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第82話 お茶会

「……というわけだったのさ、オラァ!!」


 ラプンツェルが話を終えた。長い話だったが、ツッコミどころ満載であった。

 まさかまぼろしネズミたちと出会っていたとはね。さらにドクメント帝国の人間が魔物に変身したとは思わなかった。

 周辺では大工ギルドの面々が、屋敷の扉や窓ガラスを取り付けている。あと家具なども運び込んでいた。それに本部はともかく、回収人たちが使う倉庫や宿舎の建設も行っている。こちらはマスターのフレイヤではなく、他の職員たちの仕事であった。

 私たちは職員たちが設置したテントに入っている。そこには簡易的にテーブルや椅子が設置されており、紅茶を淹れてくれた。

 フレイヤとラプンツェルは椅子に座っており、その姿は優雅である。性格はともかく、長年身に付いた行儀作法は変わらないようだ。

 マギーは私の背後に立っている。彼女はあくまで副マスターなのだ。


「まぼろしネズミの奴、王都内に入り込んでいたのか。しかもウサリーと一緒に……」

「オウ! しかもかわいいチンチラの魔物もいたぞオラァ! 煮え切らないまぼろしネズミのケツを蹴って結婚を後押ししていたぞオラァ!!」

「なんかかわいそうだな。あいつ」


 私はまぼろしネズミに同情した。何もすることはできないが、結婚が人生の墓場にならないことを祈ろう。


「そういえば魔物に変身した若者たちはどうしたのですか?」

「あいつらは騎士団に捕らえられたぞオラァ。おそらくは身体調査をした後、王家管轄の採掘場で強制労働刑になるだろうなオラァ」


 ラプンツェルはけらけら笑っている。ドクメント帝国では逮捕された若者たちに対して口を挟むことなく、エアツェールング王国の法律に任せているそうだ。

 こういう人間はよくいるそうで、後を絶たないという。彼らは帝国では住むことができないので、王国に逃げてきた人生の落後者だそうだ。

 彼らは王国でスローライフが楽しめるとうたわれ、連れてこられたらしい。


 スローライフってなんだよと思った。大抵は農業とかでのんびりできると思われているようだが、実際は年中無休で肉体労働を強いられるものである。私の世界では金の価値が低い外国へ移住し、スローライフできると宣伝しているが、実際は大違いで、苦しむ人間がほとんどだそうだ。

 フレイヤ曰く、帝国の若者たちは一年以上王国内の農業に関わったが、うたい文句に偽りなしと感動されたという。

 帝国での生活に比べれば、王国の生活は楽園のようだと喜んでいた。毎日畑の雑草をむしり、家畜の面倒を一日中見る羽目になっても、彼らにしてみればスローライフに映るそうだ。

 帝国がどれほどひどい国かよくわかるな。逆に血の気の多い王国民は帝国で充実した日々を過ごしているという。これは性格によって違うだろうね。


「ここ近年、帝国の若者が魔物になることが多いらしい。こいつは元々帝国の人間が魔物に性質が近いためだろうね。あいつらは神の神託を信用しない。まあ、私は少し疑うけどね。妄信的になることはないな」

「姉上の言う通りだなオラァ。もっとも否定する気はないけど、どうでもいいと思っているけどなオラァ!」

「ラプンツェルお姉さま。少しは物事を深く考えてくださいな」


 妹に突っ込まれても、ラプンツェルはどこ吹く風だ。マギーもすでに諦めているようで、鼻で息を吐いたくらいである。


「そういえばラプンツェルさまは髪の毛を操れるのですか?」


 私は彼女に訊ねた。ラプンツェルはあっさりと肯定する。


「本来は亡きビスマルク王国に伝わる秘術だったのさ。かつてのドワーフたちは髭を操り、小さい自分の身体を補佐したという。ラプンツェルが我ら四姉妹の中で、唯一髪の毛を操れる魔法が使えるんだね」


 なんとなく納得はできる。名前がグリム童話に出てくるラプンツェルそのままだからね。もっとも原作のラプンツェルは髪の毛を伸ばして、人が昇れるようにする程度だが。


 そういえば王妹グレーテルに仕えるブリュンヒルドは彼女らの妹なんだよね。だけどここにいる三人は銀髪だけど、彼女だけ赤毛なのはどういうことか。察しているけどあえて言う気はない。


「……かつて私たちの父上に仕えたメイドがいました。その人は炎のような赤毛で、情熱的な性格の持ち主でした。ある日、父上の寝込みを襲い、子種を奪ったそうです。父上はいたく気に入り、側室にしようとしましたが、断ったといいます。その後、その人はゆきまじんの大軍に炎の魔法に身をまとい、特攻して果てました」


 マギーが説明してくれた。おそらくその人がブリュンヒルドの母親なのだろう。なんというかツッコミどころ満載なのは、血筋なのだろうか?


