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第72話 ツァールトの会話

「ただいま」


 私は料理ギルドに帰ってきた。ズンブフ村はそれなりに遠く、馬車を使わないときつい道のりだが、私の脚ならすぐに戻ってこられる。隣の家にしょうゆを狩りに行くような気軽さだ。

 ギルドの大きさはコンクリート建ての小学校並みである。階数は二階までで、少々規模が小さいが、立派な造りであった。

 大きな扉の側には、畳二畳分の広さの看板が設置されている。フォークとナイフを交差させたデザインだ。


 ギルドの周りには出店の許可を望む一般人が多い。そんな中バニーガールである私を見て、いぶかしい目を向けている者が多かった。


 さてギルドの中に入ると、職員たちは忙しなく働いていた。私が最初に来たときは全員目が死んでいた。前のマスター、ルドルフ・ド・マッケンゼンのせいである。

 まともな仕事をよこさず、本人は魔物を狩りに行っては留守にして、さらに食材は豪快に焼き上げるという料理ギルドのマスターの風上にも置けない人物であった。


 私がコロッケとメンチカツを作って、差し出したらえらく感動し、ギルドマスターの座を私に差し出したのである。ちなみに私のあだ名がコロッケ女王になったのも、その時期だ。メンチカツ女王は広まらなかったが、アルマジロが亀を笑うのと一緒である。


「おかえりなさいませ、マスター」


 答えたのはメイドバニーの女性だ。癖毛の黒髪を後ろにまとめている。年齢は三十代ほどだが、しわはなく、実年齢より若く見える。それ以上に大きな胸に色気のある雰囲気がミスマッチだ。

 彼女の名前はツァールト。私がこの世界で最初に出会った女性だ。娘にゲッティンちゃんがいるが、彼女はこの時間、保育室で同年代の子供と遊んでいることだろう。

 保育室とは小さい子供がいる加入者たちのための施設だ。保育士と医者を常時待機させており、文字の読み書きや、簡単な計算の仕方を教えているのである。

 ちなみに私が発案したアイディアは他のギルドでも採用されていた。これは他の子持ちの未亡人たちがうちに押し寄せないための配慮である。

 もちろん調味料などの製造でも子供はきちんと預かるので、お母さんたちは喜んでいた。


「今日はズンブフ村を訪問しました。あの村もずいぶん変わりましたね」

「そのようですね。以前村のトロイさんが私に教えてくれたのですよ。今は魔物たちを相手に客商売をしているそうですね」

「私としては衛生面では賛成しないけど、あそこの食堂は常に村人がこまめに掃除をしているようですね。それに魔物しかいないから、清潔とはかけ離れていますけど、村人が店に入る魔物に対し、身体を洗ってくれと頼むそうですよ」


 おかげで店内は思った以上に清潔だった。料理ギルドの教えが生かされており、私は感動した。


「ところでこの衣装はなんでしょうか……、とても恥ずかしいのですが……」


 ツァールトがはにかんだ。彼女の着ているメイド服は、メイドバニー服である。いったいどういうものか説明しておこう。

 フリル付きのカチューシャにはうさ耳が付いている。メイド服は黒色のフリル付きで、胸元が見える造りだ。ミニスカートでお尻の部分にうさ耳が付いていた。その上にエプロンを身に付けている。

 網タイツの代わりに白い二―ソックスを履いており、靴は革製でつま先部分を覆い、分厚い踵であった。


 これは私の発明ではない。裁縫ギルドのマスター、トルステン・ド・ヨルクが作り出したのだ。アイディアは息子で宰相のフローリアン氏が提案したらしい。シンプル過ぎるバニースーツでは仕事に支障をきたすとの理由でだ。真面目なのだか、よくわからない。


「似合っていますよ。特に未亡人であるあなたにはふさわしい衣装だと思います」


 私が褒めると、ツァールトは生娘のようにうつむいた。なかなかパンチのある風貌だが、男性職員たちは無視して通り過ぎる。

 私の身体はちらっと見るのに、ツァールトはガン無視であった。


「もう男性職員たちは、あなたに見惚れませんね」

「はい、おかげさまで平穏な日々を過ごしておりますわ」


 実はツァールトには秘密がある。彼女はサキュバスであった。といっても魔物ではない、サキュバスとは特殊能力のひとつなのである。

 男を無意識に誘い出し、女の嫉妬を最大に引き出す。本人はその気がなくてもトラブルを起こすのがサキュバスだそうだ。

 もっとも一晩経てば問題は解決する。彼女は夢の中で男と性交を成功させるのだ。

 一度でも搾り取れば、男は彼女に関心をなくすのである。しかし本人には死活問題だ。夢の中で絞り出す精はサキュバスにとって大切な食糧なのである。

 その中で相性の良い男との出会いが重要だ。何度肌を重ねても大丈夫なのである。


 ツァールトにとってそれが私なのだ。私は女だが、中身は男だ。精神が男なので問題なく性交が可能なのである。

 前の旦那は不慮の事故で亡くなり、彼女は苦しんでいたようだ。それで私との出会いは運命的と言えよう。


「しかし夢の中のあなたは激しすぎですね。普段は清楚な雰囲気なのに」


 そうツァールトは激しいのである。夢の中では私の身体は男に戻っていた。もっとも生前の身体ではなく、筋肉ムキムキである。これは私の願望らしい。おかげでツァールトを多少乱暴に扱えた。

 それ以上にツァールトはすさまじかった。男の体力でも底が付きそうになり、意識を失いかけた。

 朝目が覚めると、疲労感がさっぱりと消えている。身体に羽が生えたくらいに軽くなるのだ。ツァールトに対する欲情も全く衰えない。最高の伴侶と言える。


「ですが最近は他の女性も参加するのが、つらいですわね」


 これは精神同調の魔法を使った結果だ。最初はマギーが使ったが、やっぱり女性の方がいいということで、もう使っていない。

 代わりに女性職員たちに教えたのだ。夢の中とは言え、男と肌を重ねられることに、喜び参加するようになったのである。

 もちろん精神同調魔法を使えば、誰でもできるわけではない。同調と言っても相手の精神に一方的に干渉し、精神的苦痛を排除するのだ。

 サキュバスの能力があってこそ、自由に性を謳歌できるのである。夢の中だから浮気にならない。さらに未亡人たちにも教えており、彼女たちのストレスは解消されていた。


「そうですね。まあ、私は夢の中で男らしく振舞えますからね。生前は風俗に行かなければ相手ができなかったのに」

「そもそもその人たちは夢の世界での記憶は残りません。私が消したから。あなたが異世界転生者の元男性ということは私とマギーさまだけの秘密ですわ」


 当然だが女性たちには私の秘密は内緒である。あくまで私の側で眠ることで身体を癒すという話にしたのだ。


「まあ、あなた以外の女性は少し相手にしただけで、果ててしまいますね。一晩相手にできるのはあなただけですわ。まったく獣のようなすさまじさですね」


 普段の生活は清楚だが、夢の中では淫乱である。そのギャップが魅力的と言える。


「わーい、ハイシ、ドゥドゥ!!」


 突如女の子の声が上がった。ツァールトの娘ゲッティンである。彼女は同年代の男の子に馬乗りしていたのだ。その振る舞いはまるで女王様である。


「……なんか、血筋を感じますね」

「……はい」


 私とツァールトはゲッティンの姿を見て、つぶやくのであった。

面白かったらブクマ、感想をくれるとうれしいです。

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