第84話 今後の話し合い
「ところで製薬ギルドの今後の事ですが」
私は食事を終え、一息ついた後に、切り出した。
ここに来たのはギルドの本部建設を見に来ただけではない。ギルド運営の話をするためだ。
ちなみに建築は変わらずに進められていた。大工ギルドの面々は建物を作り、道を整え、下水道を掘っていた。
その護衛のために騎士団も槍を持って、護衛している。さらにレオパルド子爵製作のハーゼ等身大人形も二体ほど屋敷に運ばれていた。守り神にするそうだ。私そっくりの人形が魔除け代わりか。複雑である。
「問題ありませんよ。ラプンツェルお姉さまは脳筋ですが、言われたことは守ります。それもマスターが作成したマニュアルのおかげですね」
実の姉に対してマギーは切れ味の鋭いナイフのように辛辣だが、ラプンツェルは気にせず豪快に笑い飛ばしている。長女のフレイヤはやれやれと、三十代だが幼い妹に対して、首を振っていた。
「そもそもマスターはギルド経営など必要ありません。あなたにはやるべきことがあるのですから」
私のやるべきこと。それはヘンゼル陛下のことだろう。彼女らはヘンゼル陛下の性癖を理解している。身体は男なのに心が女なのである。そして解決してもらいたいと願っているのだ。
神の知識を使えば性転換の薬は作れる。レアな素材が必要だが、時間をかければ製造は可能だ。しかしいきなり国王を女にしたら問題になるだろう。私に対しての風当たりが強くなるだろうな。いや、殺意を抱き、私の関係者を狙うかもしれない。それだけは避けねばならないのだ。
「そういえば以前裁縫ギルドのマスターが言ってましたね。ヘンゼル陛下と結婚するには3つの贈り物が必要だと」
それはフォッカー砂漠のピラミッドに住む、アヴドゥル・フォッカー一世のミラクルシュガーが一つ目だ。
二つ目は空飛ぶ天空城に住む雲魔人たちから採れる天空野菜。
三つ目はまだ聞いていなかった。
「三つ目は荒磯の魔女イカロスが所持する闇あわびだね。こいつを食べると体の悪い部分はすべて闇に吸い込まれる特別な物なのさ。だけど問題はそこじゃない」
フレイヤが説明してくれたが、すぐ真顔になる。
「トルステンが言いたいのはそれじゃないのさ。そもそもそれらを手に入れるに神と同類の力を持つ者たちに認められないといけないんだ。
冥王アヴドゥル・フォッカー一世に、天空の魔女ゲルダ・ヴァイスシュネー。最後に荒磯の魔女イカロスが許可しなければ以上の品は手に入らないんだよ」
あのミイラは冥王なんて肩書があったのか。まあミイラだしね。普通じゃないとは思っていたが。
ちなみにゲルダの名前は昔から伝わっていたという。ライチュが初代女王だが、基礎を作り上げたのはゲルダであることは記述されていたそうな。
荒磯の魔女か。名前からして某海鮮家族を連想するが、出会ってからのお楽しみである。
フレイヤの言いたいことは分かった。冥王だの、魔女ふたりに認められたら、私はこの世で特別な存在になるだろうな。それこそエアツェールング王国の国王の肩書など消し飛ぶだろう。
ひとりだけでも大したものなのに、三人に認められればみんなが私を神と思うだろうな。
そうなれば私がこの国を乗っ取り、ヘンゼルを女にしても問題ないと思っていそうだ。
これは王国に忠誠心を抱いているのではなく、ヘンゼル陛下に忠誠を誓っているのだ。それ以前に同じ女性ゆえに幸せになってもらいたいと願っているのだろう。
「イカロスの件は簡単だろうね。けど厄介なのはうちの領地なのさ」
フレイヤがため息をついた。巨体が縮むような感じである。現在マッケンゼン領では問題が起きているのである。
何しろ息子のドレスデンドは母親と比べるとパンチが弱いのだ。近くに住む人たちは新しい領主の実力を知っている。力は弱いが敵を柳のように軽くいなし、兵力をチェスのように配置し、うまく動かすことが上手だという。
