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異世界転生してバニーガールを流行らせます  作者: 江保場狂壱
第10章 ヘンゼル陛下の秘密
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第68話 面倒な案件

「ヘンゼル陛下が女だと? バカも休み休みいうのであーる!」


 私の前のソファーに座る、マッケンゼン氏は誤魔化そうとしているが、焦っているのがわかる。

 そしてヨルク氏も擁護した。額に汗が流れていた。


「そうでござんすよ。ハーゼ殿も陛下と謁見して、身体を見たでござんすね? きちんとした男の身体だと思いやすが」

「残念ながら、私は肉体のことを言っていません。心のことを言っているのです」


 私は即座に首を横に振る。そうヘンゼル陛下の身体は男だが、心は女なのだ。


「実は以前ヘンゼル陛下はフローリアンさまとトビーアスさまを自分の妻と呼んでいました。ところでマギーは私と結婚するとして、どちらが旦那だと思いますか?」


 私は背後にいる副マスターのマギーに訊ねてみた。


「旦那などいません。私たちは女性ですからどちらも奥さんです」


 マギーはきっぱりと言い切った。これを聞いて彼女はまぎれもなく真正だと思ったね。ツァールトとの営みも、初日は参加したけど、以後はまったくやめてしまったからだ。


「同性のカップルは誰が夫で、誰が妻とか区別はしません。男なら旦那、女ならふたりとも妻なのです。そもそも私はヘンゼル陛下に突っ込んだ質問などしてないのに、陛下はわざわざふたりの関係を暴露したのです。自分は同性愛者であり、私と付き合うことがないよう、わざと言ったのでしょう」


 それに今日、謁見したとき、陛下はバニースーツを着ていた。その様子は嫌がる様子はなく、満足していたからだ。最初はマッケンゼン氏が推薦しただろうが、本人にとっては渡りに船だろう。ふたりが同じ格好になったのは、好奇の矛先をかわすためだ。


 あとグレーテルを城に閉じ込めたのも、自分自身が多く仕事をするためだ。仕事もしないで公職に耽れば、悪評しか経たない。しかし仕事をこなしていけば、例え性癖が人とは違っても、あの人ならしょうがないと納得するからだ。

 

 女が嫌いという話もでたらめだ。実際は同性だから興味がないだけである。おそらく婚約者のアンネと、実家のアインデッカー家は陛下の秘密を知っているだろう。だからこそ婚約を解消しても抗議をしなかったのだ。

 以前ヘンゼル陛下はアンネたちと話をしたが、気配りが上手であった。あれは女性特有のきめ細かさで、男はそうならない。女性と話をしても気遣いを含ませていた。


「……その通りである。ヘンゼル陛下は自分を女だと思っているのである」

「今思えば、同年代の男の子と違って、成熟していたでござんすな。それが成長するごとに自分の身体に違和感を覚え始めたのでござんす」


 マッケンゼン氏とヨルク氏はうなだれていた。ちなみにヘンゼル陛下の父親、アウグスト・ド・エアツェールングは気づいていたそうだ。もっとも王族なのだから義務を果たせと、厳しく躾けたそうだ。

 ところが陛下はノイローゼになりかけた。男物の服を着ることに吐き気を覚え、顔色が悪くなっていったのだ。

 2年前に創造神がギルドマスターになれと神託を下さなければ、無理やり男として強引に矯正させていただろうと、マッケンゼン氏は言っている。


「マギーは気づいていたかしら?」

「当然です」


 マギーは迷いなく答えた。同性だからこそ気づいたのだろう。もしくは幼馴染として育ってきたからかもしれない。


「ですがグレーテルさまと、マッケンゼン氏の御息女、ゴッルは気づいておりません。あとエリザーベトはまったく無関心ですね」


 これは人によるのだろうな。興味がなければ家族でも無関心だものね。


「ところでおふたりはヘンゼル陛下の状況を軽く見ておりますね。私を婚約者に推薦するのは、単純に私が元男の転生者だからと思っているのでしょう。ですが、それは間違いなのです。陛下は同性が好きなのではありません。自分は女性だと思っており、男性が好きなのは普通の感覚なのです。おそらく成長期で体格が大きくなり、体毛が生え、声が変わることを異常だと思っているでしょう。その違和感は常人には理解できません。私が転生する前の世界では、性同一性障害といい、自殺する人が多かったのです」


 私の話を聞いて、ふたりとも真っ青になった。マギーは微妙だにしない。独自で考えに至ったのかもしれないな。


「なあ、ハーゼ殿。なんかいいネタはございやせんかね? 神の知識を持つあんたなら、すばらしい方法が思いつくんとちゃいますか?」

「確かに可能です。私の元居た世界では性転換手術というのがあり、魔法とは違う、医術があります。基本的に男女の性器の構造は、膀胱や陰核などの位置は違いますが、同じなのです。男の睾丸と女の卵巣は神経の数は違うが、同じものだといいます。術後は女性ホルモンを注射する必要がありますが、この世界では特定のホルモンを増加する魔法があるので問題はないですね」


 ふたりの顔は明るくなった。しかし私は否定する。


「性転換はできますが、おふたりはヘンゼル陛下を女性にしたいのですか?」


 そうなのだ。ヘンゼル陛下を女性にしたら、跡継ぎがいなくなる。まあ、フローリアンかトビーアスに結婚してもらえばいいと思うだろうが、そうはいかないのだ。

 だいたい自分の国の王様が女性に変えられました。国民はどう思うでしょうか?


