属性魔法に遺伝は関係ない。ただ、使える奴は極稀に、何の法則性もなく生まれる」
ほえ~。つまり、ラッキーな奴だけが使える魔法ってことか。
――――――――あれ? もしかして、俺もラッキーな人?
いや、それはないか。
この電撃魔法も天使様のおかげだし。
「さらにだ。特異属性魔法の最大の特徴……。それは、使用者によって魔法の効果が異なるという点だ」
「それってつまり、透明になる魔法っていう可能性もあるっていうこと?」
「可能性はあるな」
なんだって!
そんなの女風呂覗き放題じゃないか!
「まあ、特異属性魔法を使う奴なんて今まで見たことないけどな。つまり、お前が最初ってことだ。期待してるぞ!」
カルスは力強く俺の背中を叩いた。
ていうか、またハードル上がってない?
「カルスさん。そろそろ着きますよ」
アンドルが前方を指差して言った。
その先には、目を見張るほどの広大な森が広がっていた。
「あの森が依頼の指定場所だ。確かマカオンって名前の土地だっけか。
ギルドの連中は死の森だとか言ってたけどな」
――――――――死の森だって? 絶対ヤバい所じゃん!
でも今更、引き返せないしな……。
「なんで俺って、いっつもこんな思いしなくちゃいけないんだろ……」
ほんと、俺のバックには悪霊がついてるんじゃないかと疑うレベルだ。
お祓いにでも行こっかな。
「スウゥー……、ハァー……」
深呼吸をし、俺は覚悟を決めたのだった。