「昔は私の事はシュピーゲル領においては、最強の盾と呼ばれていたね。ラプンツェルは最強の矛で、マギーは最強の知恵者と名高かった。そしてブリュンヒルドは最終兵器と噂されていたね」


 最終兵器とはいかに。私としても彼女の二つ名に違和感がない。なんとなくだがその名にふさわしいと思った。

 それにフレイヤにしろ、ラプンツェルにしろ、まったく自然に聴こえるからすごいな。でもそれって昔からのことだろうか。つい最近なのかもしれない。まあ、私にはどうでもよいか。


「ところでエアツェールング王国の港は、マッケンゼン領にありますね。となるとドクメント帝国の方とよく顔を合わせるのではありませんか?」

「その通りだよ。まあ、帝国のお偉いさんは行儀よく、礼儀正しいものさ。もちろん中にはあたしたちを見下す視線はあるけど、成り上がりものの嫉妬だから気にしないね。ラプンツェルも相手にしたけど、はねっかえりはどこにでもいるし、大事にならないよう目は光らせているけどね」


 フレイヤは豪快に笑っている。しかしすぐに顔を引き締めた。


 マッケンゼン領は複雑らしい。南方に位置し、エアツェールング王国唯一の貿易港があるのだ。普通は貿易の利益は王国が独占したいものである。国というのはすべてが王家のものではなく、各領地が支配しているのだ。王国の有事に対して動くのが貴族である。

 領内の港はラプンツェルの夫である、エムデント・ド・フットナー男爵が海軍を指揮しているという。男爵は領地を持たないが、権限はあるというのだ。

 貿易と海軍を一手に引き受けているらしい。港町はドクメント帝国の文化が濃いという。


 逆にフレイヤの息子であり、マッケンゼン領の領主であるドレスデンド・ド・マッケンゼン公爵の立場は危うい。

 何しろ漁業や林業は盛んだが、貿易に比べると雲泥の差がある。さらに海軍を指揮するのが、領主より階級が低いフットナー男爵が管理しているのだ。

 領民にとっては不満だらけである。それに自分たちの海を自分たちで守れないことに対しても憤慨していた。フットナー男爵は海軍には地元の人間を採用しなかった。もちろん海の常識などは講義してもらっているし、船の扱い方も毎年教育しているのである。

 認めない理由は地元の人間は地元の仕事があり、仕事のない人間を海軍で採用しているのだ。

 海軍では山育ちで泳げない人間がほとんどだが、訓練次第で誰でも泳げるようになっている。逆に海になれている人間は危機感が欠けている傾向があり、採用できないというと説明していた。


 これに納得ができないのは一部の若者たちだ。古くから漁師をしているものは、軍隊には興味はないし、魔物を適度に狩ってくれる海軍には感謝していた。ところがそいつらはそれが気に喰わない。

 海軍は偉そうにふんぞり返っていると思い込んでいるのだ。さらにたかが男爵が生意気にも自分たちに命令しているのも耐えがたい屈辱と感じているらしい。

 もっともフットナー男爵は管理をしているが、実際に港を治めているのはマッケンゼン家の分家であり、毎年借地代は支払っているのである。その金で漁船や街道の整備に当てているのだが、馬鹿な若者たちはそれを理解していないのだ。

 不満を漏らす若者は大抵が無知であり、怠け者がほとんどであった。働かずにフットナー男爵の悪口を大声でしゃべり、真っ昼間から酒を飲んでいるので、嫌われている。


「なんでも息子を殺すために、いろいろ暗躍しているという話は聞いたことがあるね。あたしがいた頃には大人しかったが、息子は与しやすいと思い込んでいたんだろう。だけどあたしは亡き夫から領地と子供たちを任されたんだ、独り立ちできるように教育すると思わなかったんだろうね」

「そうだねオラァ。ドレスデンドの身体は細いけど、度胸は姉さん並みにどっしりしているからなオラァ」


 ドレスデンド卿は母親と伯母には好評のようである。しかし童話風の世界では、そのような複雑な事情が起きていたのか。

 おそらくは数年前の話だろう。そして多くの人はその件に関して違和感はないはずだ。そう、一部の人間を除いて。


「そういえばフレイヤさまは大工ギルドのマスターですよね。確かマスターのほとんどは神託によって選ばれたと聞いておりますが」

「そうだな。いきなりで驚いたよ。もともとあたしは荒れた領地を整理するために建築魔法を編み出したんだ。大地魔法の応用でね。それを見込まれたんだろうさ。ルドルフの方は、料理はできなくても、高級な食材だけは豊富に捕ることができたからね」

「なるほど。ですがマギーの話では、ルドルフ氏は私のような異世界転生者が来ることを期待していたそうです。そもそもその人が必ずしも料理が得意とは限らないと思いますけどね」


 それにはフレイヤも天井を見上げ、考えていた。だが私は理解できた。そもそもこの世界にギルド制度があること自体、不自然なのだ。

 創造神は某国民的ゲームが4まで出たところで死亡したという。ギルド関係はその十数年後に出ていた。

 それも大抵は冒険者ギルドとひとくくりされているはずなのだ。料理ギルドだの、裁縫ギルドなどは滅多にない。

 そう某国民的ゲームのオンラインにしか存在しないのだ。そして私はそれをプレイしたことがある。

 私は神に訊ねた。


『神様。もしかしたら私が死んですぐに転生したのではなく、数年後が過ぎてから転生させたのですか』

『その通りだ。その際にお前さんの頭の中を覗かせてもらった。それで各ギルドの事を知り、王国の人間に作らせるように命じたのだ』


 やっぱりと思った。ちなみにギルドはそのまま拝借はせず、少しひねった物にしたそうな。

 当然である。

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