「そんなことになれば、国民は反乱を起こしますね。ヘンゼル陛下を女性に変えたマスターを、国民は許さないでしょう。さらに混乱した我が国に対して、ドクメント帝国が侵略する可能性も否定できません」


 マギーが答えた。そういえばドクメント帝国の名前は耳にしているが、どういった国なのだろうか?


「二十八年前に当時十六歳の少年アドルフが剣を一本携えて現れました。ドクメント帝国以前は、百ある村があり、ほとんどが閉鎖的で、他者を攻撃せずにはいられない人種だったそうです。それをアドルフが剣一本で統一してしまったのです。その際に彼は軍隊を率いました。ほとんどが次男で家長にとってはいてもいなくてもどうでもいい人種で固められたのです」


 これはアドルフのパートナー、ヘルシャフトという魔女が指示したという。アドルフの軍隊は快適だそうな。これは兵士の不満は細かいものも、すべて取り払ったというのだ。

 トイレが汚い、食べ物がまずくて少ない。寝床が悪い、虫に刺される。移動するのが面倒だ。

 それらは広くアイディアを募集し、すぐに率先して行動に移したという。

 アドルフ自身はものすごく強く、剣を振るうだけで敵は降参していた。軍隊は後始末をする程度だった。

 快適な軍隊は、その技術を支配した村にも利用した。土魔法でトイレを作り、氷魔法で食料の水分を凍らせ、軽量化した。魔法で植物を操ることで虫除けを作り、薬を大量生産する。

 簡易的だが、雨風をしのぎ、寝心地のいい家の作り方も発明した。軍隊の生み出した技術は、民間に転用しても効果的だったのである。


 こうして二十年かアドルフは戦い続けた。自分が最初に支配した村は、巨大な城壁に囲まれており、庶民にとって暮らしやすい都市になった。街道を作り、地方は地方で独立させた。自国の通貨を発行し、娯楽も復旧させた。紙芝居とか、サーカスとかが庶民を楽しませた。

 食べ物も、保存食が多く、大量に作られた。味に関しても研究が続けられている。数年前は不作の年だったが、保管された食料のおかげで餓死者はひとりも出なかったそうだ。

 もちろんアドルフ自身が提案した料理もあるという。どんなものかはお楽しみだそうな。


 現在アドルフは皇帝となり、各部族の娘たちを側室に向かえ、自身の城はハーレムを築いているという。エアツェールング王国とは一味違う国だ。


「独自の情報網では、ドクメント帝国内で、エアツェールング王国と戦争しろと騒いでいるのである。しかしアドルフ皇帝はまったく動かない。あくまで同盟を結び、交易に力を注いでいるのである。その入り口が、我が亡き兄が治めていたマッケンゼン領なのである」


 戦争をしたがる国民か。なんとも厄介な相手だが、今は皇帝が抑えているらしい。しかし絶対強者の皇帝が亡くなればそのタガは外れてしまうのではないか?


「そこは安心しても大丈夫でござんす。現在の帝国は宰相と元帥のふたりで治めており、皇帝は妻と子供を相手に、剣の稽古やお菓子作りと余生を過ごしているのでござんす。宰相にしてみれば戦争は金を使うだけで生産性は皆無だし、御用商人も一時期は金を儲けても、生産する人間がいなくなればじり貧であることを理解しているでござんす。元帥は軍隊を維持するのに、大規模な戦闘をする必要はなく、魔物退治や災害復旧など軍隊の仕事は事欠かさないでござんす。戦争を求めるのは、血を流したことがない、物語でしか知らない、戦争をゲームか何かと勘違いしている、ごく一部の若者たちだけでござんすよ」


 ヨルクが説明してくれたが、油断は禁物だろう。トビーアスは帝国に対しての備えを怠っていない。相手が攻めてこないことを祈るのではなく、攻めてきても対応できるようにするのが、一番なのだ。


「なるほど。二年前にヘンゼル陛下が即位しても、帝国が動く心配はなかったわけですね」


 もちろんマッケンゼン氏たちは陰で支えただろうけどね。しかし帝国内では戦争支持が徐々に増えているという。ここでヘンゼル陛下を女体化なんてさせたら、攻めてこないとも限らない。


「あっ」


 私は重大なことを思い至った。天空城の事だ。私は家名を考えるために、ヴァイスシュネーの名をもらおうと軽く考えていた。

 現在は神や大魔女と同類である、ゲルダが管理する天空城の主なのだ。その城は私の意思で自由に移動できる。

 帝国がこの件に対して、なんらかの行動を起こしてもおかしくはない。えらい人はともかく、国民世論が大騒ぎするだろう。それを解決できるのは、ヴァイスシュネーの名を受け継いだ私なのだ。


「……マギー。図ったね」


 私のつぶやきを、マギーはすっとぼけた。憎らしいほどの笑顔だ。

 あとヨルク曰く、ヘンゼル陛下の贈り物で、二つ目が天空城にある天空野菜だそうな。雲魔人の背中に栽培された野菜は美味だという。実際にニンジンを食べたが、苦みはなく、甘くて濃厚な味わいだった。

 まぼろしネズミが関わったのは偶然だろうな。たまたま用事があったから、それに便乗したのだろう。


 しかし面倒事を解決するのは悪くない。最近は神の知識なしでも対応できるようになった。生まれ変わった自分に感動している。この難問をどう突破するか、楽しみでもあるのだ。

 同性愛者云々は田亀源五郎著『弟の夫』ふみふみこ著『ぼくらのへんたい』から取ってます。


性転換に関しては小西真冬著『性転換から知る保健体育 ~元男が男女の違いについて語る件~』からです。

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