領主にとって個人の武勇など関係ない。人をいかに動かすのが大事なのだ。ドレスデンドはその人の才能を理解し、ふさわしい人事をしている。そのため家臣はおろか、直属の兵士たちには大好評なのだ。
ところが離れた村の人間はそうではない。母親と比べて息子に舐めた態度を繰り広げているのだ。主に何も知らない若者たちが中心で、年配は子供たちに対し不敬だと叱っても無視するという。
さらにフットナー男爵に喧嘩を売れないヘタレとバカにしている。
そもそも国王に任命された人間に喧嘩を売るなど正気ではないが、庶民にとってはどうでもいいことなのだ。自分たちに関わりがなければどんな惨事になろうが気にしないのである。実際は戦争が勃発して引っ張られるのがおちだ。
それ以上に領地内ではドクメント帝国の人間が好き放題に暴れているそうである。情報が行き届いていない村にやってきては、自分たちに手を出せばただでは済まないぞと脅しているそうだ。
魔物の如く、村娘に乱暴し、店の物を盗み、暴行を繰り返しているのである。
もちろんでたらめであり、兵士は普通に彼らを逮捕した。ドクメント帝国の大使館でも、彼らをこの国の法律で罰してくれと頼まれたくらいである。そいつらの末路は強制労働刑となり、毎日汗だくになって働かされ、酒も飲めず、女も抱けず、博打も打てないのだ。
その後、誠実な帝国民が被害のあった村に行き、謝罪と贖罪のための食材を提供したのだ。さらに肉体労働で誠意を見せたのである。
そのおかげで被害のあった村は、悪い帝国民はごく一部という認識がある。
「しかし世の中には救いようのない馬鹿がいるのだオラァ! 自分たちには何の被害もないのに、勝手に代弁する馬鹿がいるのだよオラァ!!」
ラプンツェルが口を挟んだ。そう悪質なのは被害に遭っていない人間なのである。
帝国に何かされたわけではないのに、自分のように怒っているのだ。一見優しそうに見えるが、まったく違う。自分を正義と思い込み、悪を自由にいじめていいという発想なのである。
そいつらは真面目に働く帝国の若者たちに嫌がらせをするのである。主に畑仕事や漁師の仕事をしているが、いきなりその人たちを袋叩きにするのだ。
もちろん兵士たちは容認しない。すぐに逮捕し牢屋に入れる。
しかし逮捕された若者たちは逆恨みし、その親たちも不当な逮捕と思い込み、憎しみを募らせているのだ。
私の世界にもそういう人間はいるな。外国の問題は重いので言わないが、自分を正義と思いこむ人間は大抵ネット弁慶が多い。現実世界では何もできない無力な存在だ。
だが集団だと大きな力になる。もっとも所詮は烏合の衆だ。法律には敵わない。
今のマッケンゼン領は帝国民を憎む者、領主を馬鹿にしている者と入り混じっているのだ。そいつらが交わりあったら劇薬のような効果を発揮するだろう。そうなる前に事を片づけなければならない。
「あたしとしては領地を出たくなかったが、息子を育てる必要があるからね。今でも手紙を出して相談を受けているけど、それだけでは足りないな」
「オラァ、姉上は甘っちょろいぜオラァ! 姉上がいなくても領民は不満を抱いているのは変わりないんだオラァ! ドレスデンドが領主にならなくても、いずれは爆発していたんだオラァ!!」
ラプンツェルが姉を叱咤した。彼女は脳筋だが、それ故に着眼点はするどいようである。
マギーもうなずいていた。
「……ハーゼ殿には我が領地に来てもらいたいね。人選はあんたのところにいるアンヘンガーをお願いするよ」
「アンヘンガー……、ですか? フレイヤ夫人は何故その人を名指しするのでしょうか?」
「そいつはあたしの息子だからさ。アンヘンガー・ド・マッケンゼンが、本名なのだよ」
私は目を丸くした。マギーの方を振り向くと、彼女は無言でうなずくのであった。
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しかしマッケンゼン一族がここまで広くなるのは、予想外でした。最初は脳筋の料理マスターだけだったのに、どんどん広がっていきましたね。




